1週間後
もうなにもない
こんなにもつまんなかったっけ
その日さとちゃんが病室に来た。
手に、ひとつの白い封筒を持って。
「これ……白藍ちゃんに、だって」
私は受け取る前から、それが誰からかわかっていた。
湊くん。そうでなきゃおかしいと思った。
封筒の表に、黒いペンで書かれていた宛名。
【7階の君へ】
「うそ……」
見つかってたんだ。
私が7階の人ってばれてたんだ……。
ゆっくり、封を開けた。
白藍へ
いや、なんて呼んだらいいのか、わかんないな。
あの日、名前を呼ぶとき、なんでかちょっと照れたの、今も覚えてる。
いきなり手紙でごめん。
奏のことで、ちゃんと話せないまま、会えないままになって、俺の方が逃げたのかもしれない。
でも、あの夜、花火がおわって白藍が、7階の病室に入っていくのを見た
ごめん、俺に隠してたのに見ちゃって
でも、本当に、伝えたいことがある。
白藍は、
もう誰かの中にちゃんと、生きてるよ。
少なくとも俺の中には、確かにずっーといる。
だから……
君が消えても、
君がくれたものは、絶対に消えないから。
君が、君でいてくれた時間。
俺の中では、それがちゃんと、残ってます。
7階の君は大丈夫だ
それに、ありがとう。
それでも、できることなら
まだ、君に会いたい
今はまだ忙しくて行けそうにないけど
今度行ってもいい?
瀬川湊より
許可なく来ていいのに…
気づくと涙を流していた
廊下に出て奏ちゃんがいた病室の前に来た
「白藍」
どこか聞きなれた声がした
「湊くん」
「今奏の私物取りに来ようと思って」
「………最後奏ちゃんに会えなかったな」
奏ちゃんは会いたかったのかな
「ちょっと入ってよ」
奏ちゃんの部屋はまだ奏ちゃんの絵などが飾られていた
「これ、最後に描いてた絵っぽいんだけど」
「え、これ私!?」
奏ちゃんは最後に描いた絵は私だった
「奏ちゃんから私ってこんなふうに見えてたんだ」
キャンバスには、私が微笑んでいる姿が描かれていた。
病室の窓から差し込む光の中で、少しだけ肩をすくめて笑っているその顔は、
どこか儚くて、でもちゃんと生きていた。
「すごいよなぁ……こんなにちゃんと、見てたんだ」
湊くんが、ぽつりと言った。
私はうなずいて、絵にそっと手を伸ばした。
触れたら消えてしまいそうな気がして、けれどどうしても離れられなかった。
ありがとう、奏ちゃん……
心の中でそうつぶやいたとき、不意に湊くんが言った。
「白藍」
私は顔を上げる。
「ごめん、ずっと言えなかったことがある。……俺さ、白藍が7階……に、いるって、なんとなくなら前からわかってた」
「……うん、手紙で知ってるんだろうなっては思った」
「でも、怖かった。余命のこととか、そういう現実にちゃんと向き合ったら、また誰かを失う気がして。それが白藍だって思ったらほんとに辛かった」
私は静かに聞いていた。
「……でも、それでも、また会いたかった。何度でも、ちゃんと」
湊くんは、まっすぐ私を見ていた。
逃げない目だった。
「だから、もしよかったら…今また一緒に屋上行こ」
「……うん。行きたい」
私はそう答えた。
たとえ時間が限られていても
たとえ未来が不確かでも、今、この瞬間にまた会えた奇跡を、ちゃんと受け止めたいと思った

