アーサー様とアメリアさんとの結婚式翌日、私はいつも通り治療兵の服を着て軍の施設に来ていた。

「ルーカス様、おはようございます」
「ウォン!」
「リン、疲れているところ悪いな」

 軍の事務棟の前で軍服に身をまとったルーカス様と落ち合ったけど、実は今日は昨日四家と犯罪組織の拠点の捜索で判明したある犯罪組織の拠点壊滅に向かうことになった。
 私もかなり迷惑を被った貴族家と関与している犯罪組織なので、内心かなりやる気満々だった。
 それはシルバとスラちゃんも同様で、周囲に迷惑をかける存在が本当に嫌みたいだった。

「ふふふ……」
「リン、言っておくがやりすぎるなよ」

 不敵に笑う私を、ルーカス様が苦笑しながら注意した。
 こんなやり取りをしながら、私達は目的地である王都スラム街に向かった。

 シュイン、もわーん。

「えーっと、確かに前のボロい商会風の建物の中には多数の人がいます。明らかにおかしいです」
「斥候の報告通りだな」

 私達は、物陰からスラム街の一角にあるボロボロの商会みたいな建物を覗き込むように監視をしていた。
 私の探索魔法の結果に、ルーカス様もこくりと頷いた。
 でも、念には念を入れる事になり、颯爽とスラちゃんがボロボロの商会に潜入しに行った。
 そして、スラちゃんが潜入を行なって数分経った時だった。

 ズドドドドーン!
 ズドーン!
 ズドーン!

「「「なっ!?」」」

 突然ボロボロの商会から派手な魔法の打ち合う音が聞こえてきたのです。
 これには流石に私もルーカス様も他の兵も思わず顔を見合わせて、「何が起きているの?」って表情をしてしまった。

「ウォン、ウォン!」
「えっ、スラちゃんが魔法を放っているの?」

 しかし、シルバが臭いからボロボロの商会の状況を教えてくれたのをきっかけに、一気に動き出す事になった。

「スラちゃんが何もせずに魔法を放つ事はありえない。我々も、商会に突入するぞ!」
「「「おお!」」」

 ルーカス様も軍の兵も、普段からスラちゃんと接しているからスラちゃんの性格を良く知っていた。
 ルーカス様の指示で一気に軍が動き始め、勿論私とシルバも兵と共に走り出した。

「「「うぅ……」」」

 ボロボロの商会に入ると、多数の盗賊風の男が床に苦しそうに倒れていた。
 間違いなく、スラちゃんの魔法を受けて倒れたのだろう。
 しかし、シルバを叱る時以外はとても温厚なスラちゃんがここまでするとは思わない。
 絶対に何かあるのだろうと思い、探索魔法の反応が多かった地下室に向かうと直ぐにスラちゃんが激怒した理由が分かった。

「「「あっ……」」」
「これは酷い……」

 何と、地下室には手足を拘束され粗末な服を着せられた十人以上の若い女性がいたのです。
 兵の姿をした私を見て、とても安堵した表情を見せていた。
 その傍らでは複数の犯罪組織の構成員が倒れていて、スラちゃんがぷんぷんしながらぴょんぴょんと跳ねていた。
 私は急いでダガーで女性を拘束している縄を切り、そして何があったかを聞いた。

「その、私達は誘拐されてここに集められました。ずっと監禁されていたのですが、突然この建物にいた男に乱暴されそうに……そうしたら、そこにいるスライムが私達を襲おうとした男を魔法で倒してくれたのです」

 女性の話を聞いた私は、スラちゃんと同様にかなり激怒してしまった。
 全員の体を生活魔法で綺麗にして、毛布をかぶせてあげた。
 何かあればと思い、複数の毛布を用意して助かった。
 そして、複数の兵と共にルーカス様も地下室に姿を現した。

「リン、地下室は……これは一体……」

 ルーカス様は、私が介抱している複数の女性を見て言葉を失った。
 ルーカス様はとても聡いから、何が起こりそうだったのかを瞬時に察したみたいだ。
 スラちゃんがボコボコにした犯罪組織の構成員は、ささっと兵が拘束し連行していった。
 そして、ルーカス様はある事を思い出していた。

「そういえば、最近王都内で若い女性が失踪する事件が起きていた。恐らく、その被害者だろう。直ぐに、教会付属の治療施設に運ぼう」
「「「はっ」」」

 ルーカス様は、女性兵に女性の搬送を指示した。
 やはり、こういうことは女性同士の方が良いだろう。
 全員を回復魔法で治療しているが、監禁生活を経て心に負った傷は回復魔法では治療できない。
 同じ女性として、なんとも悔しい思いだ。

「犯罪組織が誘拐した女性をどうしようとしていたかによるが、絶対によくないことをしようとしていたはずだ。いずれにせよ、拘束した構成員と押収した資料の分析を急ごう。それにより、あの四家が何をしようとしていたのかが分かる」

 ルーカス様も慎重に言葉を選んでいたが、発した言葉には静かな怒りを含んでいた。
 何にせよ、四家への捜査は当面続く事になったのだった。