ルーカス様が救援を要請したが、到着するまで一時間はかかる。
 それまで、私たちでこのオークの大群を倒さないとならない。
 私たちも気合いを入れたところで、ルーカス様があることを言った為に状況が大きく動くことになった。

「リン、オーク肉は貴重だ。できるだけ頭を潰してくれ」
「えっ、それってオーク肉は美味しいってことですか?」
「私も数回しか食べたことはないが、かなり美味だそ」

 ルーカス様は至極真面目に話をしていたけど、オーク肉は極上の美味しさらしい。
 ルーカス様の話を聞いて、目の前のオークの大群がお肉祭りにしか聞こえなかったものがいた。

「ウォーン!」

 何と、シルバだけでなくスラちゃんまでやる気満々になってしまったのだ。
 そして、二匹は勢いよくオークの群れに飛び込んで行った。

 ドカッ、バキッ!

 シルバは大ジャンプからの踏みつけでオークの頭を潰していき、スラちゃんは酸弾と水魔法のウォーターカッターを使い分けてオークの頭を落としていった。
 キチンとルーカス様の言いつけを守っているところを見ると、二匹ともお肉フィーバーに興奮しているみたいだった。

「ああ、もう! ルーカス様、私も前に出ます。打ち漏れをお願いします」
「こちらは気にするな。ドンドンと数を減らしていけ」

 ルーカス様の許可も貰ったので、私も剣を手にしてオークの群れに突っ込んでいった。
 ルーカス様も、軍の兵に私たちに負けるなと謎の激を飛ばしていた。

 シュイーン、ズバッ、ズバッ!

「「「ブヒャー!」」」

 思ったよりもオークの動きが遅く、私も難なくオークを倒していった。
 オークを一撃で倒す力があるものが、更にスピードを生かせば楽勝だった。
 兵は三人一組で確実にオークを倒していったが、この辺は熟練の技が光っていた。
 私としては、こういう職人芸もとても好きだった。

「ウォン、ウォン!」

 オークの大群を倒し終えたところで、再びシルバが大きな声で吠えた。
 どうやら、まだまだ戦いは終わらないらしい。

「ルーカス様、オークの第二陣が来るそうです。更に、大きなオークもいるみたいです」
「上位種のオークキングかもしれない。オークキングは、オークとは比にならない程強いぞ」

 キングって名の付くレベルなのだから、何となく強いのは分かった。
 しかし、目の前に現れたオークキングは、私の想像よりも遥かに巨大だった。

「ブボー!」
「デカっ!」

 なんと、オークキングは三メートルを優に超える巨体の持ち主で、体も筋肉質でかなり大きかった。
 しかも、目の前に立って吠えているオークキングは、何故か私をターゲットにしたのだ。

 ブオン、ブオン!

 あっ、危ない……
 オークキングが、見た目以上に素早い動きで私に目掛けて拳を振り下ろしてきた。
 身体能力強化魔法を使っていたから避けるのは簡単だったけど、一撃が重そうだから気をつけないといけない。
 しかし、逆に言うと一番強いものが私に集中していることになる。

「シルバ、スラちゃん。オークキングは私が引きつけるから、その間に他のオークを倒して!」
「ウォン!」

 シルバは、了解と大きく吠えてスラちゃんと共にオークを攻撃していた。
 兵も、私たちに負けるかと張り切ってオークを確実に倒していった。
 程なくして、オークキング以外のオークは全て倒しきった。

 ブオン、ブオン!

 私はというと、中々オークキングに攻撃できないでいた。
 というのも、オークキングの皮膚はかなり硬くて、普通の魔法剣だと斬り刻めなかった。
 魔力を溜めての一撃を放つ必要があるのだが、オークキングの攻撃がしつこくて中々距離を取れなかった。
 えーっと、こういう時はシルバよりもスラちゃんに頼もう。

「スラちゃん、隙を見てオークキングに酸弾を飛ばして!」

 私の指示に、スラちゃんは了解と触手をフリフリした。
 そして、スラちゃんは間髪入れずにオークキングの顔面目掛けて複数の酸弾を飛ばした。

 シュッ、シュッ。
 ジュー!

「ブガー!」

 スラちゃんの放った酸弾は、見事にオークキングの顔面を捉えた。
 オークキングは、酸で皮膚が焼けた痛みに思わず両手で顔面を押さえていた。
 よし、今だ。
 私は、剣に魔力を溜めて一気に飛び上がった。

 ダッ、シュッ。

「えーい!」

 シュイーン、ドカーーーン!
 ドサッ。

 えーっと、何が起きたのかしら……
 私は剣に魔力を込めて、オークキングの頭を目掛けて思いっきり剣を振り下ろした。
 すると、オークキングの頭に剣が当たった瞬間大爆発が起こったのだ。
 オークキングは頭部を失ってうつ伏せにたおれていて、剣も刀身の中ほどから消滅していた。
 余りのことに、シルバとスラちゃんは勿論のこと、ルーカス様と兵もびっくりしたまま固まってしまった。

「嗚呼、今朝受け取ったばかりの剣が……」

 一方、私はせっかく親方が一生懸命に作ってくれた剣をあっという間に駄目にしてズーンと落ち込んでいた。
 今更になって、魔鉄製の剣に魔力を込め過ぎて耐えられずに爆発したのだと気がついた。
 オークキングを倒す為とはいえ、完全にやり過ぎたと壊れた剣を前にして思わず膝をついていた。

「リン、こればかりはしょうがない。オークキングは、三十人以上の兵がいてやっと相手にできるレベルだ。それを一人で倒したのだからな」

 ルーカス様が落ち込んでいる私の頭を苦笑しながら撫でてくれたけど、流石に私は暫く立ち直れなかった。
 その間にスラちゃんがオークやオークキングの血抜きをしてくれて、シルバと他の兵が血に誘われてやってきたオオカミや大蛇などを倒してくれた。
 暫くして何とか立ち直った私は、魔法袋から今まで使っていた剣を取り出して魔物を倒していた。
 しかし、流石に魔法剣を使う勇気はなかった。

 パカッ、パカッ、パカッ。

 暫くして、アーサー様が率いる部隊が私たちのところに合流した。
 順次スラちゃんの血抜きが終わったものから魔法袋の中に倒した魔物をしまっていたが、オークキングを始めとする獲物はまだしまっていなかった。
 そして、アーサー様達はオークキングとオークの大群を見てかなりびっくりしていた。

「ルーカス、この大群相手によく無傷だったな……」
「兄上、私もそう思います。しかも、オークキングを含めて七割近くはリン達が倒しました」
「はあ、リン達の力はそこまでなのか。そりゃすげーな」

 王族二人が私たちのことを評価してくれたけど、強すぎる力ってのも扱い難いと思っているのですよ。
 こうして、数時間かけて周囲の害獣駆除を終え、スラちゃんの血抜きも完了したので私たちは王都に戻ることになった。
 ちなみに、私もシルバも兵も大量の返り血を浴びて凄いことになっていたので、生活魔法で綺麗にしてから戻っていった。