翌朝、教会での奉仕活動に向かう為に私たちは朝早くから準備をしていた。
 今日も、先に炊き出しの仕込みをしてそれから治療になるのかなと、漠然と考えていた。
 そして、冒険者ギルドで受付を済ませて教会に向かうと、完全に予想外のことが起きていたのだ。

 ザワザワ。

「うん? なんだろうか。教会内が騒がしいね」
「ウォン?」

 冒険者ギルドから教会に着くと、何故か教会内にいた人が戸惑いの表情を見せていたのだ。
 どうも喧騒の中心は彼らの視線の先にあるらしく、どっちにしろ治療の準備をしないとならない。
 私は、少し面倒くさいなあと思いながら人混みをかき分けて喧騒の中心に進んで行った。
 すると、三人のド派手な女性が誰かを囲んでいたのだ。
 赤髪だったり緑髪だったり青髪だったりしているが、総じて豪華なドレスに豪華な宝石を身に着けていた。
 あと、三人から漂っている香水の匂いが凄すぎる。
 教会に来ているのだから、それなりの配慮をして欲しいものだ。
 すると、その三人がとんでもないことを言い出したのだ。

「アメリア、貴方いい加減にしなさい! どこまで王家に媚を売れば良いのですか!」
「そうよ。お陰で、私たちもいい迷惑だわ」
「この治療も、町の人に媚を売るためですわね」

 えっ、もしかしてあの三人の女性が口撃しているのって、アメリアさんなの?
 私は、思わずシルバとスラちゃんと顔を見合わせちゃいました。

「あの、私はそんなことを……」
「「「お黙り!」」」

 あっ、こいつら駄目な連中だ。
 一方的に自分の意見を押し付けていて、アメリアさんが何かを言おうとすると強い言葉を放って発言を遮る典型的なパワハラタイプだ。
 しかし、周りに人が多すぎてこれではアメリアさんに近づけない。
 すると、ここでシルバとスラちゃんが驚くべき行動に出たのだ。

 タシタシ。
 ぴょーん!

「「「えっ?」」」

 スタッ。

 スラちゃんに何かを言われたシルバは、スラちゃんを頭に乗せたまま大ジャンプをしたのだ。
 私も含めた周りの人が驚く中、スラちゃんを頭に乗せたシルバはアメリアさんと三人の女性の間に上手く着地した。

「グルルル!」
「「「ひいっ……」」」

 そして、シルバは今まで見せたことのない唸り声を三人の女性に放っていたのだ。
 や、ヤバい。
 スラちゃんも滅茶苦茶怒っているよ。
 私は、何とか人混みを強引にかき分けてアメリアさんの側に近づいた。

「グルルル、ガウッ!」
「し、シルバ……」
「「「く、食われる! アメリア、早く何とかして!」」」

 シルバがアメリアさんのことを守るように前に出て唸り声を上げていると、三人の女性は顔を真っ青にしながらアメリアさんに命令していた。
 しかし、当のアメリアさんは少しポカーンとした表情だった。
 すると、今度は町の人たちがシルバについて話し始めた。

「おい、あの白いオオカミって治癒師の嬢ちゃんが連れている奴だよな? 確か、幻獣フェンリルだったはず」
「まだ子どもだけど、治癒師の嬢ちゃんを背中に乗せて走り回っているよな」
「そのフェンリルが怒るなんて、余程のことだぞ」

 私がシルバに乗って移動しているのを、町の人はよく見かけていた。
 治療でもシルバと町の人はよく会うので、普段はとても人懐っこいのを知っていた。
 だから、そこまでシルバが激怒しているのを町の人も初めてみたのでしょう。
 その間に、私はアメリアさんのところに何とか辿り着いた時には、形勢逆転していた。
 うーん、何だか滑稽なコントを見ている気分だ。

「あーあー、シルバは間違いなく軍にも登録されているフェンリルです。そして、アメリアさんのことが大好きです。なので、フェンリルのシルバは貴方たちを敵と認識しました。ちなみに、子どもとはいえフェンリルなので、屋敷の一つや二つは簡単に崩壊させることができます」
「グルルル!」
「「「屋敷を崩壊……」」」

 三人の女性は、目の前で唸り声をあげるシルバがどんな力を持っているかを真っ青な表情で理解したみたいだった。
 大げさでもなく、シルバが魔法障壁を全開にして走りまくったら屋敷はあっという間にボロボロになるでしょう。
 さて、この場をどうやって収めようと思ったら、まさかの助っ人が登場したのです。

「貴方たち、いったい何をしているの!」

 教会内に、ある女性の声が響いた。
 しかも、最近よく聞く声だった。
 バッと人混みが二つに分かれて、姿が見えたのは車椅子に乗った王太后様でした。
 そのまま使用人に車椅子を押されながら、王太后様はこちらに進んで来ました。
 目の前の三人の女性は、予想外の人の登場にもはや顔面蒼白で血の気を失っていた。

「せっかく体が良くなったと思って教会に報告に来てみれば、私を治療してくれたアメリアのことを寄って集って暴言を吐くとはいったいどういうことかしら?」
「「「うぐっ……」」」

 ゆっくりと王太后様が話しながら近づいてきたけど、威厳に満ち溢れていていつもの優しさは全く感じられなかった。
 言葉も厳しさよりかは諭すような内容だけど、それでも威圧感が感じられた。

「アメリアは、私の体を治療しようとありとあらゆる手を考えてくれたわ。そこに王族に取り入ろうという考えはなく、純粋に目の前の病人を治療しようとする意志があったわ。さて、貴方たちはいったい何をしていたのかしら。私が病気になっても、一回も顔を見せなかったわ。それどころか、奉仕活動に誘ってもろくにこなかったわ」
「「「も、も、も、申し訳ありません!」」」

 遂に王太后様の圧力に押されてしまい、三人の女性は頭を下げると脱兎の如く逃げたしたのだった。
 しかし、未だに教会内はざわめきが残っていた。
 すると、王太后様があることを提案してきた。

「アメリア、リンに色々と説明しましょう。それにこれだけの騒ぎでは、奉仕活動を行うには危ないわ。応接室に移動しましょう」
「はっ、はい……」

 アメリアさんも、未だに状況を飲み込めていなかった。
 しかし、アメリアさんと私の気持ちを落ち着かせることも必要だったので、私たちはシスターさんの先導で教会内の応接室に向かったのだった。