あっ、ついでに王太子妃様に生活魔法を使った際に判明した事を伝えておこう。

「王太子妃様、生活魔法を使って屋敷を綺麗にした際に修繕が必要な所が判明しました。後ほど、使用人が業者を手配するそうです」
「そういう所は、確実にやらないとならないわ。予算はあるから、徹底的に直しましょう」

 王太子妃様は、私にニコリとしながら返事をした。
 屋敷の修繕は必要経費だし、私も問題ないと思っていた。
 そして、この場にいる王家の面々が私の生活魔法を改めて見てみたいらしいので、離れの使用人の建物にみんなで向かった。

「おうちだー!」
「ウォン!」

 寄宿舎みたいな作りの使用人の住む建物に、ニース様とシルバは何故か大興奮していた。
 私達についてきた使用人によって生活魔法を使っても良いと確認済みなので、私は直ぐに魔力を溜めて生活魔法を放った。

 シュイン、シュイン、ぴかー。

「おー、すごーい!」
「ウォン、ウォン!」

 私の生活魔法の光が離れの使用人の建物を包み込む様子に、ニース様とシルバはまたまた声を上げるほど大興奮していた。
 一方で、王太子妃様とマリア様は特に普段と変わらない表情で離れの使用人の建物を見つめていた。
 生活魔法の光が収まると、目の前には新築みたいにピカピカになった建物の姿があった。

「ふう、これで建物を綺麗にしました。すみませんが、確認をお願いします」
「畏まりました」

 私が使用人に確認を依頼すると、使用人は私に恭しく礼をしてから建物の中に入った。
 あの、私はそこまで凄い人じゃないんですけど……
 すると、ちょっと呆れ顔のマリア様が私に話しかけてきた。

「リンよ、貴族の屋敷をたった一回の生活魔法で綺麗にする者など、王国でも数える程度しかおらんぞ」
「ええっ!? もしアメリアさんが生活魔法を使えたら、私と同じ事ができそうですけど……」
「アメリアなら出来るかもしれぬが、妾はできぬ。リンは、自分がやった事の重大さをもう少し理解した方が良いのじゃ」

 マリア様の横にいる王太子妃様も呆れた表情で私を見ていたけど、私としてはそこまで凄い事をしたつもりはないんだよなあ。
 とはいえ、魔法で物を壊しているわけでもないし、別に良いんじゃないかなと思っていますよ。

「わーい!」
「ウォン!」

 そして、ニース様とシルバは近くで追いかけっこをしていた。
 走っているのは芝生の上で安全なんだけど、ちょっと芝生の丈が長い気がするなあ。
 この際だから、魔法の練習を兼ねてシルバに頑張ってもらおう。

「シルバ、風魔法を使って芝を短く刈れるかな? シルバなら、きっと出来るよね」
「ウォン、ウォン!」
「おおー!」

 敢えてシルバをちょっと挑発するような言い方をしたけど、シルバは普通に頑張ると声を上げていた。
 やる気のあるシルバの声に、ニース様も思わずニンマリとしていますね。
 王太子妃様やマリア様も見守る中、シルバは意気揚々と芝生に向けて風魔法を放った。

 シュイン、ザクザクザク!

「ウォン!」
「おおー!」

 シルバが風魔法を使ってあっという間に芝生を刈り込み、その様子にニース様も両手を上げて喜んでいた。
 確かに風魔法としては中々の出来なんだけど、ちょっと残念な結果になっていた。
 すると、シルバの頭の上に乗っていたスラちゃんが、まだまだだなという表情をしながらぴょーんとシルバの頭の上から飛び降りた。
 そして、水魔法を使ってシルバの刈った芝生を再度刈り始めたのだ。
 シルバとニース様は、思わず「あれ?」って不思議そうに首を傾げていた。
 ここは、私がシルバにスラちゃんの行動を説明してあげよう。

「シルバ、刈った芝生の長さがバラバラだったよ。速いのは良いんだけど、もう少し丁寧にやろうね」
「ウォフ……」

 シルバは、ガーンとショックを受けたような表情をしていた。
 本人としては張り切ってやったつもりなのに、実際はまだまだなのだから。
 スラちゃんは丁寧にシルバにどこが駄目だったのかを教えていたけど、もう少し繊細な魔法制御が必要だね。
 当のシルバは、ショックを受けていてスラちゃんの話をあんまり聞いていたかったけど。
 すると、そんなシルバにマリア様が苦笑しながら声をかけた。

「シルバよ、明日は別の屋敷の清掃作業を行う。そこで、今日のリベンジができるはずじゃ」
「ウォン、ウォン!」

 シルバは、直ぐに頑張るぞとマリア様に声を上げていた。
 この分だと、ルーカス様に下賜される屋敷の清掃作業は、明日行うことになりそうだ。
 その間に、私は倉庫にも生活魔法を使って無事にアーサー様とアメリアさんに下賜される屋敷の清掃作業は完了した。
 かなり早い内に作業を終えたので、私たちはそのまま王城に向かうことになり、マリア様と中庭でお茶会をする事になった。
 ニース様とシルバはずっと一緒に楽しそうに遊んでいて、一人と一匹は明日も一緒に遊ぶと謎の約束をしていたのだった。