しかし、アーサー様とアメリアさんへの貴族の挨拶が終わっても、婚約披露パーティーはまだまだ続いた。
なので、今度は個別に王家への挨拶攻勢が始まっていた。
「いやいや、ようやくお二人も婚約から結婚への運びとなりましたな」
「全くそうですな。馬鹿な者が何かをしようと思ったみたいですが、結局は無駄骨でしたな」
アーサー様とアメリアさんのところには、大勢の貴族当主がむらがっていた。
とはいえ、無理に縁をつなごうとはしておらず、にこやかに話しかけていた。
シルバも周囲にいる貴族は問題ないと判断しているらしく、貴族に頭を撫でられてご機嫌に尻尾を振っていた。
無理矢理縁を繋ごうとしている者は、大勢の貴族の壁に阻まれて周囲で悔しい思いをしていたのだった。
「あーん、もぐもぐ」
「ニースよ、美味しそうじゃのう」
「おにく、おいちー!」
未成年の王族の内、ニース様とマリア様は王太后様の側で美味しそうにお肉を頬張っていた。
スラちゃんも器用にナイフとフォークを使ってお肉を切り分けていて、ニース様に食べさせてあげていた。
そして、このほのぼのとした食事風景に突撃出来る猛者は流石におらず、逆にニース様とマリア様の知り合いの貴族子弟がニース様に美味しそうだと話しかけていた。
「ルーカス様、お話しませんか?」
「ルーカス様、今日もお美しいですわ……」
一番被害を受けていたのは、間違いなくルーカス様だった。
ルーカス様は数多くの貴族令嬢に囲まれているけど、塩対応にならない程度に相手をしていた。
真面目な性格ってのもあるけど、決して美少女に囲まれてデレデレしている感じではない。
というか、時々ルーカス様から溜息が聞こえるくらい貴族令嬢の方がグイグイと来ているみたいだ。
どちらかというと、貴族令嬢はまるでアイドルに会えて感激している感じだな。
気遣いができていない貴族令嬢が多いので、あれではルーカス様の婚約相手には選ばれないでしょう。
「うぅ……」
「あの、治療をお願いします」
「直ぐに伺います!」
私はというと、酔っ払いの治療で大忙しだった。
王族にアプローチしようとして全く相手にされなかった貴族が、馬鹿なことにやけ酒を飲んでいたのです。
というか、やけ酒を飲む貴族はそもそも酒癖が悪く、治療しても直ぐにまたお酒を飲んでいた。
対して、品の良い貴族はお酒を飲みつつ周囲との会話も楽しんでいた。
こういう余裕があるからこそ、付き合い上手なのでしょう。
そんな感じでパーティーは進んでいき、いつの間にかお開きになっていた。
王族に相手にされなかった貴族は、そそくさと帰っていった。
というか、やけ酒飲み過ぎで治療が本当に大変だった……
そんな貴族相手でも、アーサー様とアメリアさんはにこやかに対応しないとならない。
本当に大変だなと思いつつ、私はふとある光景に目を奪われてしまった。
「はあ、流石に疲れた。下心のある令嬢の相手をするのは、本当に大変だよ」
「お疲れ様ね。ルーカスも、毎回本当に大変ね」
大部屋の壁際に置かれた椅子で、ルーカス様と共に随分仲良さそうな貴族令嬢がお喋りをしていた。
紫髪のロングヘアで勝ち気な表情をしており、ルーカス様にもざっくばらんに気安く話しかけていた。
そんなルーカス様も、勝ち気な貴族令嬢と仲良く話をしていた。
どくん。
あれ?
何だろうか、この気持ちは。
令嬢と仲良く話をするルーカス様を見ると、胸が苦しくなってきた。
胸を締め付けるような、モヤモヤする気持ちなんて……
ちょいちょい。
「おや、リンよどうした?」
「どーしたの?」
いつの間にか私の横にマリア様とニース様がいて、ニース様の頭の上に乗っていたスラちゃんがちょいちょいと私の服を引っ張っていた。
ニース様も心配そうに私のことを見上げていたけど、マリア様は私の視線の先にいる二人に直ぐに気がついた。
「ほほう、兄様も罪な男よう。あれは、母上の実家であるノルディア公爵家のフレイアじゃ。妾たちにとっていとこにあたるぞ」
「えっ、王妃様の実家のご令嬢でマリア様のいとこですか?」
「そうじゃ。因みに連続で王家に嫁などは出せぬから、リンが懸念しているフレイアが兄様に嫁ぐことはないぞ」
マリア様がニヤニヤしながら私の心の中を見透かしていたが、私はホッとした胸を撫で下ろしていた。
全く、私をこんな気持ちにさせるなんて、ルーカス様は本当に思わせぶりが上手いですね。
ギュッ。
「いこー!」
「えっ!?」
すると、ニース様がニコニコしながら私の手を引っ張ってルーカス様の方に歩いていったのだ。
更に、アメリアさんもシルバと共にルーカス様の方に歩いて来たのだ。
「ねねー!」
「おっ、元気っ子が来たね? 今日は大人しくしていたかな?」
「うん!」
ニース様は、フレイア様に笑顔で抱きついた。
フレイア様も、ニコニコしながらニース様の事を抱きしめていた。
仲いいなと思いつつ、私はアメリアさんに改めて挨拶をした。
「アメリアさん、パーティーが終わった後で申し訳ないですが、本日はおめでとうございます」
「リンさん、わざわざありがとうございます。リンさんはとても忙しく動いていたのですから、お気になさらずに」
綺麗なドレスを身にまとったアメリアさんが、私にニコリとお礼を言ってくれた。
長時間の挨拶対応で疲れていたはずなのに、アメリアさんには本当に頭が下がる。
すると、ルーカス様も私のところにやってきたのだ。
うん、ちょっと言ってやろう。
「ルーカス様も、パーティーお疲れ様です。素敵なご令嬢と仲良く話をしていましたね」
「リンも言うようになったな。まあ、いとこ相手だから話せるところもあるのだよ」
ルーカス様はちょっとお疲れモードですね、どうやらしつこい貴族令嬢の相手をしたのが相当きているみたいだ。
それでも、私のツッコミを返せる程は元気があったみたいだ。
「ウォン! ペロペロ」
「ははは、くすぐったいからやめてー!」
そして、フレイア様にいつの間にかシルバが大喜びでかまってアピールをしていた。
シルバに顔を滑られたフレイア様は、かなりくすぐったそうにしていた。
流石に、シルバを止めないといけないぞ。
「シルバ、いきなり初対面の人に何をしているのよ!」
「ウォフ?」
私がフレイア様からシルバを引き離したけど、シルバ自身は何が悪いのって表情だった。
すると、まだニース様の頭の上に乗っていたスラちゃんが、説教は任せろと触手をフリフリとしていた。
ここは、スラちゃんにお任せです。
シュイン、ピカー。
私はフレイア様に生活魔法をかけつつ、シルバのしたことを謝罪した。
すると、フレイア様は特に気にした様子はなかった。
「うちのシルバが申し訳ありません」
「ふふ、大丈夫よ。くすぐったかっただけよ。それに、シルバがどんな子なのか事前に聞いていたわ。リン、貴方のこともね」
フレイア様は、ニコリとしながら私の事を見てきた。
王家といとこという存在なのだから、私の情報など筒抜けなのだろう。
すると、フレイア様は私にある事を言ってきたのだ。
「リン、明日何か予定はあるかしら?」
「いえ、本日の予備日にしておりましたので何も予定はございません」
「そう、それは良かったわ。私、リンに興味があるのよ。明日、一緒にお茶会をしましょう。アメリアも呼んでいるのよ」
えっ、いきなり公爵家の屋敷に行ってお茶会をやるの?
あまりの急展開にかなり驚いたが、勿論断れるはずもないので私は了承した。
期せずして明日の予定が決まってしまったが、いつも王城に行くときに着ていくドレスで大丈夫だろうか。
因みに、朝大教会に集まる事になった。
タシタシ、タシタシ。
「キューン、キューン……」
そして、大部屋の隅に移動したシルバはスラちゃんに最近調子に乗りすぎと怒られていた。
シルバは思わずニース様の方を向いたが、ニース様はいつの間にかフレイア様に抱っこされながらお昼寝タイムに突入していた。
私もフレイア様に捕まってしまい、シルバの元に向かう事はなかった。
久々にシルバは、スラちゃんにガッツリと説教を食らっていたのだった。
なので、今度は個別に王家への挨拶攻勢が始まっていた。
「いやいや、ようやくお二人も婚約から結婚への運びとなりましたな」
「全くそうですな。馬鹿な者が何かをしようと思ったみたいですが、結局は無駄骨でしたな」
アーサー様とアメリアさんのところには、大勢の貴族当主がむらがっていた。
とはいえ、無理に縁をつなごうとはしておらず、にこやかに話しかけていた。
シルバも周囲にいる貴族は問題ないと判断しているらしく、貴族に頭を撫でられてご機嫌に尻尾を振っていた。
無理矢理縁を繋ごうとしている者は、大勢の貴族の壁に阻まれて周囲で悔しい思いをしていたのだった。
「あーん、もぐもぐ」
「ニースよ、美味しそうじゃのう」
「おにく、おいちー!」
未成年の王族の内、ニース様とマリア様は王太后様の側で美味しそうにお肉を頬張っていた。
スラちゃんも器用にナイフとフォークを使ってお肉を切り分けていて、ニース様に食べさせてあげていた。
そして、このほのぼのとした食事風景に突撃出来る猛者は流石におらず、逆にニース様とマリア様の知り合いの貴族子弟がニース様に美味しそうだと話しかけていた。
「ルーカス様、お話しませんか?」
「ルーカス様、今日もお美しいですわ……」
一番被害を受けていたのは、間違いなくルーカス様だった。
ルーカス様は数多くの貴族令嬢に囲まれているけど、塩対応にならない程度に相手をしていた。
真面目な性格ってのもあるけど、決して美少女に囲まれてデレデレしている感じではない。
というか、時々ルーカス様から溜息が聞こえるくらい貴族令嬢の方がグイグイと来ているみたいだ。
どちらかというと、貴族令嬢はまるでアイドルに会えて感激している感じだな。
気遣いができていない貴族令嬢が多いので、あれではルーカス様の婚約相手には選ばれないでしょう。
「うぅ……」
「あの、治療をお願いします」
「直ぐに伺います!」
私はというと、酔っ払いの治療で大忙しだった。
王族にアプローチしようとして全く相手にされなかった貴族が、馬鹿なことにやけ酒を飲んでいたのです。
というか、やけ酒を飲む貴族はそもそも酒癖が悪く、治療しても直ぐにまたお酒を飲んでいた。
対して、品の良い貴族はお酒を飲みつつ周囲との会話も楽しんでいた。
こういう余裕があるからこそ、付き合い上手なのでしょう。
そんな感じでパーティーは進んでいき、いつの間にかお開きになっていた。
王族に相手にされなかった貴族は、そそくさと帰っていった。
というか、やけ酒飲み過ぎで治療が本当に大変だった……
そんな貴族相手でも、アーサー様とアメリアさんはにこやかに対応しないとならない。
本当に大変だなと思いつつ、私はふとある光景に目を奪われてしまった。
「はあ、流石に疲れた。下心のある令嬢の相手をするのは、本当に大変だよ」
「お疲れ様ね。ルーカスも、毎回本当に大変ね」
大部屋の壁際に置かれた椅子で、ルーカス様と共に随分仲良さそうな貴族令嬢がお喋りをしていた。
紫髪のロングヘアで勝ち気な表情をしており、ルーカス様にもざっくばらんに気安く話しかけていた。
そんなルーカス様も、勝ち気な貴族令嬢と仲良く話をしていた。
どくん。
あれ?
何だろうか、この気持ちは。
令嬢と仲良く話をするルーカス様を見ると、胸が苦しくなってきた。
胸を締め付けるような、モヤモヤする気持ちなんて……
ちょいちょい。
「おや、リンよどうした?」
「どーしたの?」
いつの間にか私の横にマリア様とニース様がいて、ニース様の頭の上に乗っていたスラちゃんがちょいちょいと私の服を引っ張っていた。
ニース様も心配そうに私のことを見上げていたけど、マリア様は私の視線の先にいる二人に直ぐに気がついた。
「ほほう、兄様も罪な男よう。あれは、母上の実家であるノルディア公爵家のフレイアじゃ。妾たちにとっていとこにあたるぞ」
「えっ、王妃様の実家のご令嬢でマリア様のいとこですか?」
「そうじゃ。因みに連続で王家に嫁などは出せぬから、リンが懸念しているフレイアが兄様に嫁ぐことはないぞ」
マリア様がニヤニヤしながら私の心の中を見透かしていたが、私はホッとした胸を撫で下ろしていた。
全く、私をこんな気持ちにさせるなんて、ルーカス様は本当に思わせぶりが上手いですね。
ギュッ。
「いこー!」
「えっ!?」
すると、ニース様がニコニコしながら私の手を引っ張ってルーカス様の方に歩いていったのだ。
更に、アメリアさんもシルバと共にルーカス様の方に歩いて来たのだ。
「ねねー!」
「おっ、元気っ子が来たね? 今日は大人しくしていたかな?」
「うん!」
ニース様は、フレイア様に笑顔で抱きついた。
フレイア様も、ニコニコしながらニース様の事を抱きしめていた。
仲いいなと思いつつ、私はアメリアさんに改めて挨拶をした。
「アメリアさん、パーティーが終わった後で申し訳ないですが、本日はおめでとうございます」
「リンさん、わざわざありがとうございます。リンさんはとても忙しく動いていたのですから、お気になさらずに」
綺麗なドレスを身にまとったアメリアさんが、私にニコリとお礼を言ってくれた。
長時間の挨拶対応で疲れていたはずなのに、アメリアさんには本当に頭が下がる。
すると、ルーカス様も私のところにやってきたのだ。
うん、ちょっと言ってやろう。
「ルーカス様も、パーティーお疲れ様です。素敵なご令嬢と仲良く話をしていましたね」
「リンも言うようになったな。まあ、いとこ相手だから話せるところもあるのだよ」
ルーカス様はちょっとお疲れモードですね、どうやらしつこい貴族令嬢の相手をしたのが相当きているみたいだ。
それでも、私のツッコミを返せる程は元気があったみたいだ。
「ウォン! ペロペロ」
「ははは、くすぐったいからやめてー!」
そして、フレイア様にいつの間にかシルバが大喜びでかまってアピールをしていた。
シルバに顔を滑られたフレイア様は、かなりくすぐったそうにしていた。
流石に、シルバを止めないといけないぞ。
「シルバ、いきなり初対面の人に何をしているのよ!」
「ウォフ?」
私がフレイア様からシルバを引き離したけど、シルバ自身は何が悪いのって表情だった。
すると、まだニース様の頭の上に乗っていたスラちゃんが、説教は任せろと触手をフリフリとしていた。
ここは、スラちゃんにお任せです。
シュイン、ピカー。
私はフレイア様に生活魔法をかけつつ、シルバのしたことを謝罪した。
すると、フレイア様は特に気にした様子はなかった。
「うちのシルバが申し訳ありません」
「ふふ、大丈夫よ。くすぐったかっただけよ。それに、シルバがどんな子なのか事前に聞いていたわ。リン、貴方のこともね」
フレイア様は、ニコリとしながら私の事を見てきた。
王家といとこという存在なのだから、私の情報など筒抜けなのだろう。
すると、フレイア様は私にある事を言ってきたのだ。
「リン、明日何か予定はあるかしら?」
「いえ、本日の予備日にしておりましたので何も予定はございません」
「そう、それは良かったわ。私、リンに興味があるのよ。明日、一緒にお茶会をしましょう。アメリアも呼んでいるのよ」
えっ、いきなり公爵家の屋敷に行ってお茶会をやるの?
あまりの急展開にかなり驚いたが、勿論断れるはずもないので私は了承した。
期せずして明日の予定が決まってしまったが、いつも王城に行くときに着ていくドレスで大丈夫だろうか。
因みに、朝大教会に集まる事になった。
タシタシ、タシタシ。
「キューン、キューン……」
そして、大部屋の隅に移動したシルバはスラちゃんに最近調子に乗りすぎと怒られていた。
シルバは思わずニース様の方を向いたが、ニース様はいつの間にかフレイア様に抱っこされながらお昼寝タイムに突入していた。
私もフレイア様に捕まってしまい、シルバの元に向かう事はなかった。
久々にシルバは、スラちゃんにガッツリと説教を食らっていたのだった。


