言えなかった2文字は白く藍色に残っている



ベンチに座り一息ついた

私はジュースのストローを見つめたまま言った。

「私さ、お母さん、もういないんだ」

湊くんの動きが少しだけ止まった。

「……え?」
「入院してすぐにね、手紙だけ残していなくなったの。雷がすごい日だった。……たぶん、自分を責めてたんだと思う」

言葉にしてしまうと、全部ほんとになる気がして怖かった。
でも、それでも言いたかった。

「……なんか、バカだよね」

笑おうとしたけど、うまく笑えなかった。

湊くんは黙ったまま、でも逃げずに私を見ていた。

「ひとりになって、どうしていいかわかんなくて……でも、その日からずっと、なんとなくちゃんと生きなきゃって思ったの。何かひとつでも、誰かの心に残せたらって」
「……白藍さん」

湊くんは、ゆっくり言葉を選ぶように続けた。

「ちゃんと、生きてると思う。今の白藍さん。……っていうか、ちゃんと“誰かの心”に残ってるよ、もう」
「……え?」
「俺の中にはもう、いるから。忘れられるわけないじゃん、そんな人。ってか死ぬわけじゃないんだから」

その言葉に、胸の奥がきゅっと締めつけられた。
ふと、涙がこぼれそうになって、私は急いでそれを隠した。
死ぬわけじゃない?そうだ。湊くんは知らないのか

「……湊くんずるいよ、そういうの」
「え、なにが」
「わかんないけど……ちょっと泣きそうになったじゃん」
「……いいじゃん、泣いても。俺しかいないし」

その言葉に、思わず吹き出してしまった。

「なにそれ」
「いやマジで。見なかったことにするから」

私たちはまた、少し笑って、そして黙った。

夜の病院。星の見えない空。
でもこのときだけは、少しだけ、あたたかかった

「奏ちゃんは?寝たの?」
「寝た。ってかさ?そもそもなんで入院してるの?」

この質問きちゃった。

「け、怪我?だよ」
「え?どこの?」
「背中…?あの、なんか車に轢かれちゃって」
「ええ。退院の見込みは?なし!?」

どうしよう嘘これ以上つけない

「なし、?かな。まだ完治してなくて」

さすが私すぎる咄嗟の嘘
そもそもなんで脳腫瘍だって言えないんだろう

「あ、そういえば!今度花火大会あるらしいね」
「あー、奏も言ってた」

なんとか話すり替えれた
良かった

「え?ってかもうこんな時間なの?そろそろ戻ろっか」
「ほんとだ。白藍さんは何階?」
「なっ……」

危ない
7階は余命宣告などされてる人達の階

「うーんとねぇ、ま!いいじゃん!いこ!」

この後湊くんの目を盗んで病室に戻った