夜明けの光が大広間の瓦礫を照らしていた。戦いの余韻はまだ肌に残っていたが、空気は清らかで、どこか新しい季節の始まりを思わせる。澪は縁側に腰掛け、腹に手を添える。静かに耳を澄ませれば、確かに鼓動が彼女を励ますように響いていた。
「……あなたがいてくれるから、私は強くなれたのね。」
蒼嵐が背後からそっと肩に羽織を掛ける。彼の表情は、戦場で見せた鋭さとは違い、柔らかいものに満ちていた。
「お前が選んだ道は容易ではない。それでも歩んだ。……だから我は、お前を花嫁とし、この子の父であることを誇れる。」
澪は目を伏せ、込み上げる涙を拭った。かつては義務だけで交わった関係。だが今は、互いに心を寄せ合い、同じ未来を見つめる伴侶となった。
「蒼嵐様……私、怖いの。母になれるかどうか。」
「怖くていい。俺も父として、まだ道半ばだ。だが二人なら越えてゆける。」
蒼嵐の大きな手が澪の手と重なり、二人で腹を包む。その瞬間、温かな光がふわりと広がり、庭に咲く花々までもが朝日を浴びたように揺れた。

　やがて都には、澪と蒼嵐の子が未来を導く存在として語り継がれるようになる。血に囚われた雪蓮の最後は、人々に嫉妬の愚かさを示す教訓として残された。澪は母として、花嫁として、そして一人の女性として歩み出した。かつて虐げられていた少女は、命を宿すことで新たな力を得た。朝日が昇るたび、澪は誓う。この子と共に生きる未来を守り抜くと。そしてその傍には、必ず蒼嵐がいると。