言えなかった2文字は白く藍色に残っている



それから1週間、いつお葬式があったのかも私は知らない

母がいなくなってから、私は毎日、屋上に通っていた。
誰も来ないこの場所は、
天井のない病室みたいで、ひとりで泣くにはちょうどよかった。

灰色の空。
風の音だけが聞こえる。
ベンチに座って、私はずっと空を見ていた。

そのときだった。

「……あれ、誰かいます、?」

背後から、男の声がした。

振り返ると、病院の制服でも白衣でもない、
普通の男子高校生が立っていた。

驚いたように目を丸くして、彼は小さく笑った。

「あー、ごめんなさい。誰もいないと思って」

私は慌てて立ち上がった。

「すぐどきますね」
「え、いや、そういう意味じゃなくて。別に、いいんですよ。座ってもらってて」

彼は私から少し離れた場所に腰を下ろした。
静かに風が吹いた。

「……ここ好きですか?」

不意にそう聞かれて、私は少しだけうなずいた。

「うん。誰も来ないので」
「だよね。俺もそんな理由。学校終わって見舞いのあと、ちょっと寄ってみたら静かでさ。……ここ、落ち着くよな」

彼はそう言って、空を見上げた。
その目が、どこか少しだけ寂しそうで、でもやわらかかった。

名前も知らない人。
なのに、なぜか最初から、静けさのリズムが合った。

「名前、言ってもいい? 俺、瀬川湊。高1」
「…みなとさん…私、飯沼白藍。同じく高1」
「……はく、あ?きれいな名前だね。なんか、空に似てる。てか同い年なんだね」

私はうなずいた
なかなかあまり同い年の人と話す機会がなく、慣れない
いつも年上の看護師さんとばかり話してるから

「その格好ってことは入院中?」
「う、うん」
「えーっと、病気とか、?」

余命宣告とかもされてる人だとは思ってもないだろうな

「一応。ま、全然元気なんだけど」

気まずい空気が私たちの横を通り過ぎる

「え、なんでこんなおっきい病院に?」
「妹の見舞い。妹が入院してて」
「そうなんだね」

会話、終わってしまった
かといって病室に戻ってもすることがないんだよなー

「白藍さんはどこ高校?」
「私はそこの西高」
「え、同じ!俺A組」
「私E組。そりゃ、わかんない顔だね」

5クラスあるうちのAとEに入っている私たち
さすがに端と端の教室の人達の顔までは覚えていない

「あ、やべ。そろそろ帰んねーと」
「あ、そ、そか。」
「またな!」

湊くんは階段を降りていった

またがくるといいな