さてさて、この後私はどうすれば良いのだろうか。
 ということで、ここは偉い人に聞いてみよう。

「ギルドマスター、この後私はどうすれば良いのですか?」
「うーん、そうだな。あのスライムも仕事をしているし、夕方まで仕事を頼むか。話をしておくから、オレンジ色の髪の受付嬢のところに行ってくれや」

 ということで、早速初めての依頼を受けることになった。
 私は、スラちゃんに手を振ってシルバとともにギルドマスターの後をついて行った。
 スラちゃんも触手をフリフリとして、私に頑張ってとエールを送ってくれた。
 受付裏に出たので、そのままぐるっと回って改めて受付に向かった。
 ギルドマスターが言っていたオレンジ色の髪の女性はっと、受付に一人だけその髪の女性がいたので直ぐに分かった。
 オレンジ色の癖のあるショートカットで、表情もとても明るく健康的なスタイルをしていた。
 私も受付に座って、受付の女性に話しかけた。

「すみません、ギルドマスターからあなたに会うように言われたのですが……」
「ええ、今さっき聞きました。私はエレンって言います、リンさん、シルバちゃん宜しくね」
「ウォン!」

 シルバも元気よく返事をしたけど、ニコニコとして声も元気の出ている女性だ。
 冒険者ギルドの元気印って感じです。

「では、早速説明をしますので冒険者カードをお願いします」

 私は、魔法袋から先ほど作って貰ったばかりの冒険者カードを提出した。
 そして、冒険者活動について説明があった。

「冒険者活動は一種の許可制だと説明があったと思いますが、それはその冒険者ができる事が決まっているからです。例えば回復魔法が使えない人は治療を行えない、まだ子どもで剣を扱えないものは害獣駆除ができないといった感じです。もちろん、簡単な薬草採取みたいなものもあります」
「私は回復魔法が使えるので、冒険者としての幅も広いって事ですね」
「そういうことになります。リンさんは身体能力強化も使えますので、害獣駆除や荷物運びも問題ありません。万能型の冒険者です」

 う、うーん、まだ身体能力強化は使った事がない。
 明日軍に行った時に使い方を習って、それからどうするか考えましょう。
 そして、本題のこの後の初依頼についての話になりました。

「リンさんには、医務室で冒険者の治療をお願いします。特に夕方にかけて冒険者が帰ってくるので、治療もかなり忙しくなります」
「これは、無料治療って事ですか?」
「いえ、受付で手続きをしてから治療を行います。医務室に担当職員がいるので、きちんと確認を行います」

 ということは、私は受付を済ませた人の治療を行えば良いのか。
 治療に専念できるのはありがたいし、真面目に頑張ろう。

「シルバちゃん、リンさんのことをしっかりと守ってあげるのよ」
「ウォンウォン!」

 シルバも、任せろってエレンさんに元気よくアピールしていた。
 とはいえ、シルバは私の側にいるだけで終わりそうだ。
 医務室という看板が出ているので、冒険者カードを返却して貰ってシルバとともに中に入った。

「こんにちは、治療の依頼で来ました」
「ウォン!」
「いらっしゃい、リンちゃんとシルバちゃんね。こっちに来て腰掛けてね」

 私たちを出迎えてくれたのは、茶髪お団子ヘアの元気の良いおばちゃんでした。
 誘われるまま用意された椅子に座り、シルバも私の側に座りました。
 お茶とお菓子も用意してくれたけど、とても世話好きな人って感じだった。

「いやあ、回復魔法が使える冒険者が来てくれて本当に良かったわ。冒険者って、基本的に魔法が使えても攻撃魔法が多いのよ」
「確かに、派手な魔法で魔物を倒すってことに憧れそうですね」
「そんなのよ。もちろん冒険者にも治癒師ってのもいるけど、私から見ても腕はイマイチなのよ。一人貴族令嬢で凄い回復魔法の腕を持っている子がいるけど、今の冒険者でその子を超える子はいないわね」

 その貴族令嬢がたまに冒険者ギルドでの治療を手伝っているそうなのだけど、一日に何人もの冒険者を治療するという。
 人としても素晴らしい人だとベタ褒めするので、私もちょっと興味を持った。
 いったいどんな人なんだろうか。
 その後もおばちゃんと雑談をしていたのだけど、どこどこのお店のパンが美味しいとかこの貴族に気をつけろとか色々なことを教えてくれた。
 この世界でも、やはりおばちゃんは物知りなんだ。

「すみません、治療お願いします」
「ハックション、グズ、ハックション!」
「あらやだ、お話は一旦終わりね。じゃあ、冒険者カードを出してくれるかしら」

 おっと、最初の怪我人がやってきた。
 というか、怪我人というよりかは病人だ。
 真っ赤な顔をしてくしゃみと鼻水が止まらない男性を、女性が肩を貸しながら運んできた。
 ベッドに寝かせるが、これは随分と調子が悪そうだ。
 確か、相手の調子を診るのなら軽く魔力を流すんだっけ。
 頭の中に知識があったので、それを試してみた。

 シュイン。

「うーん、風邪だけじゃなくて胃腸も悪くしていますね……」
「うう、昨日からお腹も壊しています。ハックション!」

 風邪に胃腸炎もだと、当人は相当辛いよね。
 直ぐに治してあげた方が良いと思い、私は悪いところが治るように回復魔法を放った。

 シュイン、ぴかー!

「うん? すげー、一気に楽になったぞ!」
「体が治っても体力が落ちているので、今日は消化にいいものを食べてゆっくり休んで下さいね」
「そこはしっかりとみますので。ありがとうございます」

 男性冒険者よりも、付き添いの女性冒険者にすごく感謝されてしまった。
 何とか治療が上手くいってホッと胸を撫で下ろしたら、おばちゃんが満足そうに頷いていた。

「リンちゃん、良い腕を持っているわね。的確な治療だけでなく、治療後のアドバイスも完璧だったわ」
「あ、ありがとうございます……」
「これなら、リンちゃんにどんどんと治療を任せられるわね」

 ハイテンションなおばちゃんだったけど、上手くいって褒められるってとても嬉しい。
 そういえば、私が褒められたのっていつ以来だったかなって、そう思ってしまった。

「スピー、スピー」

 そして、シルバはいつの間にか丸くなって熟睡していた。
 あなたは、私を守るって張り切っていなかったっけ。
 おばちゃんも思わず苦笑する熟睡っぷりだった。
 その間にもたくさんの冒険者が治療に来たが、別の意味で褒められてしまった。

「ちっちゃい嬢ちゃんなのに、俺たちを怖がらずに治療するなんて大したもんだ」

 筋肉ムキムキのモヒカンの冒険者は思わずニカッとしていたが、男性冒険者は厳つい容姿のものが多いから怖がる女性が多いという。
 こう見えて前世ではそれなりに社会の荒波にもまれていたので、モヒカンくらいでは驚きません。
 感想とすれば、悪役レスラーって感じですね。

「それと、私はこう見えて十五歳ですよ。お嬢ちゃんじゃないですよ」
「そうなんだよ、リンちゃんは立派なレディだよ。あんたも言葉遣いに気をつけな」
「ははは、おばちゃんまでそんな嘘を……えっ、本当に?」

 どちらかというと、冒険者に私の容姿と身長のことで散々ツッコまれてしまった。
 うう、童顔なのと背が小さいのはどうしようもないんですよ……

「スピー、スピー」

 それと、シルバはもうそろそろ起きましょうね。
 鼻提灯まで作ってすやすやとしているけど、このままだと夕食は抜きになりますよ。