病室の前に立ったまま、私は一度深く息を吸った
こんなのただの好奇心だ
自分にそう言い聞かせながらノックをした
「どうぞー」
中から聞こえた声は想像していたよりも元気だった
扉を開けると小柄な女の子がベッドの上で絵を描いていた
髪の毛は肩につくくらい。
パジャマの袖から細い腕がのぞいている
「……えっと、こんにちは」
「こんにちは、!」
彼女は私を見るなり、にこっと笑った
「あなた、お兄ちゃんの知り合い?」
「あ、うん。ちょっとだけ」
私の言葉に、彼女は目を丸くしたあと、また笑った
「ふーん。じゃあ座っていいよ。知らない人でも、話すの好きだから」
そのあっけらかんとした態度に、私は少し戸惑いながらも椅子を引いて腰をかけた
「私、飯沼白藍っていいます。同じ病院に入院してて…」
「はくあ、、知ってる!同じ階の人だよね!めっちゃ綺麗な名前じゃん!」
「えっ。あ、あの。絶対それお兄ちゃんには秘密でも大丈夫、?」
「うん、いいよ?あ、私は瀬川奏!中1。兄がちょっと過保護なだけの普通の妹でーす」
「ふふ、仲良しなんだね」
「うーん…まぁまぁ?兄ってさ妹のことになると急にバカみたいに心配するからさー」
「…わかる気がする。うちもお母さんがちょっとそんな感じだった」
「だった」って言った瞬間、言葉が詰まりそうになる
でも奏ちゃんはなにも聞かずに、黙って私の顔を見た
「ねぇ白藍ちゃん。もし2ヶ月で世界が終わるならなにする?」
いきなりの質問に、息が止まった
「……行きたいとことかに行く…?」
「ふーん。それもそうだよねー」
それだけ言って彼女はまた絵に視線を戻した
「でも行けるうち行っておかなきゃだね」
私は理解が追いつかなかった
「私さ、白血病なの。あと1ヶ月くらい、って言われてる」
あまりにもあっさりした言い方だったから、私は返す言葉を失った
「そんな顔しないでよ。慣れてるから大丈夫」
「でも……」
「でもって言われるのも何回目かなー」
奏ちゃんは少しふざけたように笑ったけど、目だけは笑っていなかった
「最初はね、すごく怖かった。でも泣いたって仕方ないでしょ?だったらさ笑ってる方がマシじゃない?」
私はその言葉に何も言えなかった
「似てる。私と」
笑っているけど、本当は怖くて、寂しくて。
「………私も、そんなに長くないから。7階だし」
「えっ…あ…そっ…か」
「脳腫瘍。こっちは3ヶ月。もうすぐ1ヶ月が終わるから、実質あと2ヶ月」
そう言った瞬間、ふたりの間にしとした静けさだけが落ちた
でも次の瞬間
「うわ、まけた!」
奏ちゃんがわざとらしく悔しがった
「白藍ちゃんの方が長生きじゃん!」
「ちょ、勝ち負けじゃないし!」
私が吹き出すと奏ちゃんもつられて笑った
病室の空気が、ほんの少しだけあったかくなった気がした
そうすると湊くんが帰ってきた
「お兄ちゃん!」
「私そろそろ戻るね」
湊くんに自分の病室が見られないように湊くんの返事を聞かずに病室を出た

