四家の者が連行された所で、陛下が集まった貴族に声を掛けた。

「愚かな者がいなくなり、これで盛大に披露宴を開くことができるだろう。皆も、楽しい雰囲気に盛り上げてくれ」
「「「畏まりました」」」

 ある意味一番問題だった四家がいなくなり、披露宴を邪魔する者はいなくなった。
 陛下の言わんとすることも、分からなくはない。
 集まっていた貴族も、ゾロゾロと大部屋に戻っていった。

「皆様、この度は大変ご迷惑をおかけいたしました。本当に申し訳ありません」
「リンは被害者なのだから、謝罪する必要はない。余も、やるべき事をやったまでだ」

 私は陛下や他の人に頭を下げたが、陛下もこの程度は何てことはないと返事をした。
 そして、陛下は集まった人達にある事を指示した。

「マリア、フレイア、リンのドレスの件は任せる。衣装部屋の使用を許可する。ルーカスも、リンの事をしっかりとエスコートする様に」
「「「畏まりました」」」

 マリア様、フレイア様、ルーカス様は、陛下に臣下の礼をとっていた。
 王家としても、直々に招待した私がみすぼらしい姿を晒すのは不味いということらしい。
 スラちゃんは、シルバの所に戻ってニース様とノルディア公爵家の赤ちゃんの護衛に戻るという。
 ということで、私は三人と使用人の後をついて衣装部屋に向かった。

「すみません、まさかこんな事になるとは思わなかったです……」
「リン、気にしないでいいのよ。私としても、あの馬鹿令嬢が鋏を持って刺してくるなんて予想外だったわ」
「妾も、完全に読みを間違えたのじゃ。しかし、何故あの者共がこんなにも早く王城についているのじゃ?」

 フレイア様は単純に四人の令嬢の行為に腹を立てていたが、マリア様は別の事が気になっていた。
 私がお手洗いに行っていたタイミングは、爵位では侯爵家の者が王城に着いたタイミングだという。
 あの四家は、一つは侯爵家だけど残りは伯爵家らしい。
 大教会を出発するタイミングは厳密に管理されているらしいので、馬車列に割り込むとかは無理らしい。
 では何故四家の令嬢があのタイミングでお手洗いに現れたか、その答えをルーカス様が知っていた。

「どうやら、あの四家は大教会から正規のルートを外れて王城に向かったらしい。馬車を停めるのも、王城の入場も、指定された場所ではなかった。だから王城に早く着いたし、兵のチェックも逃れた。それだけで、今日は罪になる行為だ」
「安全の為にルートは全て指定されているのに、堂々と破ったんですね。それなら、あのタイミングで四人がお手洗いに姿を現してもおかしくないですね」
「スラちゃんがマリアとフレイアにリンがお手洗いから出てこないと告げたタイミングで、陛下と私にその四家が正規ルート外で行動したと連絡が入った。そして、お手洗いでの惨状に繋がった訳だ」

 四家が堂々とルールを破ったので、陛下も直ぐに捕縛指示を出したんだ。
 もし私の襲撃の為に早く王城に行ったのなら、更に罪は重くなる。
 後は、屋敷の強制捜査でどんな物が出てくるかが焦点だ。
 そして、私は以前も王太后様付きの使用人と入った衣装部屋の前に着いた。

「お兄様は、しばし待たれよ」
「直ぐにリンを仕上げてくるわ。ここは、男子禁制よ」
「分かっているよ」

 兄妹やいとこ同士のちょっとしたやり取りがあった後、ルーカス様を残した女性陣が衣装部屋に入った。
 すると、衣装部屋の中には真っ赤なドレスに着替えているアメリアさんの姿があったのだ。
 少し派手なドレスだけど、アメリアさんはスタイルがとても良いからとても良く似合っていた。

「あら、皆様どうした……リンさん、どうしたのですか!」

 アメリアさんは、髪とメイクがぐちゃぐちゃで大きいタオルを羽織っている私の姿を見て驚愕の声を上げてしまった。
 時間がない為私はそのまま化粧台の前に座ったので、マリア様とフレイア様が何があったかをアメリアさんに教えていた。

「そう、そんな事があったのですね。いくらなんでも、酷すぎます。貴族令嬢以前に、人として失格ですわ」
「うむ、同感じゃ。四人で寄って集って鋏を手にしてリンを刺そうとするなど、もはや殺人鬼の所業じゃ」
「もう少し理性があるかと思ったけど、まるで獣みたいだわ。何にせよ、厳罰が下されるのは間違いないわね」

 私が使用人によって猛スピードで髪のセットやメイクをされている間、アメリアさん、マリア様、フレイア様が四人の令嬢の事をけちょんけちょんにけなしていた。
 私は、猛スピードで動く使用人のスキルを鏡越しに見て、「使用人スゲー」って関心していたのだった。