言えなかった2文字は白く藍色に残っている


あれから1週間


今日は街は花火大会
朝から病院中がざわざわしていた。
誰かが見舞いのついでに持ってきたチラシが、いつのまにかナースステーションに貼られていたらしい。

「白藍ちゃん、今夜の予定は?」

朝の検温のとき、さとちゃんが言った。

「花火、屋上からバッチリ見えるよ?」
「…行っていいの…?」
「もちろん。外出は禁止だけど、屋上はOK出たって。でも!浴衣着たいとか言わないでよ?さすがにそれは却下だからね」

私は笑って、首を振った。
花火なんて、もう見られないと思ってた。


夜。

屋上には、誰もいなかった
なんだかんだここが1番見える場所だと思うんだけど

手すりに両腕を乗せて頬をついた
花火はもうすぐあがる
病院の下が賑わっている
きっと近くまで見に行く人たちだろう

これが私の最後の花火

「はーくあ」

後ろから声がして振り向くと、湊くんがいた。

「湊くん…」 

呼び捨てで呼ばれたことに驚きが隠せていない

「なんか奏、今日ちょっと体調良くなくて病室入れなかった」

湊くんは私の隣で手すりによりかかった

「そうなん…だ。花火、あそこの公園からあげるって」
「そうなの?じゃあここバッチリ見えるんだ」

ふたりで並んで立った
空はまだ暗くなりきっていない。
遠くから聞こえる音と、どこかの子どものはしゃぎ声

次の瞬間

夜空1面を覆うように大きな花火が打ち上げられた

「うわあ…」
「すっご…」

こんなに大きな花火を見た事がなかった
夏の終わりの匂いがする
止まることなく花火は打ち上げられている
私たちは黙ってそれをずっと眺めた

「……ねぇ白藍」

沈黙を止めて湊くんがぽつりと言った。

「ん?」

「来年も、花火2人で見よう」

その言葉に、喉がつまった。

来年………

それは、私にはきっと来ない時間。
でも、それでも。

「…うん、約束ね」

私は笑って答えた。
それが叶わないことだとしても、
その約束が、叶えられないものとわかっているけど今の私に生きる力をくれる気がした。

ひとつ、またひとつ
次々に花火は青、赤、黄色とあがる

「きれい……」

私は小さな声でつぶやいた。
そしてもう一度、花火を見る湊くんの横顔を見て心の中で呟いた。

「ねぇ湊くん、病人ってやっぱり普通…じゃないと思う?」
「そりゃあね。ってか第三者が普通って思っちゃいけないと思う」

普通ってなんだろう…
病人は普通じゃないのかな
私のこと…少しだけ話してみようかな

「前にお母さんとお姉ちゃんが喧嘩してたのを聞いちゃったの。お母さんが私のことを病気だからとかしょうがないからとかそう言って特別扱いしてたの。私の病気が分かってからお姉ちゃんだけに厳しかった。それに耐えれなくなったお姉ちゃんが家出ていっちゃった。申し訳なくてさ」

湊くんはただ黙って花火を見ながら聞いてくれた

「もう2人とも会えないけどね。なんかごめん。こんな話しして」

湊くんは少しだけこっちを向いた

「ありがとう。話してくれて」

湊くん、こちらこそありがとうなんだよ