気がつけば11月後半
季節はかわり秋を超え、冬になりはじめている
「白藍、来たよー」
その声を聞くと、少しだけ胸があたたかくなる。
でもそれと同時に、胸の奥にわずかな痛みが刺さる。
湊くんは、今日も来てくれた。
私はこうしてベッドの上で、点滴に繋がれたままでも、当たり前みたいに笑ってくれる。
「……ありがと、今日も来てくれて」
「いや、来たいから来てるんだよ?」
そういうときの湊くんは、まるでお兄ちゃんみたいな顔をしていた。
いや、違う。
お兄ちゃんじゃなくて、妹を気遣うようなお兄ちゃん”の顔。
私にはそれが、なんとなくわかっていた。
たぶん湊くんにとって私は「妹みたい」なんだと思う。
守ってあげなきゃいけない存在で、弱くて、可哀想で、でも放っておけない人。
もちろん、守ってくれるのは…それは嬉しい。
こんなふうに優しくしてもらえるのは、正直、すごく幸せだ。
でも。
でも…もし、私がもっと元気だったら?
もし、あと1ヶ月で死ぬような体じゃなかったら?
それでも、湊くんは私を“妹”として見ていたのかな。
好きになってくれてたのかな
「……ねえ、湊くん」
「ん?」
「もし私がもっと元気だったら、今みたいに会いに来てくれてた?」
「……何言ってんの、そんなの当たり前だろ」
そう答えてくれたけど、私はその当たり前が怖かった。
私のいるこの病室に来てくれるのも、私が弱いから。死ぬのが分かってるから。
私が、“もうすぐいなくなるから”なのかもしれない。
そう思うと、少しだけ泣きそうになった。
でも泣かない。
だって私は湊くんの「可愛い妹」だから。
涙なんて、見せちゃいけないって思った。
最後まで可愛い妹演じないとね
「…湊くんから見て…私ってどんな人?」
変な質問なのに真面目に考えてくれる湊くん
しばらく悩んでから
「シンプルになっちゃうんだけど…真面目な子…?」
「……嬉しい」
最近は声を出すことも辛くなってきた
「…湊くん」
「なんだ」
「もし…私がクリスマスまで湊くんといられたら…一緒にイルミネーションでも……見に行かない…?」
叶わない約束なのは私が1番知っている
「いいよ」
「ありが…と」
安心すると気が遠くなる

