病室に戻ると、いつも通りの静かさだつた
さとちゃんの姿もなく、点滴の音だけがやけに響いていた
私はベッドの上に座って、少しだけ天井を見上げた
「奏ちゃん、あんなに笑ってたのに」
自分よりも短い命を宣告されてるのに、あんなふうに明るく笑えるなんて私だったらできない
ぽつりとそう思った
【死ぬってわかっててできることってなんだろう】
さっき、奏ちゃんに聞かれた言葉が頭の中で反響していた
やりたいこと。行きたいとこ。叶えたいこと。言いたいこと。
言ったはいいもののでも何も出てこなかった
私は何がしたいのだろう
言葉にできない感情が、胸の奥でじわじわと広がっていく
………ふとカーテン越しに風の音を聞く
外を除くと夕方になっていた
空の色が、オレンジと紫の間をさまよっている
こんな空の下、どこかで湊くんは妹さんの病室で過ごしているのかもしれない
また今度、奏ちゃんの所へ行こうかな
ベッドに背中を預けながら私はまた天井を見つめた
この部屋も、窓の外の夕空も、何一つ変わらないのに、さっきまでとは、どこか世界の見え方が違っていた
「…………生きてる間に、したいこと」
なんど考えても降りてこない
頭の中には、さっきの奏ちゃんの笑顔が残っていた
あんなに儚いのに、あんなに強い笑顔だった
私が生きてるうちにしたいことは私にしかわからない
そのとき
「白藍ちゃん、いるー?」
さとちゃんの声とともにドアがあいた
「いるよー」
「お散歩してたー?いなかったからさ」
「うん。ちょっと歩いてたの。運動がてら」
私は笑ってみせる
けどさとちゃんはすぐ気づく。たぶん全部見透かされてる
「………もしかして湊くんに会った?」
不意にそう聞かれて私は少し驚いた
「え、なんで?」
「湊くんとさっき会って。もしかして奏ちゃんのこと知ってる?奏ちゃん頑張ってるのよねー」
奏ちゃん
その名前が胸の奥に優しく刺さる
「…さとちゃん、奏ちゃんのこといつから知ってたの?」
「そんなのだいぶ前からだよ。白血病ってね、ほんとにきつい。でもあの子、最後まで普通でいたいって。メイクしたり、テレビ見たり、お兄ちゃんと話したり」
最後まで普通でいたい
私は自分の腕を見下ろした
点滴の細い管が繋がっている
こんな世界の中で私は何が出来る?
「さとちゃん。私……生きてる間になにができるかな」
私の声はわかりやすく震えていた
でもさとちゃんは穏やかな声で言った
「それを探す時間が今なんだよ。奏ちゃんもそうだし、湊くんもそういう気持ちでここにいる気がする」
私は窓の方を見た
夕空はもう夜に近づいていてその先には、明日があるかどうかも分からない空が広がっていた
「……そっか。うん、ありがとう」
明日が来たら、また誰かに会いに行こう
奏ちゃんにも、湊くんにも
ちゃんと生きてる間に今を見つけに行こう
みんな見つけてるんだもん

