「疲れた……」
「リンさん、お疲れ様です」

 二時間後、何とか昼食を作り終えた私は、自分の分の昼食を食べ終えると思わずテーブルに突っ伏していた。
 スラちゃんも同じく疲労困憊だけど、流石にシルバも少し疲れていた。
 因みに、問題を起こした職員が集められて、兵の監視の下ひたすら食器洗いをしていた。
 ただし、これは普通に仕事を与えられているだけであって、様々な問題を起こした罰ではないという。
 これから聴取を受けて、最終的な処罰が下るそうだ。
 因みに、治療施設の処置室も厨房も、明日からは問題なく稼働するように手配したという。
 そして、ダイン様は軍の更に偉い人に説明しているそうなので、午後の治療はちょっと待ってくれということになった。
 私たちとしては、いい休憩になって良かったけど。

「リンさんは、本当に何でもできるんですね。治療も的確だし、お料理もお上手だし、とっても凄いです!」
「あ、ありがとうございます。ちょっとお節介が過ぎたかなって思っていましたけど……」
「そんなことないです。目の前で困っている人を助けたいと自ら動かれていますし、簡単に真似できないですわ」

 アメリアさんは興奮しながら私を褒めてくれるけど、目の前で困っている人がいると助けたいって思っちゃうんだよなあ。
 それで、前世は上司に悪用されちゃったのだけど。
 すると、厨房に明らかに軍の幹部という一団が入ってきた。
 というか、先頭にいる人ってもしかして……

「リンに助けられたようだな。アメリアにも感謝する」
「ルーカス様!」

 昨日色々としてくれたあの超美男子が、ニコリとしながら私に話しかけてきた。
 アメリアさんが立ち上がって一礼をしたので私も立ち上がって頭を下げたが、男性に手で静止された。
 この超美男子は、ルーカス様って言うんだ。
 昨日兵が言っていた気がしたけど、色々あって聞きそびれていたよ。

「私の方こそ、二人に頭を下げなければならない。特に、昨日王都に来たばっかりのリンにかなりの負担をかけてしまったようだ」
「ルーカス様、顔を上げてください。自分からやると言ったことですし、新人冒険者の私にとってとても良い経験ができましたから」
「そう言って貰ってありがたいが、そう言わせることが駄目なことだ。運悪く今日は厨房と治療施設担当の幹部が不在だが、必ず対策をすると約束しよう」

 ルーカス様が本当に申し訳なさそうに頭を下げたけど、昨日も思ったがこの人は仕事に誠意を持って対応しているんだ。
 私の中で、かなり良い印象を残していった。
 シルバもキチンと仕事をしましたと尻尾を振っているけど、確かに仕事を頑張ったもんね。
 すると、アメリアさんがかなり驚きながらルーカス様に質問した。

「る、ルーカス様。リンさんは、練達の冒険者ではないんですか?」
「間違いなく、昨日冒険者登録したばっかりだ。私も登録に立ち会ったからな。細々とした手伝いを複数していたみたいだ」
「それなのに、これだけの働きをなさるのですか。本当に、リンさんは凄い人です!」

 何だかアメリアさんが私のことをスーパーマンみたいに評価しているけど、私はただの器用貧乏だと思っていますよ。
 とはいえ、今はその器用貧乏が役に立ったと思っておきましょう。
 すると、ルーカス様が少し苦笑しながら表情を崩した。

「報告を受けたのが、午前中の重要な仕事が終わったタイミングで良かった。この後も仕事があるが、二人が仲良くしているのを見てホッとしたよ」
「アメリアさんは兵の治療では先輩ですから、色々と教えて貰いました」
「私こそ、リンさんから色々と学びましたわ」

 私は、アメリアさんと顔を見合わせてクスッとしました。
 お互い息が合っていて何よりです。
 シルバも、アメリアさんと仲良しだとアピールしていた。
 そんな私たちの様子に、ルーカス様も満足そうに頷いていた。

「では、私たちは仕事に戻る。午後の治療も、引き続き頼む」
「「畏まりました」」
「ウォン!」

 私はアメリアさんの真似をしながら、淑女の礼をした。
 シルバも元気よく声を上げていたし、スラちゃんも任せてと触手をフリフリしていた。
 それを見たルーカス様は、満足そうに頷いて部下とともに食堂を出ていった。
 では、指示もあったので再び治療施設に向かいましょう。
 五分後、重傷患者の部屋に移動して治療を始めたのだけど、何故か私たちを案内する兵が一人から三人に増えていた。

「ルーカス様より、皆さまに何かあってはならないという指示を受けております」
「ウォン!」

 軍のゴタゴタがあったので、これ以上の失態を防ごうということらしい。
 兵が増えてもやることは変わらないし、シルバも頑張るぞとやる気を見せていた。
 私とスラちゃんは、アメリアさんとともにどんどんと重傷者を治療していった。
 こうして、夕方前には無事に殆どの患者を治療し終えた。
 明日からリハビリプログラムを受ける人は既に退院しており、一部では新しい兵が入院していた。
 とはいえ、今日はもう治療しないし治療兵もいるのでその人たちにお任せです。

「アメリア様、リン様、本日はありがとうございました」
「「ありがとうございました」」

 軍の施設前まで兵の見送りを受け、私たちはアメリアさんの迎えが来るのを待った。
 すると、程なくして一台の豪華な装飾が施された馬車が私たちの目の前に停まった。
 流石は公爵家のご令嬢だけあるなと、逆に感心してしまった。

「アメリアさん、お気をつけて」
「リンさん、色々とありがとうございました。明日、教会で私の親友を紹介いたしますわ」
「ウォン!」

 笑顔で手を振るアメリアさんに、私たちも手を振り返した。
 シルバもぶんぶんと尻尾を振っているけど、今日はとても良い人と出会うことができた。
 貴族令嬢らしい気品さを持ち合わせながらもとても親しみやすく、それでいて周りへの配慮も欠かさなかった。
 完璧超人っているんだなと思いつつ、私たちは帰路についた。

「えーっと、明日は早く起きて冒険者ギルドに行かないと駄目だね」
「オン……」

 夕食後部屋に戻った私たちは、生活魔法をかけつつ明日の予定を確認していた。
 今日は突発的な依頼だったけど、明日はキチンとした指名依頼だ。
 それにアメリアさんとの治療だし、奉仕作業なら他の仕事もあるかもしれない。
 教会に行くのも初めてだし、できるだけキチンとしよう。
 因みに、シルバはもう眠いのかベッドの脇で丸くなって空返事をしていた。
 今日はシルバなりに一日頑張ったし、仕方ないかなと微笑ましく思った。
 さて、私もそろそろ寝よう。
 消灯してベッドに入ると、魔力以上に気疲れがあったのかかなり眠かった。
 やはり、初めての仕事ってのもあったのだろう。
 スラちゃんも枕の脇で既に寝ていて、程なくして私も眠りについたのだった。