そして、処理が終わったのか女性は色々と取り出してきた。
 クレジットカードくらいの大きさのカードに一冊の冊子、そして革のベルトみたいなものだ。
 女性は、まずカードを手にしながら説明してくれた。

「こちらが冒険者カードになります。紛失した場合は所定の手続きを行っての再発行となりますので、無くさないようにお願いします。依頼を受ける際などに必要ですので、受付に提出をお願いします」

 私の名前や、簡単な職業なども記載されている。
 中々近未来的なカードですね。
 続いて、冊子の説明です。

「冒険者として必要なことをまとめた冊子になります。規則なども書かれておりますので、必ず一読して下さい。冒険者は、ランク制ではなく一種の許可制です。その冒険者によって許可される依頼が違うので、詳しくは受付のものに聞いてください」

 冒険者はランク制だと思ったけど、そんなことはないんだ。
 どんな制限があるのか、後で聞いてみよう。
 それに、冊子も今日中に全部読んでおこう。
 こういうものは、早めに手を付けたほうがよさそうです。

「最後になりますが、こちらを従魔に着けて下さい。リンさんの配下にあるという証拠にもなります。大きさが自由に変わるものですので、体が大きくなっても何も問題ありません」

 革のベルトみたいなものは、まさかのシルバの首輪だった。
 しかも、これも魔導具なのだから驚きです。
 さっそくシルバの首に取り付けたら、自動で大きさが変わっていった。
 魔導具って、前世の機械よりも凄いんじゃないかなって本気で思ってしまった。

「冒険者の登録につきましては以上となります。続いて熊の毛皮の納品となりますが、場所が変わりますのでご案内いたします」

 流石にここで熊の毛皮を出す訳にもいかないので、私たちは席を立って再び女性の後をついて行った。
 うーん、できる女性って思っていたけど何だか無理にキャラ作りしている気がする。
 女性の勘というか、そんな気がしてきた。
 私たちは受付の後ろを通り、直接買取ブースの倉庫に入って行った。

「わあ、たくさんのものを解体しているんですね」
「言わば、王都の食肉を提供している面もありますので。リンさんも、どしどしと獲物を倒して納品して下さい」

 たくさんの解体職人が大量の肉をさばいている光景は、ある意味圧巻と言えよう。
 シルバは目の前のお肉祭りにテンションが上がったのか、涎まで垂らしていた。
 流石にここでお肉を貰うわけにはいかないから、もう少し待ちましょう。
 そして倉庫の奥で、二人の人物が私たちを手招きしていた。

「おお、待っていたぞ。こっちだ、こっち」

 一人は他の解体職人と同じはちまきにエプロンを身に着けていたが、もう一人の声をかけている人はどう見ても冒険者の姿だった。
 長身の筋肉質で、茶髪を短く刈り上げていて少し口髭も生えていた。
 剣と鎧は身につけていないが、筋肉が浮き出ているシャツに長ズボンと革靴を身につけていた。

「ギルドマスター、何でここにいるんですか?」
「そりゃ、面白い人材がいるって聞いたからな。それよりも、お前はへまをしなかったか? ルーカスが来るって聞いて、いの一番に案内役をすると手を上げていたからな」
「わーわー! ぎ、ギルドマスター、なんでその事をばらすんですか!」

 あの大柄な男性は、この王都冒険者ギルドのギルドマスターだったのか。
 そして、そのギルドマスターにニヤリとしながら秘密をバラされた女性は、さっきまでの仕事ができる感じが一変して顔を真っ赤にしながらギルドマスターの胸板をぽかぽかと叩いていた。
 やっぱり、あの仕事ができる感じはわざと作っていたんだ。
 何だか冷たい感じがしたんだよね。
 慌てている今の感じの方が可愛らしくて、私はとっても好きだなあ。

「ぎ、ギルドマスター、後は宜しくお願いします」
「おう、ご苦労さん」

 顔を真っ赤にしながら一礼する女性に、ギルドマスターは手をひらひらとさせていた。
 そして、今度は私の方に歩いてきた。

「ほほう、嬢ちゃんが面白い冒険者か。名はなんという?」
「リンです。ギルドマスター、宜しくお願いします」
「おっ、礼儀正しくて何よりだ。俺はガンドフ、冒険者ギルドマスターをやっている。嬢ちゃんとはいい付き合いになりそうだ」

 ギルドマスターは、私を品定めするかのように顎に手を当ててニヤリとしながら覗き込んでいた。
 飄々としているが、やはり只者でない雰囲気を感じ取った。
 そして、早速用件に入った。
 私は、魔法袋から大きなフェンリルが倒した大熊の毛皮を取り出した。

 シュッ、ドサッ。

「おお、これはすげーな」
「うむ、キングベアの毛皮だな。ははは、綺麗に肉だけ食べているな」

 解体職人は目の前に現れた大きな熊の毛皮に目を奪われ、ギルドマスターは直ぐに毛皮の主と状況を見抜いていた。
 兵の偉い人も感嘆の声をあげていることを考えると、この毛皮は良いものだということが分かる。
 すると、手の空いている解体職人がこちらにやってきて熊の毛皮を手に取ったりしていた。
 皆が、良い状態だと太鼓判を押していた。
 しかし、ギルドマスターが腕を組んで考え込んでいた。

「うーん、これだけの毛皮になると査定に少し時間がかかるな」

 ものが良いだけに、もう少し細かく査定しないと駄目だという。
 とはいえ、こればっかりはしょうがない。
 そして、ものの確認も済んだので兵は引き上げるそうです。

「ではリン、明日軍まで宜しく。私は別件でいないが、代わりのものが対応する」
「あっ、はい。色々とありがとうございました」
「このくらいは、なんてことないさ。では、また」

 男性は、ペコリとした私にニコリとしながら手を振っていた。
 わあ、まさに超美男子からキラキラが出ているみたいだよ。
 さて、これで話は終わったのだけどこの後どうしようか。
 すると、私の隣にシルバがいないことに気がついた。
 どこにいるかと周囲を見回すと、とんでもないことをしていた。

「ハグハグハグ」
「ははは、そうか美味いか」
「ウォン! ハグハグ」

 おーい、シルバさんあんた何をしているんですか!
 解体職人から端材の肉を貰って、美味しそうに食べているのだ。
 私は、急いでシルバの元に駆け寄った。

「し、シルバ、何を食べているのよ!」
「キューン、キューン」

 シルバは、私がダッシュで来たタイミングで「ヤバい!」って表情に変わった。
 そして、伏せの体勢からごめんなさいって鳴いています。
 うん、姿は可愛らしいけどここは怒らないと駄目ですね。

「シルバ、もしお肉をくれるって言われても私かスラちゃんに確認してから食べなさいね。万が一お肉の中に薬とかが入っていたら、もしかしたらあの毛皮みたいになっちゃうかもしれないのよ」
「キュ、キューン……」

 シルバも大熊の毛皮を見てショックを受けたのか、だいぶ反省していた。
 ここまで反省すれば大丈夫だろうと、私もシルバの頭を撫でた。
 すると、シルバもごめんなさいって起き上がって私に体をすりすりしてきた。

「すみません、うちのシルバがお肉を食べちゃって……」
「ははは、ご主人様の許可を得ずにすまんな。どうせ端材だし、後で纏めてやるぞ」
「ウォン、ウォン!」

 なんというか、シルバは表情豊かだ。
 さっきまで泣きそうな表情だったのに、今はお肉を貰えると分かってニコニコしながら尻尾をブンブンと振っていた。
 大人のフェンリルになるのは、まだまだ先になりそうだね。
 そして、解体職人は別の話もしてきた。

「いやあ、あのスライムも凄いな。自ら不要な部分の吸収をしているぞ」

 そう言われて廃棄処分のバケツの方を見ると、スラちゃんが黙々と不要なものを吸収していた。
 廃棄処分は面倒くさいって解体職人は笑いながら言っていたけど、本当にうちのメンバーがご迷惑をおかけしています。