こうして、午前中は冒険者や軍の仕事をして午後は社交ダンスの練習をする日々が続いた。
 講師が何故か私のことを気に入り、ワルツの様々な踊り方を教え始めたのだ。
 基本で良いはずだったのに、何でこうなったのだろうか……
 講師は見た目はとても大人しそうな女性なのに、火が付くととても熱い人だった。

「はあ、魔物を倒して気持ちが安らぐなんて……」

 ルーカス様の部隊が街道沿いの害獣駆除を行う際は、私たちは必ずついて行った。
 私はミスリル製の剣を手にして、現れた魔物をバッサバッサと斬り伏せていた。
 というのも、社交ダンスだけでなく礼儀作法の訓練まで熱を帯びることになったからだ。
 いくら体を動かすのが好きとはいえ、社交ダンスを覚えるのはわけが違う。
 礼儀作法の訓練は更に覚えることがたくさんあり、私は精神的ストレスが溜まっていた。
 無意識のうちに魔物を倒しまくっていて、同行しているベテラン兵に苦笑されていた。

「嬢ちゃんよ、折角ここにダンスを踊る相手がいるのだから練習すればいいだろうよ」
「えっ!?」

 休憩時にベテラン兵にそんな事を言われ、私は思わず固まってしまった。
 思わずルーカス様を見てしまったけど、そりゃルーカス様の部隊だから本人がいるのは当たり前です。
 すると、ルーカス様が苦笑しながら私のところにやってきたのです。

「それではお嬢様、お手を拝借」
「はっ、はい……」

 その場で即興のダンスパーティーが始まってしまい、兵も囃し立てていた。
 ルーカス様は社交ダンスもとても上手で、私のことを難なくリードしていた。
 一方、私はというと顔を赤くしてしまいまともにルーカス様の事を見ることができなかった。
 シルバの頭の上に乗っているスラちゃんは、顔を真っ赤にしている私を見てやれやれといった態度を取っていたのだった。
 こんな感じで日々が過ぎていったのだが、ルーカス様の誕生日パーティーの前日に緊急で謁見が行われることになった。
 アーサー様とアメリア様の結婚式で大騒ぎした四家への処分が通達されるという。
 私への恨みが元にあったけど、危うくとんでもないことになろうとしたもんなあ。
 私も思いっきり当事者だったので、一緒に話を聞くことになった。

「明日ルーカスの誕生日パーティーがあるから、王都に多くの貴族が集まっているわ。いいタイミングだと思ったのでしょう。私も、あの馬鹿の件は頭にきていたのよ」

 一緒に馬車に乗っているフレイア様が、色々と事情を教えてくれた。
 因みに、フレイア様も私があの四家の令嬢に襲われた現場にいたので、私と一緒に謁見に参加することになっていた。
 軍の捜査に参加していたのであの四家の状況は分かっているが、多額の借金の上に多数の犯罪組織と繋がっていた。
 トドメに誘拐事件に人身売買まであったのだから、厳罰は避けられないだろう。
 私たちは、ノルディア公爵と共に王城の謁見の間に向かった。
 軍の幹部で知っている人たちもいるので話をしていると、陛下が入ってくるという。
 慌てて臣下の礼を取ると、閣僚と他の王族と共に陛下が袖口から入ってきた。

「皆のもの、面をあげよ」

 陛下が玉座に座り、厳かな声をあげた。
 私たちが顔をあげたタイミングで、謁見の開始である。

「ルーカスの誕生日パーティーを明日に控えた中、こうして多くのものが集まり大義である。しかし、貴族の処分を伝えないとならないと思うと、非常に残念である」

 陛下が至極残念そうに話したが、やはり今日の謁見のメインは例の四家の処分通達になるらしい。
 陛下は一度謁見の間に集まっている貴族を見回し、それから処分を通達した。

「四家は既に国の忍耐を超える借金をしており、この時点で貴族としての運営失格と言えよう。更に捜査の過程で、誘拐と人身売買に手を出していたことが判明した。幸いにして売られたものはいなかったが、心に大きな傷を残した。もはや、貴族ではなく犯罪組織としか言えない」

 陛下が語尾を強めながら話をし、集まっている貴族は黙って陛下の話を聞いていた。
 私とリンさんは、定期的に教会の治療施設に運ばれている捕らわれていた人たちへの治療を行なっていた。
 やはり心に負った傷は深く、回復魔法で治療することはできなかった。
 ここで意外な力を発揮したのはシルバの無邪気さで、アニマルセラピーがかなり有効だと改めて認識したのだった。

「アーサーとアメリアの結婚式で行った狼藉行為など全く関係なく、四家は爵位取上げの上でお家取り潰しだ。主犯の元当主と貴族令嬢は無期の強制労働刑とし、その他のものは罪に応じた罰を受ける」

 先の陛下の話から、かなりの厳罰が予想された。
 死刑にならないだけまだマシだといういうのは、大半の貴族の感想だろう。
 四家に協力していた貴族家もおり、取り潰しにはならなかったがかなりの罰を受けることになった。
 これで謁見は終わりかと思ったら、予想外の方向に進んでいった。