ダイン様はこの後仕事があるらしく、直ぐに事務棟を出ていった。
そして、暫く待つようにと言われたので、壁際にあった椅子に腰掛けた。
すると、何故かしょんぼりしているシルバが私にすりすりしてきた。
更に、私の膝の上に顎を乗せて甘えてきた。
「キューン……」
「ふふ、もしかしてスラちゃんの方が凄いって言われたのを気にしているのね。私もシルバも、まだまだこれからよ。シルバも頑張れば凄いフェンリルになれるはずよ」
「アオン……」
スラちゃんと一緒にシルバの頭や背中を撫でていたけど、本当にまだ子どもだなって思った。
事務員も私たちのやりとりにほっこりしたのか、時折私たちを見てニコリとしながら仕事していた。
三十分くらい待つと、別の兵が私たちのところにやってきました。
私も、身だしなみを整えて席から立ち上がります。
「リンさん、お待たせしました。治療施設に案内します」
「ウォン!」
しょんぼりしていたはずのシルバが張り切って返答していたけど、立ち直ったからいいねと思うことにしましょう。
私はニコリとしながらシルバの頭をひと撫でして、それから兵の後をついていきました。
歩くこと数分、目的地の治療施設に到着しました。
流石は王城の隣にあるだけあって、軍の施設もとても広かった。
兵の宿舎っぽいところから訓練場まであって、さながら小さな町みたいだった。
目的地の治療施設は、王城側の直ぐ側に建てられていた。
もしかしたら、軍だけでなく王城で急患が出た際にも対応しているのかもしれない。
そんなことを思いながら、施設に入った。
建物は三階建てで、石造りの頑丈な建物だった。
病棟は二階三階で、一階は処置室と重傷患者がいるという。
中には、軍の幹部が入る個室もあるらしい。
「暫くここでお待ち下さい。一緒に治療を行う方は、これから来ますので」
「ウォン!」
兵に言われるがまま、壁際に置いてあるベンチに座って辺りを眺めていた。
すると、突然職員がざわざわとし始めた。
何かなと思ってざわめきの方を見たら、一人の兵が担架に乗せられて運ばれていった。
「ウォンウォン!」
「うん、分かる。大量の血の臭いだ!」
シルバが大変だと吠えたけど、遠目からでも一大事だと直ぐに分かった。
すると、一人の職員が兵のもとに走ってきた。
「はあはあ、せ、聖女様は来ていますか? まだ、医師の出勤時間前なんです」
「聖女様は、予定ではあと十分後です。しかし、こちらに治癒師がおります」
兵から説明を受けた職員の視線が、私のことを捉えた。
仕事で治療をするのだし、やるだけやらないと。
「冒険者のリンと言います。ダイン様より、治療施設での兵の治療を依頼されました」
「あの人がいうのなら、きっと腕の良い治癒師なのね。応急処置だけでも行いたいから、こちらに来てくれるかしら」
一刻を争う事態なので、私は職員と一緒についていった。
兵は、待っている人がいるのでここにいるという。
「ウォン!」
シルバは頭にスラちゃんを乗せて、「早く」って言いながら先に行った。
私も走っていきながら、職員の案内で処置室の中に入った。
「シルバは処置室の前で待っていてね」
「ワフッ?」
急にお預けを食らったのでシルバはちょっと困惑気味だけど、流石に処置室に動物が入るのは良くないだろう。
スラちゃんがぴょんと私の肩に飛び乗り、一緒に着いてきた。
「うぐっ……」
「しっかりしろ。直ぐに治療するからな」
「気をしっかりと持て!」
患者は担架からベッドに乗せられたが、肩で剣を受けたのかかなりの出血があった。
周りの職員が声をかけているけど、なんで止血しないのだろうか。
直ぐに、私は周りの人に指示を出した。
「清潔なタオルやガーゼで、患者の傷口を押さえて止血して。直ぐに魔力を溜めます」
「「「はっ、はい!」」」
私の叫びに似た指示に、直ぐに職員が動き出した。
たどたどしい手つきながら、何とか止血を始めていた。
その間に溜まった魔力を、私は一気に開放した。
シュイン、シュイン、ぴかー!
「わあ、何という光なんでしょうか……」
「これは凄い……」
患者の傷口を押さえている職員は私の回復魔法にびっくりしていたけど、何とか肩からの出血を食い止めることができた。
しかし、出血量が多いのでこの後も当分安静にしないと駄目だ。
生活魔法で血で汚れた体を綺麗にすると、職員がよろよろとしていた。
「はっ、はあ、心臓に悪かった……」
「まさかこんなことになるとは……」
もしかして、こういう現場は初めてなのだろうか。
あまりにもたどたどしくて、かなり頼りなかった。
そんな疑問に、まだ青い表情の職員が答えてくれた。
「じ、実は今日から採用だったんです。講習もこれからでして……」
「たまたま先輩が席を外していたんです。そのタイミングで、重傷患者が運ばれてきたので……」
おおう、何というタイミングの悪さなんでしょうか。
というか、採用されたばかりの新人だけにするのもどうかと思いますけど。
色々言いたいけど、取り敢えず何とかなって良かった。
私とスラちゃんは、処置室から廊下に出てベンチに座りました。
はあ、どうにかしないとという気持ちだったから良かったけど、今頃になって大量の血を見た恐怖が出てきた。
でも、前世で救急救命講習を受けた経験と昨日の大きなフェンリルを治療した経験があったからどうにかなった。
徐々に慣れていくしかないかなと、そう思わざるを得なかった。
「急患が出たというが、治療は間に合ったのか?」
すると、何とこの場にダイン様が顔を出した。
新人職員が何とかなったと言ったのと、疲れている私を見て何があったかを悟ったみたいだ。
「ダイン様、流石に処置室を研修も受けていない新人だけにしたり、怪我をした現場で止血もしないのはどうかと思います……」
「それは俺も同感だ。取り敢えず、休憩から戻ってきた職員にガツンと言ってやらないといけない。規則では、必ず経験のあるものを一人は配置しないとならないのだからな」
おお、そういう対策もしているんだ。
それで、堂々と規則を破ったらしい。
訓練で負傷した人を何で止血しなかったのかは、ダイン様が部下を走らせて確認するという。
兵の命を守ることに加えて規則も破ったので、ダイン様はカンカンだという。
「じゃあ、私は入り口に戻って一緒に治療する人を待っています。ダイン様、後を宜しくお願いします」
「おう、手間をかけたな。特別報酬の申請をしておこう」
こうして、私たちは入り口で待っている兵のところに戻りました。
その瞬間、ダイン様の怒号が後ろで響き渡った。
きっと、新人に処置室を任せて休憩していた職員が戻ってきたのだろう。
ビクッとシルバが後ろを振り返ったけど、私とスラちゃんは後ろを振り返る気にもならなかった。
してはいけないことをしたのだから、存分に怒られて下さい。
そして、私たちが入り口に戻ると、兵の横に超美人がいた。
何で兵の治療施設にいるのというレベルの美人だよ。
薄いピンク色の軽いウェーブのかかったロングヘアで、とても温和で優しそうな表情をしていた。
背も女性にしては高そうで、薄いグリーンのドレスがよく似合うスタイルの持ち主でもあった。
その女性が、ベンチから立ち上がって私に近づいてきた。
そして、私に深々と頭を下げてきた。
「リンさん、遅れて申し訳ありません。グローリー公爵家のアメリアと申します。本日は、ともに治療を宜しくお願いします」
この超美人は、何と私と一緒に兵の治療をする人だった。
先ほどの急ぎでの治療もあってか、予想外の展開に私の頭は少し思考停止していた。
そして、暫く待つようにと言われたので、壁際にあった椅子に腰掛けた。
すると、何故かしょんぼりしているシルバが私にすりすりしてきた。
更に、私の膝の上に顎を乗せて甘えてきた。
「キューン……」
「ふふ、もしかしてスラちゃんの方が凄いって言われたのを気にしているのね。私もシルバも、まだまだこれからよ。シルバも頑張れば凄いフェンリルになれるはずよ」
「アオン……」
スラちゃんと一緒にシルバの頭や背中を撫でていたけど、本当にまだ子どもだなって思った。
事務員も私たちのやりとりにほっこりしたのか、時折私たちを見てニコリとしながら仕事していた。
三十分くらい待つと、別の兵が私たちのところにやってきました。
私も、身だしなみを整えて席から立ち上がります。
「リンさん、お待たせしました。治療施設に案内します」
「ウォン!」
しょんぼりしていたはずのシルバが張り切って返答していたけど、立ち直ったからいいねと思うことにしましょう。
私はニコリとしながらシルバの頭をひと撫でして、それから兵の後をついていきました。
歩くこと数分、目的地の治療施設に到着しました。
流石は王城の隣にあるだけあって、軍の施設もとても広かった。
兵の宿舎っぽいところから訓練場まであって、さながら小さな町みたいだった。
目的地の治療施設は、王城側の直ぐ側に建てられていた。
もしかしたら、軍だけでなく王城で急患が出た際にも対応しているのかもしれない。
そんなことを思いながら、施設に入った。
建物は三階建てで、石造りの頑丈な建物だった。
病棟は二階三階で、一階は処置室と重傷患者がいるという。
中には、軍の幹部が入る個室もあるらしい。
「暫くここでお待ち下さい。一緒に治療を行う方は、これから来ますので」
「ウォン!」
兵に言われるがまま、壁際に置いてあるベンチに座って辺りを眺めていた。
すると、突然職員がざわざわとし始めた。
何かなと思ってざわめきの方を見たら、一人の兵が担架に乗せられて運ばれていった。
「ウォンウォン!」
「うん、分かる。大量の血の臭いだ!」
シルバが大変だと吠えたけど、遠目からでも一大事だと直ぐに分かった。
すると、一人の職員が兵のもとに走ってきた。
「はあはあ、せ、聖女様は来ていますか? まだ、医師の出勤時間前なんです」
「聖女様は、予定ではあと十分後です。しかし、こちらに治癒師がおります」
兵から説明を受けた職員の視線が、私のことを捉えた。
仕事で治療をするのだし、やるだけやらないと。
「冒険者のリンと言います。ダイン様より、治療施設での兵の治療を依頼されました」
「あの人がいうのなら、きっと腕の良い治癒師なのね。応急処置だけでも行いたいから、こちらに来てくれるかしら」
一刻を争う事態なので、私は職員と一緒についていった。
兵は、待っている人がいるのでここにいるという。
「ウォン!」
シルバは頭にスラちゃんを乗せて、「早く」って言いながら先に行った。
私も走っていきながら、職員の案内で処置室の中に入った。
「シルバは処置室の前で待っていてね」
「ワフッ?」
急にお預けを食らったのでシルバはちょっと困惑気味だけど、流石に処置室に動物が入るのは良くないだろう。
スラちゃんがぴょんと私の肩に飛び乗り、一緒に着いてきた。
「うぐっ……」
「しっかりしろ。直ぐに治療するからな」
「気をしっかりと持て!」
患者は担架からベッドに乗せられたが、肩で剣を受けたのかかなりの出血があった。
周りの職員が声をかけているけど、なんで止血しないのだろうか。
直ぐに、私は周りの人に指示を出した。
「清潔なタオルやガーゼで、患者の傷口を押さえて止血して。直ぐに魔力を溜めます」
「「「はっ、はい!」」」
私の叫びに似た指示に、直ぐに職員が動き出した。
たどたどしい手つきながら、何とか止血を始めていた。
その間に溜まった魔力を、私は一気に開放した。
シュイン、シュイン、ぴかー!
「わあ、何という光なんでしょうか……」
「これは凄い……」
患者の傷口を押さえている職員は私の回復魔法にびっくりしていたけど、何とか肩からの出血を食い止めることができた。
しかし、出血量が多いのでこの後も当分安静にしないと駄目だ。
生活魔法で血で汚れた体を綺麗にすると、職員がよろよろとしていた。
「はっ、はあ、心臓に悪かった……」
「まさかこんなことになるとは……」
もしかして、こういう現場は初めてなのだろうか。
あまりにもたどたどしくて、かなり頼りなかった。
そんな疑問に、まだ青い表情の職員が答えてくれた。
「じ、実は今日から採用だったんです。講習もこれからでして……」
「たまたま先輩が席を外していたんです。そのタイミングで、重傷患者が運ばれてきたので……」
おおう、何というタイミングの悪さなんでしょうか。
というか、採用されたばかりの新人だけにするのもどうかと思いますけど。
色々言いたいけど、取り敢えず何とかなって良かった。
私とスラちゃんは、処置室から廊下に出てベンチに座りました。
はあ、どうにかしないとという気持ちだったから良かったけど、今頃になって大量の血を見た恐怖が出てきた。
でも、前世で救急救命講習を受けた経験と昨日の大きなフェンリルを治療した経験があったからどうにかなった。
徐々に慣れていくしかないかなと、そう思わざるを得なかった。
「急患が出たというが、治療は間に合ったのか?」
すると、何とこの場にダイン様が顔を出した。
新人職員が何とかなったと言ったのと、疲れている私を見て何があったかを悟ったみたいだ。
「ダイン様、流石に処置室を研修も受けていない新人だけにしたり、怪我をした現場で止血もしないのはどうかと思います……」
「それは俺も同感だ。取り敢えず、休憩から戻ってきた職員にガツンと言ってやらないといけない。規則では、必ず経験のあるものを一人は配置しないとならないのだからな」
おお、そういう対策もしているんだ。
それで、堂々と規則を破ったらしい。
訓練で負傷した人を何で止血しなかったのかは、ダイン様が部下を走らせて確認するという。
兵の命を守ることに加えて規則も破ったので、ダイン様はカンカンだという。
「じゃあ、私は入り口に戻って一緒に治療する人を待っています。ダイン様、後を宜しくお願いします」
「おう、手間をかけたな。特別報酬の申請をしておこう」
こうして、私たちは入り口で待っている兵のところに戻りました。
その瞬間、ダイン様の怒号が後ろで響き渡った。
きっと、新人に処置室を任せて休憩していた職員が戻ってきたのだろう。
ビクッとシルバが後ろを振り返ったけど、私とスラちゃんは後ろを振り返る気にもならなかった。
してはいけないことをしたのだから、存分に怒られて下さい。
そして、私たちが入り口に戻ると、兵の横に超美人がいた。
何で兵の治療施設にいるのというレベルの美人だよ。
薄いピンク色の軽いウェーブのかかったロングヘアで、とても温和で優しそうな表情をしていた。
背も女性にしては高そうで、薄いグリーンのドレスがよく似合うスタイルの持ち主でもあった。
その女性が、ベンチから立ち上がって私に近づいてきた。
そして、私に深々と頭を下げてきた。
「リンさん、遅れて申し訳ありません。グローリー公爵家のアメリアと申します。本日は、ともに治療を宜しくお願いします」
この超美人は、何と私と一緒に兵の治療をする人だった。
先ほどの急ぎでの治療もあってか、予想外の展開に私の頭は少し思考停止していた。


