家出JK『お嬢様』を助けてお菓子をあげたら懐かれた

 土曜日の朝、刀真は久しぶりに父の住む実家へと向かっていた。乗客の少ない電車に揺られて窓に流れる景色を眺めていると、家に近づくにつれて懐かしさを感じてくる。じわじわとあった緊張感もまた接近するにつれ高まってもいた。

 三十分ほど乗れば最寄りの駅へと着く。まばらな人が降りる流れに刀真も乗って改札を出た。マンションや家が立ち並ぶも店があまりない少し田舎なこの場所は少しも変わっていなかった。

 そこから予定通りにバス停に行くとちょうど来て乗り込んだ。時間のせいか、乗っている人はおらず、貸し切り状態の中バスに揺られる。

 スマホを眺めていると通知が来て、それは鏡花と茜の応援のメッセージだった。

「……よし」

 刀真は降車ボタンを押してバスを降りる。昔はよく使っていたバス停もまた変わらない。ただ、出ている本数に関しては少なくなっていた。

 のどかな住宅街を進み家へと一歩ずつ歩んでいく。久しぶりであり安心感のある雰囲気と空気の香りを浴びていると感傷的な想いになっていく。そんな風に想いを巡らせていれば、刀真の目に少し年季の入ったグレーを基調とした平屋が見えてくる。家々の並びも変化はなく真っ直ぐに進み、インターホンの前に。スマホを確認すれば、約束通りの時間でボタンを押した。

「……はい」
「刀真だけど」
「少し待ってくれ」

 一呼吸を入れてからドアの前に。少し経つとガチャリと開いた。

「刀真」
「……久しぶり、父さん」

 数年ぶりに見る父の姿は記憶よりも年を取っていた。エラ張りの顔はシワが増えて髪は白髪が見え隠れし、目元は少し窪んでいる。声はしゃがれて、昔の張りの良さはなくなっていた。

「おかえり。さぁ入ってくれ」
「ああ」

 家へと入ると子供の頃から過ごしていた実家の香りが鼻腔をくすぐった。玄関を上がりリビングに通される。元は自分の家で会ったが、時間が経ち父との関係値によりどこか居心地の悪さがあった。

 一人で住むには広いリビングの大まかな家具の配置はほとんど変わらないままでいる。四人掛けのテーブルに座った。

 温かな緑茶を出してくれた父は刀真の対面にある椅子に腰掛けた。

「……」
「……」

 数年ぶりの再会で、どういう態度でいれば良いかわからず、気まずさを誤魔化すようにお茶を飲むも、まだ熱くて少し火傷してしまう。

「あつ」
「すまない、さっきの沸かしたばかりだったんだ」
「大丈夫」

 息を吹いてお茶を少し冷ましてから一口だけ飲む。体が少し温まり緊張が解け、痛みを伴ったが軽い火傷により渦巻いていた不安が取り払われた。

「……元気にしてた?」
「ぼちぼちかな。刀真の方はどうなんだ?」
「俺は、結構元気かな。特に最近は」

 そう普通に現状の自分をポジティブに紹介出来ている事に口に出してから感慨深かった。

「茜から話は聞いたよ。しばらく一緒にいたみたいだね。鏡花ちゃんと共に」
「そっか、知ってんだ」
「ああ。茜と電話でよく話していたからね」

 考えてみればそうだ。あの姉が話していないはずない。こちらの事情を知ってると思うと、話とは関係なくても少し、気持ち的に話しやすさがあった。ただ気になることもあって。

「俺達が仲良くしてるのってどう思ってるの」
「いくら別れたとはいえ、刀真達が仲良くしているのは嬉しい事だよ」
「そっか」

 雑談が一区切りついて刀真は一度お茶手にして本題を切り出すため喉を潤した。

「それで、話なんだけどさ」
「そうだったね。何かな」
 穏やかさを残しつつも父の顔が少し真剣なものになる。
「正直に答えて欲しいんだ。変な事を聞くんだけどさ」
「うん」

 そう切り出す刀真の心持ちは、どこか注射を受けるような感覚があって。

「俺の事、好きだった?」

 シンプルな言葉選びは、幼くそれ故に真っ直ぐだった。

「……それはどういう」
「言葉の意味だよ。父さんが俺の事をどう思ってたのか、それだけ聞きたいんだ」
「それは」

 まるで恋人に言うセリフだったが、もはや恥ずかしさはなく本気で尋ねる。

「ど、どうしてそんな事を?」
「俺が前に進むために必要なんだ。はっきり、本当の父さんの気持ちを知りたい。だから、お願い」
「そう……か」

 予想通り困ったような表情をする。申し訳なさもあるが、止めることはせず父の答えを待つ。

「……」

 長い沈黙だった。数秒だったのかもしれないし、数分だったかもしれないが、刀真にとっては永遠ににも続きそうなほどだった。が、それはついに終わりを迎える。

「正直な話……」
「うん」
「刀真の事を……好きとは……思えなかった」
「……」

 申し訳なさそうにしながらも、刀真の要望通りに本心で直線的に伝えてくる。

「そ……か」
「こんな事を思うなんて父親失格なんだろうけど、これが真実」

 予想通りではあったが、本人の口から求めていたといえ、はっきりと突きつけられると心がひどく痛んだ。
「刀真、すまない」
「謝らないでよ。むしろ、ありがとう……だよ父さん。言いづらいの……に言ってくれて」

 ここで感情を乱してはならないと思い、刀真は何とか抑え込み続ける。

「ちなみに、理由とかって……やっぱり可愛げがなかったかな」
「……まぁ、茜と比べると……」
「だよね」

 返答もまた想像していたものと同じで、痛みとともに詰まっていたものも流れ出していた。

「だからといって差をつけてはならないと意識はしていたんだけど、そう刀真に思われていたということはダメだったみたいだな……本当にすまない」
「もういいんだ、昔の事だからさ。それに今日父さんから本音を聞けて一つ吹っ切れたから」
「そう、ならいいんだが」

 震えそうになる声を抑えて明るい口調がブレないよう努める。

「用はこれだけだから……ごめん休みの日に変な話をして」
「もう、行くのか?」
「うん。それに予定もまだあるから」

 これ以上長居する精神的余裕はすでになかった。後ろ髪引かれる思いもなく、帰り支度をする。

「それじゃ、お邪魔しました」
「ああ……俺が言うのもなんだけど元気でね」
「父さんこそ元気で」

 玄関前まで父は見送りに来てくれて軽めであるが別れの挨拶をしてドアを閉めた。

「……さようなら」

 一度実家を目と記憶に焼き付けてから別れを済ませてくるりと背を向けて歩み出す。目の端に溜まりそうな涙を振り切って。

 そして刀真は次の約束相手である、母親の元へと向かった