時間になり、私たちは王家の方々と共に大部屋に移動した。
 シルバはというと、護衛をするぞとニース様の隣にピッタリとくっついていた。
 ニース様もニコニコしながらシルバの隣を歩いているし、このコンビは問題なさそうだ。
 一方、スラちゃんはルーカス様の肩にちょこんと乗っていて、周囲の警戒をしていた。
 王族は袖口から入場するので、大部屋の前で別れてフレイア様と共に大部屋に入った。
 すると、フレイア様が私の服をちょんちょんと軽く引っ張ったのです。

「リン、真正面にいる青髪ロングヘアーの小柄で薄緑のドレスを着ているのが、例のルーカスにストーカー気味の令嬢よ」

 えっ!?
 絨毯を挟んで真正面にいる令嬢って、青髪の小柄でほっそりとした儚げな女性なんですけど。
 端から見たら、とてもストーカーをするような感じには見えないぞ。
 でも、その令嬢も私のことをじーっと見ていた。
 何かを訴えるような視線だけど、敵意までは感じなかった。
 しかし、あまり良い視線ではないのは確かだ。

「フレイア様、どうやらあの方は私の事を知っているみたいですね」
「そりゃ、自分にとっての恋敵なのよ。ただ、流石に相手も力でリンに勝てるとは思ってないはず。暫く様子をみましょう」

 あの令嬢は、今まで問題を起こしてきた貴族令嬢と違ってパーティーそのものをぶち壊しにすることはないはず。
 私とフレイア様は、そう分析していた。
 何にせよ、今は警戒を続ける必要がありそうだ。

「静粛に、王家の方々が入場されます」

 大部屋にマイク型魔導具の声が響き渡り、私たちは臣下の礼を取った。
 大部屋の袖口から王家の方々が入場し、所定の位置に着く。
 ニース様の側にはシルバがピッタリと寄り添っていて、スラちゃんはいつの間にか目立たないようにルーカス様の服のポケットに入り込んでいた。

「皆のもの、面を上げよ」

 陛下の厳かな声を合図に、私たちは一斉に顔を上げた。
 陛下は、周囲を一度見回してから言葉を続けた。

「今日は、我が息子ルーカスの成人を祝うパーティーに多くのものが集まり感謝する。こうしてルーカスが無事に成人を迎えられたのも、ここにいる多くの皆の支えがあってのものだ」

 陛下が冒頭の挨拶を続けている間に、使用人がササっと飲み物を用意していた。
 私とフレイア様は、不測の事態に備えてジュースにしてもらった。

「それでは、ルーカスの成長とここにいるものの益々の発展を祈願して乾杯とする。乾杯!」
「「「乾杯!」」」

 陛下の乾杯の音頭を合図に、楽団が軽やかに演奏を始めた。
 集まった来賓も、にこやかに話をしている。
 程なくして、集まった来賓がルーカス様を始めとする王族に挨拶をするタイミングになった。
 私はノルディア公爵家にお世話になっているので、一番初めに挨拶をすることになった。
 王家の方々の前に進み出たが、ノルディア公爵が代表して挨拶をするので私は臣下の礼を取った。

「陛下におかれましては、ルーカス様が無事に成人を迎えられお慶び申し上げます。ルーカス様の益々のご武運を祈願いたします」
「うむ。ノルディア公爵、大儀である」
「恐れ入ります」

 ノルディア公爵は、無難に陛下並びにルーカス様への挨拶を行なった。
 ルーカス様は軍属なのでご武運という言葉を使ったが、ルーカス様を祝う言葉なら特に問題ないという。
 私はルーカス様に一礼し、ルーカス様も私と目を合わせて小さく頷いた。
 今はこれでいい。
 恐らく集まった来賓の挨拶が終わり、ダンスが始まるまでの休憩時間で何かがあると睨んでいた。
 ルーカス様の晴れの舞台が無事に終わるよう、私もここから集中していかないといけない。

「まだつづくねー」
「ワフッ……」

 一方、ニース様と一緒にいるシルバは早くも退屈モードに入っていた。
 もしかしたら、上位貴族の挨拶が終わった段階で一人と一匹の面倒を見なければならないかも。