家出JK『お嬢様』を助けてお菓子をあげたら懐かれた

「これで今に至るってわけ」
「……本当に素敵!」

 思い出話を終えた頃にはもう星空の見える時間になっている。当初は軽い雑談くらいのノリだったが、気づけば全てを話すことになっていた。

「はぁ、凄い恥ずいんだけど」
「それは私もだから、お互い様でしょ」
「そうそう、痛み分けだねっ」
「いや、姉ちゃんだけダメージ少なすぎでしょ」

 あまりに不公平にクレームをつけるも茜には笑って受け流されてしまう。

「まぁとにかく、あたし達色々あったけどさ……これからも仲良しのままでいようね」
「綺麗な感じでまとめて終わらせないでくれる? 何か姉ちゃんの恥ずかしい話とか聞かないと納得いかないんですけど?」
「ちぇ……でも話すことないしなぁ。とうくんと鏡花ちゃんの話は沢山できるけど。そうだなぁ……」
「や、止めてよ茜さん!」
「ストップストップ! もうこの話はお終い!」
「わ、わかったよ〜」

 茜に止めるよう二人で迫ると、それに屈して話を止めた。

「「ふぅ……危なかった」」
「あははっ、二人は本当に仲良しだね〜」

 安堵の感想がハモり、茜からそう指摘されて刀真は気恥ずかしくなり、鏡花も同じように頬を赤らめていた。

「そんな事より、二人共もう外は暗くなっているけど、どうするの?」
「あ、とうくん話逸らした」
「うるさいよ姉ちゃん。それで、本当にどうするわけ?」

 まだ完全な夜ではないため帰れる時間帯ではある。二人が帰宅する場合刀真は二人に付き添う必要があるだろう。

「いつの間にこんな暗くなってたんだ。鏡花ちゃん、どうしよっか」
「うーん」

 鏡花は自身の頬に指を当てながら考える素振りをしながら、刀真の方をチラチラと見る。

「ええと?」
「お兄さんが良ければなんだけど……久しぶに泊まっても良い?」

 何となく察してはいたが、鏡花はおずおずと上目遣いにそう頼む。

「あたしも今日は帰りたくないかも。何だか今までの事を話したからかな、懐かしくなって」
「私も同じ気持ち。それにせっかくならもっと話したい」

 二人からの提案は願ってもない事で。刀真もまた彼女達と同じ思いであった。ただ、即決すると茜にからかわれそうで、ちょっと悩んだ風にしてから。

「仕方ないなぁ、いいよ」
「って言いながらとうくん凄く嬉しそうだね? 顔がにやけてるよ」
「……うっ」

 図星を突かれる。顔を触ると口元が完全に緩んでいた。

「お兄さん、こういう時くらい素直になった方がいいわよ」
「お嬢様にだけは言われたくないよ!」

 ちょこちょこツンデレのような発言をする人に言われるのはとても納得いかなかった。

「じゃあ話はまとまった事だし、もうちょっとお話しよっか」
「そうね。じゃあお兄さん、もうなくなったしあれもちょうだい」
「はいはい」

 二人は再びさっきまでいた定位置に座る。刀真は塩味のポテトチップスの袋を一つ手に取り机に広げた。

「ありがとうお兄さん!」

 袋を開けると鏡花は速攻でポテチを手に取り頬張る。その姿はいつものように、小学生に戻ったような幼い可愛らしい姿になった。

「おいひぃ! ほんとうに……しあわせ……」
 声音も喋り方も甘々で、いつ見ても可愛く飽きない。

「本っ当に可愛いよね、鏡花ちゃん。とうくんもそう思うでしょ」
「……だね。凄く可愛い」
「だよね~」

 素直になれと言われた事が影響して心のまま感想を言うと、茜はまるで保護者のような優しい微笑みを浮かべていた。

「さて、じゃあ次は何から話そうか」
「そうだな……さっきは家出JK『お嬢様』を助けてお菓子をあげたら懐かれた話だったから」
「なら次はお菓子好きJK『お嬢様』と弟大好きお姉ちゃんに愛されすぎてるって話をしよっか」

 刀真が冗談めかすと、茜がすぐにそれに乗っかってきた。一方の鏡花は口いっぱいにもぐもぐして、ニコニコ笑顔で味わっている。

「改めてそう言われると恥ずいな」
「事実だからしょうがないよ〜。あたしはとうくんの事大好きだし、鏡花もそうだよね〜」
「うん! 大好き!」

 お菓子を食べている状態のため、鏡花から無邪気に真っ直ぐ好意をぶつけられる。それも満面の笑顔で心臓が壊れそうだった。

「それでとうくんはどうなの? あたしたちも言ったんだから聞かせて欲しいなぁ〜」
「ぐっ……俺も……二人の事、す……好き……だよ」
「きゃあー! とうくんからそう言われてあたし幸せ!」

 煽られて、言うまで逃して貰えそうになく、刀真はそう絞り出した。代償に身体がオーバヒートしそうになる。

「ごちそうさまお兄さん!」

 そうこうしている内に鏡花はポテトチップスを食べ切ってしまう。

「鏡花ちゃんもお話できる状態なったし、そろそろかな」
「話しながら食べるつもりだったんだけど、まぁいいか」

 夕食前のためこれ以上は出さない方が良いだろう。飲み物だけ追加して準備を完了させる。

「じゃ、始める? 親に愛されなかった男子DD『お兄さん』に優しくしたら懐かれた話」

 どうやらしっかりと刀真と茜のやり取りを聞いていたらしく、そんな変なタイトルをつける。

「あれは、お兄さんが親と決別して私と一緒に帰った、あの後事なんだけど――」

 そして鏡花の語りを皮切りに、再び三人は思い出話に花を咲かせた。

 ふと、刀真は月明かりが差し込む窓に目をやり、外の景色でも反射する自分の姿でもなく、内側にある記憶の景色を見る。


 最初に浮かび上がったのは、茹だるような暑さだった。