その後、私は閣議の決定を経て正式にルーカス様の婚約者に決定した。
 婚約披露パーティー、結婚式の日程も決まり、かなり忙しい日々を過ごしていた。
 結婚式が終わるまでは引き続きノルディア公爵家に逗留し、花嫁修業を続けていた。
 ダンスの訓練も続けており、講師から婚約披露パーティーと結婚式でルーカス様との特別ダンスを披露すると告げられた。
 そのため、一日のスケジュールが分刻みで進んでいった。
 そんな中でも時間が空けば兵や町の人への治療を続けており、今日はアメリアさんとマリア様と一緒に大教会で奉仕活動を行っていた。

 シュイン、ぴかー!

「どーかな? 痛いの良くなった?」
「おお、足の痛みがすっかり良くなったぞ。ありがとうな」
「よかったねー」
「ウォン!」

 ニース様も奉仕活動に来ており、スラちゃんを抱いて張り切って町の人への治療をしていた。
 シルバもぴったりとニース様に寄り添っていて、相変わらずとても仲良しだ。
 そんなニース様の隣にはアメリアさんも座っていて、頑張っているニース様に思わずニコリと微笑んでいた。

 トントントントン、トントントントン。

「マリア様、嬢ちゃんは相変わらず炊き出しの仕込みをしているのかよ」
「うむ、そうじゃのう。今日はシスターか病気で休みだから、どうしても手伝うと言っておるのじゃよ」
「嬢ちゃんは真面目だね。しかし、冒険者から王子様の妃になるとは夢物語だね」

 ベテラン冒険者とマリア様が気安く話をしているが、どうも私のことを話題にしているようだ。
 女性冒険者が王子様の命を救い、更にラストダンスでプロポーズされるというサクセスストーリーに、町中の話題をさらっていた。
 絵本にしようという話まで出ていて、私としてはかなりこそばゆい思いだった。
 そんな私だが、いつの間にか「白狼連れの聖女様」と呼ばれる様になっていた。
 元祖聖女様のアメリアさんと一緒に治療しているのもあり、特に年配の人にそう呼ばれていた。
 因みに、軍では「白狼連れの戦女神」と言われていて、ミスリル製の剣でオークキングを瞬殺したのもあるので何も言えなかった。
 そんな大層な二つ名を頂いても私がやることは変わりなく、人々のために動くことだった。

「よしっ、これで味を整えれば終わりだね」

 トトトト。

「僕も、味見する!」
「ウォン!」

 察しがいいのか、ニース様とシルバが私のところにやってきた。
 いつの間にかマリア様がスラちゃんを抱いて治療しており、一人と一頭はお役目御免になったようだ。
 私は味を整えたスープを器によそった。

「熱いので、火傷しないようにね」
「はーい。ふーふー、おいしー!」
「アフアフアフ……」

 ニース様の満面の笑みに、私も思わずホッとした。
 シルバはというと、私の忠告を聞かずに直ぐに食べ始めて大変なことになっていた。
 本当に、いつも腹ペコなシルバですね。
 ニース様を、ニースちゃんと呼ぶ日もそう遠くはない。
 ルーカス様との結婚式を無事に迎えられるように、私もこの日々を大事に過ごそうと思ったのだった。