翌日、ちょっと重い気持ちのまま私たちは王城に向かった。
 嗚呼、アメリアさんに会ったらなんて説明しようか……
 そんなことを思いながら王城に着いたら、何と既に玄関でアメリアさんが待っていたのです。
 そして、私のことを見るなり急いで駆け寄ってきて、心配そうな表情で私のことをペタペタと触り始めたのです。

「リンさん、昨日暴漢に襲われたって聞きましたが本当に大丈夫ですか? アーサー様は何も心配ないと言っておられましたが、私は気が気でなかったです……」

 アメリアさんにそこまで心配させたのは、本当に反省です。
 私としては身に降りかかってきた火の粉を振り払っただけなんですけど、予想以上に多くの人に心配をかけてしまったんだ。
 アメリアさんの慌てぶりに、いつもは陽気なシルバもちょっとしょげていた。

「アメリアさん、心配してくれてありがとうございます。私はこの通り元気で、実は傷一つついていません。王太后様の治療が終わったら、詳しく説明しますね」
「リンさんが元気で、本当によかったです。では、最初にやることをやりましょう」

 アメリアさんにニコリとしながら説明して、ようやく落ち着いて貰った。
 そして、王太后様もかなり心配していたらしく、治療の後でお茶会をすることになった。
 アメリアさんはアーサー様からだいたいの話を聞いているので、詳しく説明してもいいそうです。

「あっ、ワンワンだ!」
「ウォン」

 そして、王太后様の治療後のお茶会には他の王族の方々も集まって来た。
 ニース様はシルバとスラちゃんと応接室内で遊んでいるけど、他の人たちは私の話に興味津々だった。

「二十本以上の凶器を投げつけられましたけど、事前に魔法障壁を展開していたので無事でした。後は、手加減のために剣を使わずに素手で暴漢を倒しました。その、ルーカス様曰く私が貴族当主と令嬢をボコボコにしそうな程の殺気だったらしく、急いで止めに入ったそうです」
「「「はあ……」」」

 私が大体のことを説明すると、集まった王族の女性陣とアメリアさんはとてもびっくりした表情をしていた。
 幾らシルバとスラちゃんが一緒だとはいえ、女の私が大立ち回りしたのだから仕方ないでしょう。

「あの馬鹿貴族は、そんなことをしていたのね。リンに一発二発殴られた方が、きっと目が覚めたはずよ」
「全くそうですわ。リンが国の命令の件を説明して、その上でこの狼藉です。間違いなく、リンを殺すつもりだったのですね」

 あ、あれ?
 プリプリしている王妃様と王太子妃様の意見に、みんながうんうんと激しく頷いていた。
 どうやら私の大立ち回りの件よりも、馬鹿貴族がやらかした命令違反の方に怒りを感じているみたいだ。
 寧ろ、アーサー様とルーカス様が私のことを止めないで、あの貴族当主と令嬢をボコボコにしてやった方がいいと言ってきた。
 うーん、苛烈と思いつつ国の命令違反をしたのだから、いわば王家のメンツも潰したことになる。
 だから、ある程度の制裁も考えているみたいだった。

「あと、この件で三家にはリンに賠償金が支払われるわ。命令無視で、リンを殺害しようとしたからね。お家取り潰しまでは行かないと思うけど、三家には相当厳しい処分が課せられるはずよ」
「うむ、間違いないのじゃ。妾も、あの三家は何かやると踏んでいたのじゃ。まあ、自業自得じゃな」

 王太后様とマリア様が今後のことを教えてくれたけど、そんなに大金を得ても使い切れないのが本音だった。
 魔法袋に死蔵させるのもどうかと思うし、後でアメリアさんにお金の使い方を聞いてみよう。
 ちなみに、三家は厳しい取り調べの上で裁判に掛けられるそうです。
 すると、王太子妃様がニヤリとしながら私にあることを話してきた。

「ふふ、やはりリンはとても強そうですわ。ますます、リンと手合わせをしたくなりましたわ」
「あのその、流石に近衛騎士だった王太子妃様には勝てないと思います……」
「ふふ、それは残念ね。でも、アーサー辺りはリンと手合わせしたいと思っているはずよ。大丈夫よ、アーサーは私よりも弱いわ」

 王太子妃様、明らかに起こりそうな未来を予言しないで下さい。
 何かのタイミングで、絶対にアーサー様は私と手合わせしてきそうです。
 そんな筋肉ムキムキのアーサー様よりも強いなんて、やはり王太子妃様はかなり強いんだ。
 そして、ここで予想外のことが起きてしまった。

 ぴょんぴょん、ぴょーん。

「あれ? スラちゃん、どうし……」

 突然私の腕の中にスラちゃんが飛び込んで来たと思ったら、触手である方向をちょんちょんと指していた。

「すー、すー」
「すぴー、すぴー」

 すると、応接室のソファーの上でニース様がシルバに抱きついたままスヤスヤと眠っていたのだ。
 まだ一歳の小さな子どもだから、遊び疲れちゃったのかもしれないね。
 それに対して、シルバは本当によく眠るね……

「ふふ、きっとシルバと遊ぶのがとても楽しくてはしゃいじゃったのね」
「しっかりと抱きついているし、ニースが起きるまではリンも帰れないわ」
「ははは……」

 王太后様と王妃様がにこやかにこの後の予定を話してくれたけど、個人的にはシルバがキチンと起きるのかが心配だった。
 結局、一人と一匹は昼食の前までスヤスヤと眠っていたのだった。