アーサー様とアメリアさんの婚約披露パーティーが近づくと、大部屋にはたくさんの貴族が入ってきた。
 心なしか、若い令嬢やまだ幼い令嬢も数多く来ている気がする。
 私と同じか年下の男性も、そこそこの数がいるぞ。
 どう考えても、何かしらの意図があるとしか考えられなかった。
 そんな中、私は意外と忙しく動いていた。

「わーい!」
「ほら、走ると危ないわよ」

 バタバタ、どたーん。

「わーん、いたいよー!」

 小さな男の子が母親の言いつけを守れずに走り出して、豪快に転んで泣いちゃいました。
 私は、急いでべそをかいている男の子のもとに駆けつけました。

 シュイン、ぴかー。

「はい、これで大丈夫ですよ。お母さんのお話をキチンと聞きましょうね」
「わあー、痛くない! お姉ちゃん、ありがとー」
「わざわざすみません。ほら、手を繋ぎましょうね」

 男の子は直ぐに元気になったけど、お母さんはまた男の子が走り出さないように手を握っていた。
 ちょっとした怪我などがあって、ちょこちょこと治療をしていた。
 中には横柄な態度の貴族もいて、そういう貴族に限ってゾロゾロと家族を連れてきていた。
 はっきり言って、邪魔でしょうがない。
 しかも、まだパーティーはこれからなのにガバガバとお酒を飲んでいる。
 ああいう品のない貴族には、自分から近づきたくない。
 しかし、そういう時に限ってトラブルの方から私に近づいてきたのだ。

「うっぷ……」

 なんと、でっぷりと太った貴族がお酒を飲み過ぎて粗相をしてしまったのだ。
 使用人とともに急いで清掃をして、生活魔法で汚れたところを綺麗にした。

 シュイン、ぴかー!

「これで、だいぶ良くなったと思います」
「ふう、楽になったぞ。さあ、また飲むか!」

 うん、駄目だこりゃ。
 太っている貴族は、酔いが治るやいなやまた大量にお酒を飲み始めた。
 要注意人物として、この後もマークしておこう。

「静粛に、王家の方々が入場されます」

 程なくして係の人のアナウンスがあり、会場内の全ての人が一斉に臣下の礼を取った。
 私も、急いで壁際に移動して頭を下げました。
 王族と共に、綺麗に着飾っているアメリアさんが大部屋の中に入ってきた。
 大貴族のご令嬢らしく、品のあってそれでもくどくない装飾品を身に着けていた。
 特徴的な薄いピンク色のロングヘアも綺麗に梳かされていて、美貌を強調しすぎない程度に化粧も施されていた。
 アーサー様も豪華な金銀の糸で刺繍された貴族服を身に纏っていて、髪の毛もビシッと決めていた。
 更に王家の方々も先ほど会った時とは装いを新たにしていて、特に陛下は威厳を示すような豪華な貴族服を身にまとっていた。

「皆の者、面を上げよ」

 陛下の厳かな声で、私たちは一斉に顔を上げた。
 すると、アメリアさんにピタッと寄り添うにシルバがお座りの姿勢でいて、更にニース様がニコニコしながらスラちゃんをヒシッと抱きしめていた。
 何でオオカミとスライムがこの場にいるのという疑問の表情を浮かべている人もいるが、流石に陛下が話す前なので誰も言葉を発しなかった。

「本日は、我が息子アーサーとグローリー公爵家令嬢のアメリア嬢との婚約披露パーティーに集まり、感謝する。しかし、二人の婚約披露パーティーをぶち壊そうという愚かな行動を取ったものが実際にいた。先日処分を通達した三家のことだ。更に厳しい処分を通達するが、ここにいる者もその様な至極残念な行動を取らないことを切に願う。例えば、既にこの時点で泥酔している者もその中に含まれる」

 陛下がいきなり厳しい言葉を発したので、この場がシーンと水を打ったかのように静まり返った。
 馬鹿な事をした者へと、空気を読むこともできない品のない貴族に対して思うことがあるのだろう。
 一方で、泥酔していた貴族はいったい誰の事だと他人事の様に周囲をきょろきょろとしていた。
 うん、こいつは本当に駄目駄目だ。

「今日は慶事なので、言いたいことはたくさんあるがこのくらいにしておく。それでは、アーサーとアメリア嬢の婚約を祝して乾杯とする。乾杯!」
「「「乾杯!」」」

 陛下は、話を無理矢理纏めて乾杯の挨拶にした。
 ホッとした安堵感が大部屋を包み込み、一斉に乾杯が始まった。
 アーサー様とアメリアさんも、お互いににこやかに乾杯していた。
 流石に未成年のルーカス様とマリア様とニース様は、手にはジュースの入ったグラスを手にしていた。
 音楽隊の演奏も始まり、大部屋は華やかな雰囲気に包まれた。
 そして、少ししたら貴族からの婚約祝いの挨拶が始まった。

「陛下、並びに王妃様。この度はアーサー殿下のご婚約発表、真におめでとうございます」

 上位貴族から王家に挨拶をしているが、この辺りの貴族は場の空気を読んで余計な事は言わない。
 アーサー様には自分の娘を嫁がせたかったがアメリア嬢には敵わないなどと、ユーモアを混ぜる余裕すらあった。
 しかし、段々と中位から下位の貴族になると露骨な態度を取るようになった。

「陛下、並びに王妃様。ご子息の婚約発表おめでとうございます。つきましては、私の娘を是非ルーカス……」

 ギッ!

「し、失礼しました……」

 ルーカス様に自分の娘を紹介しようとして、陛下と王妃様にダブルで睨まれてすごすごと引き下がって行く貴族が増えてきた。
 どうやら、まだ婚約が決まっていないルーカス様、マリア様、ニース様に自分の家族を紹介しようと必死になっているようだが、そんな場の空気を読めない行動を取れば余計に印象が悪くなるだけだ。
 案の定段々と陛下と王妃様の機嫌が悪くなり、とうとう先ほど泥酔していた貴族が挨拶にやってきたタイミングで陛下の怒りが爆発した。

「うぃっ、陛下、この度はおめでとう……」
「貴様、醜態を晒して治療兵の治療を受けながら、何故また泥酔している。どうやら、貴様はこの場に相応しくない態度を自ら取ったみたいだな。連れて行け!」
「えっ、はっ?」

 あーあ、千鳥足の泥酔していた貴族が兵によって連行されていった。
 泥酔貴族の家族もついでに兵に連行されて行ったが、どうやら陛下は私があの泥酔していた貴族を治療していたのを知っていたみたいだ。
 陛下の厳しい態度により、以降は家族を何とか紹介しようとする貴族はいなくなった。
 大変なのはアーサー様とアメリアさんで、あんな馬鹿貴族相手でも常に笑顔でいたのだ。
 シルバも馬鹿貴族相手にかなり不機嫌になっていたし、この後は落ち着くだろうと思っていた。