言えなかった2文字は白く藍色に残っている





しばらくして、湊くんがぽつりとつぶやいた。

「……じゃあ…さ。
 “そばにいる”って、どうすればいい?」

私はその言葉を、何度も頭の中で繰り返した。
どうすれば? たぶん、そんなの決まってない。
でも

「うーん……たとえば、さ。私が落ち込んだとき、屋上に来てくれたら嬉しい」
「屋上?」
「うん。落ち込んだときとか、不安なときとか。別に話せなくてもいい。隣にいてくれるだけでいいの」

湊くんは少しだけ考えるように空を見て、それから笑った。

「……そういうのなら、得意かも」
「ほんと?じゃあ、決まり」

私たちはまた、風の音を聞いた。
沈黙ももう、前より怖くなかった。

やがて湊くんが、ぽつりと言った。

「2ヶ月って、短いんだなって思ってた。でも……今は、少し違って見えるかも」
「うん?」

「たった2ヶ月でも、ちゃんと残るもんなんだなって。
 たとえば今日のこととか、きっとずっと忘れないよ」

私は、湊くんの横顔をそっと見た。
この人に出会えたことを、今すごく幸せに思った。

「……私も忘れない。
 ってか、忘れさせないようにする」
「プレッシャーだな、それ」

ふたりで、少しだけ笑った。
風がまた、秋の匂いを運んでくる。

「じゃあ、屋上、俺の定位置にするか」
「それいい!」

ベンチの背にもたれて空を見上げる湊くんの横顔が、
なんだか少し、泣きそうに見えた。

でもきっと、今だけは。
ひとりじゃないって、心が言ってる。

そんな夜だった