翌日、やはりというか私達はルーカス様に下賜される予定の屋敷の清掃作業を頼まれた。
 元々アーサー様とアメリアさんに下賜される予定の屋敷の清掃は三日間を予定していたのに、魔法を使ったとはいえ半日で殆ど終えてしまったからだ。
 しかも、昨日私達が作業した屋敷の隣が、今日作業する屋敷だという。

「あの、何で皆様が勢揃いしているのですか……」

 冒険者ギルドで手続きを終えて屋敷に向かったら、アーサー様、アメリアさん、ルーカス様、マリア様という面々が既に屋敷の庭にいたのだ。
 しかも、少し遅れてフレイア様まで現れた馬車から姿を現したのだ。

「ウォンウォン!」
「キャー!」

 シルバとニース様は早速仲良く追いかけっこを始めていたが、ある意味ほんわかとする光景だった。
 えーっと、これはいったいどういう事でしょうか。

「妾が昨日リンが魔法一発で屋敷を綺麗にしたと言ったら、他の者が興味を持っただけじゃ。皆も暇ではないので、屋敷の浄化を見たら帰るぞ」

 マリア様、そんなニコニコしながらとんでもない事を言わないで下さい。
 一番ワクワクしているのはアーサー様とフレイヤ様で、ルーカス様とアメリアさんは苦笑しているって状態だった。

「まあ、リンの魔法が非常識ってのは俺は知っているからな。今度はどれだけ凄い魔法を放つのか、ある意味楽しみだ」
「私はリンの魔法を見た事がないので、とってもワクワクしていますわ。いったい、どんな大魔法なのでしょうか」

 アーサー様とフレイア様は、完全に私の魔法を見るための野次馬となっていた。
 うん、下手に反論するよりも実際に私の生活魔法を見てもらった方が早いでしょう。
 ということで、さっそく屋敷の中に移動する事にした。

「わんわーん!」
「ウォン!」

 ニース様はまたもやシルバの背中に乗っているけど、いつものようにスラちゃんがしっかりとニース様の背中を支えているので大丈夫でしょう。
 屋敷の玄関ホールに使用人が待っていたのだが、何で王族がこんなにも来ているのって戸惑った表情だった。
 その戸惑った使用人の気持ち、私もよく分かります。

「では、さっそく魔力を溜めます」
「うむ、やってくれ」

 私の言葉にルーカス様が返事をしてくれたけど、はっちゃけている人が多い中でとても落ち着いた。
 そんな事を思いながら、私は魔力を溜め始めた。
 えーっと、屋敷の大きさは昨日よりも狭いんだけど、何だか汚れている箇所が多い気がするなあ。
 取り敢えず、生活魔法で綺麗にしてから考えよう。
 私は、溜めた魔力を一気に解放した。

 シュイン、シュイン、ぴかー!

「おおー!」
「わあ、これは凄いわね」

 驚きの声を上げるニース様とフレイア様の事を、何故かマリア様がドヤ顔で見ていた。
 一方、私の魔力量を知っているアーサー様、ルーカス様、アメリアさんは何だか呆れたような表情をしていた。

「ふう、何とか綺麗になりました。屋根を含めて、何箇所か修繕が必要な所がありますね。あと、倉庫の中が酷く汚れていました」
「確認いたします。倉庫の中には古い物が置かれておりまして、汚れが酷くて判別できませんでした」

 使用人は、昨日の私の魔法の件を伝えられていたのか特に慌てる様子はなかった。
 倉庫の中のものは順次確認する事にして、私達は屋敷から一旦外に出ました。

「こりゃスゲーな、屋敷の外壁までピカピカになってやがるぞ」
「リンの魔法って、こんなにも凄いのね。私の中の生活魔法の常識を覆されたわ」

 屋敷の外壁の汚れも綺麗に落ちていて、唖然としているアーサー様とフレイア様を横目に私はかなり驚いていた。
 屋敷の中の確認には時間がかかるので、その間に他の場所の清掃を行おう。
 しかし、やる気になっていたシルバにある事を伝えないとならなかった。

「シルバ、この屋敷の芝生は綺麗に手入れされているから魔法を使っての芝刈りは今日は無しね」
「わ、ワフッ!?」

 芝刈りするぞと張り切っていたシルバは、思わず私のことを二度見してきた。
 しかし、この場にいる王族やスラちゃんも、芝刈りは不要だという判断だった。
 こればっかりは、私にもどうしようもなかった。

「シルバ、その代わりにニース様と遊んでいていいよ。スラちゃんと使用人の側で遊ぶ事ね」
「ウォン!」
「わーい!」

 芝刈りができないとなるとシルバは完全に戦力外になるので、ここはいつものニース様の遊び相手という役割を与えた。
 毛糸玉で作ったボールを魔法袋の中から取り出し、喜んでいるニース様に渡してあげた。

「えーい」

 ポイッ。

「ワフッ!」

 シルバは、パクっとニース様の投げた毛糸玉を咥えてトトトッとニース様のところに戻っていった。
 今度、シルバが遊ぶように皮を丸めたボールでも作ってあげよう。
 その間に、屋敷の外にある使用人用の建物と倉庫を生活魔法で手早く綺麗にした。
 その度に、何だか王家の方々が私の事を変人を見るような視線で見ていた。
 そして、一時間も経たずに屋敷の清掃は終わってしまった。

「もし、本職の業者に清掃を頼んだとしても、二つの屋敷を綺麗にするのにいったいどのくらいの人数と日にちと費用がかかる事だろうか。たった二時間で終えてしまうリンの魔法は、本当に半端ないな」
「それでいて修繕が必要な所も言い当てますので、屋敷を管理する立場から言いますと本当にありがたいことです」

 全部の作業を終えた私の事を、ルーカス様とアメリアさんがかなり褒めていた。
 何にせよ、清掃作業はこれで完了となった。
 すると、ニース様がアーサー様に素朴な疑問をぶつけてきた。

「にーに、このおうちだれの?」
「この屋敷はルーカスとリンの家だな。ちなみに、隣は私とアメリアの屋敷になる予定だ」
「おー、そーなんだ!」
「ウォン!」

 あの、アーサー様、そんな大事なことを適当に言わないで下さい。
 ニース様は分かっているのか不明だけど、シルバと共に大喜びしていた。
 他の人も私とルーカス様が一緒になるのは当然だという雰囲気で、ルーカス様も苦笑しているばかりだった。
 外堀どころか、内堀まで埋められ始めましたよ。
 私は、少し赤い表情をしながらガクリと項垂れてしまったのだった。