言えなかった2文字は白く藍色に残っている





次の日も、その次の日も、
俺は病室のドアの前で立ち止まる時間が少しずつ長くなっていた。

ノックして、中に入る。それだけのことが、怖くなる。

「白藍、来たよ」

ベッドの上の白藍は、昨日より少しだけ痩せて見えた。 口元には笑みを浮かべてくれるのに、声に力がない。

「……ありがとう」

昨日と同じ会話。
でも、言葉の奥にある“何か”が、少しずつ変わってきてる気がする。

白藍の腕には、昨日より1本多くなった点滴のチューブ。
モニターに映る数値の意味は、俺にはわからない。だけど、嫌でも「現実」を突きつけてくる。

俺は彼女の隣の椅子に腰掛けた。
まるで、永遠にこの時間が続いてくれたらと思いながら。

「ねぇ……湊くん」
「ん?」
「私ね、最近夢を見るの。あったかい場所で、誰かが『おかえり』って言ってくれる夢」
「……そっか」

本当はそれが何を意味するかなんて、考えたくもなかった。 でも、白藍は笑っていた。怖いはずなのに、優しい顔で。

「怖くないの?」

俺は聞いた。
すると、白藍は少し黙ってから、小さくうなずいた。

「……怖いよ。めちゃくちゃ怖い。でも……それでも」
「それでも?」
「湊くんがそばにいてくれるから、私は、ちゃんと今を生きようって思えるの」

その言葉に、心が締めつけられた。 どうして俺が、そんなふうに思ってもらえるのか、わからない。

でももし、俺に居場所があるなら。

それが、白藍の心の中なら。
俺は、そこに居たいって思った。

「白藍」

名前を呼ぶ声が、少し震えていた。

「……うん?」
「イルミネーション、見に行こう。絶対行こう。ちゃんと約束守ろう」

白藍は、目を少し見開いたあと、ふわっと笑った。

「うん。……楽しみにしてるね」

たぶん行けないなんて言葉は、今はいらなかった。 俺も、信じたい。
今を、希望を、白藍の未来を。

心のどこかではわかっているけど今だけはどうか。
信じさせてください

冷たい冬の真ん中でも、少しだけ温かい光が、心のどこかで灯った気がした。


でも…誰かが吹きかけたみたくすぐに消えた