言えなかった2文字は白く藍色に残っている



花火大会が終わって、また何も無い日々が始まった。
そして花火の日以降湊くんは、ぱったりと姿を見せなくなった。
もう1ヶ月近く経つかな

屋上にも、奏ちゃんの病室の廊下にも、エレベーターにも。
どこにもいなかった。

最初の一日は「今日は来なかっただけ」だと思った。

でも、二日、三日と過ぎていくたびに、
胸の奥にぽっかりとした不安が膨らんでいった。

「……奏ちゃんはどうしてるんだろう……」

もしかして、体調が良くなって階が下がったのかな

1ヶ月がすぎ、謎は深まるばかり

その日は朝から雨が降っていた。
さとちゃんが、私の病室に来た。
でも今日は、なんだか雰囲気が違っていた。

「白藍ちゃん……おはよ。ちょっといい?」

私は一瞬で察した。
その顔が、いつものさとちゃんの顔じゃなかったから。

「……うん」

さとちゃんは、少しだけ言葉を詰まらせて、
それから静かに言った。

「……奏ちゃん、わかるでしょ、?花火の夜から急激に体調悪化して昨日、息を引き取ったって」

時間が止まった。
何かが胸の奥で、鈍い音を立てて崩れていくのがわかった。

「うそ……でも1ヶ月ぐらい…あったけど」
「1ヶ月間は…まだなんとか話せるぐらいだったのよ」

昨日までそこにいたはずの命が、もういない。
花火の前の日まで笑っていたあの声が、もう戻らない。

それなのに
私は何もできなかった。

何も、してあげられなかった。

ベッドの上でうずくまる私の肩に、さとちゃんがそっと手を置いた。

「白藍ちゃん、大丈夫?」
「……わかんない。何が大丈夫で、何がダメなのか、もうわかんないよ……」

雨音だけが、静かに病室の窓を打っている

「あ、湊……くんは?」
「お葬式とか色々あるからね。湊くん達も両親がいない分、忙しくなっちゃうのよね」
「私、湊くんに自分が7階病棟の余命があと2ヶ月ぐらいってこと言ってない……。もう会えないのかな、」

さとちゃんは私の病室から出ていった

奏ちゃんがこの病院から居なくなった今湊くんがここへ来る意味もない。
そして私がこの病院にいることは知っているとしても湊くんが来る意味はない
来る場所すら知らない


…もう会えない