女性四人でのお茶会から一週間後、今度はアメリアさんからお茶会に誘われた。
 しかも、アメリアさんの母親も私に是非会いたいと言っているらしい。
 この国を代表する大貴族であるグローリー公爵家の御婦人を相手にするなんて、普通に緊張するものですよ。
 私は失礼のないようにバッチリと身だしなみを整えて、いつもの王城に行く際に着るドレスを身に纏った。

「ワフゥ?」

 シルバよ、何でそんなに気合を入れて準備をするのかと呑気な事を言っているけど、今日は日頃からお世話になっている人の母親に会うのだからきっちりするのは当たり前です。
 そう思いながら、私はシルバに生活魔法をかけて更にブラシで梳かして毛並みを綺麗にしたのだった。
 宿を出た私達はこの前と同様に大教会に向かい、アメリアさんと合流して馬車でグローリー公爵家へと向かった。

 ドーン。

「あの、フレイア様のお屋敷よりも小さいのですが……」
「ウォン、ウォン!」

 アメリアさんがかなり謙遜しながら説明してくれたが、到着したグローリー公爵家の屋敷はまたまた博物館級にとんでもなく大きかった。
 正直な話、ノルディア公爵家もとんでもなく大きかったけどグローリー公爵家も遜色ないと思った。
 改めて、アメリアさんはとんでもないところのお嬢様だと言うことを思い知ったのだった。
 そして、シルバはまたもや猛スピードでグローリー公爵家の庭を走ってとてもご機嫌だった。
 私達は屋敷の中に入って応接室に案内されたけど、グローリー公爵家はノルディア公爵家と違って芸術品を調度品の代わりに飾ってあった。
 その貴族家の特徴が調度品に表れていて、中々興味深かった。

 コンコン。

「失礼します、奥様がお見えになります」

 使用人がグローリー公爵夫人が応接室に入ると告げたので、私は急いでソファーから立ち上がった。
 程なくして、品の良い中年女性が応接室に入ってきた。
 アメリアさんと同じ薄いピンク色の髪をショートカットにしていて、アメリアさんよりも少しだけ背が低かった。
 しかし、女性から醸し出される圧倒的な雰囲気はアメリアさんの比ではなかった。
 これが、大貴族の御婦人なのかと改めて感じたのだった。
 私はグローリー公爵夫人が席に着くなり、直ぐに頭を下げた。

「初めてお目にかかります、冒険者のリンと申します。いつも、アメリアさんにはとてもお世話になっております。フェンリルのシルバと、スライムのスラちゃんです」
「ウォン!」

 私は、グローリー公爵夫人に失礼のないように出来るだけ丁寧に挨拶をした。
 スラちゃんも、ちょこんと臣下の礼を取っていた。
 シルバはというと、グローリー公爵夫人が良い人だと分かって尻尾をブンブン振りながら挨拶をしていた。
 すると、グローリー公爵夫人も柔和な笑みを浮かべながら挨拶をしてくれた。

「我が家こそ、アメリアがリンにとてもお世話になっているわ。アメリアはリンはとても素敵な人だといつも言っていたけど、実際に会ってみると私の想像以上だわ」

 グローリー公爵夫人は、何だかキラキラした目で私の事を褒めてくれた。
 というか、アメリアさんは私の事を家族にどの様に伝えていたのかが気になってしまった。
 グローリー公爵夫人はまだまだ話足りないって事で、私もソファーに座って話を再開した。

「リンには、二つの意味で感謝を言わないとならないのよ。グローリー公爵夫人として、そしてアメリアの母親としてね」


 グローリー公爵夫人はニコリと言いながら私にそう言ってきたけど、二つの意味ってどういうことなのだろうか。

「一つ目は、勿論アーサー様とアメリアの婚約が正式に決まった事よ。教会でアメリアに絡んできた貴族令嬢から助けてくれたし、婚約披露パーティーでも妨害から助けてくれたわ。本当に感謝しているわ」
「その、ありがとうございます。でも、教会の時は私ではなくシルバとスラちゃんが先にアメリアさんを助けました。婚約披露パーティーの時も、どちらかというと任務に近かったですので……」
「あらあら、そんなに謙遜しなくてもいいのよ。私もそれなりに情報を持っておりますし、リンの功績がとても大きいけどリン自身はそれを鼻にかけていないこともね。グローリー公爵家はそこそこの貴族家だから、何とかして縁を結びたいというものが後を絶たないのよ」

 な、何だか物凄い評価をされているのは気のせいでしょうか。
 私としては、どうにかしないとって思って体が動いたからで、そんな縁を結ぶとかは全く考えていなかった。

「リンは、我が家と無理矢理縁を結ぶ必要はなかった。それは、リンがアメリアの友人になってくれたからよ。リンと会って、アメリアはとても明るくなったわ。我が娘ながら、アメリアは聡明で凄腕の治癒師なのよ。だから、周りの人から嫉妬されたりしていたわ」
「私の方こそ、アメリアさんには良くして貰っています。貴族の事を全く知らなかったので、アメリアさんがいないと何もできませんでした」
「ふふ、そうやってお互いがお互いを助け合う事が何よりも大切なのよ。リンは、身分という壁を越えてそれを成し遂げてくれたのよ」

 グローリー公爵夫人だけでなく、アメリアさんもニコニコしながら私のことを見ていた。
 私がアメリアさんに助けて貰ったのは間違いないし、色々と教えて貰ったのも間違いない。
 シルバは、自分も友達だとアメリアさんにアピールしていた。

「やはり、リンはとても面白い存在ね。私もとても興味を持ったわ。そうそう、リンにお礼をしたいのよ。この先、絶対に必要なドレスを見繕ってあげるわ。御用商人も呼んでいるから、少し待っていてね」
「えっ!?」

 そして、話は全く別の方向に進んでいった。
 もしかしたら、私がキチンとした場に出る用の服を持っていないと言ったのを聞いたのかもしれない。
 しかも、既に手はずまで整えているとは。
 流石は公爵家の御婦人だと、改めて実感したのだった。