使用人の超絶技巧は更に続き、肩のところを鋏で切られたドレスをあっという間に縫いなおしたと思ったら、同じ色合いのレースを切られた付近に縫い付けていた。
 縫い付けた跡が目立たない様にする、素晴らしい配慮だった。
 髪の毛もササっとブラシで梳かしたら、綺麗に編み込んだ上でリボンで装飾していた。
 メイクもナチュラルなもので、ドレスの雰囲気を壊さない様にしていた。
 そんな私がメイクされる姿を見て、マリア様があることを提案してきた。

「リンよ、お婆様より頂いたネックレスがあるじゃろう。それを身に着けるが良い」
「えっ。でも、少し豪華なものですのが……」
「だから、良いのじゃ。結婚式ならともかくとして、披露宴なら少々豪華にしても構わぬ。どうせリンはルーカスお兄様の側にいるのじゃから、そのくらい派手な方が釣り合う」

 マリア様だけでなく、フレイア様もアメリアさんも少々豪華でも全く問題ないと言ってきた。
 ということで、私は魔法袋から王太后様より頂いた豪華なネックレスを身に着けた。
 最後に、私は立ち上がって問題ないか色々な視点で確認していた。
 その間にアメリアさんの披露宴用の着付けも無事に完了したけど、モデルかってくらい真っ赤なドレスと装飾品が似合っていた。
 少々派手なドレスでも、アメリアさんの美貌の前では霞んでしまうだろう。

「アメリアさん、ドレスがとても似合っています。素敵です」
「リンさん、ありがとうございます。リンさんも、髪型もドレスもとても似合っていますよ」

 私とアメリアさんは、お互いに褒め合っていた。
 ともかく、これで披露宴の準備は完了だ。
 私は、アメリアさん、マリア様、使用人と共に衣装部屋を出た。

 ガチャ。

「おお、アメリアだけでなくリンも出て来たか。二人とも、良い感じに似合っているぞ」
「うん、さっきよりもとても似合っている。どこぞのお姫様が出てきたかと思ったよ」
「あ、ありがとうございます……」

 衣装部屋を出た瞬間、こちらも披露宴用の衣装に着替えたアーサー様と同じく少し王家の服装を整えたルーカス様が、お互いに王子様スマイルで私の事を褒めてきた。
 私は思わず顔を赤くして下を向いてしまったが、どうしてこの国の王子様はこうも笑顔の破壊力がとんでもないのだろうか。
 アメリアさんは私の事をニコリとして見つめていたけど、マリア様、フレイア様、使用人は、ニヤニヤしながら私とルーカス様のやり取りを見ていた。
 すると、マリア様がニヤニヤしながらあることを言ってきたのだ。

「ルーカスお兄様、お父様がリンのことをしっかりとエスコートする様に言っていたのじゃ」

 うん、私も自分の事で精一杯だったからすっかり忘れていた。
 陛下は、そんな事をルーカス様に言っていた気がした。
 当のルーカス様は、陛下からの命を忘れてはいなかった」

「ではお嬢様、お手をどうぞ」
「は、はい……」

 私は、またもや顔を赤くしながらおずおずとルーカス様の手を取った。
 お姫様扱いなんてされたことがないので、正直な話このままルーカス様に任せるしかなかった。

「ふふ、リンさんがとても初々しくて可愛いですわ。あなた、私もエスコートして下さいね」
「おう、任せろ」

 一方、アメリアさんとアーサー様はもう熟年夫婦の様に堂々とエスコートをしていた。
 そんな私たちの事を、マリア様とフレイヤ様は更にニヤニヤとしながら見ていたのだった。

 ギギギ。

「おー、るーにーにーとりんねーねーだ!」
「あぶー」
「ウォン!」

 ルーカス様にエスコートされながら大部屋に入ると、最初にニース様、ノルディア公爵家の赤ちゃん、シルバが私の事に気が付いてニコリとしていた。
 来賓も私とルーカス様に一斉に注目をしていたが、肝心の私はルーカス様にエスコートされていてまだぎごちなかった。
 私達は、そのまま陛下と王妃様のところに挨拶に向かった。

「父上、リンの衣装の対応が完了いたしました」
「陛下、王妃様、大変ご迷惑をおかけいたしました」
「うむ、大儀であった」

 ルーカス様と私が揃って陛下と王妃様に挨拶をすると、陛下は満足そうに頷いていた。
 そして、王妃様は私の胸元にある王太后様から頂いた少し豪華なネックレスに気が付いた。

「リン、そのネックレスは確かお義母様から頂いた物よね」
「はい、その通りになります。マリア様より、身に着けた方が似合うと言われまして……」
「ふーん、そういうことね」

 王妃様は、顎に指を当てながら何かを考える素振りをしていた。
 一体何だろうなと思っていたら、王太后様が私とルーカス様のところにやってきたのだ。

「リンは知らないのかもしれないけど、他人から送られた物を身に着けていると送った貴族家の加護を得ているということになるのよ。リンは私の加護を得ているということになるけど、リンは私にとってアメリアと同じく孫みたいな存在だから何も問題はないわ」

 王妃様の思案顔には、そういう理由があった訳なのか。
 王家の加護も得ているに等しいらしいが、私の場合は全く問題ないという王太后様の回答だった。
 すると、王妃様がニヤリとしながらルーカス様にあることを話してきた。

「ルーカスも、早いうちにリンにアクセサリーなどをプレゼントしなさい。『俺のものだ』って周囲に示すことが大事なのよ」
「承知いたしました」

 王妃様、ニコニコしながら何という事を言っているのですか!
 ルーカス様も普通に返事をしているし、この話は時間の問題となりそうだった。

「それでは、これより披露宴を始めます。新郎新婦が入場しますので、席におつき下さいませ」

 良いタイミングでアナウンスがあり、私はある意味ホッとしていた。
 心臓がバクバクし続けているよ。
 しかし、ある意味本番はここからだった。

「あの、ルーカス様、何故私はノルディア公爵家の席ではなく王家の、それもルーカス様の隣に座るのでしょうか……」
「私も理由は知らんが、既にこのようにセッティングされていた。ニースの側にシルバとスラちゃんもいるし、そのお守りということにしておこう」

 王家の席に、しかもルーカス様の席に座るということはルーカス様と、その、そういう関係にあるということになる。
 私は、心を落ち着けながら席に着いた。
 シルバはというと、大人しくニース様の隣に座っていてスラちゃんの指示もちゃんと聞いていた。
 因みに、私が四人の令嬢に絡まれた際はキチンとニース様とノルディア公爵家の赤ちゃんの側にいて護衛していたという。
 役目自体はしっかりとこなしていたのだから、後で褒めてあげよう。
 そして、披露宴自体はつつがなく終了した。
 新郎新婦と両家のところに挨拶にやって来る貴族が凄かったので、その間私はニース様の相手をしていた。
 すると、貴族家の子どもがシルバとスラちゃんを見たいと集まってきて、代わる代わる相手をしていた。
 意外と忙しい時間を過ごすことになり、例の四家のことなどすっかり忘れていたのだった。