勝どきが収まった後、私は自然とルーカス様を見つめていた。
 ルーカス様も、私のことを見つめていた。

 カラン、ダッ。
 ガバッ。

「ルーカス様、良かった!」
「リン、本当にありがとう」

 私は剣を置き、ルーカス様の元に駆け寄った。
 ルーカス様も、駆け寄った私のことをきつく抱きしめた。
 お互いの無事を確かめあい、涙が止まらなかった。
 私は編み込んだ髪もボサボサになり、化粧も汗で落ちていた。
 ルーカス様も返り血を浴びて綺麗な軍服が血だらけだが、それでもお互いに気にすることはなかった。
 周りの兵からヒューヒューと囃し立てる声も聞こえていたが、そんな事など全く気にしなかった。
 しかし、私の涙がまだ止まらないうちに、そんな事などお構い無しに私とルーカス様に飛びつくものがいた。

「ウォーン!」

 ドカッ、ドサッ。

「あたっ!」
「ウォン、ウォーン!」

 シルバが興奮しながらまだ抱き合っているルーカス様と私に飛びつき、完全に油断していた私はシルバに思いっきり吹き飛ばされた。
 うう、私らしいとはいえ、流石にそれはないよ……
 当のシルバはルーカス様に抱きついて喜んでいて、ルーカス様も完全に困惑していた。
 どうもシルバは戦いに勝った興奮が続いていて、私とルーカス様が抱き合っているのも勝った喜びだと勘違いしているみたいだ。
 周りの兵は大笑いし、何だかカオスな空気になった。

 タンタン。
 ビクッ。

 と、ここで普段一番冷静なスラちゃんが激怒しながら触手で地面を叩いていた。
 シルバは思わずビクッとし、ビクビクしながらスラちゃんの方に歩いていった。
 シルバは一瞬私の方を向いたけど、私はスラちゃんに思う存分にやれと指示を出した。
 その瞬間、シルバは絶望的な表情に変わった。

 タシタシ、タシタシ!

「キューン、キューン……」

 久々のスラちゃんの本気説教に、シルバはお座りをして涙目だった。
 スラちゃんは、私とルーカス様が良い雰囲気になったのをぶち壊しにしたのを良く分かっていた。
 今日もシルバはとても頑張ったし多くの魔物を倒したが、それはそれこれはこれだ。

 パカパカパカ。

「おい、ルーカス、リン、大丈夫……なんだこれは?」

 このタイミングで、アーサー様が大隊を率いて駆けつけたのだ。
 馬車から急いで降りたアーサー様が見たものは、私達が倒した大量の魔物、首がないオークキング、微妙な表情をしているルーカス様と兵、地面に転がっている私、そして説教中のスラちゃんとショボーンとしているシルバだった。
 確かに、外部の人からみればなんだこれはと思うだろうね。