王妃様の命で、私とルーカス様は追加となった数曲は踊らない予定だった。
私はルーカス様と共に王家の集まるエリアにおり、周囲を近衛騎士がガッチリと警備していた。
ノルディア公爵家やダイン様などの知り合いならともかくとして、他の貴族は近寄ることすらできなかった。
身から出た錆とはいえ、こればかりは仕方ないだろう。
「ねーねー、もう一回踊ろー!」
「ウォン!」
踊らない予定だったのに、ニース様がニコニコしながら私のところにやってきたのだ。
流石に断るのも良くないし、どうしようかと私は王妃様の方を向いた。
王妃様は、仕方ないねといった表情だった。
「じゃあ、みんなの邪魔にならないように隅で踊りましょうね」
「はーい」
ニース様は私と一緒に踊れればいいみたいで、素直に話を聞いてくれた。
念の為にと、シルバと王太子妃様もニース様の面倒を見るという理由で一緒に来てくれた。
ニース様も楽しんでくれたみたいだし、私も張り詰めていた緊張から少し解放された。
微笑ましい光景に、周囲の貴族も癒されていたのだった。
「名残惜しいですが、いよいよラストダンスとなります」
その後の数曲は全く問題なく進み、いよいよラストダンスとなった。
私はかなり緊張していて、目を瞑って深呼吸をした。
「リン、行くよ」
「はい……」
不意にルーカス様に声をかけられ、気持ちを整えていた私は思わずビクッとなってしまった。
何とか心を落ち着かせながら立ち上がり、私はルーカス様が差し出した手を取った。
手を繋いだまま踊り場の中央に進んだのだが、なんと他の人は誰もラストダンスを踊ろうとしなかった。
えっと、もしかしてこの場にいる全ての人の視線を一身に浴びながらダンスをしないといけないのか。
私は、更に緊張感が増してしまった。
そんな私に、ルーカス様がある言葉をかけてきた。
「リン、周りを気にしないで私だけ見ていれば良いよ」
「はっ、はい」
ルーカス様、このタイミングでキラキラとした王子様スマイルで話しかけるのは卑怯ですよ。
それでも、私はルーカス様の笑顔に釘付けだった。
ルーカス様もラストダンスを楽しみにしていたようで、私のことを優しくリードしてくれた。
「初めてリンに会った時から、リンは只者ではないと思っていた。礼儀正しいし、度胸もある。地方の貴族の娘かと思った程だった」
「私も、ルーカス様に初めて会った時から不思議な人だと思っていました。軍の偉い人だとは思っておりました。ただ、軍の偉い人だと思っていてまさか王子様だとは思いませんでした」
ダンスを踊りながら、ルーカス様と私はお互いに話をしていた。
出会ってからのこと、訓練で一緒になったこと、ゴブリンキングを倒したこと、アメリアさんの結婚式でのこと、そしてルーカス様を助けるためにシルバに乗って駆けつけたこと。
出会ってまだそう時間は経っていないのに、ルーカス様に関する思い出はいっぱいあった。
ルーカス様と話をしているうちに緊張は解け、周囲の視線など気にすることはなくなった。
話をしながらも長年踊っているかのようにダンスをし、周囲から感嘆の声が上がった。
「リンには、実質的に二回も命を救ってもらった。しかも二回目は、リンは命の危険を顧みずに危機に駆けつけてくれた。私に媚びるような貴族令嬢とは明らかに気持ちが違っていて、本当に感謝しかない」
「ルーカス様……」
ダンスも終わったが、私とルーカス様はお互いに手を繋いだまま見つめあっていた。
この時間が終わって欲しくない、そんな思いもしていた。
周囲の人も、言葉を発せずに私とルーカス様のやり取りを見守っていた。
すると、ルーカス様は服の右のポケットをゴソゴソと漁った。
そして小さな箱を取り出して、膝をつきながら開けた。
これって、もしかして指輪?
「リンと一緒にいた期間は短いが、私はこの人ならと強く思った。リン、私と結婚してくれ」
ルーカス様は、真剣な眼差しで私のことを見つめていた。
私はというと、嬉しさや感動など様々な感情が混ざり合っていた。
思わず口を押さえ、涙がポロポロと溢れた。
しかし、ルーカス様の真剣な気持ちに応えないとと思い、一度目を閉じて気持ちを落ち着かせた。
「ルーカス様、末長くよろしくお願いします」
「リン、ありがとう。大事にする」
私は深々とルーカス様に頭を下げ、そしてルーカス様は私の手を取って指輪をはめた。
再び立ち上がったルーカス様に、私は涙でボロボロの表情で精一杯の笑顔を見せた。
ルーカス様も、今まで見たことのない眩しい笑顔を見せていた。
不意に何かの音がしたと思ったら、ルーカス様の服のポケットにいてずっと警備をしていたスラちゃんが触手で拍手をしてくれていた。
そして、周囲で見守ってくれた人たちも、笑顔で惜しみない拍手を私たちに向けてくれた。
アメリアさんたち女性陣は、感涙が止まらない状況でも拍手をしてくれた。
私はとてもいい人に恵まれたんだと、改めて実感した。
「わーい!」
「ウォン!」
ニース様とシルバは、私たちに笑顔で突撃してきた。
一人と一匹は思いっきり私たちに抱きつき、私たちも二人を抱きしめてあげた。
シルバはまだまだ子どもっぽくてイタズラも好きで、それでもいつの間にか私の頼れる相棒になっていた。
流石にまだスラちゃんの方が凄いけど、これからもっと成長して欲しい。
ニース様も、その明るさで随分と救われた。
ルーカス様に抱っこしてもらい、ご機嫌なニース様に今日も救われたね。
「「「うう……」」」
大部屋の最後列で私たちの幸せなところを強制的に見せられているものがいるが、特に気にしないでおこう。
こうして、私とルーカス様の婚約が決定的になった。
実際には閣議を経て決まるのだが、陛下も王妃様も良かったという安堵の表情を私たちに向けていた。
それでも、私は何があってもこの優しい人の温もりを離そうとは思わなかったのだった。
私はルーカス様と共に王家の集まるエリアにおり、周囲を近衛騎士がガッチリと警備していた。
ノルディア公爵家やダイン様などの知り合いならともかくとして、他の貴族は近寄ることすらできなかった。
身から出た錆とはいえ、こればかりは仕方ないだろう。
「ねーねー、もう一回踊ろー!」
「ウォン!」
踊らない予定だったのに、ニース様がニコニコしながら私のところにやってきたのだ。
流石に断るのも良くないし、どうしようかと私は王妃様の方を向いた。
王妃様は、仕方ないねといった表情だった。
「じゃあ、みんなの邪魔にならないように隅で踊りましょうね」
「はーい」
ニース様は私と一緒に踊れればいいみたいで、素直に話を聞いてくれた。
念の為にと、シルバと王太子妃様もニース様の面倒を見るという理由で一緒に来てくれた。
ニース様も楽しんでくれたみたいだし、私も張り詰めていた緊張から少し解放された。
微笑ましい光景に、周囲の貴族も癒されていたのだった。
「名残惜しいですが、いよいよラストダンスとなります」
その後の数曲は全く問題なく進み、いよいよラストダンスとなった。
私はかなり緊張していて、目を瞑って深呼吸をした。
「リン、行くよ」
「はい……」
不意にルーカス様に声をかけられ、気持ちを整えていた私は思わずビクッとなってしまった。
何とか心を落ち着かせながら立ち上がり、私はルーカス様が差し出した手を取った。
手を繋いだまま踊り場の中央に進んだのだが、なんと他の人は誰もラストダンスを踊ろうとしなかった。
えっと、もしかしてこの場にいる全ての人の視線を一身に浴びながらダンスをしないといけないのか。
私は、更に緊張感が増してしまった。
そんな私に、ルーカス様がある言葉をかけてきた。
「リン、周りを気にしないで私だけ見ていれば良いよ」
「はっ、はい」
ルーカス様、このタイミングでキラキラとした王子様スマイルで話しかけるのは卑怯ですよ。
それでも、私はルーカス様の笑顔に釘付けだった。
ルーカス様もラストダンスを楽しみにしていたようで、私のことを優しくリードしてくれた。
「初めてリンに会った時から、リンは只者ではないと思っていた。礼儀正しいし、度胸もある。地方の貴族の娘かと思った程だった」
「私も、ルーカス様に初めて会った時から不思議な人だと思っていました。軍の偉い人だとは思っておりました。ただ、軍の偉い人だと思っていてまさか王子様だとは思いませんでした」
ダンスを踊りながら、ルーカス様と私はお互いに話をしていた。
出会ってからのこと、訓練で一緒になったこと、ゴブリンキングを倒したこと、アメリアさんの結婚式でのこと、そしてルーカス様を助けるためにシルバに乗って駆けつけたこと。
出会ってまだそう時間は経っていないのに、ルーカス様に関する思い出はいっぱいあった。
ルーカス様と話をしているうちに緊張は解け、周囲の視線など気にすることはなくなった。
話をしながらも長年踊っているかのようにダンスをし、周囲から感嘆の声が上がった。
「リンには、実質的に二回も命を救ってもらった。しかも二回目は、リンは命の危険を顧みずに危機に駆けつけてくれた。私に媚びるような貴族令嬢とは明らかに気持ちが違っていて、本当に感謝しかない」
「ルーカス様……」
ダンスも終わったが、私とルーカス様はお互いに手を繋いだまま見つめあっていた。
この時間が終わって欲しくない、そんな思いもしていた。
周囲の人も、言葉を発せずに私とルーカス様のやり取りを見守っていた。
すると、ルーカス様は服の右のポケットをゴソゴソと漁った。
そして小さな箱を取り出して、膝をつきながら開けた。
これって、もしかして指輪?
「リンと一緒にいた期間は短いが、私はこの人ならと強く思った。リン、私と結婚してくれ」
ルーカス様は、真剣な眼差しで私のことを見つめていた。
私はというと、嬉しさや感動など様々な感情が混ざり合っていた。
思わず口を押さえ、涙がポロポロと溢れた。
しかし、ルーカス様の真剣な気持ちに応えないとと思い、一度目を閉じて気持ちを落ち着かせた。
「ルーカス様、末長くよろしくお願いします」
「リン、ありがとう。大事にする」
私は深々とルーカス様に頭を下げ、そしてルーカス様は私の手を取って指輪をはめた。
再び立ち上がったルーカス様に、私は涙でボロボロの表情で精一杯の笑顔を見せた。
ルーカス様も、今まで見たことのない眩しい笑顔を見せていた。
不意に何かの音がしたと思ったら、ルーカス様の服のポケットにいてずっと警備をしていたスラちゃんが触手で拍手をしてくれていた。
そして、周囲で見守ってくれた人たちも、笑顔で惜しみない拍手を私たちに向けてくれた。
アメリアさんたち女性陣は、感涙が止まらない状況でも拍手をしてくれた。
私はとてもいい人に恵まれたんだと、改めて実感した。
「わーい!」
「ウォン!」
ニース様とシルバは、私たちに笑顔で突撃してきた。
一人と一匹は思いっきり私たちに抱きつき、私たちも二人を抱きしめてあげた。
シルバはまだまだ子どもっぽくてイタズラも好きで、それでもいつの間にか私の頼れる相棒になっていた。
流石にまだスラちゃんの方が凄いけど、これからもっと成長して欲しい。
ニース様も、その明るさで随分と救われた。
ルーカス様に抱っこしてもらい、ご機嫌なニース様に今日も救われたね。
「「「うう……」」」
大部屋の最後列で私たちの幸せなところを強制的に見せられているものがいるが、特に気にしないでおこう。
こうして、私とルーカス様の婚約が決定的になった。
実際には閣議を経て決まるのだが、陛下も王妃様も良かったという安堵の表情を私たちに向けていた。
それでも、私は何があってもこの優しい人の温もりを離そうとは思わなかったのだった。


