そして、話が盛り上がったところで予想外の人物が応接室に姿を現した。

 ガチャ。

「「遅くなりました」」

 あっ、えっ?
 まさかのアーサー様とルーカス様が、軍服のまま応接室に入ってきたのだ。
 確かにかなり豪華な鎧を身に纏っていたけど、まさかこの二人も王家なの?
 すると、またもやマリア様が混乱している私に説明を始めた。

「リンのことを良く知っているものが来たようじゃのう。アーサー兄様とルーカス兄様じゃ。ちなみに、今回話題となった第二王子はアーサー兄様でリンと同じ年、ルーカス兄様はリンの一つ年下じゃ」

 えっ、いま脳の中で処理限界な情報が入ってきたのですけど。
 長身でゴリゴリマッチョな如何にも軍人っぽいアーサー様が、私と同じ年でアメリアさんと婚約状態にある第二王子。
 更に、度々軍の施設で会っているかなり大人っぽいルーカス様が私よりも年下。
 駄目だ、まだ脳の処理が追いついていない。
 衝撃的な情報に、シルバもスラちゃんも「マジ?」って表情のまま固まってしまった。

「ははは、リンのことはアメリアから色々と話を聞いていたぞ。しかし、実際に一緒に行動をしてみるととんでもない実力の持ち主だと分かったぞ」
「えーっと、その、ごめんなさい……」

 豪快に笑うアーサー様とは対照的にアメリアさんは思わず謝ってきたけど、まあ共通して最近話題になっている私のことで話ができているとは。
 だから、アーサー様は初めて会った時から私のことを知っていたんだ。

「その、アーサー様は強い人に興味を持っておりまして。リンさんと、いつか手合わせしてみたいと言っておりました」
「妻にするならアメリアたが、強者という意味でリンにも興味があるぞ」

 なんというか、アメリアさんとアーサー様は息ぴったりだった。
 しかも、アーサー様は当たり前のようにアメリアさんを妻とか言っている。
 脳の処理が追いついていないけど、取り敢えずアメリアさんとアーサー様はラブラブだと言うことが分かった。
 更に、もう一人の王子様のことで私の頭が混乱した。

「そういえば、私が一番最初にリンと会ったわけだな。いやいや、ここは年上だからリン『さん』と呼んだ方がいいかな?」
「その、いつも通りでお願いします……」

 ルーカス様は超美男子だけど、それ以上に私よりも年下ってことに度肝を抜かれた。
 絶対に成人していると思ったのだけど、別の意味でギャップがあった。
 取り敢えず、今回の話の中心はアメリアさんとアーサー様で良いみたいだ。
 そして、最後にこの国のナンバーワンとナンバーツーが応接室に姿を現した。

「うむ、皆と仲良くしているようだな」
「息子も、すっかりお世話になっているみたいだね」

 アーサー様似の、長身筋肉ムキムキで金髪をオールバックにしている中年男性と、王妃様似の優しそうな金髪ショートヘアの若い男性が応接室に入ってきた。
 うん、自己紹介しなくても国王陛下と王太子様で間違いなさそうだ。
 私は、直ぐに立ち上がって挨拶をした。

「国王陛下並びに王太子殿下にお会いでき、光栄です。冒険者のリンと申します。フェンリルのシルバと、スライムのスラちゃんです」
「冒険者にしては中々の挨拶だな。余はカールだ」
「王太子のエドガーです。いつも、弟と妹がお世話になっているみたいだね」

 陛下は、まさに質実剛健を体現したかの存在だった。
 対して、王太子様は知的で物腰柔らかく、とても優しい方だった。
 ルーカス様は、王妃様似だとこれで判明した。
 そして、陛下が座るやいなや私に礼を言ってきた。

「アメリアとリンには、母上の治療の件で感謝しないとならない。正直な話、ここまで元気になるとは思わなかったぞ。二人が真剣に治療をするのを見て、時期が来るまで余も姿を見せなかったのだ」

 陛下はとても誠実な方で、平民かつ冒険者である私にも素直に礼を言ってきた。
 国王でありながら傲慢な性格ではないからこそ、子どもたちもとても素直なんだ。

「私だけの力では、きっと王太后様を治療できませんでした。リンさんがいてくれたからこそ、王太后様を治療できました」
「私も同様です。私一人の力では、王太后様を治療できませんでした」
「自身の力に奢ることなく、素直に話してくれた。二人は、単純な治療能力だと宮廷医を超えているだろう。二人への褒美は、また日を改めて行うことにする」

 褒美とかは別にしても、アメリアさんと力を合わせて王太后様を治療出来たのはかなりいい経験になった。
 そして、話はアメリアさんとアーサー様の件になりました。

「もはや、あの三人は婚約者候補と言わなくて良いだろう。正式に謁見を開き、二人の婚約を発表する。臣下としてある程度の配慮はしたが、もはや無用だ。その責任も追及するが、当面関係者への接触を禁じる通達を出した。奴らは相当悔しそうな表情をしていたが、完全に自業自得だ」

 陛下も様々な報告を聞いていて、三人の令嬢に対してカンカンだそうだ。
 まして自分の母親を治療した令嬢を罵ったのだから、貴族家に対して言いたいこともたくさんあるという。
 そこは、謁見の際に存分に言って貰いましよう。
 これで、アメリアさんとアーサー様の婚約は正式に決定ですね。

「ウォン、ウォン!」
「シルバにも、今日は助けて貰ったわ。本当にありがとうね」
「ウォン!」

 アメリアさんとアーサー様の婚約が決まって、シルバもとても嬉しそうにしていた。
 良く考えると、アメリアさんと三人の令嬢の間にシルバが飛び込んでから状況が改善したんだよね。
 アメリアさんに頭を撫でられて、ご機嫌なシルバを眺めていた。
 すると、ルーカス様が私にある注意をしてきた。

「幾らリンに接近禁止を言い渡しても、あの三家は平気で命令を破るだろう。リンを襲撃する可能性もあるが、その際はできるだけ生け捕りにしてくれ」

 ルーカス様、私だって幾ら嫌な奴とはいえ殺人はしたくないですよ。
 シルバに良く言い聞かせるとスラちゃんも触手をフリフリとしていたし、何とかなるでしょう。
 ちなみに、既に教会は三家に対して警戒態勢を敷いているし、冒険者ギルドにも話が伝わっているという。
 大勢の人の前でアメリアさんを罵ったのだから、もう町中の噂になっているでしょうね。
 その後も色々な人から十分に気をつけるようにと言われたけど、身に降りかかってきた火の粉を跳ね飛ばす程度にしておこう。
 アメリアさんは、このまま両親を王城に呼び寄せてこれからの話をするそうです。
 ちなみに、シルバとニース様はすっかり仲良しになり、またまた抱きつきながら今度また会おうと約束してから帰ったのだった。