別れは突然
残酷な日々はすぐに来た



それは、ある寒い日のことだった。
12月に入ってすぐ、空気は凍えるように冷たくなっていた。

湊が病室に入ったとき、白藍はすでに目を開けていた。
でも、湊を見るとすぐに少し目を細めて、微かに微笑んだ。

「……白藍、おはよう」

返事は、ない。
でも、それでもわかる。
彼女はちゃんと、“ここにいる”。

前からわかっていた。
声は、もうほとんど出せなくなってきていること。
呼吸が少しずつ浅くなっていること。
その日が、確実に近づいているということ。

それでも、俺は行く。
毎日、何も変わらないように、当たり前のように。

ベッドの横の小さな椅子に腰かけた

「今日の夜から街のイルミネーションに光がつくんだ。ここの。」

スマホの画面に映る街の光を、白藍はじっと見ていた。
まるで、そこに本当に行けたような気がするほどに、目を輝かせて。

「……写真待ってるね」

小さく口が動いた気がして、俺はそっと白藍の手を握った。

「俺、今日も明日も行ってくるよ。写真も動画も撮ってくる!」

白藍はかすかに瞬きをして、また小さく微笑んだ。
それが、「ありがとう」の代わりだと、湊はちゃんとわかっていた。

それから何日か、白藍の声はもう完全に出なくなった。
それでも、白藍はちゃんと“伝えよう”としていた。

俺が来ると、白藍は目で追って、手を伸ばして、ぎゅっと握ってくる。
湊が笑うと、白藍も笑う。
言葉なんかなくても、そこにはちゃんと会話があった。


なんとなくわかった。
きっと………これ最期だ…