コンコン。

「失礼します。商会のものが参りました」
「失礼します」

 程なくして、グローリー公爵家の御用商人の者がやってきたが、商会の会頭と思わしき白髪の初老の男性はスーツをビシッと着たまさにジェントルマンだった。
 メイド服を着た中年女性が三人付いてきていたけど、恐らく商会の服飾担当の使用人なのだろう。
 すると、会頭が私たちに恭しく挨拶をしてきた。

「この度は、アメリアお嬢様のご婚約真におめでとうございます。また、フェンリル連れの治癒師様のドレスをご注文頂き真にありがとうございます」

 あれ?
 会頭が、私の方を見て初めて聞くことを言ってきた。
 どう見たって、フェンリルを連れている治癒師って私の事だよね。

「会頭様、『フェンリル連れの治癒師』ってもしかして私の事ですか?」
「左様でございます。お連れのフェンリルはとても立派でございますし、リン様も奉仕活動で活躍されておりますので町の方も知っております」
「ウォン、ウォン!」

 シルバは自分が有名だと言われてかなり喜んでいるけど、私としてはまさかそんな事になっているとは思わなかった。
 というか、フェンリル連れの治癒師なんて聞いたことがないんですけど。

「恐らく、治療の際にはアメリアお嬢様と一緒にいられるので、余計な事は言わないのかと存じます」
「でも、リンさんらしい二つ名ですわね。いつもシルバと一緒ですから」

 アメリアさんも私の二つ名を聞いたことがないけど、今度の奉仕活動の時に町の人に聞いてみよう。
 さっそく私の体の採寸をすることになり、ソファーから立ち上がって三人の使用人のところに向かった。

「それでは、採寸を行います。何かございましたら、遠慮なく仰って下さいませ」

 サササッ。

「ウォン!」

 すげー、使用人がとんでもない速さで私の体を採寸していった。
 そして、今度は私の体に様々な色の布を当てて、どんな色が似合うか確認していた。

「うーん、やはり薄いピンクは確定で、黄色とかの華やかな色も良いわね。でも、青系の落ち着いた色合いも捨てがたいわね」
「髪型を変えると、また印象が変わりますわ。リンさんは髪が長いですので、リボンとかシュシュとかカチューシャもよく似合いますわ」

 グローリー公爵夫人だけでなく、アメリアさんも私の側にやってきてどんなものが似合うかとあーだこーだ言い始めた。
 更に、どんなネックレスが似合うかとかも言い出し始めたのだ。
 あの、今回ってドレスだけじゃなかったでしたっけ……
 結局、ドレス三着に靴やリボンなどの小物、更にネックレスを一個購入する事になった。
 流石にこれだけ購入してもらうのは気が引けたので、ネックレスや小物は自分がお金を出すと申し出た。
 しかし、グローリー公爵夫人は頑として譲らなかった。

「このくらい、貴族として必要経費よ。王家ととても仲が良い上に、王太后様には孫のように接していてルーカス殿下と仲がとても良い。そんな人って殆ど存在しないわ。そんな人と縁を結べるなら、このくらいとても安いものよ」

 グローリー公爵夫人曰く、グローリー公爵家とも縁を結びたい貴族はたくさんいるけど、グローリー公爵家もまともな人と付き合いたいのは本音だ。
 私は、グローリー公爵家のお眼鏡に叶ったようだ。
 それでも、ここはキッチリとお礼を言わなければならない。
 私は、ソファーから立ち上がってグローリー公爵夫人に深々と頭を下げた。

「私の為に、こんな高価なものを購入頂き本当に深く感謝申し上げます」
「リンは難しく考えなくていいわ。これからも、アメリアと仲良くしてくれれば私としてはそれで十分よ。そうそう、結婚式は半年後を予定しているから、後ほどリンを正式に招待するわ」

 お礼を言う私に、グローリー公爵夫人は満足そうに答えていました。
 アメリアさんとの友情関係は変わらないし、これからも続けたいと思っていた。
 大きな要件はこれで終わり、その後は他愛のない事を話していた。
 オークキングを倒した場面を説明したらグローリー公爵夫人はかなり興奮していたけど、この世界は娯楽に欠けるからこういう武勇伝は格好の話のネタになるという。
 後日、改めてアーサー様とアメリアさんの結婚式の日程が王城から発表された。
 アメリアさんは結婚式の準備を優先するけど、時間がある際は治療も行うらしい。
 でも、また私が各方面でヘルプをするのは確定的だろうな。