病室はガラッとなっていた
もう残るものは綺麗な布団と誰も使っていない棚
俺は自分がよく座っていた椅子に座った
しばらく周りを見渡して枕の直ぐそばを見た
小さな紙に
【7階の私に用がある人はこの引き出しの二段目みて】
「なんだ…これ…」
たぶんこれ…俺宛だよな…?
俺は、無意識のうちにその引き出しを開けていた。
二段目。
白藍が残した最後の言葉が、そこにある気がして、指先が震えた。
カチ、と軽い音がして、引き出しが開く。
中には、一通の封筒が入っていた。
白い封筒に、黒いペンでこう書かれていた。
【ずっと【妹】だと思ってくれてたあなたへ】
……やっぱり、俺宛だ。
喉の奥がつまる。
息を吸うのに、こんなに時間がかかったのは初めてだった。
そっと封を開けると、折り目のついた便箋が一枚、出てきた。
白藍の、あの優しい文字。
読んだ瞬間、声が聞こえた気がした。
【湊くんへ】
出だしはそう書いてあった
どうしよう…読める気がしない…
けど受け取らないと…
【やっほー。7階の君の白藍だよー!いや、ほんとはね、【妹みたい】とか思ってるあなたへ、って書こうとしたけど、ちょっと笑っちゃってやめた。
ここから真面目に書くね
この手紙を読んでる頃には、私はきっと、もう7階にはいなくてもっと上の上の上にいるのかな
湊くん、寂しい?
私はねーちょっと寂しいよ。でも、ちゃんと幸せでもあったんだ。
ねえ、湊くん。
湊くんは、たぶん、最後まで私のことを「守ってあげなきゃいけない存在」としてそばにいてくれたんだと思う。
そういう人だって、わかってたし、そうしてくれたことが、本当に嬉しかった。
でも、私はね。
ずっと『妹』みたいに見られてるって思ってた。
だから、最後まで言えなかった。
でも、本当は
ちゃんと、湊くんが好きでした。
弱いからじゃないよ?
可哀想だからでもない。
ただ、湊くんが湊くんだったから。
強がりで、優しくて、
自分の痛みは絶対に人に見せないくせに、私が苦しいときは、何も言わなくても手を握ってくれるような、そんなところが、全部、好きだった。
ねえ、もし、私がもっと元気だったら、
湊くん、私のこと『妹』じゃなくて、『女の子』として見てくれたかな?
そんなの、聞いてもしょうがないか。
でもね、それでも私は、
湊くんの中にいなかったことにはなりたくない。
んー、湊くんの人生が何十年後かに終了してエンドロールが流れるとき、少しでも名前が載れば嬉しい。
簡単に言うと脇役だとしても登場人物になれてよかった
最後まで、私のことをちゃんと見てくれた湊くんが、
これからも前を向いて生きてくれるなら、それが何よりの幸せです。
最初の頃に戻るけど同じ高校なの奇跡だよね
まぁ私特に友達もいないからさ。
湊くんが友達だった。
心残りがあるならイルミネーション、見たかったな。
でも、湊くんの目に映る景色の中に、少しでも私がいたのなら、それで十分。
ずっとありがとう。大好きだったよ】
【白藍より。あ!1つ訂正。だったんじゃなくて、今もこれからも1番近くで好きを想い続けてるね】
これを読み終えた瞬間、俺の手はぐしゃぐしゃになった手紙を胸に押し当てていた。
「……なんでだよ……なんでそんな大事なこと……今なんだよ……」
涙がこぼれる。
妹なんかじゃなかったよ…
守るだけの存在なんかじゃなかった…
俺は……
俺も、ずっと白藍がずっと大好きだった。
でも、その想いを、最後の最後まで、ちゃんと伝えられなかった。
呪いが怖くて、失うのが怖くて、結局、俺は自分の弱さを隠しただけだったんだ。
俺は卑怯だった…
白藍。
白藍のその言葉、
もっと早く聞きたかったよ。
教えれない環境を作ってしまってた俺はバカだ
伝えれなかった俺は一生想い続けながら生きていくね
ありがとう。
ちゃんと、俺の中に生きてる。
エンドロールには誰よりも先に次に名前が流れる
白藍が生きていた。いや生きてるから俺も、生きる。
白藍が言ってくれたみたいに、
俺の目に映る景色の中に、白藍がいるって信じて。
そうやって、生きていく。

