負傷兵の治療を終え、私たちは防壁の門から直轄領の軍の施設に向かうことになった。
 特にルーカス様と同行していた兵は戦闘でかなり疲弊しているので、体を休めないとならない。
 私たちは、軍の兵と共に町の中に入った。

「代官邸の隣に軍の施設がある。代官も呼び寄せて、一緒に話をしよう」
「私もルーカスの意見に賛成だ。二度手間をかける必要はないし、実際に何が起きたかをこの目で見てもらえばいいだろう」

 ルーカス様とアーサー様の意見が合致し、直ぐに伝令が代官邸に向かった。
 私たちが軍の施設に向かい、広々とした訓練場に集まった。

「部隊は一時解散とする。まだ魔物の脅威が完全に去った訳では無いので、場合によっては出動の可能性もある。何にせよ、ゆっくりと心と体を休めるように」
「「「はっ」」」

 ルーカス様が整列した兵に訓示をし、部隊は一時解散となった。
 兵もホッとした表情に変わったけど、あれだけの激しい戦闘があればその苦労も伺えた。
 そして、ベテラン兵が軍の解体担当を連れてきた。

「スラちゃん、一回回収した魔物を出してくれ」

 スラちゃんは、「了解」と言わんばかりにベテラン兵に触手をふりふりとした。
 そして、アイテムボックスからオークキングを始めとする倒して血抜き済の魔物を山のように取り出した。
 スラちゃんはご丁寧に種族ごとにキチンと並べていた。

「こ、これは……」

 このタイミングで、直轄領の代官も軍の訓練場に姿を現した。
 目の前に山のように積み上がっている魔物を見て、度肝を抜かれたみたいだ。
 更に冒険者も絡んでいるので、直轄領の冒険者ギルドの担当者も来ていた。

「こんな大群がこの町を襲ったなら、間違いなく壊滅していたでしょう……」
「冒険者が勢ぞろいしたとしても、全滅は免れないかと。特にオークキングはひときわ大きいですね……」

 代官と冒険者ギルド職員は、特にオークキングを見て衝撃を受けていた。
 私はオークキングと対峙した時は素早く倒すことに集中していたけど、やはりオークキングは災厄の元といわれるんだ。

「倒した魔物の半分以上は、そこにいるリンとフェンリルとスライムが倒した。オークキングも一分もかからずに倒したぞ」
「「「はっ?」」」

 あっ、ルーカス様が私を指しながら説明したら、代官、軍の解体担当者、冒険者ギルド職員があんぐりとしたまま固まってきまった。
 信じられない表情をしているけど、アーサー様とベテラン兵もウンウンと頷いている。
 そして、ルーカス様は別の指示を出した。

「軍の解体担当者と冒険者ギルドは、一日で解体できる魔物を確認するように。オークキングは王都で解体することになるが、それ以外はできる限りこの町で解体する予定だ」

 直轄領としても、大量の素材が出回るのはとても嬉しいことだ。
 しかもスラちゃんによる完璧な血抜きも行われていて、余すことなく素材を活用できる。
 直ぐに話し合いが行われ、それぞれが解体する獲物が決まった。
 荷運びはシルバに乗っているスラちゃんが行うそうで、一度全ての魔物をアイテムボックスにしまいベテラン兵と共に動き出した。

「代官、数日は私も直轄領に残り治安維持に努める。リンは強力な回復魔法も使えるので、町の人への治療を行なおう」
「私は明日帰るが、今日は万が一に備えよう。まあ、王都でも最上位の戦士がいるから大丈夫だろうな」
「色々とご配慮頂き、本当にありがとうございます」

 代官は、ルーカス様とアーサー様に深々と頭を下げた。
 治療に関しては私は全く問題ないし、どっちにしても数日は周囲を警戒しないといけない。
 何にせよ、これで一息ついたことになった。
 因みに軍事行動中なので、私は軍の施設に泊まることになる。
 王族お二人も、専用の部屋があるのでそこに泊まるそうだ。

「シルバとスラちゃんが戻ってきたら、我々も昼食にして休むとしよう。リンは大量の魔力を使ったのだから、ゆっくり休むと良い」

 私は、ルーカス様の采配に甘えることになった。
 因みに私とスラちゃんが持ってきた支援物資は、そのまま軍の施設に預けることになった。
 私たちは、軍の施設内にある食堂に向かった。

 ザワッ。

 王子様が二人も現れたので、食堂にいる駐留軍の兵は一瞬ざわめいた。
 アーサー様が兵を制したので挨拶はなかったけど、やはりルーカス様とアーサー様は凄い存在なんだ。

「ハグハグハグ」

 私たちに合流したシルバも、用意されたお肉にかぶりついていた。
 あれだけ激しく動けば、シルバも相当お腹が空くだろう。
 スラちゃんは、大量の血抜きをしたのでお腹はいっぱいらしい。
 一眠りすれば、更にパワーアップするという。
 なんだかスラちゃんがとんでもないスライムに進化していっているよ。
 私もお肉にかぶりついていて、相当体力と魔力を使ったのだと実感した。

「リン、ゆっくり休んでくれ。今日は本当に助かった。何かあったら遠慮なく言うように」

 ルーカス様に再び感謝の言葉を言われてから、私たちは割り当てられた部屋に入った。
 部屋は個室で、シャワーとトイレもあった。
 しかし、既に眠気に襲われていて、全員シャワーを浴びる気力もなかった。
 服だけ着替え、私たちはベッドに潜り込んだ。

「スピー、スピー」

 シルバもベッドに潜り込んでおり、直ぐに寝息を立てていた。
 程なくして私も眠りについたのだが、ルーカス様だけでなく町の人も救うことができて本当に良かったと実感したのだった。