会場に戻る寸前、ルーカス様が私にある事を話してきた。

「リン、あの貴族令嬢は何とか対応したが、他にも私との結婚を諦めていないものが多数いる。ここにいるものか、ニースの側にいた方が安全だ」
「ルーカス様、ご配慮頂き本当にありがとうございます」

 ルーカス様の話した内容に、マリア様、フレイア様、そしてアメリアさんも頷いていました。
 わざわざ私の事を気にしてくれる辺り、ルーカス様は本当に私よりも年下なのかと思ってしまう。
 そして、私たちは大部屋に戻り直ぐに陛下に先ほどのことを報告した。

「陛下、アメリアとリンの手助けもあり彼のものの対応を終えました」
「うむ、ご苦労」

 陛下は、ルーカス様の報告を聞いて直ぐに一連の流れを把握した。
 王家にとっても、あの貴族令嬢は悩みのタネだったらしい。
 ルーカス様はそのまま陛下の側に留まり、私たちはニース様のところに向かった。

「おかえりー!」
「ウォン!」

 一人と一匹は、ニコニコしながら私たちを出迎えてくれた。
 シルバの様子を見る限り、大部屋は私たちが不在の間何も起きていなかったようだ。
 シルバも、しっかりとニース様を守っていましたよとアピールしていた。
 ジュースを飲みながら一息つくと、マリア様がとんでもない事を言ってきたのだ。

「リンよ、これから忙しくなる。少し休んでおれ。オークキングを討伐し、独力で貴族の身分と名誉男爵の称号を得たのじゃ。ダンスの誘いは多いはずじゃ」

 えっ!?
 私とダンスをしたい人がたくさんいる?
 思わず周囲を見回したら、サッと視線を逸らす人が複数人いた。
 マジですか……
 まさかの展開に、私はかなりビックリしてしまった。

「まあ、リンの場合はたくさんの報酬を受け取っているから、お金目当てのものもいるだろうね。特に借金を抱えている貴族にとって、リンは良い金づると思っているものもいるでしょう」

 フレイア様、身も蓋もない意見ありがとうございます。
 流石に私のお金は、赤の他人の借金補填なんかに使わせるつもりはありません。
 お金の貸し借りは、人の信用を失わせますよ。

「そんなに気負わなくてもいいですのよ。私たちがリンさんの側にいることにより、余程神経が図太いものしか来ることはできませんから。まともな貴族なら、普通にリンさんをダンスに誘うだけです」

 私は、アメリアさんの言葉に期待することにした。
 確かに、この王国でも随一の女性陣の側にいれば、余程のもの以外は近づくことはできない。
 それに、もし誘いが来た際に三人が問題ないか確認してくれるという。
 最悪、ニース様の世話を理由に壁の花になっていればいいんだ。
 そう思うと、少し気が楽になった。

「間もなく、ダンスパーティーを開催いたします。皆さま、ご準備を宜しくお願いいたします」

 そして、司会の案内でいよいよダンスパーティーが始まる事となった。
 王家の方々は最初の相手は殆ど決まっていて、ルーカス様はフレイア様が相手だった。
 マリア様は初回は踊らないみたいだけど、私はどうしよ……

「「「じー」」」

 いきなり私のことを狙っている貴族の子弟からの視線を浴びてしまい、一瞬怯んでしまった。
 どうしようかとたじろいていたところ、何と意外なところから助け舟が出された。

「一緒におどろー!」
「ウォン!」

 何と、ニース様がキラキラした瞳で私に話しかけてきたのだ。
 いくら小さな子どもとはいえ、王子であるニース様を押しのけて私を誘うツワモノは現れなかった。
 私は、ニース様と共に会場に向かった。
 そして、ニコニコとするニース様と共に無事に一曲を踊ることが出来た。
 このことが緊張をほぐすことになり、私もかなりホッとした。

「次は、ねーねと踊りたい!」
「うむ、よかろう。一緒に踊るのじゃ」

 ニース様は今度はマリア様を誘っていたが、かなり楽しそうにしていた。
 思わずニコリとしてしまう程の、ホッコリとした光景だった。

 ガシッ。

「よーし、次は私だな」

 そんな私の肩を、ゴツい手が掴んでいた。
 思わず振り返ると、かなり上機嫌なアーサー様の姿があった。
 あの、私の相手をしてくれるのはありがたいのですが、決闘をしに行くほどの迫力を感じますよ。
 アメリア様の方を振り返っても、苦笑するばかりで助けてはくれなかった。