第一章

◆序章◆

『いらっしゃいませ~空いてる席へお座りください
 ご注文がお決まりましたら声をかけてくださいね』

 ここは喫茶店、ただしウエイトレスの頭にはネコ耳が付いている
所謂コスプレ喫茶である。
 店内は洒落た調度品が揃えられ落ち着いた雰囲気がある
オーナーの拘りの一つはコスチュームの仕立てが高品質であり
高級ドレスと遜色ない作りとなっていて通常のコスプレ衣装
とは一線を画していた。

 洗練された接客は、萌え系やメイドカフェとは違い
そして客層も常連が多い会員制となっている。

 そしてこの店のウエイトレスはコスプレではなく本物の獣人
だったりするのだ! その事実は入店客も知らない。

『すいません注文、お願いします』

猫耳ウエイトレスが客のテーブルに来た

『承ります』

『ケーキセット1つ、ブレンドでケーキはモンブランで』

『ご注文繰り返します ケーキセット1つブレンド、モンブラン
 ですね』

『はい』

『承りました、少々、お待ち下さい』

『いつ見ても、その猫耳は本物みたいで可愛いね~』

 客は知らないが獣人なので猫耳は当然本物であった。

『ありがとうございます、どうぞ ごゆっくり』

◆三年前、始まり◆

僕は何をしているのだろう?
不安?生き甲斐?希望?
自分自身の存在が、意識と肉体が分離している感覚。
生きているのか?
でも不思議と安らぎを感じている。

このまま、このまま、ここで穏やかに流れていたい・・・・
世界が終わるまで。

《数時間前》

 男は暗いアパートの一室に横たわっている
男の名は島仲雄靖、25歳、バツイチ独身で現在無職
大学卒業後に就職したが些細なミスがトラウマとなり退職
退職後はアルバイト生活をしていたが、それも辞め
貯蓄も無くなりアパートの電気、水道も滞納で止められ
力なく部屋に横たわっていた。

『俺はこのまま消えてしまうのか・・・・』

 その時、腰の辺りで何かが光るのを感じた
よく見るとズボンのポケットの中が光っているようだ
中に手を入れると小さな紙があった

『これは、さっき拾ったやつだ』

それはアパートへの帰り道で道端に落ちていた
模様が魔方陣の様で何か気になり拾って持ち帰ったのだ。
その紋様が光っていたのだ

『なにこれ・・?! うわ~~』

その瞬間、光が紙から手首へ移り腕輪の形に変化した
光が収まると、そこには銀色の腕輪があった

『何これ! ヤバくない?』

『ん? 今さらか』

男は思った、自分はこのまま消え失せてしまうかも
しれないのだ、どんな事があっても驚かないさ。
その時、落ちるような感覚と共に気を失った。

 どのくらいの時間が過ぎたのだろうか
雄靖は軽い疲労感を感じ目覚めた、そこは暖かな
日差しが差し込む森の中、大きな木の根元に横たわっていた

『ここは何処だ? アパートじゃないよな?』

その時、横で何か気配を感じ視線を向けた
そこには心配そうに見つめる美しい女性の姿があった。
彼女を見て雄靖は違和感を感じた、それは衣服が遊作が
知っている現代の物ではなく歴史の教科書に出てくる
中世ヨーロッパでの服装に似ている。

 彼女は心配そうな顔で話しかけてきた

『大丈夫ですか?この辺では見ない服装ですが』

『旅の方でしょうか?』

どうやら自分はここで気を失って倒れていたようだ。
いろいろと疑問はあるが、まずは現状把握だよな。
とにかく彼女と話す事から始めよう。

『ご心配かけました、何とか大丈夫なようです』

『ここは何処なのでしょう?よろしければ教えてほしい
のですが』

彼女は優しく微笑みながら話を始めた

『ここは王国から遠く離れた町でスピティキナウルですよ』

『私の名はシャナといいます、森で薬草を探していて
あなたを見つけましたのよ』

『ここは人里から離れた森の中ですよ、道に迷ったので
しょか?』
 
 格好は地味な服装だが、金髪で引き締まった体型の
美しい女性だ。
かなり僕の好みのタイプだ。
さて、何と答えようか・・・・ここはどう考えても僕の
住んでいた世界ではないと思う。
理由は幾つかある、まずアパートからいきなり森って
あり得ない。
そして決定的なのは、彼女である

 金髪美女であり耳がファンタジー世界のエルフなのだ!
コスプレとは考えにくいほど質感が本物の耳なのだ。
この事実を踏まえると、理由はともかくここは異世界だよな。
でも言葉が通じるのは何故なのだろう?
この疑問は後回しだな通じるなら
まずは会話を続けながら考えを整理しないと。

『ありがとうございます、お話を聞いた感じだと
ここは私の知らない場所のようです』

『それに何故ここで倒れていたかも自分でも
わかりません、困りました・・・・』

 シャナにはある程度曖昧に答えた方が良さそうだ
まさかいきなり異世界人ですって言ったら、警戒され
そうだし。
僕が少し考え込んでる様子をしていると彼女は

『ここから少し歩きますが、私の家がありますので
休んでいかれませんか? 何か思い出せるかもしれ
ませんよ』

彼女のこの好意に僕は甘えることにした
このままここに居ても先が見えないだろうし
少し落ち着いた場所で考えを整理しないと。

『とても嬉しいです、でもよろしいのですか?
見ず知らずの者を家に招いても?』

彼女の申し出に僕は感謝したが、簡単に家に招くなど
全く警戒されてないのか、ほかに理由があるのか?

でも、この後に僕は理由を知ることになる。

◆新たな生活◆

 二人でしばらく歩いて行くと、小さなログハウス様な
家が見えてきた。
森の中の一軒家、庭と小さな小屋があり日差しが気持ち
良さそうな感じがする住まいだ。

『ここが私の家ですよ』

玄関の前で彼女は嬉しそうに微笑んでいた

『どうぞお入りください』

『有り難うございます、おじゃまします』

僕はお礼を延べ家に入った
家の中にはテーブルに座っている彼女の母親らしき
女性がいた。
彼女は僕を見て少し驚いた表情を見せたが、すぐに
落ち着いた表情に戻った。

『シャナ、その方はどちら様?』

『お母様、この方は森で倒れていたのよ』

『記憶も無くされていて、辛そうなので
お連れしましたの』

少し考える素振りした母だつたが

『そうでしたか、私はシャナの母でアンナ。』

『落ち着くまで休んでいかれたら良いでしょう』

僕はその言葉を聞き少しだが安堵した。

『初めまして私は雄靖です、御厚意に感謝します』

『途方に暮れていたところシャナさんに救われました』

『お言葉に甘えさせていただきます。』

 挨拶の後に三人でしばらく話をし、母子二人で暮らして
いることや訳あって街から離れて住んでいることなどの
情報を得た。

 しかし、これからどうしたものか・・・・
ここは異世界、知り合いもいるわけもなく住む場所もない
このままでは生存の危機だな
ここに来る前は消滅願望みたいな事は考えていたのだが
アパートで静かな死を迎えるのとは違い、かなり惨たらしい
最後になる予感がしてならない。

ここを離れたら森の中をさ迷うしかないようだし
森に生息する生物は、危険な感じがする異世界だしね
この状況どうしたものか・・・・
まだ慌てる時間じゃない、考えを整理しよう
 
 今すべき事は安全な居場所の確保、帰る方法があるのか?
この世界での状況次第では帰らなくていいのかも。
帰れないとした場合、ここで生きていくための手段。
最低限これらの事は解決しなくては・・・・

 何もせずこのまま人生を終わらせる考えもあるが
ここまで劇的な変化を迎えたことで、今後の事を考えると
何故か心が昂っている。
それは僕はラノベを読むのが好きだったのが理由で
このようなシチュエーションは嫌いではない。
むしろ今後の展開を想像するとワクワクしてくる。
でもこれらの問題は自分だけでは解決できないだろう
今のところシャナの家族に協力を求めるのが正しい選択
となりそうだ。

 自分の事を正直に話すのは流石にまずいだろうな
異世界転移なんて不信感を持たれるに決まっている。
じゃ何て説明しようか・・・・
この世界の知識は無い状態を誤魔化すには記憶喪失を
装うのが適切だな、先程シャナも母親に説明していたし
名前だけ覚えている点は少し不自然な気がするが。

 確か家の脇に納屋の様な小屋があったはず
少しの間、そこを借りれないか交渉してみよう
森で野宿はかなり危険だと感じる。

 テーブルではシャナとアンナが楽しげに会話をしている
二人の会話が途切れたタイミングで納屋の件の話を切り出
してみた。

『お二人にお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?』

椅子に座っている二人の視線が僕に向けられ
アンナが僕に話しかけてきた。

『どの様なお願いですか?遠慮なさらずに話してくださいな』

優しげな笑みを浮かべ答えてくれた
雰囲気は悪くない、こちらの要望は聞き届けられるかも・・・
思いきって話してみよう。

『今の僕は記憶もない状況なので、このままでは生きていく
のも難しいです』

『ご迷惑でなければ隣の納屋に寝泊まりすることをお願い
したいのですが・・・・』

『生きていく見通しが立つまででいいのです』

 この願いが通らなければ、そう長くない先に異世界に
骨を埋めることになるだろう。
餓死するか、味知の生物に襲われるとかでね。
初対面の立場でこの願いはハードルが高いが
今の状況では彼女達以外に出会える保証はないし
家に招かれる可能性はかなり低いだろう。

この不幸な状況に同情してもらい、どうにか手を
差し伸べてもらえる事に賭けるしかないし運任せだが
仕方ないだろうな。
それに寝場所を確保したら生活の手段も考えなくては
ならない。
流石にこの状況で養われるわけにはいかないだろうし。
そんな事を考えているとアンナはシャナの方を見ながら

『シャナ、あなたはどうなの?私は貴女が良ければ
助けてあげたいけど……』

シャナは少し考え込んだ後に答えた

『お母様、私も雄靖のこれからに力を貸してあげたいわ』

 助かった~とりあえず二人には好意的に受けいられた
感じだ。

『有り難うございます、見ず知らずの僕に心遣いに感謝します』

『差し支えなければ、少し休みながら考えを整理したいのですが?』

何とか寝床を確保できたのは有難い
後は生きていく手段を考えなくては・・・・
『納屋は少し散らかっていますので、今シャナに掃除させますね』
何か申し訳ないので僕も手伝うことにした。

 納屋は使用してないようだったが比較的に綺麗な状態だった
置いてある物も少なく寝床の設置は問題ないようだ。

 掃き掃除の後に幾つか木箱を繋げて寝床を作った
拭き掃除をしながらシャナに今後の事、とくに生活方法など
食べていくために何をすべきかなどだ。

 今まで見てきた状況で考えると時代背景は僕の住んでいた
世界での中世ヨーロッパに似ている、それはシャナの服装から
も感じていたことだ、そう考えると僕が生きるためにできる
仕事は限られそうだな。
頼れる知り合いもない訳で、その場合肉体労働的な仕事に
限定されそうだ。その辺をシャナに相談してみるか。

『シャナさん、僕は生きていく為に働かなくてはなりません
僕にもできそうな仕事の心当たりは有りませんか?』

彼女は少し難しそうな顔で考えていた

『雄靖さんは得意なこととかありますか?
 この辺では薬草採取や狩の仕事くらいですね』

 何となくだが予想はしていたが、この状況では
受け入れるしかないかな。

『なるほど、ところで採取した薬草や狩で得た獲物は
どこで買い取っているのでしょうか?』

これも帰って来る答えは予想できるな。
ファンタジー世界のお約束ならギルドとかの予感!

『いろいろですね、少量なら町で露店を開き商売したり
直接お店に売ったりしますね』

『あとは売る量が多い時は商業ギルドに持ち込むことも
ありますね、価値がわからない時はギルドがよろしいかと』

 なるほど予想は大体合ってるな、採取や獲物の種類が認識で
きて手に入れることができれば生きていけそうだ。

『そうですか、シャナさんも採取や狩をするのでしょうか?』

 もう少し情報が欲しいな、彼女達にも可能ならば
自分にもできそうだ、教えてもらえるなら直ぐにでも
試してみたい。

『私達は作物を育ててますので、収穫した作物や罠で捕った
動物などは売りに行くことはありますよ。薬草は希少なので
高く買い取ってくれます』

 これは案外イケるかも、異世界→チート能力→バトル→
冒険者。こんな展開を予想したが、今のところチートな感じ
は無いように思える。
少し残念だが命を賭ける生活は望んでいない
どちらかと言えば穏やかで安定した生活。

元の世界では少し惨めな生活だったし、変われるものなら
変わってみたい。

『シャナさん、迷惑じゃなければ薬草や狩について教えて
いただきたいのですが』

この申し出を彼女は快く受けてくれた

『わかりました、ここの片付けが終わったら森に行ってみましょう』

『有り難うございますシャナさん』

◆生活の糧を得る◆

 片付けを終え彼女と森に来ている
30分ほど森の中を歩いていると彼女は立ち止まり目の前にある植物を
指差した、それはうろ覚えだがヨモギに似ているように思えた

『雄靖さん、この薬草は磨り潰した汁を傷薬として使えるんですよ』

『あまり高価な薬草ではないのだけれど、需要が多いので売りやす
い薬草ですよ』

 なるほど・・・・採取が容易で売りやすい、薄利多売って
て事だな。
手始めには良いかも慣れてきたら段々増やせばいいしな。
あとは狩だな、教えられた薬草のように狩やすく売りやすい
ならば儲けは少なくても良いのではと考えている。

 そんな事を考えていると彼女は走りだした
その先には人の頭ほどの大きさの茶色い石があった
その前に立ち止まり持っていた槍を石の下に差し込むと
テコの原理でひっくり返し、素早く槍を突き刺した。

キィィ……と断末魔の叫びをあげ生物?石?
彼女は此方を振り向き

『雄靖さん、これはロックラビットですよ』

『狩りやすいのですが肉が少ない為に買い取りが
安いのが残念なのですが』

 この短時間で採取と狩ができたところを考えると
経験が少ない自分に合っているのだろう。
その後、彼女はいくつかの薬草や動物を教えてくれた。

 慣れるまではヨモギに似た薬草(ズキと言うらしい)採取と
ロックラビットを狩ながら生活の基盤にするしかないだろう。
帰り道に森での注意点を聞きながら納屋に戻り明日に備える
ことにした。

 翌朝、狩や採取に必要な解体採取用のナイフや捕った獲物の
を入れる麻袋のような物を譲り受け森に出かけた。
優先は食料を兼ねる狩りだ、少なければ食料にするし
多めに狩れれば売ればいい。
 狩りをしながら薬草採取!
しばらくはこのパターンで行こうと思う。
森で棒状の間伐材を見つけ先端をナイフで削り簡単な槍を
作った、これでロックラビットを狩ってみよう。

 しばらく歩いていると木の根本に居るのを見つけた
そっと近づくが逃げる様子がない
シャナの話では、その体重のため動きが緩慢で狩りやすい。
獲物のとしては売値が安く人気が無いらしい。

 そっと近づきシャナがしていた様に作った槍もどきを使い
ひっくり返して仕留めた。

『ん~狩りやすいな、これなら俺にもできそうだ!』

 ロックラビットはその重さから、血抜き解体して持ち帰るそうだ
解体手順は前にシャナから教えられたので問題なく解体を行えた。
早く慣れて数をこなさないと金にならない、解体していると
小豆くらいの大きさの水晶の様な物が出てきた

 シャナから解体を教わっていた時は無かったと思う
帰ったら何なのか聞いてみよう。

 その後、数匹のロックラビットと少しの薬草を取り
納屋に戻った。

 ロックラビットの肉は鳥のササミより一回り小さい
一匹から2つ取れる。
まとめて売るために干し肉にして保存する、食用ではあるが
酒のつまみとして食されるようだ。
薬草も乾燥し、ある程度の量になってから売ることにする。

 夕食はしばらくシャナの好意により一緒に食べることに
なった、現金なり狩猟で自活できるまでの間お世話になる。

 この状況、自分は幸運ではないだろうか?
シャナの家族は見ず知らずの自分に優しく接してくれるばかりか
仮住まいの納屋まで世話してくれた、その好意には大いに感謝
している。
元の世界よりこの異世界の方が他人の親切を感じられる
このままこの世界で生きていく方が幸せではないだろうか?
今は生きることを優先に考えることにする。

 夕食は硬めの黒パンと肉の入った野菜スープだ、薄味で
体に良いかも、それに優しさを感じる味かな(思い込みかも)

 そうだ獲物の体内から出てきた鉱物の事を聞いてみよう

『シャナさん、今日狩ったロックラビットの体内からこれが
出てきたのですが何なのでしょうか?』

『あ、それは 願いの石 ですね、ロックラビットの体内から
希に見つかる石ですよ』

『あまり価値が無いので子供の玩具になってますね』

 なんと!水晶に感じが似ているので多少は価値がありそうに
思えたのだが、少し残念だな。

『そうなんですか、見た感じ綺麗なので価値があるのでは?
と思いました』

ま、綺麗だし取っておくかなと思いポケットに入れた。

この日は夕食をご馳走になり寝床(納屋)に戻った
疲れているのか、横になると睡魔が襲ってきて深い眠り
についた。

◆今後の方針◆

《夢の中》

『おお~い・・・・起きてるか~』

『この世界はどうかな?楽しい?』

ん?何だ何だ・・・・声が聞こえるが俺、寝たよな?
これは夢? 話し声は続いた

『夢でもあり現実でもあるかな、多くは語れないが
この世界に導いた者として伝える事がある』

 やっぱりか!何者かによりこの事態になったと
予想はしていたが・・・・
そして伝えたい事ってなんだとうか?
聞きたい事は沢山ある。

『雄靖よ、聞きたい事は有るだろうが今は腕輪について
だけ話そう』

それから声の主は話を始めた、話の内容はこうだ
腕輪には三個の丸い窪みがあり、そこにロックラビットから
取れた水晶の様な石を嵌め込めばひとつにつき一回願いが
叶うらしい。
なんと元の世界にも帰れるとか。

すべての石が嵌まるのではなく、合わないのがほとんどだ
今回の狩りでは一個だけ適合した。
願い事は三個揃うまではテストはお預けだな
それに願いについてはよく考えたい。

 謎の啓示から数日が過ぎ、狩猟や採取も順調に
こなしていた。
ロックラビットの干し肉は数が揃えばそれなりの
収入になった、薬草は肉に比べると収入は少なめ
なのが悲しい。

 稼ぎから納屋の家賃を払えるようになったことで
彼女達に対して心の余裕ができてきた様な気がした。
今では狩りや日々の出来事を話しながら食事を共に
している。

 この異世界での生活は心地よく人間らしく生きてる
と感じる。
ここに来る前の自分は社会にも人間関係にも絶望し
生きる気力を失っていた。

ここでの生活は自分は自然の一部だと感じながら
自然に身を委ねて生きている
危険は多いが生きるも死ぬも自己責任であり
それが心地よくも感じるのは、理不尽な出来事に
悩まされる事が無く優しく接してくれるシャナの
家族の存在だと感じている。

食事を終え納屋に戻り明日の事を考えながら眠りについた。

《シャナ家族視点》

 雄靖が食事を終え納屋に戻るとシャナと母は話を始めた

『シャナ、彼は死に別れた夫によく似ていると思うのだけれども
辛くはないの?』

 母の問いかけにシャナの表情は少し沈んだ感じになった
雄靖は人族だが他界したシャナの夫に似ていたのである。

 シャナの夫は狩りの最中に大型の魔獣に襲われ逃げ延びたが
その時の怪我が原因でこの世を去っのであった。
しばらくは悲嘆に暮れていたが母の優しさに支えられ
悲しみを乗り越えていた。

 そんな彼女の前に突然死に別れた夫に瓜二つの雄靖が
現れたのだ、母は娘の心が動揺するのではと心配したのだ。
シャナはそんな母の気持ちを察知し平常を装い母に答えた

『大丈夫よ、お母さん 夫の事はお母さんのおかげで
気持ちの整理がつきました』

『でも出会った時は驚いたのよ』
 
 母にもその驚きは理解できた、それ程、雄靖は容姿や顔が
似ていた。
でも今、シャナは心の何処かで安堵の感情も抱いてた
容姿が似ているのもあるが、ここ数日の雄靖を見ていると
夫に感じていた優しさが雄靖にもあることを感じていた。

 それは母も気づいていた、死んだ娘の夫にそっくりな
男が突然現れた
この事は母にとって警戒するべきなのだろう、だが雄靖の
優しさに触れていると娘が抱いている感情を理解できるような
気がした。

『シャナ、気持ちはわかるけど彼は夫とは別の存在、それは
わかってるでしょ?』
 
 母は落ち着きを取り戻した娘の心がまた乱れるのを心配した。
だがシャナには動揺した感じは無いように見えた。

『大丈夫よ、お母さん少し驚いただけよ、もう心の整理は
ついてますから心配しないで』

 母の問いに彼女は普段通りに答えるのであった。
それどころか彼女はどことなく微笑んでいるかの様である。

 彼女のその雰囲気から母は娘が夫の死を受け入れ
雄靖との出会いを楽しんでいるかの様に思えた。
シャナは雄靖と話す機会が多く、それなりに親しいく
なっていた。

『シャナ、彼の様子はどうなの?』

『そうね、狩りや採取もだいぶ慣れてきましたよ、
もう少し稼げたら納屋の借家代と食事代を支払いたい
ような事話していましたよ』

『雄靖は今後どうしたいのか、シャナ聞いてみてくれる?』

その事についてはシャナも母と同じく気になっていた。

『そうね、明日は彼と一緒に町に行くので聞いてみるわ』

 翌日、雄靖とシャナは町に獲物や薬草を売りに向かっていた
町までは歩いて3時間ほどである、歩きながら昨晩に母と話して
いた事を聞いてみた。

『雄靖はこれからどうするの?』

『記憶が戻れば今後の方針が決められるのですが
今のところ何も思い出さなくて・・・・』

『もうしばらく今の生活を続けるしかないかと』

『そうですか・・・・何かお手伝いできればよろしい
のですが』

 シャナの気持ちは嬉しいのだけれども本当は記憶を
無くしてはいない、怪しまれないように真実を隠して
いるだけなのだから。
でもシャナの家族の心配も理解できた、私も立場が逆なら
心配していただろう。

今後について考えていた事があるのでシャナに話した。

『考えている事があります、いつまでも納屋を借りて
いては迷惑でしょうから納屋を出ようと思います』

『え!では、住居はどうするのでしょうか?』

『町に住まいを借りるのでしょうか?』

『まだこの土地に不慣れですので、許していただけるのなら
シャナさんの敷地を少しお借りして小屋を建て、そこで生活を
と考えています』

『もう少しお金が貯まったら相談しようと考えてました』

 シャナは顎に手をあてて少し考えていた、死に別れた夫に
似ている雄靖との生活は心のどこかで楽しいと感じていた。
ただこの話を聞いた母の反応が気になっている、雄靖の
これまでの行動を思うと母も反対はしないだろう・・
でも私の事を心配して反対するのではないかと。

 私たちはエルフ族だけど雄靖は人族、母は種族の違いを
心配すると思う。
私たち家族がエルフの村を離れ暮らしているのは夫は人族
だったから。エルフ族は異種族交流を嫌う傾向にある。

 人族の夫と死に別れ、そこに雄靖が現れた・・・・
母は夫の事は人族だったけど理解をしてくれた
たぶん思うところはあったであろう。

 そこに人族の雄靖が現れた、感情的には複雑かも・・
私の心も出会った時は心が乱れたけど、今は落ち着いている。

 母の心配は当たっているかも、私は雄靖の事を案外気に
入っている、理由は夫に似ている訳ではなくて数日間彼を
見て好意が持てると感じたから。
それに彼の側に居るとどこか心が安らぐと思えた。

 こんな事を考える私は夫に対して裏切り行為?
あなたごめんなさい!

『あ、ごめんなさい! 私から聞いたのに呆けちゃって、少し考え事
していました』

『新しく建てる小屋の事は、お母さんに聞いてみますね』

 シャナさんはどうしたのだろうか?
近くに住まわせてほしいなんて話したから驚いたのだろうか・・・・
正直なところ、この事は話したらいいか迷っていた。
万が一警戒されてしまえば今の状況の全てが悪い方向に
いってしまいかねない、でも話そうと決意できたのは
彼女の家族(母と娘の二人だが)が好意的だと感じたからだ

 もう話してしまったので、運を天に任せるしかないか
この話を聞いて彼女は笑顔のままだ、きっと上手くいく
だろう……

 しばらく話していると目的の街が見えてきた
二人は街の中心近くにあるギルドの買い取りカウンターに
向かった。
今回の買い取り価格は高めだったので以前から考えていた
買い物をしようと思う。

 シャナの家族には言葉では言い表せない感謝の気持ちがある。
だから節目と言う訳ではないが何かプレゼントをしようと思う。
前に売りに来た時に髪飾りを売っている店があった、装飾品は
好みがあるので少し悩んだが、ほかに思い浮かばなかった。

 ギルドで換金を終えシャナと別れてから髪飾りを売っている
店に向かった。
ドアを入ると店員の声が届いた

『いらっしゃいませ、お探しものがあれば ご案内しますが?』

商品の陳列されている場所は知っていたので

『大丈夫です、お気遣いありがとうございます』

髪飾りが陳列されている前に行き選び始めた
シャナには明るめのデザインがいいかな?などと考えていると
カラフルな花をモチーフにした髪飾りが目に止まった。
シャナにはこれに決めよう、お母さんには落ち着いた色合い
のデザインの髪飾りに決めた。
二つの髪飾りの支払いを終え帰路に就いた。

◆決意◆

 お礼の意味を込めた髪飾りを買った日の夕食
食べ終えてくつろいでいるとシャナは母に雄靖の今後に
ついて話を始めた。

『お母さん、雄靖に今後の事を聞いたのだけどね』

『私達の近くに小さな家を建てて暮らしたいそうよ』

それを聞いた母は驚きもせず話を始めた。

『そうなの雄靖さん?』

『この辺は土地も平坦で開けている場所も多いし誰の
所有でもないのだから安心して建てられますよ。』

 母はこうなる事を予想はしていた
記憶を無くし一人で生きていくことは困難だと思う
種族は違えども同情はしてしまう。
娘も死に別れた夫に似ている彼を少し気にしていると
母は感じていた。
雄靖も娘のことを気に入ってると思うが、それが娘にとって
良いことなのか母は思惑っていた。

 母の思いを知らない雄靖はシャナの母の言葉に安堵したのか
気分が軽く感じられた。

『そうなんですか!まだここの生活に不安があるので近くに
住めるのは助かります』

『以前、町で知り合った職人に建築を頼む予定です』

何回か町に通っているうちに親しくなった職人だ
名前はズムコ、腕が良く気さくな男である
建てる資金が少ないと話したら、かなり値引きしてくれる
約束になった。

『あと2、3回売りに行けば資金は貯まるので、その時は
お話します』

 家が用意できれば試してみたい事がある
一つは未だに謎の多い腕輪についてだ、正体不明の人物によると
ロックラビットから取れる水晶の様な物を嵌めることで願いが
叶えられると言っていたがまだ試してはいない。
 元の世界に未練は無いが万が一に備える意味でも戻れるか
確認しておきたい。

そろそろ用意していた感謝の気持ちを込めたプレゼントを渡そうと
思う。

『シャナさん、アンナ(お母さん)さん、丁度良い機会なので
今までお世話になったお礼にプレゼントを用意したので受け取って
ほしいのですが?』

 それを聞いた二人は少し驚いた表情を見せていた。

『雄靖さん、そんなに気を使っていただかなくてもよろしいのよ
私も娘も雄靖の力になりたかっただけなのだから。』

『お二人には感謝しています、もし一人だったら今の自分は
無かったのではと思うくらいです。だから感謝の気持ちとして
受け取って下さい』

 その言葉を聞き彼女達は快く受け取ってくれた。
僕の人生で女性に贈り物をするのは初めてかもしれない
この世界に来る前は少しだがボッチな生活だった、人付き合いは
上手ではないと感じてる。
こんな自分が変われたのは彼女達のお陰だと感じている。

 食事を終え、贈り物を渡してから借りている納屋に戻り考えを
整理していた。

『贈り物は渡せたし、後は近くに小屋を建て腕輪の実験だな、万が一
を考えて、この納屋ではできないよな』

 彼は、何が起こるかわからない状況を警戒し納屋での実験を見合わせて
いた。
今後の事を考え眠りについた。

◆過去◆

 遊作が納屋に戻ると親子は懐かしむ様に話していた

『ねえシャナ、彼を好きなの? あなたは大人だし私が
口を出すのもどうかと思うのだけど心配なのよ』

 シャナは、いつか母に聞かれるだろうと思っていた。
今はまだ雄靖は好感が持てる男性、容姿が夫に似ているのが
気にはなっている。
複雑な気持ち・・・・母の心配も感じていた。

『お母さん安心して、嫌いではないけど助けてあげたい気持ちが
あるだけよ。でも良い人だと思っているわ』
 お母さんに心配をさせてしまった、でも自分の気持ちに自信が
持てない。雄靖とのふれあいは心のどこかが満たされていると
感じている。今でも未練が有るのかな・・・・

『あなたが雄靖との事に特別な思いが無いのなら良いのだけれど』

その母の言葉には不安を払拭できない心うちが込められていた。

 シャナの夫タカディールは狩りで魔物に遭遇し亡くなった、二人で暮らし始めて
二年での出来事だった。
狩りの場所は滅多に魔物が出没する所ではなく運が悪かったとしか
言いようがなかった。
人族であったタカディールは魔物に対しては無力であった。
何故か容姿は雄靖に似ている、その辺がシャナの気がかりでもあった。

◆腕輪の力◆

 シャナの家族に話をしてから程なくして念願の小屋が完成した
8畳程のリビング兼寝室、キッチン、小さいが浴室とトイレがある
感覚的にはアパートの様な感じだ。
いつもの狩りを終え部屋でくつろぎながら腕輪の事を考えていた。

『はめ込む石は揃った、今夜試してみるか』

夕食を終え石を準備する
はめる所は3箇所ある、何となくの想像だが願いの大きさで石の
必要量が決まるのではないか?
今回はテストなので極端な願いにしてみよう。
腕輪に一つ石を嵌めた

『願いは、この部屋を埋め尽くす大金が欲しい!』
すると頭の中に声が聞こえてきた

(この石の数では叶えられない願いです)

『だろうな予想はできたが、声が聞こえてくるとは不思議だ』

『仕組みはわからないが機械的な物は感じられないし魔法?』

 やはり予想してた通りだ、おそらくだが以前謎の声の主によれば
元の世界に戻れるらしい
腕輪に3個嵌めると戻れる様な気がする。

今回はテストでもあり欲しい物があったので試してみる

1つ嵌め『これに見合う剣が欲しい』

そうすると目映い光と共に一本の剣が現れた
それはバスターソードであった、グレートソードよりは
私には使いやすいのではないかな?
ま、それは後で考えるとしてテストは成功だろう。

 石の手持ちは10個、仮に片道移動に3個必要とするなら
往復するのは可能だ、元の世界よりはこの異世界に愛着と言うより
シャナの家族に親しみを感じている自分が心地良いからだと思っている。

 それでも帰れる方法を確認する理由は何時でも帰れる状況を安心材料
にとの考えからだ。
不安だが確認しておく事は今後の生活スタイルに影響するだろう。

『さあ試してみるか』

石を腕輪に3個嵌め予備の石を袋に入れ腰に着けた
少し不安だが強い興味もある
雄靖は覚悟を決め石に願いを告げた。

『元の世界に戻りたい!』

 腕輪が眩しく輝きだした、足元に魔方陣の様なリングが出現
したと同時に目の前が光に包まれた。

 光が収まるとそこは少し懐かしいアパートの部屋だった
異世界に渡って随分と時間が経ったはずだが、この部屋の様子は
ほとんど変わっていない。何なんだろう?

 とっくに家賃は滞納になってるはずなのだが部屋が整理されてる
様子もない、まるで異世界に来る直前の状態に思える
部屋の照明をつけようとしたが電気は止められていた
電気、水道などは異世界に渡る前に止められていたし。

 今の状況を整理するためにもう少し情報が欲しいので外に出る
事にした。確かこの近くにコンビニがあったはずだ行ってみるか。

 しばらく歩きコンビニに入った
店内に設置された日付付き時計を見て驚きの情報を得た
今日は異世界に飛ばされた日ではないか!

『これは・・・・腕には腕輪がある、異世界は夢や妄想ではない
のは確かだ、どうやら戻る場合は異動した時点に戻るようだ。

 異世界に戻る場合も同じと考えるのが正しいだろう
ならば焦って戻らなくても良さそうだ。
異世界に転移し生活する中で面白そうなアイデアを思い付いて
いた、お互いの世界に無いものを売買するとか
腕輪を使い未来予測しお金儲けできないか?など・・・・

 腕輪に使えない小さい石はアクセサリーとしてフリマアプリで
売れそうな気がする。
もう一つは一週間か一ヶ月先の新聞をてに入れ投機に利用することだ。
趣味でネットトレーディングをしていた事があり株取引には多少では
あったが知識はある。
当時は先の株価が分かればなどと思ったものだ、願いが叶う事実を
知った時に初めに思い付いたのは言うまでもない。

 よし、試してみるか!
先ずは1個で始めてみよう。

『一ヶ月先の○○新聞が欲しい!』

すると腕輪から声が聞こえてきた
(石の数が不足です)

『ん~対価の基準が今一つ理解できないな』

石を二つ嵌めて先程と同じ願いをしてみる

 今度は目映い光と共に新聞紙が現れた!
日付を確認すると30日後の日付だった。

『うわ!これは、凄いな ヤバくない?』

思わず発した言葉とは裏腹に気持ちは舞い上がっていた

『これは、これは初期投資の資金があれば、確実に利益を
上げる事ができるぞ!夢なら醒めないでくれ』

 この事実に興奮状態ではあったが資金の調達を考えると
少し冷静になれた。
今の自分には狩りで得た石だけだ、それ以外は異世界での生活に
必要な資金源となっている。
どうせ毛皮や肉は 元の世界ではお金にする方法を知らない。

 何とか石を現金化できないだろうか・・・・

単純に石を売る、少し加工して売るかな?
天然石アクセサリー作りを趣味としていた時期があったので
簡単な物は作れると思う。
売り方はフリマアプリを利用すればいけそうかな・・・・

 先ずは試作品の作成だが時間がかかる事を考慮すると
異動元の世界の時間経過が停止状態だとすると、異世界に異動し
作品を製作、販売の準備をするのが良いだろう。

 当面の活動資金として直ぐに現金化できる物を考える必要が
ありそうだ、フリマで稼げるまで家賃の支払をしなければならない。
異世界に戻ってから考えるとしよう。

 こちらの生活は仕事を含め絶望に思えていたが、異世界の生活を
経験してからはそれほど苦には感じなくなっていた。
その理由は異世界では普通に暮らしていても命の危険がある
それは魔物が存在しているからだ、狩りや町からの異動で遭遇すれば
命の危険が増す事になるだろう。
森奥深くや人里から離れた所などで運が悪ければ魔物に襲われる心配は
無い。

 異世界で生活する事で肉体的、精神的に成長したのだろうか?
今は二つの世界を行き来できる様になり、手に入れた石を使い
アクセサリーとして販売する、未来の新聞を入手し投資に利用
する事を考えている。

 先ずは一旦、異世界に戻る事にした
今後の計画と手段を纏めるためだ、こちらに居ては時間が経過
してしまい家賃などの支払い期限が迫ってくるので、じっくり
と考えるには適していない。

『さあて戻るか』

雄靖は異世界に戻った

◆希望への準備◆

 雄靖は異世界に戻り日中は狩りに夜は今後の計画について
思案する日々を送っていた。

 ロックラビットから取れる石も少ないながら集まっている、全部38個
あり、アクセサリー用に20個、転移用に18個を準備した。

 アクセサリーはペンダントトップとキーホルダーを作る予定。
石を加工するのは困難なのでシルバーワイヤーで包み込むデザインに
しようと思う。

 雄靖は多趣味で以前天然石アクセサリーを作っていた経験があった
それはアクセサリーが目的ではなく不運続きの自分を変えたいという
気持ちからだった。

 元の世界から戻る時に以前使用してた手芸道具を持ってきたので
製作作業は順調に進んだ。

『何とか売れそうな物が出来たな、後は元の世界で現金化が容易な物を
探さないとな』

そして一月が過ぎた・・・・

 アクセサリーと異世界の町で購入した少し怪しい感じの置物数点を
準備し再び元の世界に転位した。

 アパートに転移し置物だけ持ち近くの何でも買い取る○○書店に
置物を持ち込んだ。

 買い取りカウンターに置物を並べ店員に査定を依頼し、終わるまで
店内で時間を潰していた。
しばらくして査定が終わったらしく呼び出しの店内アナウンスで
呼び出された。

『査定でお待ちの53番、島仲雄靖様、査定が終わりました
ので買い取りカウンターまで御越しください』

 カウンターでは買い取り価格と身分証の提示を要求された
運良く何と置物は銀製らしく全部で3kgくらいあり総額で20万円
になった。
お金を受け取り店を出た。

『ありがとうございました~またのご来店を御待ちしてます』

店の前で思わず『良し』と声を出してしまった!
 
 異世界での仕入値は、こちらの感覚的には5千円程度だったので
金属の価値には違いがあるのだろう。
お金を銀行口座に入金し、アパートの家賃とスマホの支払いに回した。

 アクセサリーはフリマアプリの○○カリに出品しておいた。
売れると良いのだが・・・・
(しかしこれが後にちょっとした騒ぎになるのだが・・・・)

 異世界に戻る前に次の仕込みの準備をしなくてはならない
銀製品が換金に適している様なので、投資に換金資金を充てる
ことにした。
後は今日の新聞と腕輪を使い一週間後の新聞をてに入れ、異世界に
戻った。

 こちらでの生活にも少しだが変化してきた、日中は相変わらず
狩りと町での買い付けをこなし、夜はアクセサリーを製作している。

投資については現物取引をする銘柄の選定は済んでいる。
先に入手した新聞の情報で一週間後の株価が判明しているので
ある程度の利益を見込める銘柄を選ぶ。

これが問題なく取引できれば、長期的な視野で利益の得られる
銘柄を購入する予定。

 今夜はシャナの家から夕食の誘いが来ている
食事を共にするのは久しぶりな気がする。
狩りやアクセサリー作りで忙しく挨拶は交わしていたが、ゆっくりと
話す機会は少なくなっていた。

『今晩はお招き頂き、ありがとうございます』

『娘は食事の仕度をしていますので、その間にお茶でもいかがですか?』

 この世界のお茶は紅茶に似ている、アールグレイと同じような香りだ。

『ありがとうございます、いただきます』

『雄靖さん、ここでの生活は慣れましたか? 狩りの他にも何かなさ
れてるようですが?』

『はい、ちょっとしたアクセサリーとか作っています』

『町で売れればいいのですが、まだそこまでの品物になっていなくて』

『でも生活は狩りや採取で何とかなっていますから』

『そうですか、元気そうですし安心しました』

『今晩は食事をしながら、いろいろお話しを聞かせてくださいね』

『雄靖さん、いらっしゃい!』

夕食の仕度を終えシャナが部屋に入ってきた。

『今晩はシャナさん、今日も綺麗ですね』

 最近はシャナと話す機会が減っていたのと場を和ませる意味で
シャナさんを誉めてみた、でも少し本音が混じっているかな?
性格は優しく、一緒にいると心が安らぐ女性だと思う。
元のいた世界では色々あり女性とは縁が無くシャナさんの
優しさは僕の心を癒した。

『雄靖さん、お上手ですね、フフフ』

『食事の用意が出来てますので、こちらのテーブルにどうぞ』

 狩りの事とや夜はアクセサリーを作り、商売にしようと考えて
いることなど、近況報告の話しをしシャナ達の意見を聞いてみた。

気になっていた銀製品の置物についても聞いてみる。

『お聞きしたい事があるのですが・・・・』

『何でしょう、私たちにお答えできれば良いのですが』

『町の市場で見かけた銀色の置物は何で作っているのかな?』

『私はわからないけど、お母さんは知ってる?』

『ん~あれはたしかアルジョンという金属だったと思うわ』

『良く取れるし加工しやすいから、よく置物の材料に使われて
いるようね』

『そうですか、よく見かけるし銀色で綺麗ですよね』

 なるほど、これは元の世界での資金作りには理想適かもしれない
仕入値が安く高額で売れる、怪しまれないよう売る場所は安全の
ため分散した方がいいな。

『お料理が冷めないうちに食べましょう』

 そして食事を楽しみながら会話を続けた、最近シャナは魔法の練習
をしているらしい、魔獣を追い払う効果がある魔法らしいが説明を
聞いても理解できなかった。
なぜ、シャナはその魔法を会得しようとしていたか僕は後から
知ることとなる。

 シャナの母は僕とシャナが話している様子を見て微笑んでいたが
どこか不安そうな感情が見え隠れしていると感じたのは気のせい
だろうか・・・・

 楽しい時間は瞬く間に過ぎ食事を終えた僕はシャナの家族にお礼
を言い家をあとにした。

次に転移する為の準備は整っている、アクセサリーそして株の投資
銘柄。
でもその事で幾つか問題点が出てきた、それは転移しても時間の経過
が無い事だ、前回転移した時間に戻る、初めは都合が良いと思ったが
フリマや株の売買を考えると、しばらく滞在しないと売買ができない。
ちょっと試してみるか!石を3個嵌めて願う。

『前に転位した日の一週間後に転移』

すると腕輪から声がした。

(石の数が不足しています、拡張しますか?)

う、何となく予想はできた
石は対価のようだ、気付いた理由は先の転移でてに入れた新聞で
抜けている記事があったからだ、その記事とは宝くじの当選番号
で高額当選番号だけ消えていたのだ。
その事から対価に見合わない情報が削除されたのだろう。

拡張で対応できるのならば迷う事はないな

『拡張してくれ!』

その瞬間腕輪は輝き嵌めてあった3個の石は消え、3ヶ所あった嵌め込む
所の両端に1個づつ全部で5ヶ所になった。

『お~~、これは最高じゃない? これで短期的な株の売買が
可能になったよ』

などと部屋で一人興奮状態になっていた。
銀製品の置物の転売は利益は大きいが回数が増えれば目立って
しまい警戒されるだろう。
一回の利益を少なくし地道に利益を積み上げていけば
それなりの金額になると思う
今後の事など決めてはいないけど資金があるに越した事はない。
などと考えながらこの日は床についた。

◆Looklng to the future◆

 今日は自分で決めた休養日だ、異世界では決められた休みは
無い、そもそも休みの概念が無いのだろう。
全ての人々ではないのだろうが今のところ関わった人々はそんな
感じだ。
自分は元の世界に習い週休二日にしている

 休みの日は今後の事を考えたり、狩りや商売の準備などしている。
今日はそんな日だ・・・・

 狩りで魔石を得、元の世界で金を稼ぎ一年が過ぎた
ある程度の金額が貯まってた事もあり、これからの方針を決める
必要があるだろう。

 しかし元の世界で絶望していた自分が異世界に来て生きる楽しみ
を感じている事が不思議でならない。
ま、嫌じゃないので、この状況を楽しもうと思う。

 異世界転移前は建設業で働いていた関係で雇われる仕事は今度は
避けたいところかな。
しばらく前からカフェの経営に興味があり資金があれば挑戦してみたいし
珈琲は好きだからオリジナルのブレンドで煎れてみたい!なんて考えたり
してみた。
自分は少しオタクが入っているので、コスプレカフェなんてどうだろうか?
そんな事考えていると段々楽しくなってきてしまった。

 今後の事は今のところ急ぐ必要性はないだろう、これまで稼いだ金額も
其なりに確保できた、方針が決まり不足する時は又稼ぐとしよう。

 しかし今後の活動資金の確保が自分で考えていたよりは比較的容易に
できたと思う。狩りでは多少の危険はあったのだが・・・・

 置物の転売で投資資金を確保し、それを基に投資に充てる
値上がり銘柄に投資する事で確実に資金が増える。
元の世界で株の売買で利益を上げるのは容易ではなかったと思う
大きな流れで会社の業績を加味し利益を上げるには少ない投資額では
難しい、仮に利益が出ても投資期間と利益を考えると効率的とは思え
ないからだ。
数千万の金額で運用するなら投資期間が長期に渡っても十分な利益を
得る確率が高い。

 個人の少額投資で利益を上げるには短期で値上がり率が高い銘柄で
取引するのが効率が良い、利益が少ないと取引手数料で利益が取られて
しまう、長期になれば予測が難しく利益が少ないと労力に割りが合わない。

 僕自信も以前に株投資していたが投資額よりも評価額が下回り
売ることも躊躇い所謂「塩漬け」状態になっている。
当時も値上がり銘柄が判ればなどと考えてるいたっけな・・・・

 元の世界での資金の確保、異世界では生活の基板ができた。
後はこの条件下でこれからの行動を決めなくてはならない。
異世界に来る前は生きる事に絶望し、どこか死を望んでいた所が
あった。
未来、現在に執着が無くなると死さえ安易に肯定してしまう
異世界に転移したのもそんな時だった。

 今は生きる意味を考える様になっている、楽しみながら稼ぎ
シャナの家族や町で知り合った人達との交流は心地良い。
異世界での生活は近代的ではないが昭和の始めの様などこか
長閑な雰囲気がある。
魔獣や盗賊などの存在もあり決して安全ではないが慎重に行動
する事である程度危険は回避できる。

 異世界と比較した場合は金銭的な問題が解決すれば、勝手しってる
元の世界が何をするにも楽かもしれない。
人間関係も希薄で仕事的にも挫折している事を考えると今後の生活に
希望が持てないだろう。

 今は転移した異世界の方が将来に希望が得られるのではないだろうか?
もしかしたら元の世界で商品を仕入れ異世界で商売をすることは可能では
ないか?
次に元の世界に転移した時に売れそうな物を買ってくることにした。

ー数日後ー

 元の世界で幾つか商品を購入し異世界に戻ってきた
サンプル的な物だから100円ショップを利用し異世界でも
不自然でないものを色々と揃えてみた。

ガラスのコップ、瀬戸物、木製のオモチャなど自然の素材を加工
した製品を選んだが売れるかな?

 買い揃えた物の中から数点を選び、よく置物を買いに行く店に
向かった。

『よ、雄靖いらっしゃい、また置物かい? 今日は良いのが無いな』
『なんてな、ガハハハ』

 店の店主のヤニスに声をかけらた、気さくで性格は正直者な男で
性格的も自分と相性が良い事から、この店を懇意にしている。

『ヤニス、今日は違うんだ。買い取りの相談なんだが頼めるか?』

『お、なんだい? 珍しい物でも手に入れたのかい?見せてみな』

 一度に見せるのはちょっと不安なので、先ずはガラスのコップから
見せる事にした。
異世界に来てガラス製品はあまり見たことがなかったので
希少価値に期待していたからだ。

『これなんだけど、買い取れるかい?』

ヤニスは出されたコップを見ると慌てて店の奥の部屋に
荷物ごと僕を押し込んで話しかけてきた。

『雄靖これどこから手に入れた!これガラスだろ?』

『あ~ガラスだけど・・・・それがどうかしたのか?
 随分驚いている様だがヤバイのか?』

『雄靖の国じゃどうかわからないけど、ここではガラスは
 貴重品だからな! 安易に人に見せたりすると下手すると
 襲われて奪われるからな。気を付けろよ』

『え!そうなのか・・・・知らなかったんだ、心配かけたな
 これは家を出る時に両親から渡された物なんだ』

貴重な物の様なので咄嗟にでた嘘の言い訳だが何とか誤魔化せた
かな? 

『そうだったんだ、まだ持っているなら厳重に保管するんだぞ!
 襲って奪おうとする輩が現れてもおかしくないからな』

 ガラス製品が異世界では貴重品とはな・・気をつけよう。
他は瀬戸物はガラス製品ほどではないが想像より高めで売れた
木製のオモチャは引き取り対象外だった。

 今後は瀬戸物を中心に売れば安定した収入源になりそうだ。

『ヤニス、忠告ありがとな、ガラスは難しいが瀬戸物は定期的に
 買い取ってもらえるのかな?』

『ああ、柄物よりも無地の方が需要はあるな、良い柄物なら
 高値で売れる時もあるぞ、しばらく展示する事になるがな』

 ヤニスには数が揃ったら売ると約束をして家路についた。
帰り道、以前から気になっていた事を思い出していた
シャナとは何度か採取や狩りに行っているが彼女は革製の小さな
袋を持っているだけで薬草ならば良いが狩りの獲物などはどうして
いるのかと?

当時は別の日に狩りをしているのかと思っていたが、今思えば
毎回というのは不自然だ、狩場や採取場所に着いたら別々に行動を
していたので収納しているところを見ていない。

次に同行する前に聞いてみようと思う。

 帰宅すると元の世界から持ち込んだ商品が無造作に部屋に
置かれているのを見てヤニスの言葉を思い出し少し怖くなった。

『このままでは命の危険があるな・・・・』

何故ならガラス製品、コップなど数多く持ち込んだからだ!
まさか異世界ではガラス製品が価値が高いとは想像しなかった
からな、何か自衛手段を考えた方がいいな。

 翌日、シャナと薬草採取に行く約束を取り付け僕の家の前で
待ち合わせをする。

『こんにちはシャナさん、今日はよろしくお願いします』

『こちらこそ、よろしくです』

『ところで採取に行く前にシャナさんに聞きたい事がある
 のですがいいですか?』

『何でしょうか、私にお答えできればいいのですが』

『以前から不思議に思っていたのですが、採取などで出掛ける時は
 いつも身軽ですけど、採取した物はどのようにして持ち帰って
 いるのでしょうか?』

『あ~その事ですか、私たちエルフ族には便利な魔法が伝えてられて
 まして、ちょっとやってみましょうか』

 そう言うとシャナは詠唱を始めた

 ♪∝*∃∬〓♯◇∞♪

 すると何もない空間に穴の様なものが出現した!

『シャナさん、これは何ですか??』

 異世界って事で何となく想像はできる、恐らく空間収納の
ような物だと思う。
でも今は驚いた素振りで詳しく聴く事にした。

『これはですね、エルフ族に伝わる技術で収納する技ですのよ、
 採取や狩りの時は便利なんです』

?ん?魔法とは違うのかな・・・・魔法っぽいけど、技術ってことは
誰でも習得できるのだろうか?

『それは人族でも使うことができるのでしょうか? 実は貴重な物を
 近々、預かる事になりまして、使えたら便利なんじゃないかと
 思いまして』

『そうでしたか、でも私の知る限りではエルフ族以外に使える種族
 を存じません。ご免なさい、お力になれなくて』

『いいんですよ、お気になさらないでください少し興味があった
 もので、差し支えなければ技を使う時の感覚がどの様な感じか
 知りたいのですが?』

 想像だけど魔法の様な感じだろうか?
多分だが今の自分には使えないだろう、でも腕輪を使えば
何とかなりそうな気もする、確信は無いのだが。

『そうですね、遊作さんに聞かれるまでは意識した事はない
 のですが、手から熱いものが出る感じとでも言いましょうか?
 すいません、なんか変な説明でしたね』

 ん~聞いた感じだと魔法っぽいな、使える自信は無いけど
何とかなりそうな気がするのは腕輪に願えば使える気がする
からだ。

 収納の魔法?・・は使えれば元の世界で仕入れた物を安全に
保管、運搬できるので今のこの状況では必須だと考える。
現実に存在する事象なら腕輪に願いを叶えてくれるかもしれない。

まだ魔石には余裕もある、今晩にも試してみるか

その日は魔石の事もありロックラビットを気合を入れて
狩りまくった。

◆なんか楽しくなってきた◆

 数日後、魔法について腕輪に願ってみる事にした
最近増えた二個と合わせて五個、魔石を嵌め

『腕輪よ収納魔法を使えるようになりたい!』

(魔法習得には石が足りません、拡張しますか?)

『拡張してくれ』

 同意の後に嵌め込みが四つ追加された、以前に転移関係での
要求よりも多いのには驚かされた。
魔法に関しては価値のあることなのだろう。

 全部で九個の魔石を嵌め込み再度願いを口にした!

その瞬間視界が閉ざされ暗闇から記号のような模様が脳内に
入り込んできた。
その内、記号が日本語に変換され内容が理解できるようになって
きた、内容は使用方法と注意事項だったが理解はできた。

 こうしてみるとシャナが話してた通り魔法と言うより技術って
感じだな、試しに使ってみる。

『ストレージ!』お~凄い・・・・

 空間にぽっかりと穴が空いたのだ、手を入れてみたのだが
実に不思議な感じだ。
早速、先日仕入れたガラスのコップなどを収納してみた
入れる時は適当でも取り出しはイメージすれば手元に引寄せられる
仕組みらしい・・・・実に便利だ。
これで安全便利に商品を売買できるようになった事で今後の展望が
明るくなってきた。

 もしかしたら、他の魔法も使えるのだろうか?
攻撃魔法など使えたら狩りも楽になるし護身にも使えるだろう
今回の事で形の揃った魔石が大分少なくなってしまったので
当分はロックラビットの狩りに専念しなければならないだろう。

 明くる日狩りに出て何匹かロックラビットを仕留め休憩に
寄った湖の畔でシャナが湖を見つめながら歌っている光景に
出くわした。

 その様子が美しく思え、彼女の歌を聞きながら時を過ごした。

♪ 優しい風が体の中を通り過ぎて行くわ ♪

♪ 何時しか私の中で過ぎ去った哀しみが癒えていく ♪

♪ 空の向こうには何があるの? ♪
 
♪ 風は途切れることなく世界を渡る 変わることなく ♪

♪ 時は流れ全ては光の中に溶けていく まるで何事も
  無かったように ♪

♪ 歩き出す私に風は頬を優しく撫でていく ♪

♪ 妖精が耳元で囁く季節は変わり始めるよ ♪

♪ 貴方も準備しなさいな ♪

♪ もうすぐ時の女神と創造の神が出会うから ♪

♪ 始まりの時はもうすぐ訪れる ♪


 シャナの歌を聞いて感じたのは魔獣に襲われ亡くなられた夫
への想いだろうか?死との折り合いはついても彼女の心の中で
は寂しさが残っているのだろう。

 そんなシャナを僕は愛おしく思えてしまう、僕は異世界に
来て彼女を見た瞬間、体と言うか心の中の何かが弾けた感覚
を感じた。

 以前から感じていた事だが、自分の中に(想像って感じ)
質感がガラスの様な材質の木が存在していた。
初めて気付いたのは結婚した直後だったと思う、今は離婚して
いるのだが。
妻には結婚当初から少し違和感を感じていた、その後数年間は
自問自答の日々を過ごしていたが、とある夜に夢にガラスの木が
現れ静かに佇んでいたが時よりフラッシュの様な輝きをしていた。
その光を見つめていると思考が浄化されている感覚を覚え
ふと気付いてしまった、自分には出会うべき女性がいる事に
微かに浮かぶシルエットは妻では無い事は理解できた。
それ以来、関係を続ける事が苦痛に感じ後に離婚に至った。

 円満離婚の裏には身勝手な事情があり、別れる際には
妻に充分な誠意を示したつもりだ。

 シャナの歌う姿を見た時に感じた心が弾けた感覚は
心の中のガラスの木が粉々に砕けた瞬間だった。
それはシャナこそが出会うべき女性だったと確信させられ
自然に声が出た。

『シャナだったんだ、出会うべき女性は。だから僕は異世界に来た』

 その衝撃的事実に僕はその日は彼女に声をかけることなく帰宅
したのだった。

◆勇気、決意、秘かな想い◆

 ストレージを活用しヤニスの店に安全に商品を卸す事が
出来るようになり異世界での生活が安定してきた頃
魔法が使える体質になった事で攻撃魔法を使えるのか試し
たくなった、ここは腕輪に聞くしかないか。

『攻撃魔法が使いたいが、どうすればいい?』

 その後の腕輪の説明によれば、既に魔法体質に変化している
ので攻撃魔法の習得は可能らしい。
攻撃魔法1つにつき魔石3個必要で威力を上げたければ追加と
なる、魔法の種類はその属性で区別されていて
火、水、風、土、光、闇の6属性に分けられる。

 腕輪に使える魔石が残り少ないので、攻撃性が強そうな
火属性を始めに選ぶ事にする、魔石を3個嵌め込み願う。

『腕輪よ、火属性の攻撃魔法を使える様になりたい!』

 すると収納魔法の時と同じく視界が閉ざされ情報が
脳内に流れ込んで来た。

 使いこなすには練習が必要な感じで、攻撃パターンは
簡単に言えばイメージのようだ。
火炎弾や火炎放射器をイメージして魔法を行使できる、
スムーズに使うには慣れる必要だな。
ただし威力を上げるには魔石が必要になる。

 早速練習と思ったが今は夜、火は目立つので明日
狩りを早めに切り上げて明るい内に練習する事にした。

 狩りの帰り道、シャナが歌っていた湖のほとりに
来ている、回りを見渡し人気が無いのを確認した。

『よし、始めるか! 火の玉をイメージ、イメージ 行け
 ≪ファイヤーボム≫ 』

 詠唱と同時にバレーボール程の火の玉が手から放たれた
火の玉は湖の中央に20mくらい直進し霧散した。

『何か少し感動したな、ゲームやアニメで見た魔法だよ
 どうしよう初めての攻撃魔法で興奮して考えが纏まらない
 まずは落ち着け俺、ふ~』

 深呼吸を数回し段々落ち着きを取り戻してきた。

『何とか使えそうだ、威力は然程でもでもないが護身用
 としては優秀じゃないか』

 雄靖の攻撃魔法には護身や狩り利用以外に密かな目的
があった、それはシャナの夫の命を奪った魔獣を倒す事。

 彼女は求めていないだろうが少しでも無念を晴らして
あげたい、それは僕の自己満足でしかない。
でも、それを成す事で彼女に対する想いを証明したいと
考えている。
これが運命を感じた彼女に告白する為の僕なりのけじめ
にしたい。今のままでは道のりは遠いだろうが・・・・

◆色々な準備を始める◆

 元の世界と異世界を往き来し、異世界ではガラス製品など
の販売、元の世界ではアクセサリーのネット販売と株の現物
取引などで両世界で金銭の不安は解消してきている。

 特に異世界での売り上げが順調であり、この事に協力して
くれたヤニスには感謝している、今日は百円ショップで買った
ガラス製の切小細工のアクセサリー入れをヤニスの店に売に
来ている。

『よ、ヤニス 今日はガラスのアクセサリー入れを持って
 きたけど買ってくれるるかい?』

 収納魔法から取り出しヤニスの前に出した。

『!?おいおい何だこれは・・とんでもない品だな
 これも両親から譲り受けた物かい?』

 ヤニスの驚きは僕にも伝わるほど衝撃的だったのだろう
しかし彼の前では平静を装う事にする、余計に騒がれると
感じたからだ。

『そうだけど、そんなに珍しい物なのかい? 僕の家には
 普通にあったからさ』

 このやり取りでヤニスも少し落ち着いたようだ

『そうか・・雄靖の国と言うより雄靖の家では普通かも
 しれんが、ここでは貴重な品物だぞ。収納魔法じゃなきゃ
 持ってるだけで身の危険を感じるがな。
 それに買い取ってもいいが、買い主が決まってからの
 買い取りにしてくれ。俺も保管には自信が無いしな』

 そんなにも高価だったとは、予想外だったが幸運でも
あった、なぜなら金銭的に余裕があれば攻撃魔法の練習を
したいと考えていたからだ、可能なら教えてくれる魔法使い
を探したい。
自分一人では限界を感じていたし。

『わかったよヤニス、買い取ってくれる人を探してくれないか?
 それと魔法を教えてくれる魔法使いを知らないかい?』

 僕は異世界でこんな頼みをできるのはヤニスしかいない
何人かは知り合いも出来たが、ヤニス以外は浅い付き合い
だしな。

『雄靖、どうしたんだ? 収納魔法を使えるのは知っているが
 他の魔法って攻撃魔法とかも使えるのか?』

『ああ…ヤニス、火属性だが少しなら攻撃魔法も使える』

ヤニスは少しの間、考えていたが真剣な表情で聞いてきた

『雄靖、何か理由が有るんじゃないか? 知らない仲じゃ
 ないだろ…話してくれよ内容次第じゃ力になるからよ』

 ヤニスは本当にいいやつだな異世界に来てシャナに次いで
世話になっている。彼になら話してもいいと思い話した。

 元の世界での部分は伏せてだが、記憶を無くして森に居た
ところでシャナに出合いしばらく世話になった事や湖で彼女
の歌を聞いた時に出会うべき女性であり運命の人だと感じた
事、そして彼女を愛してた自分に気付いた事など。

 ヤニスは真剣な表情で聞いていたが話し終わると透かさず
聞いてきた。

『雄靖!シャナって、シャナ・アズサファリヤのことか!?』

『彼女を知っているのかヤニス?』

『知っているさ、彼女の旦那のタカディール・アズサファリヤは
 俺の冒険者仲間だった奴さ』

『そうか・・・雄靖の恩人か・・真逆とは思うが魔法を習う
 って旦那の敵討ちでもするつもりなのか!!?
 そのつもりなら考え直せ、奴を襲った魔獣はベテランの
 冒険者でも手子摺る魔獣だ、運が悪く遭遇し犠牲になった
 それに今更倒しても彼女は喜ぶのか?』

 ヤニスの意見は当然の反応だ、それに僕の事を心配も
している事が理解できた。

『ありがとうヤニス、この事は敵討ちとは違うんだ
 僕自身のけじめと言うか、彼女に告白する為の決意
 なんだよ。自己満足に聞こえるかもしれないが
 彼と同じ状況になっても、必ず生きて帰って彼女の
 側に居るよって伝えたいんだ』

 ヤニスは話を聞いた後に目を閉じ沈黙していた
しばらくし考えが纏まったのか僕を見据えて話し始めた

『わかったよ雄靖、冒険者仲間に魔法が得意な奴がいる
 俺の紹介だと話せば協力してくれるだろうよ。
 でもな誓ってくれ無理だと感じたら逃げると・・』

『ああ、誓うよヤニス、無理はしないさ、逃げきってやる』

 少しだがヤニスの表情が和らいだ様に感じた。

◆力不足を想い知る、そして・・・・◆

 ヤニスに紹介された魔法使いのカルヴァンの家は
町外れに住んでるらしく寧ろ僕の住んでいる森に近かった
僕はロックラビットの干し肉を手土産に訪ねドアを叩いた。

『こんにちは、ヤニスさんから紹介された雄靖と申します
 カルヴァンさんはご在宅でしょうか?』

 すると部屋の奥から返事がきた

『おお、お前が雄靖かヤニスの奴から話しは聞いている
 俺がカルヴァン、魔法使いさ教えるのは構わないが
 何があっても責任持たないぞ、いいな?』

『よろしくお願いします、お世話になります』

『雄靖、先ずは魔法の実力を見せてくれ、教えるのは
 それからだ』

 指導方針を決めるためか?今使える火属性の魔法を見せる
しかないか・・・・
中庭の石壁に向けて唯一使える攻撃魔法を放った。

『ファイヤーボム』

魔法は石壁の一部に焦げあとを残して霧散した。

『成る程、威力は初期レベルだな、他にも使えるのか?』

『いえ、今はこれだけです。こんなものでよろしいでしょうか?』

『ああ、実力はわかった』

 カルヴァンは考えた、これはかなり鍛えないと返り討ち
になるな。
でもヤニスの頼みだし事情に感化できなくもない、教えて
みるか。

『雄靖よ魔獣を倒すには今のままでは実力が足りない
 それに魔法使いにもある程度体術が必要になる。
 放つタイミングを作り出す為にもな』

 成る程なカルヴァンの言う通りだと思った、体術か
運動神経は悪くないし何とか成るだろう。

 そして魔法修行は始まった。

≪修行を始めて一年が過ぎた≫

 修行途中に魔石を使い水属性も手に入れた、何故なら火属性
では森での闘いは退路を塞ぐ可能性があり不利になるからだ。
次いでに威力も底上げし、肉体強化も手に入れておいた、
突然の変化にカルヴァンも
少し驚いていたが。ま、良しとしよう・・・・

 今日はカルヴァンによる最終テストだ、森に入り
魔獣を攻撃魔法で仕留める。それができれば合格のようだ。
森の奥まで歩いて行く、普段の狩りではこんな奥には来ない
理由は魔獣が多く生息しているからだ。

『雄靖よ油断するな、お前の倒したい魔獣はここには
いないが、ここに巣くう魔獣に勝てないのでは話しにならない
分かっているな!』

『カルヴァン任せてくれ、この一年自分なりに努力したつもりだ
 今日はその成果を見てくれ』

 そんな会話をしていると森の奥から黒い影がこちらに向かい
突進してきた。

『来たぞ雄靖!あれはヘビの魔獣、ビックボアだ20mは
 ありそうだな。行けるか雄靖!』

『大丈夫やれます、先ずは動きを止めます』

 雄靖は魔法を発動した

『アイスミスト』

 ヘビは爬虫類であるため低温で急激に活動が鈍くなる
鈍った所で追い討ちの魔法を放つ。

『アイスバインド』

 ビックボアは地面に頭部を残し氷付けになった

『今だ雄靖、止めだ』

『アイスカッター』

 その魔法は氷の刃となりビックボアの頭部を切断した!

 興奮した雄靖はカルヴァンもとへ駆け寄った

『やりましたよカルヴァン!倒しました』

 戦いはお手本の様な魔法の連発で呆気なく終ったように
見えるが、日々の練習の成果が示されたのだった。

『雄靖、上出来だ。後は経験を重ねれば強くなれる
 何かに迷ったら何時でも聞きに来い』

『お世話になりましたカルヴァン、このご恩忘れません
 想いを遂げたら報告に来ます』

『死ぬなよ雄靖、良い報告を待ってるからな』

 そして僕は様々な魔獣と闘って経験を積んでいった
ある程度自信が付いた時点で冒険者ギルドに登録する事になる
カルヴァンの話では魔獣は勝手に狩ってはダメらしい
今回、僕の目的である魔獣は狩りに届け出が必要だとか。
ルールには従うしかないだろう。
早速、町の冒険者ギルドに行き登録を済ませた、登録は
狩った魔獣の一部(決められている)の提出と種族名・
名前を登録用紙に書き込むだけだ、妙に簡単な理由は
嘘をついて登録しても実力が伴わなければ早死にするだけ
の厳しい世界だからだそうだ。

 目的の魔獣はパワータイプの突進形魔獣だ、恐竜の
トリケラトプスによく似た風貌をしていてデモニオライノ
と呼ぶらしい。
如何なる魔法防御も突破するらしく多分足止め程度にしか
ならないだろう。

 作戦としては魔法を連発し興奮状態にする、そして罠に
追い込み止めって感じでいく予定だ。
走り回る事が予想されるので罠を固定式ではなく、異動設置型
で考えていて必要な道具はすでにストレージに準備している。

 魔獣との闘いは事前にシャナに話そうと思う
理由は色々とあり、自分勝手だがシャナに対しての決意表明
であり想いを伝える為の切っ掛けにしたい。
そして彼女の無念を晴らす、望まれないかもしれないが
僕のけじめ、そして彼女の夫に対しての敬意かな・・・・

『あ~グダグダと理由を付けたけど、ただの見栄だな
 多分。命を懸けた見栄か・・・・』
 
 それでも何か自分らしいと思った。

◆伝えたい想いとアクシデント◆

 今日はシャナを誘って薬草採取に来ている

『あ、そうだシャナさんに報告したい事があるんです
 実は僕も収納魔法を使える様になりました!』

『雄靖さん、凄いですよエルフ族以外で使えるのは珍しい
 んですよ!驚きました。これからの狩りに重宝しますね』

『シャナさんから収納魔法の話を聞いてから、いろいろと
 調べていたら魔法使いの方と知り合いましてね、その方に
 指導を仰ぎましてね、たまたま適性があったのでしょう
 使える様になりました。』

 そんな会話をしながら薬草を採取し休憩を取りに湖畔まで
来ていた。

『シャナさん、怒らないで聞いてほしいのですが・・
 以前ここで歌っているシャナさんを見ましたが
 この場所に何か思い出でも? 差し支えなければ
 お聞きしてもよろしいですか?』

 少しだけ考える素振りを見せたが、頷いて話し始めた

『そうですね・・・・ここは亡き夫と出会った場所なんです
 あの時も私は薬草の採取に来てこの場所で休んでいたんです
 そこへ狩りを終えた彼が来ました。
 その日は挨拶だけでしたけど、その後もここで出会う機会が
 増え話をする様になったんです。
 結婚してから聞いたのですが、偶然を装って私に会いに来て
 いたみたい………』

 その時、彼女の目尻に微かに涙が浮かんでいた

『ごめんなさい、つい思い出して・・・・もう心の整理は
 ついたのに』

『シャナさん、私の方こそ辛い事を思い出させて
 しまったようですね、ごめんなさい。』

 少し話題を変えた方が良さそうだな、魔法習得の話しに
してみるかな。

『シャナさん僕も魔法が使える様になったんですよ、収納魔法
 や攻撃魔法などです。』

『雄靖さん本当ですか!人族で魔法を使える方は凄く珍しい
 ですよ、よろしければ見せて頂けますか?』

『勿論、では水属性で』

『アイスカッター!』

太股程の太さの木に向けて魔法を放ち切断して見せた

『雄靖さん凄いです、私も防御系の魔法を練習してますが
 攻撃魔法は習得してませんのよ』

 そう言えば彼女が以前に防御魔法を練習してるって聞いた
ような気がしたな。
女性蔑視じゃないけど攻撃魔法ではないのが何か女性らしい
と感じてしまった。

 それから収入が安定して生活に余裕が出てきた事や
商人のヤニスが色々と世話になっているなどの近況報告
をした。
シャナからも母親と変わらず楽しく生活している様子の
話を聞くなど二人の会話が弾んだ。

 その時森の奥から何か近づいてくる音がした
この音、ロックラビットのような小型の動物じゃないな
大きいぞ間違いなく。
思わず僕はシャナさに叫んだ。

『シャナさん、ここを離れましょう嫌な予感がします!』

 彼女も危険を感じたらしく僕を見て頷いていた。

その場を離れようとした時それは木立の陰から姿を
表した。

ヴォWWWOOOU~

 あれは魔獣デモニオライノじゃないか?僕は心の
中で叫んだ。
彼女を見ると震えながら何かを口ずさんでいた。

『何故ここにいるの、私から大切な人を奪ったお前が!』

 なぜ森の奥から強力な魔獣が出て来たんだ?
森の入口近くに姿を見せることもあるのか?そう言えば
彼女の夫が襲われたのも森の奥ではなかったと聞いている

 どうするこの状況、二人で逃げ切るのは絶望的だな
とにかく時間を稼ぐんだ

『シャナさん、僕に合わせて防御魔法を!』

『アイスウォール!』

僕たちの回りに円を描くように壁を築いた

『シャナさん同じように内側にお願いします!』

『λξμτωΞδ』

 エルフ語か?同じように氷の壁が出現した。

これで少しは話せる時間が出来た。

『シャナさんこの状況は長く持たないでしょう。
 僕は攻撃魔法も使えます、何とか隙を作りますので
 ここから離れ木の上に身を隠して下さい、僕は闘い
 たいと思います』

『ダメですよ雄靖さん!危険すぎます、私はあの魔獣の怖さ
 は知っています。一緒に逃げて下さいお願いです。』

 しかし、なんてタイミングだ、闘う準備はしていたし
闘う覚悟もシャナさんに話す事で決意をする感じだった。
魔獣を倒すことで、何が有っても彼女に悲しい思いを
させない。
そしてその行為こそが僕の彼女に対する愛の証にすると
勝手に決めていた。

 でもこの状況じゃ、行成り告白、そして戦闘になるな多分
ここはベタだがやるしかない!
人生ってこんなものさ・・・・

『シャナさん、言えなくなるかもしれないので今言います
 貴女の事を愛しています、もし生き残ったら……
 僕の愛を受け入れて下さい、お願いします。』

『雄靖さん……私で……』

『返事はこの魔獣を倒して僕が生きていたら聞かせて
 下さい!』

 もうこれは倒すしかないな、魔獣が僕に気をとられて
いる隙に彼女が離れた木の上に避難した事を確認して
僕は戦闘に入った。

『やるぞ~!』


第二章

◆死闘と思い◆

 バキバキ・・ドン・・ドサッ・・
立木を無視した突進で胴回り程の木々が薙ぎ倒をされている
その数十メートル先を僕は逃げている。

『洒落にならない破壊力だな、正面を逃げていたら追い付かれるか
 薙ぎ倒をされた木の下敷きになったかもな』

 雄靖は木々の枝を忍者の様に移動し直線的に逃げている
デモニオライノも直線的に追って来るが木々を破壊しながら
であり、雄靖には簡単に追い付けない。

『この先に大木がある、気絶でもしてくれれば多少の足止めと
 休息が取れるかもな、強化した体でも続けば体力が持たない
 と思う』

 その大木の幹は直径5mはあり枝も太く安全に休めるので
狩りの合間の休憩に良く利用していた場所だった。

 デモニオライノが大木に衝突する直前に何かの光りが大木を
一瞬で切断してしまった。

『嘘だろ・・・・なんだあれは? 前面に光の線の様なものが
 見えたような? 良く見なかったけど確認が必要だな』

 この先に木立に隠れて見えづらい岩がある、そこで正体を
見極めるか。

 雄靖は誘い込む為に右に進路を取った。立木は少ないが進路には
背の高いヨシに似た植物が群生しカーテンの様に視界を遮って
いた。
あの早さで突進していては岩を確認してからでは回避は難しい
だろう、少しでもダメージを与えたいところだ。

 岩に誘導するように絶妙な距離感でデモニオライノを誘い岩まで
あと100m程に近づいた時、先ほどの光を見極める為に高い木の上で
衝突の瞬間を注視しする事にした。
岩と接触する寸前で何かが光り岩が水平に切断され上の部分が突進で
吹き飛ばされた。

『え!なんだあれ・・・・ 光の刃? 魔法? でも反則だよな
 あれは、っと見とれてる場合じゃないな 奴を弱らせる方法を
 考えなくては・・・・止めを刺せなくなるな』

 素早くデモニオライノに背を向けると立木の方に戻る為、左に
向かった。
多少の障害物では足止めに効果が無いようだ。できれば最後の仕上げ
の前に興奮状態にしたい、苛つかせるために氷魔法で頭部側面に氷塊
をぶつけた。

ゥガ~~ウゥゥラァァ~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

『お、少しはダメージを与えたようだな、火魔法が使えればもう少し
 効果的な攻撃になるんだが・・・・森を燃やすのは気が引けるし
 仕方ないか』

 シャナは破壊音を聞き雄靖が攻撃をしているのを遠くから感じていた
この音が聞こえなくなった時は闘いに決着した時だと理解していた。

 雄靖の告白には今までの彼の態度から薄々予想はしていたのだけれど
まだ私の気持ちには迷いがあった。
彼の事は好きか嫌いかで言えば好きだと思う、亡き夫に似ていることで
罪悪感を感じてるのではないか・・・・

 今、命懸けで闘ってくれている、それを思うと胸に熱いものが込み
上げてくる、それは感謝なのか愛情なのか今は区別がつかない。
でも彼の誠意に対して何らかの答えは出さなくては・・・・
今のまま中途半端な気持ちでは彼を傷つけてしまうかもしれない。

 正直な気持ちを、罪悪感を感じてしまう事も一切合切を打ち明け
て、それでも私を愛してくれるのかしら……
彼を好きな気持ちはある、出会ってから今までの彼は誠実で優しく
何も不満は無い、告白を受けた時も嬉しかった。
そして今、彼は私の為に命懸けで闘ってくれている、彼が私の元に
戻ってきてくれたら彼の想いを受け入れたい。

『だから無事に私の所に帰ってきて……お願い……』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 魔法による氷塊で攻撃をしているが、怒らせる効果はあるけど
ダメージが思った程無いようだ、できれば体力も奪い突進力を鈍らせたい
ところだ。

『しっかし硬い体だな、それに光の刃も邪魔だよな・・・・それなら
 火の攻撃魔法に切り替えるか』

 火の攻撃魔法なら刃で切断されても体に攻撃が当たる可能性が高い
そのためには火災の危険性の無い場所に移動する必要がある。
デモニオライノと闘うと決めた時から作戦を幾つか考えていた、その
中で火の攻撃魔法を使う為の場所は決めていた。
その場所は森の中程にある湿地帯である、誘き寄せる為に所々に自分用
の足場になる岩を設置をしていた。

 もうすぐ湿地帯だ、デモニオライノとの距離を少しだけ縮めて
視線を僕の方に向くように仕向けた。
湿地帯は泥の層が2m程あり巨体の生物には動きが鈍るはずだ
攻撃を続ければ興奮して引き返さずに追ってくるだろう。

 設置した足場を移動し湿地帯の中央に向かい移動しながら
火魔法による攻撃を開始した。

『ファイアージェル・・・・』

 普通の火魔法では外皮の厚いデモニオライノには効果が薄い
そこで考え出した魔法で、キャンプなどで火起こしで使われる
着火剤ジェルのような火炎で着弾した対象に火が張り付き水にも
強く消えにくい。効果は5分程度だが。

 魔法の効果で熱いのか水飛沫を上げ暴れている、ここで体力奪い
体にもダメージを与えたい。
願わくば片目だけでも潰し距離感を奪えれば有利に事が進む。

 僕はファイアージェルを放ち続けた、その甲斐あって体表の
殆んどは黒く焼け焦げていた。動きも若干遅くなってるように
思えるが目的の1つ視界については上手く攻撃を避けられている。

『何とかしたいな…………』

 一瞬でも僕以外に注意を向ける事ができれば隙を作れるのだけれど
何かないか・・・・

とその時

カァカァカァカァ……

 離れた場所で群れなす水鳥を見つけた、100羽はいそうな大きな
群れだ。このまま誘導して突入させれば飛び立つ鳥に注意を引かれ
隙ができるのではないか?

『えぇ~~い、考えていてもしょうがない。行くぞ!』

 ファイアージェルを撃ちつつ注意を惹き付け水鳥の群れに
向かった。

 群れの中心に突っ込むと水鳥は四方八方に飛び立った、その
状況にデモニオライノは僕の姿を見失い僕はその隙をつき真横
に移動、前方に目が向いているので横は死角になる。
透かさず目に向けてファイアージェルを放った。

ビギャー・・・・・・

 物凄い悲鳴とともに顔面を地面に擦り始めた。
瞼に邪魔されず直接眼球に攻撃が届いたようだ、見たところ
片目だけの様だが、距離感を奪うには十分だ。
攻撃の効果を確実にするために土属性魔法のロックヒットで
岩石を生み出し連続でぶつけた。

 見れば瞼を閉じた状態で血を流している、間違いなく片目は
使えなくなっただろう。そして動きを見ると体力も多少だが
奪うことに成功したようだ。

 そんな状況のなか突然デモニオライノの鼻先が光った!
その光りは伸びる剣の様に切っ先を僕に伸ばしてきた

『どわァ…………なんだこれ!』

 先ほどの大木切断もだが光属性魔法で剣を作り出せるみたいだ
これでは空でも飛ばなきゃ攻撃から逃げれないな。
さっきの攻撃も伸ばせる長さは分からないが距離感を奪ってなけ
ればヤバかったかもな。

 このまま開けた場所に居ては、狙いを付けやすく不利だと思う
目的の距離感を奪えたし、多少でもダメージは与えた
森に戻り打撃系魔法に切り替えて様子を見るか・・・・

◆出逢い◆

 雄靖が死闘を演じている頃、少し離れた森の中でその様子を窺って
いる男がいた。

『今日は自棄に騒がしいちゃ、魔獣でも暴れているんかいな?
 でもあれは何かを追っかけてる様に見えるな、チョッと面白しろ
 そや見に行こかな』

 森の出来事に興味津々な男、出で立ちは森ではかなり目立つ格好
でタキシードの様な服装でシルクハットを被り白塗りの化粧に三日月
のアクセントが左目回りに施されている、例えるならRe:ゼ○に
登場してるロズ○ールの様である。男は楽しげな笑みを見せると
軽やかな踏み込みで木の枝から弾けるように飛び出した。
その身のこなしからただ者ではない雰囲気が漂う。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

雄靖は打撃系魔法で攻撃を続けていた。

『ロックヒット!・・・・』

 この魔法は彼の得意な打撃系魔法で、狩りに使っていた事から
使用回数も多く熟練度が高いので、この追われる状況でも安定して
攻撃を繰り出していた。

『少しは効いているようだな、頭部の硬い表皮が変色してきてるし
 追う早さも遅くなってる感じがする、このまま続けるか……』

とその時、横に気配を感じ視線を向けると、森に似合わない格好の
男が並走していた、そして興味ありげに話しかけてきた。

『あんた何か面白そうなことしてるな・・ワイも混ぜてくれへん?』

『え!……今、微妙にピンチなんだけど、見てて感じない?』

 何なんだこの場違いな格好の男は……見れば追われてるの理解で
きそうなんだが、しかし能力、特に身体能力は高そうだな。
ちょっと協力を頼んでみるかな・・・・

『僕は雄靖、今ちょっと困っていてさ…君、かなり強そうだけど
 僕に協力してくれないかな?』

 このままでは少々魔力行使に不安がある、デモニオライノの
体力をある程度削っていると思うが、底が知れない。
確実に倒す為なら共闘した方が安全だ。

『なんや、遊んでたんちゃうの?倒す気が無いよう見えたんで
 遊びやと思うたわ。協力してもいいけどな訳を聞かせてな』

 何か関西弁みたいだけど、色々と混ざってる感じだよ
でも、どうする……正直なところ一人じゃキツいと思う
訳か・・・・女性の為に闘ってるって言ったら大丈夫だろうか?
僕なら呆れるが……下手な嘘で誤魔化せば見透かされそうだ。

 それに逃げながらだと上手く考えが纏まらない
ここは協力を願うのが正しい判断だと思う、話そう
正直に。

『実は好きな女性を守る為に闘っている、この状況では詳しく
 話せないが、彼女は過去にデモニオライノから深く傷つけられた
 そして今度は命を奪われそうになった。
 そこに僕が助けに入り、彼女から引き離す為に逃げているのさ』

 かなり大雑把な説明だけど嘘は言ってない。

『そうでっか、女子の為かいな……何かカッコええな、なら一人で
 倒す方がエエのかな?』

 ん……そうなるかな、でも光る剣は少しは厄介だな予想外だし。
安全策で行きたい、死んでは意味がないし。正直に自分の実力
を説明して頼むしかないな。

『力を貸してもらえないだろうか?倒す準備が整う前に襲われて
 しまったんだ、それに光の剣?みたいな攻撃を持っているなんて
 知らなかったんだ、あの攻撃はかなり辛い。
 頼めないかな……』
 
 これでダメなら諦めるしかないな、彼の格好は場違いな感じだが
強さは感じられる、返事を期待しよう。

『ワイはリケッツや冒険者で魔術師しとる、話は分かった・・・・
 協力してもいいが条件があるんや、それはなワイのパーティーメンバー
 に入ってもらうでな、ちょうど前衛の近接戦闘が出来る魔術師が
 辞めてもうてな、今ちょうど募集中なんよ。どないする?』

 うわ~~前衛の魔術師って欠員出るよね・・・・魔術師は普通
なら後衛で支援の役割だよな、随分と変則的なパーティーだよ。
でも取り敢えず倒す事を優先に考えよう、条件については
仕方なしだな。

『リケッツ、条件は了解した・・・・倒すのを手伝ってくれ
 それでなんだが止めは僕が刺したい、いいか。』

『よろしいで、他には何ぞあるかい?、無ければ雄靖の考えてる
 倒すための策を教えてくれへん?』

 雄靖って言ったな、魔法も体術もギリギリ合格点やな
何か策が有りそうやな、どんな策なのか確認せなあかんな
それで性格や物の考え方が分かると言うものや。

『始めに体力を極力奪い肉体的にもダメージを与えます
 その後ある場所に誘導し止めを刺します
 策は単純ですが確実に倒せる方法だと思います。
 誘導する場所ですが…………』

 大雑把だが説明を終え、リケッツの答えを待った。

『雄靖はん、分かりやすい策やけどヤツは賢い魔獣さかい
 難しい策になりそうやな、ワイなら一撃で終いに出来るのに
 それではあかんのやろ?』

『面倒臭い頼みで済まないリケッツ、彼女に対しての誠意なのだから
 この手で決着をつけなければならない分かってくれ頼む』

 リケッツはとんでもないなデモニオライノを瞬殺かよ、一瞬だが
心の中で(それでもいいかな)などと考えてしまった自分を情けなく
思ってしまった。

『僕が囮になって誘導するからリケッツはダメージを与え続けてくれ
 怒らせる様な攻撃が都合がいいんだ、目的のポイントまでは今の
 ペースで30分くらいで着くはずだ、よろしく頼むよ』

 僕はデモニオライノの前方に移動し木の枝から地上へ移動場所を変更
した、真後ろから追われるのは流石に恐怖を感じるな。
今は援護もあるので恐怖感は薄れている、リケッツの攻撃は正確で
効果的にダメージを与えているようだ、それは追ってくる速度が徐々に
落ちてきている事で分かる。

 リケッツの攻撃は風の刃で切りつけ又は空気の塊をぶつける攻撃
スタイルで威力も強力だ、でも手加減していると感じる。
表情や仕草に余裕がある、彼の強さは自分とは次元が違うと思う。
リケッツの強さには思うところはあるが、今はリスクの少なく
し確実に退治する事を優先しよう。

 しかしリケッツの様な実力者がいるパーティーに自分が加わって
良いのだろうか?
自分は、そこそこ魔術・体術は出来る方だと思っているが、彼に
比べれば、遥かに劣ると感じている。もしかして捨て駒なのか?
今、考えても仕方ないな終わってから考えよう。

『ところで雄靖はん、この魔獣はレベルの高い冒険者の間では
 重宝されとる魔獣なんや、防御力が高いから戦闘の練習相手に
 最適やし、肉は干し肉にすると絶品やから高額で売れるんやで』

 自分にとってデモニオラノは絶対的な強者だと思っていたけど
実力のある冒険者にとっては良い獲物なんだな、でも彼女や師匠
からもそんな話はなかったと思う、一部の高ランク冒険者だけが
獲物としているだけで一般的には強敵だろう。
そんな事を考えているとリケッツから提案があった。

『雄靖はんヤツの誘導を代わるさかい、体術の腕前を見せて
 はくれへんか?チョッとでいいから』

 う~~そうだよな、パーティーメンバーの実力を確認するのは
当たり前だな、重量級の相手だから取り回しがよい片手剣で
攻撃してみるか、自分には一撃で倒せるだけのパワーは無いしな。
攻撃方法は一撃離脱でいくか。

『あまり期待するなよ、体術での直接攻撃は得意じゃないんだ
 剣を使っても差し支えないかな?』

『構わへんよ、好きな得物でいいよ~~』

 よし、正面からは自分には難易度が高いと思われるので
まずは側面胴体辺りから攻撃をするか。

『始まりよったな、側面攻撃に一撃離脱か・・・・自分の技量を
 見極めた良い判断である、脚を狙わないのも合格点や突進を
 得意とする魔獣の弱点でもある脚は何らかの防衛策を持っている
 ヤツの場合は光属性魔法による反射であり魔法攻撃も物理攻撃も
 放った本人に返してしまう厄介な代物なんや、限られた時間で
 どこまでダメージを与えるか、期待しとるで』

 リケッツは余裕で自分の代わりに誘導しているな、悔しいが早さも
間合いの取り方も絶妙だ。この様子なら倒すのも余裕なのだと
想像出来るよ。今は自分の事に集中しよう・・・・

『目的の場所はもう少しだ……しかし硬いな・・・・剣が折れないかな』

 剣の心配をしながら攻撃を続けていた時、デモニオライノの胴体表面に
変化が生じた。それは穴のような模様が浮いてきたのだ。

『ん?、何だあれは……』

『あちゃーこれはヤバイで、雄靖はん、離れるんや~~
 防御系の魔法が使えるなら準備せんと死んでまうよ~~』

 何だってエェェ・・・・ってリケッツが言うことだ、間違いなく
ヤバイのだろうな、しかし困ったな防御系は得意ではないんだよ
使えるのはアイスウォールだけだしな、強度的に不安があるので
多重に張った方がいいな。

 そんな事を考えた直後デモニオライノの動きが止まり、同時に
穴のような模様が赤く光り始めた。

 リケッツの方を見れば、かなり高い上空に退避していた。
こっちも急いだ方がいいな。

『アイスウォール、アイスウォール、アイスウォール』

 飛ぶことができない自分は地上で防御魔法を三重に張った
張り終えたと同時にデモニオライノの攻撃が始まった、穴の
ような模様から火炎放射器の様に炎が吹き出した。

 向かって来る炎が三重に張られた魔法障壁を二枚破壊し三枚目
が辛うじて防いだ。

『凄まじい威力だな、随分とダメージを与えたと思ったが
 それでもこの威力の攻撃が出来るとは恐ろしい底力だな』

『よ、雄靖はん無事耐えきれたみたいやな、この攻撃の直後は
 多少は休めるで、ヤツを見てみなはれ丸まっているやろ。
 この攻撃はヤツにとっても体力的にキツいのや、攻撃を
 耐えきれれば、こちらも休めるから仕切り直しには良いやろ
 どうやらヤツは変異体のようやな、変異体の能力は他に2つ
 あるよって今のうちに教えとくよ』

 リケッツの話では変異体は先の攻撃以外に闇属性のホロウで
数分間ではあるが意識が方針状態になるらしい。
もう1つは光属性のアンガーで雷を使った広範囲攻撃である。
聞いた瞬間に絶望した、現状の実力では回避は難しいと思う

 攻撃のタイミングはリケッツが教えてくれそうだ、それなら
回避する事に集中すれば何とかなりそうな気がする。
回避の方法は出たとこ勝負かな……

『リケッツ・・・・お願いがある、変異体特有の攻撃が発動
 する時は教えてくれないか?』

『分かったで~~任せなさいな!』

 雄靖はんの状況判断、魔法の発動時間、攻撃に対する反応速度
はパーティーメンバーとしては許容範囲やな、直接攻撃には少し
課題が有りそうやな。未知の攻撃にどう対処するんか見せてもら
うで。

 動きが止まったデモニオライノに変化が表れた、体の模様が消え
動き始め、リケッツを追い始めた。

 攻撃のタイミングを知らされるなら、攻撃に集中できる
変異体特有の攻撃に完璧に対応するのは現時点では難しいと思う。
現状での対処は攻撃範囲からの離脱であろう。
この闘いを生き延びたらもう一度魔法の修業でもするかな……

 などと思考しつつ一撃離脱の攻撃を続け多少馴れてきたので
剣に魔法で炎の刃を施して攻撃を試みる。
この攻撃によるダメージは思いの外高かった、熱が加わることで
硬い外皮表面を脆くする効果があるからだ。

『リケッツ!ヤツのダメージがどの程度か推測できるか?
 分かるなら教えてくれ、可能なら具体的なイメージで』

『そやな、ヤツが特別な攻撃をするって事は、いろいろな意味で
 追い込んでる証拠やな、追ってくる早さも落ちてきているしな。
 何か仕掛けるならそろそろやな』

 まだ見ていない攻撃は気になるが、仕掛けてみるか・・・・。

『リケッツ、ありがとう、弱っているなら仕掛けてみる。
 デモニオライノの誘導を代わってくれ、目的の場所に追い込むから』

 ここからが正念場だな、自分も連続攻撃による疲労が無視できない
仕掛けるなら早い方が良いだろう。
リケッツと誘導を代わりデモニオライノの前方に移動した時に
異変が起きた。
後方からプレッシャーと共に黒い空間が逃げるより速く迫って
来た。

『これってヤバイんじゃないの? リケッツ!これは大丈夫なのか?』

 その掛け声と同時に一瞬で僕の側にリケッツは表れた。

『逃げるで、雄靖はん。これが闇属性魔法のホロウや、この次に
 光属性魔法のアンガーが来るで!』

 リケッツに引っ張られ黒い空間から辛うじて離脱できた。

『この次の攻撃がエゲツナイのや、雷を使こうた広範囲攻撃やから
 回避は難しいで。雄靖!、大丈夫か? 不安なら手、貸すよって』

 リケッツの申し出は嬉しいが今後の関係を考えると頼り過ぎる
のは良くないのではないか?彼に悪意は感じないが、必要最低限の
支援に止めたい。

 どうすれば雷の範囲攻撃を防ぐかだが、水系の魔法で防げないかな?
魔法による水の生成は純水だから電気は通さないはずだ、衝撃に耐える
だけの強度を持たせ、自身を覆い隠せば遣り過ごせるのではないか……
イメージは氷製のかまくらだな。これでいくか!

『リケッツ、考えがある・・大丈夫だ、危ない時はお願いする』

『しっかりな~雄靖はん、油断したらあかんよ』

デモニオライノが動きを止めたと同時に光属性魔法アンガーが発動した。

『来たな、〃アイスウォール〃』

 僕も自身を被うイメージで氷属性魔法で対抗する。

 空気が裂ける様な音と共に空から雷が降って来た
一瞬で木々や草花は炭化し水は蒸発した、氷越しに見た外の
状況は想像を絶する光景である。

『うわ……これは凄まじい威力だな、知らなかったら灰に
 なってたな、リケッツに感謝しなければ、この後の対処
 をどうするか・・・・』

『リケッツ!教えてくれ、攻撃の後ヤツの動きが前の時と同じく
 止まっているけど、どのくらいで復活してくる?』

『そやな、前よりは長いと思うが……倍ぐらいやろな』

 前の倍か・・・・5分くらいだろうな、この後も特有な攻撃が
続くのだろうか?立て続けに攻撃されてはかなり厳しい。

『リケッツ、続けての攻撃の可能性はあるのかい?』

『短時間の連続攻撃ってのは聞いた事ないな、大丈夫ちゃう』

 であれば、このまま予定の場所まで誘導し決着をつけるか。
しばらくしてデモニオライノは動き始めた。
目的の場所まではもう少しだ、ダメージも良い感じで与えていると
思う、一気に決めるか。

『目的の場所は近い、リケッツ、誘導を代わるよ』

『ほんなら、代わるで』

 どないするのか興味あるな、新メンバーやさかい攻撃の
パターンや柔軟性、策略の良し悪しなんかも知りたいよって。

『もう数百メートルでたどり着くな、決めてやる・・覚悟しろよ』

 何とかここまでたどり着いたな、この先は樹木などが鬱蒼と茂り
視界が悪いうえに先が断崖絶壁になっている。
今回の作戦は単純で弱らせて墜落死させることだ、問題はヤツに
悟られないようにする事であり思考を鈍らせる為にダメージを
与え続けた。
締めくくりは体力が尽きたと思わせ鼻先に倒れる、デモニオラノ
が勝利を確信し体当たりしてくる直前に横に移動し断崖から
落とし絶命させるが作戦内容だ、単純でシンプルな作戦ほど案外
上手くいくものだ、などと考えていると目的の場所に到達した。

『よし、低木で視界遮っている前で待ち構えるか』

 木の前で疲労感を漂わせ力なく膝を着いて佇む。
デモニオライノはリケッツを警戒するように睨み付けたが
僕に視線を移し突進してきた。

『来る、避けるタイミングを間違えるなよ俺!ギリギリで
 避けるんだ……3・・2・・1・・』

 僕はデモニオライノの鼻先を掠めるように体をひねり突進を
かわした、勢いが止まらないまま草木を薙ぎ倒しながら断崖
から落ちて行く。

『よし!これでどうだ』

 落ちて行くデモニオライノを目で追っていると信じられない
光景が確認できた。
背中の側面二ヶ所に切れ込みが入り、そこから蝙蝠の様な羽が
飛び出してきて滑空し始めた。

『何あれ?デモニオライノって飛べるの・・・・リケッツ!
 教えてくれ、これも基本能力なのかい?』

『雄靖はん、こんなのは見たことないで!でも、ヤバイな
 これは……特別サービスや、ここから先は任しとき』

 その言葉を残しリケッツは飛行しデモニオライノに向かって
行った。

『仕方ないか、飛行できない自分に追手だては無いし・・
 ここはリケッツに託そう』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

第三章

◆一つの区切り◆

 飛行したデモニオライノの上部にリケッツは上部に付けていた
断崖から様子を伺っていた僕は彼の戦闘センスを認識する事に
なった。

『こないなったらしゃあないな、覚悟しなはれ』

 その言葉と同時に人差し指からレーザーを思わせる光が
放たれた、光はデモニオライノの頭部を貫き一瞬で絶命さ
せたのを見て思わず言葉が出た。

『う!なんて強さだ、冒険者とはこんなにも強いのか?
 圧倒的じゃないか』

 実力差については今は考える事ではない、絶命たデモニ
オライノの落下地点を確認しつつ戻ってきたリケッツに
感謝の気持ちを伝えた。

『ありがとうリケッツ、僕の計画ではヤツの飛行形態を
 考えると失敗していたよ、リケッツが協力してくれた
 お陰で倒す事ができた、先の約束通りパーティーの
 一員になるよ、でも実力差を感じるけど大丈夫か?』

 リケッツは良いかもしれないが、他のメンバーも
強者揃いではないだろうか?文句が出なければいいが。

『大丈夫やろ、リーダーのうちが決めたんやし、気持ちの
 エエ奴らやから安心しなはれ。それになパーティーなん
 やから与えられた仕事をすればいいんとちゃう?』

 リケッツが言うのであれば大丈夫なんだろう・・・・多分。
何れにしても約束したからにはメンバーの一員として可能な
限り与えられた仕事はこなそうと思う。

『リケッツ、いつからパーティーに合流すればいいかな?
 長くこの地を離れるなら準備もあるし』

『雄靖はん、その事については後で話すよって、先ずは彼女に
 報告したらよろし』

 パーティーメンバーになるのは恩義もあり良いのだが、
シャナの事を考えると少し考えてしまう、これからシャナ
にデモニオライノを仕留めた事を報告するけど愛の告白を
している手前シャナに対しての態度を決めかねている。

 彼女が僕の愛を受け入れてくれるのだろうか?
デモニオライノを倒した事はポイント高いとは思うが……
でも彼女からの返事はまなんだよな、そして今回の
パーティーメンバーになる事・・・・。
でも今ここで考えても答えは出ないよな、すべてを正直に
話し彼女の反応を確認しないと僕自身の気持ちも次の
段階に進めない感じだ、彼女の反応次第ってのは僕の
主体性が欠如している感じがするのだけど彼女の気持ちを
第一に考えたい。

 彼女が避難している場所に戻り倒した事を報告した

『シャナさん、何とか倒す事ができました。僕一人の力では
 ないのですが……』

『雄靖さん……今はまだ、あなたの想いに なんて答えれば
 いいのか……命すら危険に晒してくれのに私・・・・』

 彼女の逡巡する気持ちは何となくだが理解できた。
今以上の言葉を求めるのは難しく思える、ここは僕が話しやすく
彼女を導く方が良いのではないか・・・・よし!

『今は二人無事だった事を喜びましょう、自分の勝手な想いだけで
 貴方を守ると決めたのだから意地を通しただけです、無事に貴方の
 前にこうして立つ事が叶いい僕は満足しています。』

 話し終わると彼女の泣き濡れた顔が僕の胸の中にうずめられ
彼女は『ありがとう……』と言い、僕はそっと抱き締めた。

『ええ雰囲気のとこなんやけど、話ししてかまへん?』

 その言葉に彼女は驚き僕の側から離れ、リケッツを見て
瞠若していた。

『シャナさん、彼はリケッツ、デモニオライノを倒す事に
 協力してくれたんです、僕が無事だったのは彼の助けが
 あったからですよ』

 リケッツはシャナさんに顔を向け微笑んでいた

『ちょっと手伝っただけですから気にせんでいいよ』

 この言葉にシャナさんの警戒心が和らいだ様で表情が
少しだけ穏やかになった。

『雄靖さん、リケッツさんとは付き合いは長いのかしら?』

『リケッツとは闘っている最中に声を掛けられて、協力を
 お願いしたんですよ。ちょっと条件が有りましたが・・』

『?条件?・・・・条件について御聞きしてもよろしいかしら』

 僕の条件と言う言葉に彼女は不安を覚えたようで問いかけ
られた。ま、気になるだろうとは思うが。

『条件なんですが・・リケッツのパーティーメンバーになる
 事なんですよ、務まるか不安はあるのですが』

『パーティーメンバーって冒険者ですよね?危険が伴う
 仕事ではないのですか?』

 そこでリケッツが話しに割り込んできた

『お二人さんちょっとエエか、パーティーメンバーって
 事だが常に行動を共にするわけじゃないで、必要な
 時に招集するさかい今までの生活を続けていても問題
 あらへん。それになメンバーは強者揃いやし危険は
 少ないと思うで』

 と、心配したシャナさんにリケッツは説明したけど、リケッツの
説明では前衛だったような? 援護は有るとして前衛は安全だとは
考え難いと思うのだが・・・・

『リケッツ、今の説明だと呼ばれなければ今まで通り生活を続けて
 いいのかい? 確認なんだけど』

『それでええんちゃう?かまへん』

 そうだったんだ~パーティーメンバーだから常に行動を
共にするのだと思っていたよ、どうしようシャナに話す内容
が変わってくるな・・・・。
ん?でも逆に話しやすいのではないか。

『シャナさん、リケッツの話しでは危険は少ないようです。
 しばらくは今のままの生活と冒険者を両立させようかと
 思ってます。』

 取り敢えず生活に大きな変化が無ければ、シャナさんには
この返答で良いと思う。本当に危険は無いことを祈ろう。

『そや、倒した得物を見てもろうたらどないや?』

『崖下だろ?あの場所までシャナさんを連れて行くのは
 安全上ちょっと問題じゃないか?他にも魔物とか居そう
 だし・・・・』

『心配あらへん、収納魔法で回収してるよってな、ここに
 出すよって、ホイ』

 リケッツの収納魔法は手際がよく流れる様な動作で
デモニオライノを僕とシャナの前に出した。

 倒されたデモニオライノを複雑な眼差しで見入って
いた、しばらくして僕の方に目線を移して話始めた

『改めて助けて頂き有難うございます、貴方の想いについて
 の答えはもう少し待って下さい、気持ちの整理をしないと
 答えを出せなくて……』

『シャナさんの答えが出るまで気長に待ちますから、焦らない
 で下さいね、そろそろ帰りましょうか?』

『リケッツ、僕たちは帰るけど一緒に来るかい?
 僕の家の場所を知らないと呼びに来れないんじゃ?』

『大丈夫や雄靖はん、ヤニスの店は分かりますやろ?
 ワイは店主のヤニスとは長い付き合いでな雄靖はん
 の事は奴から聞いて知ってたんよ、魔法のクセで
 気づいたんけどな。
 だから住んでる場所は大体分かるよって、でもこれ
 持って帰ってくれるか?ワイはこれの位置を察知出来るのや』

 そう言うとリケッツはペンダントを僕に手渡した。
ペンダントトップには7色に光石が付いているだけのシンプルな
デザインである。

『パーティー活動する時は教えてくれよ』

僕はそれを受取りシャナと帰路に就いた。

 家路に向かう僕達は無言で歩き続けた。
僕の気持ちと決意は伝えたつもりだ、後は彼女の気持ち
次第だと思う。
僕自身としては言いたい事は言えたので気持ちは清爽だった。

一時間ほど歩いたところでシャナの家に着き彼女と玄関で別れ
僕も家路に就いた。
帰宅し寝床に横になりながら今日の事を考える。
シャナさんには精神的な負担になったのではないか?
自分の気持ちを一方的に押し付けたのだろうな……

ダメだな、起きてると余計な事を考えてしまう
もう寝よう・・・・

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 翌朝は何時もより早くに目覚めた、ロックラビットから取れる
願の石(水晶の様な石)の在庫が心許なくなってきたので
久々に狩に行く事にした。

 リケッツとの約束でパーティーメンバーにはなったものの
やはり生活の基盤は異世界では狩で得られる願の石、薬草採取。
願の石は世界を越える移動又はアクセサリーとして売る事で
元の世界での収入源だ、ちょっと反則だが株のトレードにも
活用しているので上手く運用出来れば多額の利益を上げられる。
しばらくは両方の世界で生活を安定するための資金作りをして
いこうと思う。

 森に来てみると何となく何時もと違う感覚を覚えた。
狩りの対象であるロックラビットの気配を感じて取れるからだ
一体これはどうしたのか?初めての感覚に驚いたが、よく考えて
みれば便利であるので・・・・深く考えずに使う事にした。

『いや~大猟、大猟。ちょっと怖くなるな、能力の追加は・・・・』

 戦いによる経験値で能力を得る事があるのだろうか?
今度、我が魔法の師匠カルヴァンに聞いてみるか。

 後日、願の石を使い元の世界でガラス製品を仕入れヤニスの
店を訪れていた。

『久し振りだねヤニス、元気だったかい?』
 
『リケッツに会ったんだって?聞いたぞデモニオライノを
 倒したんだってな!』

『情報が早いな、リケッツから聞いたのか?』

 そう言えばリケッツはヤニスと知り合いだと話していたな
リケッツについてもう少し情報が欲しいと思っていたところだ
ヤニスに聞いてみるか。

『彼の助けがありデモニオライノを倒す事ができたと思っている
 助けるについて条件はあったけどね・・・・』

『条件だって!なんて言われたのさ?』

『パーティーメンバーに加わるっていう条件だよ、何か魔法を
 使える前衛を探してたみたいなんだ。
 魔法職で前衛ってのはどうなんだろうって思うのだけど?』

『ん~俺は商人だからな・・・・その辺りはよく分からんな。
 それはカルヴァンに聞いたらどうだ?』

 僕は元の世界で仕入れた商品の商談をしヤニスの店を後にし
カルヴァンのもとに向かった。

 修行で何度も来ていたが、遣り通しこうして訪ねると気恥ずかし
く感じてしまう、などと考えていると後ろから声をかけられた。

『雄靖か?』

声の主はカルヴァンだった。

『カルヴァン、久し振り。聞きたい事が会って来たんだ』

 カルヴァンには偶然デモニオライノと遭遇し闘いになった事
かなり不利だったけど冒険者リケッツの助力で倒せた事などを
話した。
ついでに前衛の魔法職についても聞くことにした。

『聞きたい事があるんだが、パーティー編成で前衛の魔法職って
 正当な編成なんだろうか?』

『前衛の魔法職ですか、そうですね機動力と攻撃力を重視する場合
 それも相当な実力を有するパーティーなら有効な布陣ではないで
 しょうか。魔法による防御は展開と解除を素早く行えパーティー
 全体の機動力向上に、しかし実力が伴わなければ全体の防御力が
 低下し攻撃力にも悪影響が出るでしょう。よろしいかな?』

 なるほどな・・・・って事はリケッツのパーティーは
相当な実力者集団ってことだよな、そんなパーティーで自分は
与えられた役割をこなせるだろうか?……不安だ。
 でもメンバーになってしまったのだ、今更ながら考えても
仕方がないよな。

『雄靖よ、目的の闘いに勝利した事は良かったではないか
 私も師として嬉しく思う。しかし何故そのような質問を?
 何れかの冒険者パーティーに入るのかね?』

 僕は経緯を話す事にした、彼の意見も聞きたかったしね。

『さっきも話したけどデモニオライノとの闘いで助力の条件
 としてパーティーメンバーになること、ポジションは前衛の
 魔法職って条件だったのさ』

『なるほど、それで先程の質問ですか。私の答えは参考になり
 ましたか?他にも聞きたい事があれば可能な限りお教えしま
 すが』

 僕はカルヴァンの申し入れに感謝し魔法の経験値が上がる事に
よっては新たな能力を獲得する事が有るのだろうか?

『魔法と言うか感覚なのか解らないのだけれども闘いにの後、
 獲物なんかの存在を感知できるようになったんだ。
 そんな事が有るのだろうか?』

 カルヴァンは考える様子もなく答えた

『魔法の経験値、熟練度が上がれば得意とする能力に関連した
 魔法や感覚を得る事はよくある事。研鑽を積む事で更なる
 能力の向上を手に入れる事になる』

 なるほど・・・・努力が報われたと考えて良さそうだ。
元の世界では努力が報われる事など無かったな、運も無かった
のだろう。
だから異世界に来てからの出来事はどんな事でも素直に受け入れ
られた。

『カルヴァン、有難うな、魔法にそんな一面があったとはね
 知らなかったよ、まだまだ学ぶべき事は多いな。
 今後パーティーで経験を積めば更に新しい能力が得られる
 って事だよね?』

 使い道は兎も角だが新しい能力には心踊るよ。

『雄靖よ、能力の獲得には現在の能力を使いこなし昇華させなければ
 ならない場合によっては命懸けになる時もある』

 なるほど・・・・当然だろうな、楽に手に入るとは思わなかったけど。

『忠告を有難う、無茶はしないよ、カルヴァンはリケッツのパーティー
 を知っているかい?』

 ヤニスの知り合いならリケッツの事も知っているのではないか?
少しでも情報が欲しいしな。

『顔に化粧している冒険者リケッツか?』

『そうそう、知っているのか? 知ってる事で良いから教えてくれ』

 有り難いカルヴァンはリケッツを知ってるようだ、パーティー
事情などの情報が聞ければ有り難い。

『リケッツについて知ってる事は多くない、彼らは一流の冒険者
 であり各々の実力も並みの冒険者と一線を画すると言われている。
 それと依頼を受ける以外はパーティーとして行動を共にすること
 は無いと聞く、防御と攻撃の役割分担ではなく、単独で防御と攻撃
 を行い圧倒的な力で敵を粉砕する戦闘スタイルらしい。
 私が知ってるのはこの程度の情報はだよ』

 話を聞いた後、少し考え込んでしまった。
何で僕なんだ?そんな猛者集団に僕が加わって良いのだろうか?
異世界からの転移者という経歴ではあるけど戦闘に関する事で
特別な能力を得てはいない、腕輪は特別な能力ではあるが、
魔法の獲得と身体能力向上、世界を移動できるなどで直接的な
戦闘力を高める事はない、リケッツからは前衛の魔法職って
事しか聞いてない訳で・・・・今の情報量では考えるのは時間
の無駄だな。

『雄靖よ少し気になる事が有るのだが、君の魔法特性の項目で
 アンノウンの数値が以前より大幅に上昇しているのだが
 何か心当たりは?』

 カルヴァンには僕のステータスの様な物が見えるのだろうか?
僕には確認できないだよな・・・・。

『僕には師匠のように能力の確認は出来ないし、これと言って
 思い当たる事は無いよ』

『魔法特性アンノウンは特殊な能力であり術者の意志、経験とは
 無関係に能力を得る事ができる、得られる能力は高度な魔法
 である場合が多い事から、神の祝福、と言われている』

 新しい魔法やリケッツの情報を求めて訪ねたけれど、それ以上
の収穫があった気分だ。

『カルヴァン、色々教えてくれて有難う。また何かあったら来るよ』

カルヴァンの家を後にし家に着くとリケッツが入口の前に佇んで
いた。

『リケッツ、何かあったのかい? もしかしてパーティー召集かい?』

だろうな、きっと。

『察しがええな雄靖はん、仕事の依頼を受ける前にメンバーと顔合わせ
 せなあかんやろ?一週間後にしたいんやけどな、準備よろしゅう』

だよね~~

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第四章
 ◆ ◆

 一週間後、僕はリケッツ連れられメンバーと顔合わせの場所に向かって
いた。
シャナさんからの返事がまだで気になっていたが、リケッツのパーティー
情報も重要なのだ。
実力者揃いのって事は危険な仕事が多いのではないだろうか?
そう考えるとシャナさんに打ち明けたのは早まったかな?

 待ち合わせは町の酒場だった。僕とリケッツは奥まった席へ
と向かい3人が座るテーブルの前に立った。

『よ!集まっとったな、隣におるんが新しくメンバーになる
 雄靖や、よろしく頼むで』

『はじめまして、リケッツさんからは前衛で魔法の担当と
 聞いています、パーティーは初めてですので至らない点
 は御指導をお願いします』

『カルロス・カイルだ、後衛で狙撃を担当している
 よろしくな』

『メーデイアよ、治癒と遊撃を担当しているわ
 よろしくね』

『アバンだ、盾役してる』

 長身細マッチョ風カルロス、妖艶グラマーなメーデイア
アバンは盾役って感じのガッチリタイプだ。

『雄靖です、リケッツからは前衛の魔法担当を任されました
 パーティーとしての行動は初めてなので、色々と教えて
 ください』

『リケッツ、パーティー経験無いって大丈夫なの?』

『ま~うちらのパーティーの連携は教えなきゃならんし、それより
 雄靖はな収納魔法のストレージが使えるんや、うちらの中では
 わい、とメーデイアしかおらんしな、収納使いが増えるのは
 有りがたい。
 それに、パーティーの経験は無いようやけど、連携の戦い方は
 知ってる感じがするんやけど・・・・』

 だよね~この世界に来る前は異世界物のライトノベルなんかを
愛読してたからな、戦闘における連携の知識だけなら何となく
理解してるかも、誤魔化した方がいいかな?

『リケッツの戦い方を見て邪魔にならないように動いていただけで
 連携とかは考えていなかったよ、そう見えたのは偶然さ』

『収納魔法持ちか、俺の狙撃は鉄球使うからな収納魔法使いが
 多いと助かるな、期待してるぜ』

『任せて下さい、カルロスさん』

『良かった、今まで鉄球は私が担当だったのよ、今後は雄靖に
 お願いするわ』

 パーティーの雰囲気は良い感じだ、これなら何とかなりそうだ
後は自分に与えられた役割を確実にこなすだけだな。

『自己紹介が済んださかい仕事の話しよか。
 今回は雄靖が参加での発仕事やし、互いの連携の練習を兼ねた
 仕事がええと思うんやけど、どないする?』

『それなら迷宮探索なんてどうかしら?
 難易度も階層で調整できるし、貴重なアイテムも手に入れる
 可能性も有るんじゃない?』

『面白いねメーデイア、良さそうな迷宮を知ってるか?』

『俺は迷宮に詳しくないからな』

 カルロスは詳しくないようだ、メーデイアは何処か当てが
有るのだろうか?
迷宮はゲームの様にアイテムが手に入るようだ、貴重な物
じゃなくても商売になる物が入手できるなら興味があるな。

『ミノス地下迷宮なんてどうかしら?
 難易度は適度に良いし空間の広さも申し分ないわ、それに
 下層に行けばアイテムもかなり残っていると聞いてるわ』

『今回は広いちゅうのはええな、連携の確認もあるしな
 それにやアイテムが手に入るば雄靖はんは嬉しいとちゃい
 ますか?
 ヤニスから聞いてまっせ、珍しい物で商売してるって
 聞いてますよって』

『あははは、知ってたんですねリケッツ・・・・
 迷宮ではどの様なアイテムが手に入るか教えてくれないか?』

『カルロスは詳しいんじゃない?私達の中では迷宮攻略は得意
 だったよね』

『得意って程でもないさ、そうだな・・・・魔法の道具が多いな
 俺は狙撃に役立つアイテム目的だが狙って手に入らないしね。
 他には装飾品かな、迷宮の物は高額で売れるぜ』

 なるほど、危険に見合う物が手に入るって事か。
魔法系は元の世界じゃ売れないだろうから、装飾品狙いかな・・

『そうなんですか、何か迷宮に興味が出てきましたよ』

『雄靖がええなら決まりやな、出発は七日後でどないや?
 集合場所はここや』

〈〈〈〈 了解 〉〉〉〉

 メンバーは準備の為、酒場を後にした。
僕は帰りに師匠カルヴァンを訪ね迷宮に行く事やメンバーに
会ってきた事などを報告し、ついでにミノス地下迷宮につい
て聞いてみる。

『カルヴァン師匠、ミノス地下迷宮って御存知ですか?
 注意点などあれば教えて頂きたいのですが・・・・』

『そうだな、私が知っている事は階層が50有り迷宮と
 しては難易度と大きさは中規模。
 魔法系アイテムや宝石などが手に入るらしく魔物の種類は
 魔獣系が多いと聞く、魔物も素材として売れる。 
 リケッツのパーティーなら無茶をしない限り大丈夫だろう』

『なるほど油断は禁物ですね、不安はありますが得られる物を
 考えると楽しみでもあります、ヤニスの店で買い取りは
 できますか?』

『買い取ると思うがな・・・・心配なら事前に聞いてみたら
 どうだ? それとヤニスから聞いたがシャナさんの事は
 考えなくていいのか?』

『聞いてたのですね、彼女にはパーティーの事は話しました。
 それに告白もして今は返事待ちなんですよ、迷宮の話しは
 未だで、これから話に行きます』

『そうか……良い返事であることを願っていますよ』

 僕はカルバンの家を後にしシャナの家に向かった。
かなり緊張している、返事は良くても悪くても問題は
山積みだ、でも考えても仕方がないな。

 家にはシャナとアンナが昼食の準備をしていた。
迷惑かとは思ったが聞いてみることにした。

『シャナさん、アンナさん只今戻りました。こんな時間に
 失礼かと思いましたが、お話がありまして都合を知りたく
 帰宅の報告を兼ねて訪ねて来ました』

『まあ雄靖さん、よく来てくれましたね嬉しいわ、娘も心配
 してましたのよ』

『雄靖さん……』

 シャナさんは不安そうな表情で僕を見つめていた。

『雄靖さんパーティーに入ったんですよね?もう活動は
 しているのでしょうか?』

『まだですが、近く迷宮に行くことになりそうです。決まったら
 報告しますね、珍しい物が入手できそうなので楽しみなんですよ』

『シャナ、立ってないで奥の部屋で話したら?
 何か長くなりそうじゃない?
 食事の準備は私がしておきますよ』

 娘の雰囲気で何かを察したのかアンナは二人きりで話す
よう促し、二人は奥の部屋に向かった。

『雄靖さん、迷宮って危なくないのですか?
 好きになった人が危ない事をするのは…………あ!』

 彼女は頬を染め俯いていた。

『え!・・・・シャナさん、今の言葉って・・・・
 前に打ち明けた事の答えだと思って良いのですか?』

『うぅ…………あれから私の心と向き合って考えました、亡く
 なった夫の事、命懸けで守ってくれた雄靖さんの事、そして
 求愛を受けた事。
 答えを出せないのは亡くなった夫に対して裏切りになって
 しまうのでは……そんな気持ちがあったらから。
 夫から救ってもらった命、軽くは考えられない。
 でも、母は過ぎ去った事にさ縛られて今の気持ちを押さえ付け
 ていては亡くなった彼も心配なのではと言ってくれました』

『シャナさん、僕も事情は承知しているつもりです、急いで
 返事を頂かなくても大丈夫ですよ。
 今日は迷宮に行く事を伝える為に伺っただけですから』

『でも貴方の想いに答えるには、もう少し時間が欲し
 かった。
 まだ亡き夫を忘れられない私が他の男性に想いをよせる事は
 無いと考えていました。
 森で貴方と出会った時は本当に驚いたのですよ、亡き夫に
 瓜二つでしたし夢かと思ったほどです。
 そして少しずつ貴方を知っていく中で、次第に意識するように
 なりました。
 先日、魔獣から守ってくださった時に貴方に好意を抱いてい
 ると自覚しました……
 だから・・・・返事は決めていました。
 雄靖さん、私を一人にしないで下さいね、約束してくれますか?』

 シャナさんは夫に先立たれ、その事が伴侶を持つことに臆病に
なっていた。その事を理解していたが、それでも彼女に告白すると
決めた。彼女とこの世界で生きていく、それが今の僕の願いだ。

『シャナさん……約束します、貴方と共にいつまでも』

 そして僕達は抱き合った。
その日は皆で食事をし、二人の事を彼女の母アンナに伝えた。
アンナは僕達の事を予感していたらしく、特に何も言わず
祝福してくれた。

 何となくだがシャナの事を誰かに報告したくなりヤニスの
店に来てしまった、この異世界では気兼ねなく話せる一人だ。

『シャナから返事を聞いてきたよ』

『で、どうだった?想いは通じたのか?』

『僕の事を受け入れてもらったよ、お母さんからも許し
 を得たよ』

『お~やったな、俺もな・・そんな予感はしてたけどな』

『何でさ?・・教えてくれよ』

『そうだな、一つは外見が亡くなった夫に似ていたしな、
 それにお前は諦めがわるそうだしな、そのうち口説き
 落とすと思っていたよ』

『何だよそれ、でも諦めたくはなかった気持ちはあったよ、
 (諦めるな!)って心の声が聞こえた気がするんだ』

『あははは・・キザな言い方じゃないか?ま、いいけどよ。
 悲しませるなよ、それに彼女はエルフなんだ、人族のお前
 とは寿命が違うぞ、その事は考えているのか?』

『勿論考えたさ、身勝手な考えだとは思うが、僕の命ある
 かぎり彼女に愛の全てを捧げる覚悟だよ、その事しか頭に
 なかった・・・・答えになってないな、でも今はこれしか
 言えない』

『考え抜いた末の結論なら俺がとやかく言う事じゃないがな。
 ここに来たのは彼女の報告だけか?』

『実は近いうちに迷宮に行くことになったので、その準備の
 相談もしたかったのさ』

『迷宮だと~おいおい、彼女は知ってるのか?
 折角、彼女と上手くいってるのに危険な迷宮に行かなくても
 いいだろうに、狩猟や採取の仕事だけでも生活には困らんし、
 硝子なんかの雑貨の買い取りもあるし収入は十分だよな?』

『ちょっと訳ありでな・・・・命の危険を感じたら逃げるかな?
 彼女には話したよ、かなり心配してたよ。
 一緒のパーティーメンバーも、それなりに考えてくれている
 ようだし、信用はできると感じたよ。
 それに彼女の事もある、無茶はしないさ』

 迷宮行きを心配してくれた事は嬉しく感じた、異世界に来て
しばらく経つが僕は彼の事を信用している、良い人物と出会え
たものだ。

『そこまで考えているなら、これ以上は言わないさ。
 ところで何を準備するんだ?俺の店で事足りればいいが?』

『冒険者の仕事は初めてだからな・・・・武器、携帯食、薬草
 なんかだろうか?』

『そうだな武器は複数必要だろうな、お前は収納魔法が使える
 のだから食糧、毛布、食器とか思い付く物を持って行けば
 いいんじゃないか?』

『じゃ、武器から選ぶか・・オススメはなんだい?』

『狭い所でも扱いやすいのがいいだろうな、短剣かショートソード
 を主装備として、魔法の補助武器が良いだろう。
 後は防御をどうするかだが希望はあるか?』

『パーティーは機動力重視のように思えるから軽さと防御力の
 バランスが重要かな』

『なら部分的に金属を使った軽鎧だな、籠手に物理防御の魔法を
 施せば盾は不要だろうしな、少し高額になるけどよ』

『僕は主に魔法の担当みたいだから、短剣がいいと思う鎧は高額
 でも今、聞いた鎧で頼む。魔法の補助武器には近接攻撃に使え
 るのが良いかな・・そんな感じの有るかな』

『短剣と鎧は数も揃っている、補助武器は風魔法のが一つしか
 ないがどうだ?
 ウインドブレスっていう魔道具なんだが打撃と防御の魔法が
 付与されている。威力は弱めだが魔力の消費が少なく発動が
 速いのが特徴なんだがどうだ?』

『いいんじゃないかな、前衛だから発動が速いのは使いやすい
 と思う、短剣と鎧を見せてくれ』

 短剣は思ったより数は揃っていた、こんな経験は初めてだし
何を基準に選べばよいのやら・・・・
ん?この紅い短剣はカッコいいな双剣だし。

『この双剣が気になるのだけれど・・・・』

『それは双剣クルテシルツさ、火竜の鱗で作られているらしい
 魔力を流せば刃に炎を纏い少々の刃こぼれなら修復される。
 切れ味は普通の剣と変わらないが、手入れが楽だぞ。
 その双剣を選ぶなら鎧は(邪龍の鎧)がいいな、なんせ対で
 作られた物だしな』

『どんな鎧なんだ?』

 ヤニスは店の奥から深紅の鎧を持ってきた、胸当てと
籠手だけの軽鎧のようだ。

『これさ、双剣と同じく自己修復機能を持っている。
 軽く動きやすい形状だからな攻撃重視の前衛には
 合ってると思うぞ』

 高額な物だが、ここはヤニスの店なのでガラス製品を売る
ことで支払いは可能だと思う、旅費も必要だし交渉してみるか。

『ヤニス、今は金の持ち合わせが少ないんだ、手持ちの物を
 引き取ってもらい支払いに充てたいのだが・・』

『硝子製品かい?見せてみな』

 収納魔法でしまっていた物の中から虹色グラスを選んだ、
理由は単純に高く売れそうな気がしたからだ。

『これなんだけど、どうかな?』

 ヤニスの目が大きく見開かれたと同時に両肩を捕まれた。

『なんだこれは!初めて見た、これを幾つ持っているんだ、
 もしも4つ持っているなら、これ以外に代金は要らないぜ』

 何となく予感はしていた、普通の硝子製品に価値が有るの
なら虹色グラスなら驚かれると思った、確かイケると思い
多目に買ってた気がする。

『4つね、待ってて・・・・あ、あった、これだけで支払い
 は良いのか? 僕は助かるけど』

『何を言っている!こんな珍しい物はないぞ、実は然る貴族
 から高価な食器を探す依頼が来ててな、お前に相談しようと
 考えていたんだよ、そこにこの話しだだからな丁度良かった
 のさ』

『これで商談成立だな、迷宮から帰ったら寄るから買い取って
 くれるかい?』

『おうよ、任せな・・他に必要な物はあるか?』

その後、携帯用の日用品や薬等を買い揃え店を後にした。

『準備はこんなものだろう、明日はシャナの家に寄り挨拶を
 してからリケッツの所に向かうか』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
第四章

◆初めての迷宮◆

 僕は迷宮の入り口でメンバーの到着を待っていた。

『少し早すぎたかな?』

 この世界は時間の概念が実に曖昧だ、時計は身分の高い貴族
などしか所有していない、大勢の人々は日の出、頭上に太陽が
来た昼間、日の入りを基準にした大まかな感覚で生活を営んで
いた。
 僕が知らされた待ち合わせ時間は 日の入りと昼間の間だ
であった。

『ま、新入りだしな皆より早く来るのは礼儀だよな』

 しばらくするとカルロス、メーデイア、アバンそして
最後にリケッツの順で現れた。

『みんな揃ってるな、雄靖、呼びづらいからユウでどうや?』

『リケッツさん構いませんよ、皆さんもユウでお願いします』

『初めての迷宮さかい準備は大丈夫でっか?』

『ヤニスの店で必要と思われる物は揃えて収納しているよ』

『ほな行きますよ、先頭はワイとユウやな、行くで』

 パーティーの先頭には多少の不安はあるのだがリケッツも
先頭だし、後方に狙撃や遊撃も控えている。
余程の事が無い限り安全だと思う・・・・思いたい。

 迷宮に入ると程なくして、よく知る気配を感じた。

『ユウ、感じるか?』

『ああ・・リケッツ、この気配はロックラビットじゃない?』

『狩るのか?ユウ』

 リケッツにはロックラビットを狩る必要性が理解できない
かもな、魔石の利用価値は魔法の腕輪を持っていなければ
この世界では価値は無いに等しいからだ。
ヤニスにはそれとなく探りを入れたが、腕輪と魔石の事は
知らなかった。
思うに特別な事なのだろう、以前夢の中で話しかけてきた
人物?神?よく分からないが、世界を越えて召喚出来る
力を持っている事を考えれば創造主的な存在なのだろう。
この事はメンバーにも黙っていた方が良いだろうな。

 ロックラビットは30匹ほど狩り内魔石は10個取れた
いつもの様に肉は保存食にしておく。

 この迷宮は50階層あるのだがパーティーの実力が高い
事もあり半分の25階層まで一気に来てしまった。
魔物は獸タイプが主で力任せに攻撃が多い、ミノタウロス
などは魔石も大きく角は高値で売れるらしい。

 ロックラビット、ミノタウルスの他にも中型の魔獸を
それなりに討伐し売れば結構な収入になりそうなのだが
討伐で獲た素材は僕の物にして良いらしい。
僕には貴重な収入だけど彼ら上級冒険者には魅力的な素材
じゃないのだろう。

『スゲー助かるよ、もう少し大きな家をと考えていたので
 お金を貯めていたところなんだ』

『気にせんでよかよ、ここにいる連中は十分に金は持って
 るさかい、それに今回の目的は戦闘での連係を確認する
 事なんよ、ここまではワイとユウの連係だったけど
 ここから先はカルロスとメーデイアとの連係を確認する
 よってな。
 遊撃のメーディアが先行する前にユウが先制攻撃、
 後方のカルロスの攻撃を援護できるポジションでユウは
 待機し遊撃と狙撃の支援するようにな。
 ほな、行きましょか』

  基本行動とポジションの確認みたいだ
 狙撃の援護って事は止めを刺す時の連係だろうな
 魔獸も大型なのだろう・・・・たぶん。

『お、御誂え向きな魔獸がおったで』

 それは牛程の大きさで蝙蝠の様な羽根を持った虎に似た
魔獸であった。

『ユウ!飛ばれるのは厄介だから奴の羽根に攻撃をお願いね』

その言葉を告げメーディアは魔獸に突っ込んだ

『≪アイスアロー≫これでどうだ!』

 これは氷の矢を数本出し攻撃する魔法で、氷の攻撃魔法の
定番なのだ、狩猟で使えるので僕は得意としてる魔法の一つ
である。

*魔法は羽根を貫き飛行能力を奪った、メーディアは透かさず
足に斬撃を放ちカルロスの銃弾が眉間を貫いた。

≪≪ユウ、ナイス!≫≫

メーディアとカルロスからの称賛で少しホッとした。

『ユウはん、この調子で一気に最下層を目指しますよって
 気張りなはれ』

 下層に行くにほどに徐々に強くなる魔獸を倒しながら
最下層である50階層に辿り着いた。

『リケッツ、あそこに有る白い球体は何?』

 そこには直径20メートルはあるであろう表面に光沢の
ある球体が鎮座していた。

『ほほー、スフィアー・ウォードゥンが階層ボスかいな』

『あまり強そうには見えないけど……』

 リケッツはいつもと変わらない様子だが、他の二人は少し
緊張している感じに思えた。

『そやな連係の訓練には理想的な相手かもしれへんな、ワイは
 手出しせんよって3人にお願いしますわ。
 この魔物?魔獸?は、こちらから攻撃しなければ動かないけど
 一度でも攻撃しよったら、連続攻撃の始まりや、攻撃が止む
 事は無い。
 生物かいなって思う程や、ユウ油断は禁物やで』

『そろそろ初めてよろしいかしら?私とユウで撹乱しつつ
 何とかスフィアーを固定してみましょう。
 ユウの経験の為に私達は最低限のサポートに止めますね
 固定が出来ましたらカルロスが終わらせてくれるわ』

『止めは任せなユウ、奴は魔法攻撃を弾くから驚くなよ。
 さて、始めようぜ』

*カルロスの合図で戦闘は開始された、ユウはアイスアロー
を放つが曲面の体表に弾かれ、透かさずファイアージェルの
魔法を仕掛けたがツルツルした表面の為か直ぐに流れ落ち
止まれない炎はダメージを与えられなかった。
直後、体当たりの攻撃が雄靖を襲った。

『うぉっと・・・・僕の攻撃は効かないか……
 にしても、あの防御で体当たりじゃ攻防一体かよ、こっち
 が不利だよな~
 わわわ・・・・!』

≪・・どかん!・・≫ 

『あ・ぶね・・』

『ほら、ユウ・・余所見はダメよ~』

*メーディアは衝撃波を放ちユウに対する攻撃を妨害しスフィアー
の攻撃を自分に引き付けた。

『少しの間だ私が引き付けるから、その間に何か考えなさい』

 さて、どうするか・・このまま攻撃しても効果は無いな
魔法がじゃなく、あの形(球状)と表面の状況だな。
生き物なのだから熱の耐性には限界があるはず、ちょっと
試してみるか。

『メーディアさん、交代してください。≪アイスアロー≫』

*当然、魔法は弾かれたがスフィアーは此方に攻撃を変えた。

『この辺りだったよな、あ、あそこだ』

*雄靖は逃げ回っている時に見つけた窪みがある場所に向かい
その底の中心で待ち構えた。
スフィアーは雄靖に体当たりを仕掛けたが、ギリギリで上に
回避する。
その場所は轟音と共に深く抉れた。

『いい感じだ、後数回かな・・・・』

*何度か繰返し擂り鉢状に30m程深くなっていた、
 スフィアーの移動手段は自ら回転し接地摩擦を利用
 している。
 深くなった穴からの移動は鈍くなっていた。

『そろそろ仕掛けるか』

*スフィアーの攻撃をかわすと同時にファイアージェルを
 連発する。
 穴はファイアージェルで満たされ、スフィアーは地面との
 摩擦は奪われ穴の中で身動きができない状態になった。
 透かさず真上の天井にアイスアローを放った。
天井には鍾乳石様な形をした巨大な岩があり、魔法は
 その根本に放たれ、着弾と同時にスフィアーにの頭上に
 落下し蓋の様に覆った。

『よし!、これなら熱の攻撃が効くよな』

*スフィアーはファイアジェルの中に閉じ込められる
 状態となった、中からは回転音が微かに聞こえている。

『ええ作戦やな、この先をどないするんが倒す為には重要やで』

 たぶんこの攻撃では倒すのは厳しいだろうな、この隙に次の
攻撃手段を考えなくては・・・・
僕の魔法攻撃では打撃を与えるのは、この辺りが精々だよな・・
奴を固定する魔法をいくつか試してみるか。

*スフィアーを閉じ込めた穴から凄まじい回転音が響きだし
 蓋にした岩が上下に振動し始めた。

『これは長いこと保たないな』

 対象を固定する魔法は水系統(氷)と効果時間は短いが
空気系統(風)の魔法は使える。
ん?、そう言えばこれは互いの連係を確認するのが目的だった
のではなかったか・・・・
前衛である僕の役割は後衛の攻撃のサポートだよな・・・・
忘れてたよ。

『カルロス、メーディアさん、これからスフィアーの動きを
 制限してみます、上手く行ったら止めお願いします』

『『了解した』』

『連係の事、忘れたと思ったぞユウ』

*その時、閉じ込めていた蓋が吹き飛びスフィアーが
 飛び出して来た。
 スフィアーはファイアージェルの熱で熔鉱炉内の鉄の様に
 真っ赤になっている、そこにユウの魔法が放たれた。

『アイスロック』

*高熱状態のスフィアーは氷を溶かし始めるがユウの次の
 魔法が放たれた。

『ブリザード』

*溶けかけた氷に氷雪混じりの極低温が吹き付けた。
 その魔法は氷が溶けるそばから新たな氷でスフィアーを
 包んでいた。
 高熱から急激に冷やされた体表には温度差により微細な
 罅が入った。

『お、なかなかの攻撃じゃないか。メーディア!俺が銃弾を
 撃ち込むから、そこに止めを刺せるか?』

『カルロス、貴方こそよく狙いなさいよ』

*カルロスが銃弾を撃ち込むと罅が大きな亀裂となり
 直後にメーディアの衝撃波が放たれ、スフィアーは粉々に
 砕け散った。

『皆、お疲れさん。ユウも初めての連係にしては合格点やろ
 カルロス、メーディア、ユウに言いたい事はあるか?』

『ま、初めてならこんなものだろうな』

『いいんじゃないかしら、判断力に問題はないと思うわ』

 迷宮での戦闘連係は問題なく終えた、この後はパーティー
としての行動予定は無く解散となった。
リケッツだけは僕に聞きたい事があるらしく僕と共に家路に
就いた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

第1章 5話

◆夢に向けての第一歩◆

 リケッツは帰り道で僕の戦い方や魔法についてのアドバイスを
受けた、次の仕事まで何とか解決しないとな・・・

『ところでリケッツ、聞きたい事って何なのかな?』

『ちょっと確認せなあかん事あるよって・・・
 そろそろ着くやろ、お茶でも飲みながら話すよって』

『はいはい、安物のお茶しかないけどね』

 しかし何なのだろう・・・仕事?、家まで来るって
メンバーには聞かれたくないって事だよな、そして長話になる
のだろう・・・何だろ?

『着いたよ、中に入ってくれ』

『ほな、おじゃましますわ』

『お茶、持って来るから適当に座っててくれよ』

 リケッツが椅子に座ったのを確認して、お茶の用意の為に
台所に移動した。

『ほい、安物だけど旨いぜ』

お茶をテーブルに置き僕も正面に座った

『あんがとな、いただきますよって・・・ん〜旨い』

『話って何なの?気になるよ』

『ヤニスから聞いたんやけど、ガラス食器なんかを売ってるんやろ?
 ワイにも見せてくれへんかな? ちょっと興味があってな』

『リケッツなら仕方ないな、ヤニスからは危険を呼ぶから簡単には
 見せるなって言われているんだよ』

 雄靖は収納魔法で虹色ガラスコップを取り出しリケッツの眼の前に
置いた。

『へ〜綺麗なもんやな〜、手に取って見てもええか?』

 僕が頷き同意を示すとリケッツはそっと手に取り、底や光に翳し
たりと真剣に観察をしていた。

『なあユウ、ヤニスからは両親の残した物と聞いたんやけど
 ほんまか?ワイはその事に違和感を感じるんやけど・・・』

『え・・あ、ん〜、そんなに変わっているかな(汗)(汗)』

『そうやな、ワイも世界中を旅してるさかい、珍しいもんも
 仰山見てるんよ。
 けど、こない綺麗で形が整いている、何より厚さが均一で
 透き通っているガラスは始めて見たわ。
 何て表現したら・・・別世界の物?の様な・・・・』

 リケッツの疑問分かるな、僕らの世界の大量生産品は品質が
均一でそれなりの美しさは有るけど、言い換えれば安っぽい感
がある。
しかしこちらの価値観では珍しく製造は難しいいのだろうな。
彼の感性は鋭い、誤魔化すのは無理かもしれない、信じるかは
分からないが正直に話してみるか、それに話したところで
誰にも話した事を咎められないと思うし。
でも口止めはしよう・・・面倒になりそうだし。

『わかったよリケッツ、でも少し待ってくれ。
 この事はシャナにも話さなくてはならない内容を含んでいる
 だから二人の前で打ち明けたいんだ・・・いいか?』

『シャナ?あ、ユウの想い人やな、わかった準備ができたら
 呼んでくれたらええ、それまで外で待ってるさかい』

 僕はシャナに会いに彼女の家に向かった、これから話す事は
シャナと生活を共にする為には話さなければならない。
彼女には僕の愛する気持ちと同じ位大切な事だ、真実を話す
所から全てが始まる、そう信じたい。

 家にはシャナと母親のアンナが居た、僕は二人に大切な話が
有事を伝え、リケッツが同席する旨を伝えた。
ちょっと信じがたい話であり第三者も加えた方が皆、冷静に
なれるのではと思う。
アンナの希望で話はこの家で行う事になった。

『リケッツここに居たか、待たせて悪い。
 先方に話したらシャナの家で話す事になったよ、付いてきて
 くれ』

『わかったで』

 居間で三人の前に座り僕は今までの事と、今後について
どうしたいか話し始めた。

『これから話す事は信じがたいかもしれないけど、最後まで
 聞いて下さい、そしてシャナさん本当のこと言えなくて
 ごめんなさい。
 記憶が無いのは嘘なんです、僕はこの世界の人間では
 ないのです、理由は分からないのですが貴方達からすれば
 僕は異世界人になります・・・』

 それから僕は元の世界で生きる希望を失い死を覚悟していた
事、街で拾った紙に書かれた紋章に導かれこちらの世界に来た事。
神なのか不明だがユミルと出会い腕輪を渡されロックラビット
の願いの石を使う事で元の世界と行き来出来る様になった事や
腕輪の能力で魔法が使える様になった事などを話した。
話の最中、驚きからか目を大きく見開き無言となっていた。
複数人で聞いていた事もあり互いを意識しながら混乱する事も
なく聞いてもらえた。

『話は以上です、シャナさん、お母さん、ごめんなさい本当の
 事を話さなくて。悪気は無かった事は信じてください。
 でもシャナさんへの想いに嘘はありません、貴方の優しさ
 に惹かれ心の底から愛してしまったのです。
 この世界で生きてく見通しも覚悟もできました、ですので
 この場を借りてお願いします、僕と共に人生を歩んでください
 シャナさんを幸せにさせてください、お願いします』

『雄靖さん・・・・ごめんなさい。今、混乱しちゃって・・・
 正直に話してくれた事は嬉しいです。
 心が落ち着くまで少し時間を下さい』

『そうね……雄靖さん、この子が心の整理がつくまで少し待って
 頂けないでしょうか・・・お願いします。
 落ち着くまで隣の部屋に行ってますので』

『申し訳ありません、シャナさんの事をお願いします』

 二人は隣部屋に行くのを僕は見守っていた、やはりショック
だっただろうか……

『ワイ話してもええかな?』

『なんか気を使わせてしまいました、リケッツさんが聞きた
 かったガラスは先程お話したとおり僕が元の世界から持ち
 込んだ物です、その事以外ですか?』

『ユウが持ち込んだのは理解したよって、これからも行き来
 して持ち込むって事でっしゃろ?
 何でそんな面倒な事すんねん、元の世界で以前の生活を続ける
 って考えへんの?』

『僕は元の世界で挫折した人間なのさ、今のまま戻っても前の
 状態に戻るだけさ、でも異世界に来た事で僕は変わり始めて
 いる。
 愛する人、頼りになる仲間、優しい人々に出会い僕は生きる
 事の意味を感じている。
 だからこちらでの生活も大切にしたいし最終的には二つの世界
 で生きていく事を望んでいる、その為にも資金を稼がなければ
 ならないのさ』

『せやな・・・生活するんや金は必要やな、せやけど異世界って
 ホンマにあるんやな。
 ユウ、ワイも資金稼ぎに協力するさかい異世界の事を教えて
 くれへん?』

『リケッツには色々助けてもらったし、教えるのは構わないけど
 条件がある。
 異世界についての話は誰にも口外しないでほしい。
 それが条件だけど良いかい?』

『ああ、それでかまへん』

 リケッツは約束を守ってくれると信じてたから話したのだし
協力者と考えれば大いに頼りになる。

『ところで異世界について何か知りたい事でもあるのか?』

『まずはガラス以外にこちらで商売できそうな物はあんのか?
 武器みたいな物は入手できるんか?
 あとワイも同行できるんかいな? こんなところやな』

『ガラス以外にも有ると思う、僕が気をつけているのは
 こちらの世界にも有る物を選んでいるかな。
 全く存在しない物は騒ぎになると思うし、危険だと判断した
 からね。
 僕が仕入れているのは、百円ショップって呼ばれている所で
 こちらの言葉に直せば、銅貨商店かな?
 食料や食器、装飾品、物作りの材料など銅貨1枚から数枚程度
 で売っている店なんだ。

 武器は売っているけど、僕の住んでいた国では一般人は買う
 事は禁じられている。

 リケッツの同行は可能なのか調べておくよ
 これでいいかな?』

『ガラスのコップが銅貨数枚! なんか目眩がしたわ・・・
 たぶんやけど、ヤニスは金貨2・3枚で売ったと思うぞ
 ヤニスに売った値段はなんぼや?』

『多分、金貨1枚だったかな、僕はその値段で十分だよ
 それに色々と世話になったりしてるしね』

 ま、元値が100円程度だし高額商品なら仕入れ値として
考えれば妥当なのだろうな、今度はもう少し売値を考えても
良さそうだな。

『ガラスで作られてる飾り物とかないんかな?
 あったらワイも欲しいよって』

『ん〜、たしか宝石を仕舞う為の入れ物があったと思うな
 それでいいなら今度序でに仕入れてくるよ』

『ほんまか!嬉しいな〜、物によっては金貨2枚で買い取る
 さかい頼むで〜』

 流石リケッツ、何か当てがあるのだろうな・・・
やはりこの商売モデルは今後も僕の生活基盤の基礎になりそう
だな、課題は元の世界での株式トレードを如何に成功させるか
が今後の目標になりそうだ。
売り捌くだけの収入では元の世界では目立ってしまう、理想を
言えば商売を営む方が自然だし、その為の資金作りとしては
徐々に株で資金を増やす方法が怪しまれないだろう。
異世界では冒険者としてのクエストとヤニスやリケッツに商品
を卸す事で生活はできそうだな。

『雄靖さん、ごめんなさいお待たせしました』

少し落ち着いたのかシャナとアンナが奥の部屋から出てきた。

『いいえ、謝るのは僕の方ですよ、いきなりこの様な話を
 聞かされれば驚くのは当たり前ですよ、僕の事は気にしない
 でください』

『雄靖さん、娘とも話したのですが別の世界から来た方でも
 これまでの貴方の行いを見る限り誠実な方だと思います。
 ですので貴方にはこれまで同様のお付き合いをしたいと
 娘と決めました、それに娘も………後は娘から聞いて下さい』

『この事は貴方に愛を告げたとき気に話すべきでした、でも真実
 を話す事が怖くて言い出せませんでした。
 先の魔獣(デモニオライノ)退治、迷宮攻略、冒険者になった
 事で少しだけ自信が持て真実を話す決意ができました。
 改めて聞きます、こんな自分ですが愛していただけますか?』

 シャナは一度アンナに目線を移し何かを確認した後、僕に視線
を戻し口を開いた

『もちろんです雄靖さん、貴方を愛する気持ちは変わりません
 でも、これからは隠し事は”無し”ですよ』

『雄靖さん、娘の事をよろしく頼みますね』

『シャナさんに出会い運命を確信しました、僕と一緒に同じ物を
 見て欲しい、貴方に永遠の愛を誓います』

『雄靖さん・・・私、貴方と共に生きて行きます』

 そして僕らは誓いの口付けを交わした。
結婚の見届けはアンナとリケッツ、この日二人の祝福を受け
シャナと夫婦になった。

『お目出度いな〜ユウ、ところで住まいはどないすんのや?
 冒険者になったんや、家を空ける事も多いやろ
 嫁さん一人で家におるの心配なんとちゃうか?』

『それは僕も考えていたよ、お母さんに相談があります
 この家の増築し僕も住みたいと思うのですが許可を頂きたい
 のですが・・・・』

『それは嬉しい提案ですわ、家族になるのですもの三人で
 暮らしましょう、子供が生まれた時も安心できるでしょ!』

『お母さんたら・・・・もう………』

『あはは・・・お母さん、ちょと気が早いのでは・・・』

『家の方は誰に頼むねん?決めてんの?』

『僕の家を建てたズムコに頼むよ、腕も良いし信頼している』

『なら、ワイはメンバーにこの事を報告してくるよって
 落ち着いたら連絡よこしなはれ、それまで仕事を探しとくわ
 新婚やお金も必要やろ』

『そうですね、よろしく頼みます』

『雄靖さん、危ない仕事は心配なので・・・』

 シャナは俯いて心配そうにしている、僕も新婚早々に危険な
仕事は避けたい。

『心配しなさんな奥さんが心配になる様な仕事はユウには
 させへんよって安心してくださいな』

 流石リケッツ分かっている、良かった〜でもどんな仕事に
なるのやら・・・

 そしてリケッツは仲間の所に戻って行った。

 家の解体(僕の家)と増築(シャナの家)をズムコに依頼し
30日程で作業は終わった。
僕の家で作った臭わないトイレとシャワー付き浴室は元の世界
を参考にした作りでシャナ親子には好評であった。
それ以外は寝室と居間を増築し台所とダイニングは共用にした
家族で過ごす時間を大切にしたいからだ。

 因みに増築後に初夜となったのだが、僕は憧れのエルフとの
性交に興奮状態で何度も、何度も枯れ果てるまでしてしまった。
お母さん、ゴメンナサイ聞こえていたでしょうね・・・・
翌朝、アンナは意味ありげにニコニコしていた・・・は〜〜

 しばらくしてリケッツが訪ねてきた
僕の準備が出来次第に新たな仕事先に向かうらしい、仕事内容
は獣人が住む村へ調査に向かうらしい、獣人は特殊な能力を持ち
美男・美女が多く労働力、探索仕事、接客業などで需要多くこの
世界では貴重な存在らしい。
ところが、村からの連絡が数ヶ月途絶えているらしく調査の依頼
が出ているとの事。
本来なら国の正式な調査団が行う事だが、向かった調査団も行方
不明となり、事態を重要視した国は有能な冒険者に調査依頼を
出すことになったらしく、それをリケッツが受けたらしい。

『仕事の内容やけど・・<中略>・・って事やねん』

『なんかそれってヤバイ仕事じゃないかな・・・大丈夫なの?
 一応言うけど僕、新婚なんですけど・・・』

『調査だけやしな、それに報酬は大金貨5枚や、一人1枚なんて
 こんな高額報酬なかなか無いで〜
 それにワイのパーティーは実力者が揃っている安心しなはれ』

 そうだな・・迷宮で見せたのは実力の一部って感じだった
リケッツを見れば他のメンバーの戦闘力が高いのは想像できる
それに・・獣人か〜ファンタジーの定番だし見てみたい!
報酬が高額なのが危険を感じさせるが・・・

『わかった、参加するよ。装備は前と同じで良いよね?
 シャナにも話したいし、準備できたら連絡はどうしたら?』

『そやな、装備は同じでええよ、連絡は前に渡したペンダント
 に念じればワイが感知できるねん、待っとるで』

 仕事の事をシャナとアンナに伝え、不安なアンナを安心させ
るのには一晩の時間を要したが無事に許しを得た。
装備を整えペンダントに念じた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

第1章 6話
 
 連絡した数日後、リケッツは迎えにきた。
やはり収納魔法は便利で、前回の迷宮探索で使用した装備などは
収納しっぱなしであり新たに準備する物は無くそのまま行くこと
にした。
 獣人の村は遠く途中でパーティーメンバーと合流し到着まで
一ヶ月を要した。

 気配を感知されない様に離れた場所で一度待機し隠密性の魔法が
使えるメーディアが偵察に向かう事になった。

『何にあれ・・・・』

*村の囲む擁壁に異常なまでの太い蔦植物が覆い異様な光景を
 作り出していた。
 
『あんな植物見たこと無い、あれって植物なんでしょうか?
 確認するしかないようですね』

*彼女が擁壁に近づいた時、蔓を鞭のように撓り攻撃してきた
 遊撃を得意としている彼女の身体能力は高く攻撃は回避した。

『これは面倒ですわね・・・・どうしましょうか』

 よく見れば植物は擁壁だけのようですね、あの程度の攻撃
ならば避けれるし、ここに居ても仕方ないから村に突入しよう
かしら・・・
あれ?窓からこちらを見ている方がいますね、行って事情を
確認した方がよろしいようですね。

*メーディアは蔓の攻撃を難なく躱し擁壁を飛び越えて村に
 入ることに成功した。

『えっと、あっちの窓よね』

 獣人の運動能力なら、このくらいの事で閉じ込められる
のは変よね?
何か別の理由があるのでしょうか・・・・
窓から見えた方に聞いてみましょう。

『あの〜ちょっとよろしいでしょうか?』

『誰さね、あんた』

 あ、お婆さんだったのね・・・話を聞けるかな

『怪しい者ではありませんわ、この村に連絡が取れない事を
 心配した者からの依頼で調査に参りました。
 お話を聞いてもよろしいかしら?』

『話すのはええが、いつまでもここに居ると奴らに捕まるがな』

 何かありそうですわね、こんなに早く原因が分かるなんて・・

『捕まる?ですか・・よろしければ詳しく聞かせて頂けますか?
 話の内容によってはお手伝いできるかもしれませんし』

『期待はせんけど・・聞きたければ話すのは構わんが、後の
 責任はしらんぞえ』

『私の興味で聞くのです、御婆様にはご迷惑はかけません』

『あれは4ヶ月ほど前じゃった、人族の行商人が村に来てな
 若い娘にネックレスを配りよった、何でもこれから販売する
 のでネックレスは無償提供だと言ってな。
 商品はこの村では珍しい物ばかりで、しばらくすると娘達の
 後ろには村の連中も集まり始めたんじゃ。
 行商人の男は集まってきた村人にもネックレスを配り始め
 たのじゃ。
 そのネックレスは疲労回復効果があるらしく、肉体労働が多い
 農村に住む我らには有難いものじゃった。
 次の日も男は商売に来て無償提供されてたネックレスは村人
 全てに配られた。
 その時じゃった・・・突然ネックレスが光始め夢遊病になった
 かの様に立ち尽くしておった、そして男の命令に従い村のにある
 洞窟に閉じ込められたんじゃよ』

『だからなんですね、他の村人に出会わなかったのは。
 でも御婆様は従わなかったのでしょうか?』

『あん時わしな、疲れとらんかったからネックレスは付けてなかった
 のよ。
 でもな気づかれたら危険な気がして操られているふりをして洞窟に
 向かう途中で抜け出し家に隠れていたのさ。
 村の危機を知らせようにもな擁壁の蔓が攻撃してくるし年寄には
 あれに対抗できん、途方に暮れる時にあんたが来たんさ
 擁壁の外から蔓の攻撃を避けて来たのが見えたんで男の仲間じゃ
 ないと思ったしな』

『おそらくですが、男たちは行商人ではなく盗賊でしょうね。
 それに今もここに居座っているとなると、ただの盗賊とは思え
 ませんね。
 村人を操り監禁してるとなると奴隷商人とも関わりがありそう
 ですわね』

『奴隷商人・・・・昔から獣人は奴隷商人に狙われておってな
 村に住んでれば安全なんじゃが、逸れてうろついて攫われる
 事はようあったが村にまで来よるとは・・・・』

『お婆様は、もう少しここに隠れていてくださいね
 私は洞窟を調べてまいります』

『気つけてな無理するでないよ、お嬢さん』

 これは奴隷商人にしては手が込んでいるわ、普通なら襲って
奪って売り捌く単純な行動になるんですけど。
村に居座り防衛まで仕組んでいる、こんな目立つ事をしてまで
何を企んでいるのかしら・・・

*メーディアが洞窟から離れたところで様子を伺っていると
 奥から鎧を着込んだ兵士風の人物が出てきて見張りをしていた
 男に話しかけた。

『異常はないか?村の巡回と周辺の警戒はどうなっている』

『は!異常はありません、巡回と周辺警戒は別班が今から出る
 ところであります』

『よろしい、儂は一度、軍本部に戻る警戒を怠るな』

*鎧の兵士は奥から出てきた飛龍に跨り空高く飛び立った。

 実験は始まったばかりだ、今はまだ民衆や他国に知られる
わけにはいかぬ、実験初期段階の成果報告と今後の指示を
受けなければ。

*メーディアは魔法で見張りの注意を逸し洞窟への侵入に
 成功した、奥には簡素な木で作られた柵があり囚われた
 獣人たちが居た。
 ネックレスは青白く光り目は皆虚ろであった。

『これは・・・・一時的じゃく持続性がある支配の魔法道具
 のようですね。
 何の目的で……ん?あれは・・・・』

*囚われている柵の前に机があり書類の様な物が置いてあった

(魔法具による精神支配とその持続性について)って何よこれ!
なになに……魔法を付与された物で精神支配の検証を行ったが
持続性につては装着している限り効果は続くと検証された。
支配については深層意識にまで達しており訓練、教育にも問題
は無いと思われる。
獣人の雄には戦闘教育、雌には潜入の為に必要な教育と護身術
を施し能力に応じて編成を行っている。
実践投入最終段階である。
各編成の詳細については・・・・・・・

 支配による軍隊編成って、国家が関わっているの・・・これ
何か単に調査って仕事じゃなくなってきたわね。
どうしようかしら、御婆様も心配だし一緒に村を離れて仲間に
相談した方が良さそうね。

*メーディアは洞窟から離れ村に戻り御祖母さんと合流し
 共にリケッツと仲間が待機する場所に向かった。

『リケッツちょっと厄介な状況になってるわよ、確認なんだけど
 この依頼って商業ギルドよね?』

『そうやけど、どないしたん? それにお婆さんは何なん?』

『この依頼大金貨5枚じゃ割り合わない感じよ、それに下手したら
 私達が抹殺される可能性だってあるわ。
 この背景には国の軍隊が関与してるようだし・・・
 お婆さんは難を逃れて隠れていたので用心の為にここにお連れ
 しました』

『偵察ご苦労さま、高報酬なんが気になってたんや。
 しかし国家が関わっていたんかい・・・
 この地域は魔物も多く危険な土地やからどの国家も避ける場所や。
 開拓も進まず未開地の部分が多い、人族には住みづらいが
 身体能力が高い獣人にとっては住みやすいんや。
 あと、婆さんはメーディアがギルドに連れて行く方が良いやろ。
 事情を説明すれば保護してくれるはずや。
 序でにこの状況を説明して、この依頼をどないすんのか確認して
 きてくれるか?
 それまで他のメンバーは村の外で監視してるよって。
 頼むでメーディア』

『ほな、ワイらも行動しよか』

 僕とリケッツ、カルロス、アバンは村の擁壁を見渡せる丘の
上に簡易な休憩所兼見張り場所を作った。
外観は緑色の防水布と草木を配置してカモフラージュしている。
メーディアが往復する2ヶ月をここで過ごすのだ。
長いな・・・・などと考えているとリケッツの指示で食料担当は僕、
偵察担当はリケッツとカルロス、監視担当にアバンに決まった。

『これでええよな?、それぞれ行動開始や』

 僕は森に入り獲物をさがす、調理も森でして方が良いだろう
煮炊きの煙で気づかれるとマズイしな。
移動も考慮すると弁当の様に容器に入れるのが理想だな。
初めに容器、続いて狩り、そして調理かな。

 竹のような植物があれば理想だな・・・
森を探して小一時間が過ぎた頃、風船の様に膨らんだ実を
付けた木を発見した。
僕の知識としてはヤシの実に近い感じだ、一つ木から取り
半分に切ってみたら、透明な液体と内側が白い果肉に覆われて
いた、正にヤシの実!これは使えそうだ。
仮名ヤシの実!を数個収穫し狩りに向かう。

 ここに来るまで川は無かった気がする、たんぱく質は獣の
肉にしよう。人数が少ないから小型の獣で量は足りると思う、
あとは山菜で良いか。

 獣道らしき物を見つけたので見渡せる場所で獲物を待つこ
とにした。

『ん!何か来た』

 猪に似てるな・・・体長は80cmくらいか、大きさは
丁度いいね、行くか。

<アイスカッター>

*魔法は獲物の首に命中し、頭が切り落とされた。

 おお……狩りの腕前も上がったな・・・
血抜きをし塩焼きにするか、山菜は軽く茹でて添える感じ
だな。
山菜を採取し食材の下拵えと調理を済ませ出来上がったのは
弁当である、仮称ヤシの実を容器としたのだった。

『なかなかの出来栄え、戻るか』

*人数分の弁当を用意し雄靖は仲間の下に向かった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

*メーディアは冒険者ギルドに被害者(お婆さん)の保護要請と
 この件に軍隊が関与している事などを報告し、受けた依頼の
 扱いについて続行すべきかの確認を求めた。

『メーディアさん、ギルドとしては続行の判断になります。
 依頼主は街の労働者紹介所でありギルドはどの国にも属さない
 組織ですので軍隊が関与する事があっても依頼に影響は無いと
 判断します。
 したがって依頼を降りる判断はパーティーが決める事になります
 しかし状況が状況ですし、ギルドでも軍隊の調査はいたします。
 それまでの間、待機していてはどうでしょうか?』

 私達のパーティー能力は高いけど相手が軍隊なのは気が乗らない
わね、何かを実験してる感じだったし・・・もし極秘の任務なら
慎重なリケッツは関わりを避けるでしょうから。
長くなりそうだから、お酒でも仕入れて戻りましょうか。
 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

*洞窟の実験施設から軍本部に戻ったインバル部隊長は作戦参謀に
 実験経過の報告をしていた。

『現時点で得られた生体実験の報告であります。
 身体能力が高く戦闘に適している獣人に対して魔法具による
 精神支配を行い外人部隊とする計画ですが、今のところ
 魔法具による支配に問題は無いと思われます。
 激しい戦闘時、負傷時であっても支配は有効であります。
 課題としては魔法具破壊時に効果が持続するのか又は外的要因
 として魔法を想定してますが、支配解除の可能性などの検証を
 残しております』

*エルンスト作戦参謀は報告を受け暫し考え込んだが、考えが
 纏まったのかインバルに指示を出した。

『インバル部隊長は残す検証を確認し実験終了後に盗賊の襲撃に
 見せかけて被験者ごと村を焼き払うように。
 この実験は軍部の独断ゆえ国に知られては困るのでな』

『了解しました』

 参謀の命令は絶対だが、軍の実験には憤りを感じている。
獣人に対して差別意識は無い、こちらの都合で実験体とし終われば
命を奪う。
鬼畜の所業ではないか?彼らは被害者なのだ。
何とか助けたいものだ・・・

*インバルは洞窟に戻ると実験の状況と実験体である獣人の様子を
 確認していた。

『残る実験はどの程度進んでいる?』

『外的要因による影響ですが、負傷による刺激については魔法具
 の強化いより対処可能でありますが、解除魔法対策にはもう少し
 時間を頂きたい』

『よろしい、だが獣人の村を占拠して数ヶ月が過ぎている
 この実験は軍部だけで秘密裏に行われているのだ。
 実験の秘匿性ゆえ実験が途中でも30日後に完全撤収とする』

『了解しました』

 この実験には不快感を覚えている、軍の兵器開発に長年関わって
きたが、これは兵器なのだろうか?
実験で少なからず死者も出ている、私以外の研究員も研究に疑問を
持つ者が多い。
それに極秘研究とあってここの研究員は他の研究員とは隔離されて
いるのだ。
研究が終えた私達の安全は保証されるのだろうか?
不安しかない、30日か・・・・短く感じそうだな。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『ユウ、この弁当は中々の出来やな』

『『これは美味しいよ』』

 カルロスとアバンにも好評のようだ、何かホッとしたな。

『リケッツ、メーディアの報告を待つのだろうけど
 獣人を助ける方向で動く事もあるのかな?』

 僕はリケッツ達の今までの行動を知らない、この様な場合
の彼らの判断を予測するのは難しい。
でも相手は国の軍隊のようで魔獣とは異なる、犯罪者には
なりたくないしね。

『ユウはんは心配せんでええよ、ワイらも御尋ね者にはなり
 とうはないよ安心しよし、でもなもしかして潜入はする
 事になるかもな・・・』

*カルロスとアバンはリケッツの方を向いて頷いていた。
 翌日メーディアは戻って来た。

『メーディア、ギルドはどないな返答やったんや?』

『ギルドはこの件に関しては続行の判断だそうです、軍隊の
 関与があったとしてもキルドは国に属さない組織。
 依頼主は街の労働者紹介所である事を考慮すれば問題無いと、
 但し軍隊が相手となる可能性があり継続判断はパーティーで
 決めて良いとのことでした』

『ギルドはギルドって事やな。
 皆はどうや?今回は魔獣や盗賊でないし正規の軍隊や
 訓練された集団は少々厄介やで。
 無理強いはせんよって意見聞かせてや』

『私はこのまま調査を進めたいわ、お婆さんの事もあるし・・
 一人になってもやるわ』

『メーディアよ、お前を一人で行かせはしないさ俺たちを
 頼れよな、そうだよなアバン』

『ああ、そうだなリケッツも潜入しそうな感じだったし行くなら
 付き合うさ』

『三人は行く気やな、ワイも一人でも行くつもりやったし。
 軍隊が関わっている事が気になってたさかい、ユウはどない
 する?』

 これは僕だけ不参加って、雰囲気じゃないよな・・・・
軍隊か〜国家機関だよな、ギルドからの依頼は調査だし戦闘が前提
じゃないしな、これも経験だよな。

『僕も参加するよ、調査なんだし面白そうじゃん』

『よっしゃ決まりやな、皆で行くで。それとなユウ、多少の戦闘は
 あると思うで・・覚悟してや』

『え!』

『『『『 あははははは 』』』』

 そして僕らは潜入の打ち合わせを始めた、リケッツとメーディアが
先行して侵入し、僕とカルロスが続き殿がアバンと決まった。
翌日の深夜に決行となった。

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第1章 7話
  
*シャナはヤニスの雑貨屋に来ていた、薬草を売りに来たついでに
 不足した生活用品を買いに来たのだった。

『シャナ、久しぶりだな。二人の新婚生活は順調かい?
 雄靖は甘えさせてくれるかい?』

『ヤニス、心配してくれるの?
 そうね、雄靖は優しいわ、でも冒険者の仲間になってからは
 家を空ける事が多くなってるのが少し寂しいかしら。
 でも、それは仕方のない事と割り切って考えているの』

『そうだな、冒険者ってのは誰でもそうさ。
 その分、帰ってきたら甘えればいいんじゃないか?
 でも・・・少し雰囲気が変わってきたな、明るくと言うか
 幸せが滲み出てるて感じるんだが・・・
 所帯を持ったからなのか?』

  タカディールよ、シャナ守り犠牲になった事は仕方がないが
 残された彼女は寂しさに耐えていたよ。
 そして彼女に笑顔を取り戻させた男と今は暮らしているよ
 お前は嫉妬するかもしれないが、見守ってやってくれないか?
 その男も、お前に負けないくらい彼女を愛しているし、守るだけの
 力も十分にある。
 必ず彼女を幸せにするんじゃないかな・・・たぶん
 二人を空から見守ってやるんだな。

『スパイスは扱っているのかな?雄靖さんは辛めの料理が好きみたい
 なのよ、私は作った事ないから挑戦してみようかなって!
 美味しく作れるか心配だけど、食べさせてあげたいよね』

『そうか、喜ぶと思うぞ。
 確か赤唐辛子が好きだったと思うぞ、持っていきなサービスだ』

『ま、辛そう・・・ありがとうヤニス、頂くわ』
 
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『ほな行くで、準備はええか?』

*リケッツ達は洞窟に潜入しようとしていた、リケッツとメーディアが
 先行しユウ、カルロス、アバンが続いた。
 リケッツは潜入後数分で人の気配を察知し後続に身を隠す指示を出す。
 リケッツ、メーディアは隠密魔法を発動し気配と身体を認識できない
 状態で見張りの兵士に気づかれずに奥に進んだ。

『メーディア、見てみ。 囚われた村人やで』

『どうするの? 警備兵も数人いるけど倒すのは簡単ね、でも囚われて
 いる人数が多すぎない?
 見つかったら兵士全てと戦闘になるわよ』

『せやな、戦闘は問題ないんやけど正規兵って事は国家を相手にする
 わけや・・・慎重にせんとな』

『殺さなきゃいいんじゃない?』

『それだけやないで、救い出しても村に残したら秘密保持とやらで
 殺されるんとちゃうかな? あそこ見てみ。
 何か分からんが人体実験機みたいのあるやん、ヤバイ感じするで』
 
『監禁されとる獣人と、この施設の配置を把握して一度戻りまっせ』

『わかったわ』

*リケッツとメーディア後方で待機している仲間と合流した。

『リケッツ、村人はいたのかい?』

『いたで、男女、子供を合わせて50人は監禁されとったわ』

『50人って、少なくないか? あの村の規模なら100人は
 いそうだがな・・・ユウはどう思う?』

『たしかに少ないと感じますね、村には洞窟以に村人は確認でき
 なかったし、嫌な予感がしますね』

『今は監禁人数はどないでもよか、問題なんは50人をどないする
 かや、仮に助けよっても村には戻せんちゃうか?
 ワイらが去った後に機密保持の為、殺害される可能性だって
 あるさかいな』

『貴方の言いたいことは理解できるわ、それでもね私は一人でも
 多く助けたいと思うの、村での生き残りが御婆さんだけなんて
 残酷だわ』

 彼らの会話から想像すると異世界には、この様な人々を救済
保護する制度は無いのだろうなと思う。
でもメーディアの気持ちも理解できるよな〜

『リケッツ、メーディアの考えや気持ちは分かるんだけど村人達
 の意思を確認した方がいいと思うんだが。
 我々は冒険者であり国の機関じゃないんだ、50人の村人を
 気づかれずに救出するには兵士を全て殺害しないと無理だし
 そんな依頼は受けていない、村人の代わりに兵士を殺しても
 いいなんて理屈は僕には正しいとは思わない。
 メーディアの様に心で動くなら僕たちも納得できる理由がないと
 ダメじゃないかな?』

『俺もユウの考えに同意する』

 無口なアバンが僕の意見に同意してくるなんて・・・
何か思う事があるのだろうか?
 
『そないなら、村人の意思を聞かな、行こかメーディア。
 カルロスはどないや?』

『皆も納得してるなら私も従うさ』

*リケッツとメーディアは再び囚われた村人に会いに監禁場所
 へ向かった。
 一人の離れて座っていた年配者に他の村人達には気づかれな
 いよう話しかけた。

『驚かないで聞いてください』

『え!誰じゃ』

『静かに!私は冒険者のメーディアといいますこの村の異変を
 調査しに来た冒険者です。
 私達はこの現状を確認したのですが、冒険者ですので村人の
 開放には手助けは可能ですが、保護までは出来ません。
 でも見過ごす事は私達の本意ではありません。
 囚われている方々の意思を確認してはもらえませんか?』

『ありがたい・・・村長と相談してくるから少しの間待って
 もらえるか。
 メーディアさんと言ったか、私には姿が見えんのじゃが
 返事するにはどうすりゃええんじゃ?』

『視界阻害の魔法で見えなくしています、相談が終わりましたら
 手を上げて下されば、こちらから声をかけます』

*男は村長の下に向かった。

『村長、落ち着いて聞いてくれ』

『なんじゃ、アルクよ。何を慌てておるんじゃ?』

*アルクは冒険者が調査に来ている事、この状況を見過ごせないが 
 全員を保護するのは困難な事などメーディアからの言葉を伝えた。

『冒険者が・・・僅かだが希望が見えてきたの。
 このまま待っても死を待つだけじゃからな、この連中は軍隊じゃ
 からな・・・国が関与してたら冒険者の出来る事は限られる。
 保護は困難でも逃げ出す手伝いは可能だったら考えがあるぞい。
 代々長だけに受け継がれてきた隠れ里があるんじゃ、そこまで
 行ければ何とかなるじゃろ。
 アルクよ、この事を冒険者に伝えてくれ』

『隠れ里!皆で逃げるって事だな、冒険者合図するよ』

*アルクは静かに手を上げ合図した。

『相談は終わりましたか?』

『メーディアさん、村長が話しますじゃ』

『冒険者の方よ、申し入れ感謝します。
 我々の開放の手助けをしてもらえるとか・・・
 ここから出たら隠れ里に身を隠したと思います』

『わかりました、ここからの脱出を手伝いたいと思います。
 この事を仲間に伝え行動に移りますので、落ち着いてこの場
 でお待ち下さい』

*メーディアがリケッツの方を覗うと頷いていた。
 二人は仲間と合流し救出方法をリケッツから説明されていた。

『ほな説明するで、善悪は分からんけど相手は国の機関やし
 戦闘は仕方あらへんけど殺しは避けたいわな。
 拘束する感じでいきましょ。
 そこで各自の役割分担やけどな、アバンは入り口で侵入者が
 いれば阻止と村人の救出後の安全確保。
 ユウとカルロスは村人を出口まで誘導や前後に分かれて
 警戒をするんやで。
 ワイとメーディアは先行して救出と軍人さんの無力化する
 よって、ほな皆行くで!』

 僕はメンバーの実力の高さを思い知った、100名近い
軍人をいとも簡単に麻酔の効果がある魔法で眠らせ、メーディア
が万が一に備え縛り上げていく。
カルロスは倒れてる軍人を移動させ通路を確保し流れる様に
村人を誘導していった。
僕は皆の動きを後ろから見ているだけ・・・一応は後ろの警戒を
しながら付いて行く。
救出は一時間程で終了となった、凄いな!
そしてリケッツは村人に話しかけた。

『皆さん、我々がお手伝いできるのはここまです
 この後は隠れ里に行くと聞いてます、ではここでお別れです』

『冒険者の方々、本当にありがとうございました、生活が
 落ち着きましたら、是非お礼をしたいのですが』

『メーディアさん、御婆さんを届けるんやろ?
 隠れ里の場所を聞いときなはれ、村長さんの話はそん時にでも
 良いとちゃうかな』

『では村長さん、隠れ里の場所を教えて下さいな。
 村に隠れていた御婆さんを保護してますので、数日後にお連れ
 しますね』
 
『あの状況で隠れていた者がおったとは・・・保護して頂ただいた
 事、感謝いたします。
 では、メーディア殿、隠れ里の場所ですが・・・・・』

 僕たちパーティーは事態の報告の為、ギルドに戻り
村人は隠れ里に向かった。
 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

 僕は仲間たちとの依頼を終え自宅に戻っていた。
今回の依頼でも報酬と魔物討伐で得た素材があり換金の為シャナと
ヤニスの店に来ていた。

『ヤニス、素材の買い取りを頼むよ』

 弁当作りの際に採取した薬草と猪に似た獣の解体時に出てきた
虹色の鉱石が換金対象だ。
ついでに元の世界で売るものを仕入れたい。
 薬草はいつも通りの買い取りだった、虹色の鉱石が予想よりも
高額で売れた。
どうやら獣の生息している土地の地質に含まれた物質が餌と共に
体内に取り込まれ排出されずに蓄積され固形化された物らしい。
この鉱石は剣などの製造時に鋼材と混ぜ合金にすると鋼材に柔軟性
が増し欠けにくい丈夫な剣になるのだそうだ。
特定の生息場所である事と絶対数が少ない事から高額で取引される
ようだ・・・運がいいな!

『ヤニス、シャナにプレゼントしたいいんだが何か良さそうなの
 ないだろうか?』

『お!暫くほったらかしにしてた詫びかい?』

『あはは・・・そんなところかな。シャナは欲しい物あるかい?』

『雄靖さん、気を使わないで良いのですよ、私は貴方が側にいる
 だけで幸せなのですから。
 でも、今回は少し長かったし・・・何か買って頂きたいかな?
 なんて・・・』

『か〜〜何でも好きな物言ってくれ!報酬は沢山貰ったからな』

『これなんかどうだ二人とも、昨日入荷したんだがな
 何でも南方の海で取れる貝の中で稀に見つかる物らしいんだが
 それをネックレスにした物さ。綺麗だろ?』

 これは真珠だよな、こっちの世界でもあったのか・・・
大きめの一粒真珠ネックレス、控えめなデザインはシャナに
似合いそうだ。

『シャナ、どうだい? 僕は似合うと思うんだけど』

『何か高そうですが、よろしいのでしょうか・・・』

『遠慮なんてしないでくれ、シャナも気に入っているなら
 受け取ってほしい、どうだろうか?』

『シャナよ、雄靖の気持ちなんだし買ってもらいな』

『雄靖さん、ありがとうございます、嬉しいです』

 シャナって結婚して暫く経つけれど僕に対して控えめって
感じだし、何となく一緒にいて好きって感情以外に心が安らぐ
んだよな。
彼女の一つ一つの振る舞いが彼女を大切にしたいと思わせる。
僕の方こそ、ありがとうシャナ、幸せになろうね。

『ヤニス、これを頂くよ。薬草の買い取りと置物の精算も
 よろしくな』

『雄靖さん、これらの置物は家に飾るのでしょうか?』

『ん〜、これらはちょっと使い道があって買ったんだ
 夕食を終えたら話すよ』

 そろそろシャナに異世界から来たこと、そして自由にこの
世界と行き来できること。
2つの世界を行き来して収入を得ている事など話さなければ
ならないだろうな。

『用事は済んだし、そろそろ帰るかシャナ』

『はい』

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 

 帰宅し夕食を終え、二人の時間を寝室で過ごしていた
今晩、シャナに秘密にしていた事を話そうと思う。

『シャナ、話したい事があるんだ。話の内容で信じられない様な
 事もあるだろうが、最後まで聞いて欲しい』

『分かりました雄靖さん、お話ください』

 僕は異世界から来たこと、こちらに来てから特異な能力を得た
事など順を追って話した。
異世界から来たと話した時は少し驚きの表情を見せたが、特異な
能力辺の話では冷静に聞いていたようだった。
こちらの置物などを元の世界で売却し投資(株式)している話に
ついては理解し難いようで詳しい説明は避けた。 
一通り事情説明を終え僕は彼女に謝罪をした。

『シャナ、話すのが遅くなった事を謝るよ・・・許してもらえる
 だろうか?』

『ふ〜・・・今更ですよね、初めて出会った時に何か事情がありそうな
 感じはしてましたけど、異世界から来ていたとは・・・
 少し驚きました。でも、あの状況では話せないのも理解はしますわ。
 親しくなった頃合いで打ち明けていほしかったですわね』

『ごめん、出会いの時から僕はシャナに一目惚れだったんだ。
 あの時正直に事情を説明したら警戒されるんじゃないかと思って・・・
 その後、何度か打ち明けようと思っていたんだけど話すのが今になって
 しまった事を許してほしい』

『お互い隠し事はしないようにしませんか? 
 全てって事ではないのですが・・・何か心が離れている様で不安に
 なります』

『そうします、全てを打ち明けた今は心が軽くなりました
 大切な事は僕もお話します。
 それでなんですが、先日の仕事で得た収入を使いヤニスの店で
 仕入れた商品を僕がいた元の世界で売りに行きたいのですが
 いいでしょうか?』

『・・・・先程お伺いした内容ですと行き来する時間は選択できる
 のですよね?その辺を詳しく教えて下さい』

『分かりました、今回は二回、行き来する予定です。
 一回目は一月程先に転移して、この世界には転移した日時に
 戻って来ます、目的は先程お話した投資に関する情報を得る
 事です。
 二回目はヤニスの店で購入した商品を売るためです、転移先で
 過ごした日数に合わせてこちらに戻ります』

『では二回目はこちらに戻るのに数日かかるのですね・・・
 ならば私も連れてって下さい、ダメでしょうか?』

 何となくだがこの展開は予想はしていた、今回の依頼でシャナには
寂しい思いをさせてしまった。
戻ってきて驚くような話をされて、今度は別の世界に行くなんて
聞かされたらこの要求は当然かもな。
それに少しだけかもしれないけど、僕の来た世界を見せたい気持ち
もあるし、連れてくか。

『はい、一緒に行きましょう』

 僕は一度目の転移で経済新聞を購入し二度目の転移をシャナと
行った・・・・・驚くかなシャナ。

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第1章 8話

 シャナは転移に少し戸惑っていた、転移した部屋には見慣れた
物は無く知らない世界に来たと感じたのだろう。

『シャナ大丈夫?』

『∂○✗=、☆Φ&#@%』

『あ、このペンダントを付けて』

 僕は異世界転移しても何故か言葉や文字が理解できた。
ユミル(僕を転移させた神?)の力かも?
でもシャナは違う、僕も転移すれば言葉は日本語になるようで
シャナは言葉を理解できない。

『今のはこちらの世界で使われている言葉なのでしょうか?』

『そうだね、驚いたかい? こちらに来る前に話すべきだったね。
 何となくだけど、予想はしてたんだ、だからペンダントを用意
 してたんです。
 僕は何故か転移した世界に合わせて言葉が使えるみたいなんだけど
 僕以外も同じになる確証は無かったです。
 でも良かった』

 言葉に支障がなくなり、僕はこの部屋の事やこちらの世界を
大雑把だけど説明した。
言葉だけでは理解が難しい事はインターネットで映像を見てもらい
ながら説明した。
彼女が初めに興味を持ったのは、こちらの服装だった
異世界と違いカラフルでデザインも豊富、一人ひとりが違う服装
な事に驚いていた。
異世界では多少の色の違いがあるが、デザインは似ている。
 街の様子の映像にシャナは目が釘付けになっていたのを
見て僕はこちらの洋服をシャナに用意しようと思った。
今の服装ではコスプレに見えてしまう、この後出かける予定だ
部屋に一人残していくのも不安なので一緒に行動するにも服装は
こちらの世界に合わせた方がいいだろう。
僕も一緒に出掛けたいしね。

『シャナ、外出用にシャナの服を買いに行くけど、どんな感じの
 服がいいかな?』

『え、よろしいのですか!嬉しいです
 ちょっと待ってください。う〜ん・・・・・・
 こんな感じが好みですが、どうでしょう?』

 彼女が選んだのはダウンジャケットにデニム地のスカートだった
季節も冬だし、この装いならニット帽も不自然じゃないので耳も
隠しやすいだろう。
 近くのショッピングモールでプレゼントとして購入すれば男が
買っても大丈夫だろう、大まかにサイズを測りそれを元に店員に
お願いすれば何とかなるよな。
 シャナには部屋にいてもらい買い物にでかけた。
服以外にも靴や外出に必要な小物なども購入しアパートに
戻った。
『買ってきたよ、自分で着れるかな?手伝いは必要?』

『着方を先に教えていただければ大丈夫かな・・・ポッ』

 そうだよな、夫婦でも女性としての恥じらいはあると
思うし、Hい事している場合とは違うよね。
男としては手伝いたいと思うところはある!
 こちらの世界常識などを簡単に説明してから僕たちは
外出をした。
目的は異世界で仕入れた物の現金化と、数日滞在するので
食料の調達をすることだ。

 最初は異世界で仕入れた物を買い取りに出して、それから
買い物かな、銀製の食器と金製のアクセサリーを出す。
毎回、買取店を変えてはいるが、そろそろ顔を覚えられて
いるようなので怪しまれない様にしばらくは買い取りは休み
にしようと思う。
手持ちの資金も100万円程度に増えたし投資に本腰を入れる
ことにする。
目標は5000万位かな・・・
異世界に行った事で思いついた商売があり、その資金にしたいと
考えている。

 などど考えているうちに買い取りが終わったようだ
今回は数も少ないので10万円だったが、食材の買い出しには
十分な金額だった、さてとショッピングセンターに行くか。

 10分程歩き目的のショッピングセンターに付いた
シャナの興味津々な態度が何とも可愛らしかった。
食材は重いし生鮮食品もあるので後回とし、先に生活雑貨を
購入することにした。
シャナに使い方を説明しながら歯ブラシなどを揃え、ついでに
寝具、パジャマ、下着なども購入する。
異世界の女性用下着にはブラジャーは無ショーツは男性のトランクス
の様な物を身に着けていた。
そのせいなのかカラフルで可愛いショーツを見る目はキラキラ
していた、ブラジャーはサイズを測って購入した。
初めに僕が用意したスマートブラと違いショーツに合わせた柄を
選んでいた。
寝具などもあり、下着を含め配送を依頼する事にした。

『後は食品かな、こっちの世界は食材がシャナの知ってる食材
 と違うと思うけど、どんな食べ物が食べたいかな?』
 
『何となくだけど私の知らない食材が沢山ありそうなのは想像
 できますわ、だから見て選びたいのですが・・・』

『そうだね、興味がある素材があったれ教えてくれ、どんな味で
 どう調理するのか答えるから。じゃ、行こうか』

 僕たちは一階の食品売場に向かった、初めに野菜エリアから
回ったのだが、土が付いてない綺麗な野菜をシャナは不思議
そうに眺めていたがトマトが気になったのか手に取り聞いてきた

『これは野菜ですの?この色からお肉かと思いましたわ
 でも、この感触は野菜ですよね?』

『あ、そうか。あちらの世界では赤い野菜は無いからな
 これはトマトって野菜さ。
 生でも煮ても食べられる物で僕は別の野菜と合わせ味付きの
 水をかけて食べるのが好きかな』
 
『こちらの冷たい棚に入ってる物は何んでしょうか?
 食べ物らしき絵が書いてありますが・・・』

『これはね、冷凍食品で調理しなくても温めれば食べれる
 物なんだよ、色々種類があるから食べたいのがあれば買うよ
 肉とか魚とか希望はある?』

『魚があるのですか! 魚はあまり食べる機会がないので
 食べてみたいです』

『よし、冷凍食品は保存ができるので多めに買うか。
 後は調味料、ジャガイモ、人参なんかも保存に適している
 から買っておく。
 食後のデザートもいいな』

 日持ちの良い食材をメインに清涼飲料水、デザートなんかも
購入した、異世界にはデザートの様な物は少なく一般的には
果物がデザートとして食されてるからケーキやクッキーなんかは
シャナには珍しくて喜ぶかもな・・・最後に案内して選ばせよう。

 帰宅した僕たちは購入した部屋着(僕はスウェット、シャナは
何故かパジャマ)に着替え夕食にした。
惣菜の焼き鮭と野菜サラダ、フリーズドライ味噌汁に僕はパック
ご飯、シャナはパンである、和風にパンはどうかと思ったが
気にしないようで焼き鮭を美味しそうに食べていた。

 食後は最後に購入したチョコクッキーに紅茶にし食べながら
明日からの行動について話し合った。
先に説明した投資については午前中に一度目の転移で購入した
新聞(1ヶ月程の未来)と明日の新聞で値上がっている銘柄を
確認し仕込んでおく。
今回の転移は投資とシャナにこの世界を知ってもらう事だ
これからも二人で転移する事になると思う。
 しばらく銘柄を眺めていたが○○○コーポレーションと言う
銘柄が一月後に600円程値上がりしているのに気づいた。
本来ならリスク分散で一点買いは危険なんだが、先の株価を
知っているのでリスク無く行ける。
現在の株価は1,400円、3百万の資金があるから
単元千株なので二千株を購入した。
取引手数料を引いても100万くらいの利益だ、以前に株式投資
をしていた時は、色々なデータやネットでの情報収集などで
株価の先を予測してたけど中々思うようには利益を得られず
悔しい思いをしたっけな。
ある程度研究しても所詮個人、投資組織相手に少額投資では
勝算は望めず運用に限界を感じ投資は諦めたんだよな・・・
才能も無かったのか、運なのか、でも少数だが個人でも運用に
成功し儲けている人もいたし・・・
しかし先の見えてる投資がこんなにも罪悪感があるとはね……
でも、今考えている計画がある。
実現にはある程度の資金が必要だ、まとまったお金を稼ぐには
株式投資が怪しまれないと思う、異世界で仕入れた物の転売では
回数が増えれば不審に思はれるだろうしな。

 そんな事を考えながらノートパソコンを操作していると
横で見ていたシャナが話しかけてきた。

『ねえ、雄靖がいじっているそれが、お金を稼ぐ方法なの?』

『あ!、ごめんね、ちょっと考え事してた。
 ちょっと大雑把に説明するとね、商店に資金を援助して
 その店が資金を使い商売を規模を大きくしたりして収益なんか
 が増えれば資金を援助した人が恩恵を受ける仕組みを利用して
 援助している権利そのものを売り買いし、その差額で利益を
 得ようとする行為が投資なんだよ。
 当然差額だから売値よりも買値が高ければ損をしてしまうけど
 逆なら利益が出るのさ』

 かなり大雑把な説明になったが、投資と言う仕組みが存在し
ない異世界の人に正確に説明する知識は僕には無いので、こんな
説明しかできないのが辛い。
シャナも今一つ理解できない表情だ。
興味がるなら別の機会に丁寧に説明しようと思う、今日は先程
見つけた銘柄をネット取引により購入した。
これで転移してきた目的の一つは済ませた、もう一つはシャナに
この世界を観せてあげる事、女性経験の少ない僕にとっては
デートの様な行動になるので中々に難問だ・・・碌な経験も無しに
結婚してしまったのだから。
見栄を張らないで自然体でいくのがいいよな、興味のありそうな
場所を聞いてみるか。
 会話をしながら興味のありそうな事を聞いて、ネットで画像を
検索し見せながら行く場所を決めていく。
最初に選んだのはショッピングモールだった、一つの場所で
様々な物を売っている形態は異世界にも市場として存在している。
買い物が好きなシャナとしては馴染みやすい場所かもしれない。
 その後の行動は買い物をしながら決めようと思う、時間に成約が
ある理由でも無いし、お茶でもしながら考えれば良いだろう。

 近所のイ○ンモールに来たのだけれど、荷物になりそうな食材は
先にある程度買っているので服とかかな。

『こんなにも色々な服があるのですね!』

『数日はこちらに居るので何着かは買わないと・・・
 好きなの選びなよ』

 シャナはカジュアルな洋服(デニム地やパンツスタイル)を
何点か選んだ、後は何か思い出になる物・・・アクセサリーとか
もどうだろうか?迷うな・・・

『ほかに何か見たいのとかある?』

『初めて見るものばかりで、ブラブラしながら色々なお店を
 見たいです、よろしいのですか?』

 そうだよな、初めて来たのだし聞かれても答えられないか・・・
ゆっくり見て回りますか。
 しばらく歩いているとシャナは雑貨屋の前で立ち止まり
何かを見ているようだ。

『何か気になる物あった?』

『あの木に光る飾りを付けているのは何なのでしょうか?』

『ああ、あれはクリスマスツリーだよ、こちらの神様の誕生を
 祝う日に飾られる物さ』

 異世界にはクリスマスの様な行事は無かったな多分・・・
そもそも神様を祀る風習は有るのだろうか?

『神様の誕生をですか?』

『シャナの世界の神様って、どの様な存在なの?』

『神様はいつも側にいますよ、木々にも水にも万物と共に
 存在し常に私達を見守ってくれています。雄靖さんの神様は
 違うのですか?』

 なるほど自然神信仰なのか、何か良いな・・・優しい感じがする
僕の世界でも自然神信仰はあったと記憶にある、特定の神を信じ
盲目に信仰したり、争ったりするよりは健全だよな。

『そうだね・・・この世界にはシャナの世界とは少し違った神様が
 沢山いてね、国によって神様が違ったりするのさ』

『私は他の国はあまり知りませんので、もしかしたらこの世界の
 様な神様がいるかもしれません、私達もクリスマスツリーを
 飾らないのですか?』

『シャナも興味があるなら買っていこうか?独り身だった頃は
 飾らなかったけどシャナと二人のクリスマスなら飾りたいな』

 服や日用雑貨、食材などを買い求め(クリスマスツリーも)
アパートに戻った。
ツリーの飾り付けをしていたら気分はクリスマスって感じになり
それっぽい夕食になった。
ワインを飲みながら明日からの行動を話した、株の仕込みも終わらせ
こちらの世界を少しはシャナに見せる事ができた。
などと思考しながらグラスを傾けているとシャナが話しかけてきた。

『あと何日こちらで過ごすのでしょうか?』

 あ、そうか・・・お母さんを残してきたのだし心配なのだろうな
その辺の説明をしたいなかったな。

『まだ説明していない事があるんだ、転移先の日付は指定できる
 んだよ、でも肉体の時間は止められないし、ロックラビットから
 取れた石を腕輪に嵌める事で転移が可能になるんだけど、今の
 石の数では30日が限界なんだ。
 頻繁に転移する事で時の流れに対して歳をとりすぎるのも不自然
 だからその辺を気をつけないとね。
 明日どこかに出掛けたら明後日には戻ろうと思う』

『分かりました、ならお母さんにお土産を買いたいのですが・・・』

『そうだね、でも世界を渡っている事は知らないのだから買う物は
 慎重に選ばないとね、何が良いだろうか?』

 こちらに来た日に戻るんだよな・・・お土産は変か?
でも、シャナにとっては旅行した感じなんだよな。
後々の事を考えると残らない物の方が無難ではないだろうか。
そうなると・・・手作りお菓子なんてどうだろうか?
材料を買って行き、作る!

『戻るのはこちらに来た日だからさ、お土産的な物は不審がられる
 そこで手作りのお菓子なんてどうだろう?
 材料はこちらで買い、戻ってから作れば違和感ないよね
 材料に多少珍しい物があっても、この前の迷宮攻略時に採取して
 きた事にすればいいよ、どうかな?』

『その方が良さそうですね、少しは驚かせたいのでちょっと変わった
 材料を使いたいので雄靖さんも一緒に選んでくださいね』

 話を終えて二人でベットに入り愛を確かめあって眠りについた
翌日僕たちは材料を買う為に再度ショッピングモールに行く。

 日持ちを考慮しお菓子は型抜きクッキーにする事にした。
小麦粉は薄力粉、砂糖、バターは使い切りに適した量の物、異世界
にも似た材料はあるみたいだが品質はこちらの世界の物が良い。
珍しさを出す為にトッピングの材料を二人で探していた。

『これはどうかな?木の実みたいねもので、こちらではナッツって
 呼ばれているんだ、何種類かあってさ僕は結構好きかな』

 調理器も必要かなクッキーならオーブンがあればいいな
たしかキャンプ用品にストーブの上に置いて使うのがあったような
気がするな、電気もガスも異世界には無いしからね。
キャンプ用品なら使えるだろう、探してみるか。

『これに似たような食べ物は市場で見たことがあります、形は
 ちょっと違う感じですが、私も食べてみたいです』

 その後も二人で相談しながらドライフルーツや何種類か
日持ちのする食材を選び購入した。

 オーブンを選びにアウトドアを扱うショップに移動し他に何か
ないかをブラブラしながら見て回る。

『何か気になる物はない?』

『この銀色の食器なんですが、とても軽いし綺麗ですね。
 鍋とか種類も沢山ありますし何か欲しいかも♡』

 そっか異世界では木製の器が一般的で金属製(アルミ製)は
珍しいよな。
軽くて丈夫だす冒険でも使えそうだ、多めに買っていくか。

『これは軽いだけじゃなく丈夫なんだよ、冒険者に最適な
 装備かもしれないので買いましょう。
 シャナも気に入ったの選んでください』

お菓子の材料、オーブン食器も買ったし異世界に戻りますか。

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 戻った僕たちはクッキー作りを始めた、小麦粉、バター、卵、
砂糖で作った生地にナッツのトッピング、生地にドライフルーツを
混ぜた物や生地を型抜きしただけのシンプル物など数種類を作った。

 薪のコンロの上に買ってきたオーブンを設置し焼け具合を見ながら
次々に焼いていく。
きつね色に焼けたクッキーからは香ばしく良い香りがする。
ある程度焼き上がったところでシャナはアンナ(母)を呼びに行った。

『良い香りがしていたので、何か作っていたとは思っていたけど
 何かしら?』

『雄靖さんの故郷のお菓子を二人で作っていたの、クッキーって
 言うのだけれど、みんなでお茶にしませんか?』

 異世界の菓子事情にそれほど詳しくはないけど、庶民は
お菓子と言う物はあまり食べないようだ。
農業が発展していない事で小麦は貴重でパンの用途以外には
あまり使われない、砂糖は無く何かの植物のツタを煮詰めた
甘味料をのようだ、甘葛煎の様な物だろうか?
甘味は異世界では貴重な物らしいので砂糖に関しては喧伝
しない方が無難だな。

『まあ!これは菓子かしら、良い香りがしてたのはこれなのね
 このまま食べてもよろしいのかしら?』

『お母さん、私と雄靖さんで作ったのよ、どれでも好きなの
 食べてね』

『お母さん、遠慮なさらずに食べてください、お口に合えば
 よろしいのですが』

 アンナはトッピングが珍しいのかナッツがトッピングされた
クッキーから選んで食べていた。

『あら、美味しい!、この種のような物は歯ごたえがあって
 甘さが無いぶん甘い焼き菓子と合わさって私には丁度よい
 甘さになっているわ、この種は見たことないけど何かしら』

『これは先日行った迷宮に向かう途中の森で見つけた物で
 土地の人はアーモンドと呼んでました、気に入りましたか?
 まだまだ他にも色々な味がありますから楽しんでください』

『嬉しいわ、二人の手作りのですもの!』

 三人で楽しいお茶の時間を過ごした、シャナはチョコチップ
クッキーが気に入ったようだった。

 食べ終わり片付けをしていると、突然リケッツが訪ねてきた。

『ユウ、おるん?お邪魔するでぇ』

『久しぶりだね、仕事の話かい?』

『何か家族団欒のとこ邪魔したかな? 少し外で待ってようか?』

 用事があって訪ねて来たのだろうし、お茶の時間が済んだので
話は聞けると思うのだが、二人がいる前で聞いても大丈夫か?

『この場で聞いても構わないかい?』

『そやな、一緒に聞いてもらった方がええと思うわ』

『リケッツがそう言うなら・・・お母さん、シャナもいいかな?』

『私達も聞いても構わないなら、お話ください』

 二人の了承を得てリケッツは話始めた。
彼は一人の獣人の少女を連れていたのだ、少女は以前に調査に
訪れた村の少女らしい。
村人は集団で移転しリケッツはその後の様子を見に行った
のだが、その時に親を亡くし一人になった少女を知った。
 彼女の家族は移住者らしく村内には近親者はいなく、
村人も移住したばかりで生活に余裕は無く精神的、生活的に
支える事が困難な状況だった。
そこで村長はリケッツに相談したらしくメンバーの中で世帯
を持っているのは僕だけであり、面倒を見ることができるか
相談しに来たのだった。

『面倒事を持ち込んでかんにんな、でどないや?』

『少し待ってくれ、僕だけのい判断で決められないよ
 家族で相談するからさ、ここで待っててくれ』

 僕とシャナ、お母さんで別室に移り相談する事にした。
迷宮探索などの仕事は僕だけで出かけるので、お母さんと
シャナが留守番になるが、異世界転移の時はシャナを同行
させる約束をしたことで留守はお母さん一人になる。
前回の転移は転移時の時間に合わせ戻ったが、場合によっては
転移時を過ぎた時間に戻る可能性があるかもしれない。
少女を預かった場合はその様な転移時に母さんを一人しなく
てもよいので考えれば安心かもしれない。
でもこれは僕の考えであってお母さんの気持ちを優先
しなくてはならないだろう。

『お母さんとシャナには僕より負担をかけると思いますので
 お二人の意見を尊重したいのですが』

『あなたがた二人で出かける時に私が一人でいるこを心配して
 いるのでしょうね・・・
 その子がいれば気が紛れるかもしれませんね、でも私は
 それほど弱くはありませんよ。
 今は私の事とは考えないで、その子の為に最善の方法を
 選ぶ事が大切ではありませんか?』

  確かにお母さんの言う通りだと思う、少女の気持ちを
 最優先にしなければ彼女が辛くなるだろう。
 少女の身の上を考えればこれ以上の精神的に負担を与える事は
 良くない、シャナはどうなのかな?

『シャナはどうかな?聞かせてくれないか』

『私は出かける時にお母さんを一人にするのは心配なので一緒に
 いてくれる方がいれば何かと心強いとかと・・・
 でもお母さんが言う通り少女の気持ちを尊重したいわ』

『そうか・・・なら少女が望めば受け入れるって事?』

『『そうね』』

 二人も彼女の身の上に同情しているのかもしれないな
リケッツが連れてきたのであれば悪い子ではないだろう。
少女の言葉を直接聞き、それで問題なければ引き受ける
とするか。
 僕たちは少女のいる部屋に戻りリケッツに話し合った
結果を告げ、少女と話す事になった。

『この子の名前はアズ、猫人族やねん。
 アズ、挨拶しなはれ』

『アズです、初めまして・・・あの、ん、え、ご、
 ごめんなさい』

 緊張してるのかな?どうしたら安心するだろうか・・・
この挨拶を聞いて母が少女に語りだした。

『慌てなくてもいいのよ、アズちゃんが私達とここで暮ら
 したいか聞きたいだけなの。
 ここには娘夫婦と私の三人だけ、小さな子はいないわ。
 私の子供としてここに住む、どうかしら?』

『ここに居てもいいの?迷惑じゃない?』

 この子は村に居場所が無かったのだろうな、あの状況から
村全員で移住したのだから自分たちの生活だけで精一杯だし。
少女も感じ取っていたのだろうな返す言葉にそんな事を
僕は思った。

『迷惑じゃないわよ、あなたが私達と一緒に居たいと願う
 なら遠慮はしないでね、今はあなたの気持ちが知りたいの』

 お母さんは引き受けても構わないと思っているんだな
僕も事情を知ってしまったので彼女の力になりたいと思う。
シャナの表情を見ても僕と同じ気持ちだと感じた。
彼女は暫く俯いて考えていたが顔を上げ答えた。

『ありがとうございます、ここに居させてください』

そう答えた彼女の目には涙が浮かんでいた。

 少女は荷物と共に母とシャナに部屋に案内されて行った。
残された僕とリケッツは少女の今後や仕事について話す事に
なった。

『今回は少女の事だけで来たのかい?』

『それだけやない仕事の話もあるんよ、ドワーフの村からの
 依頼でな。
 地下遺跡の探索なんやけど、その遺跡には貴重な鉱石が採掘
 できる鉱山の場所についての情報が隠されてるようなんや。
 でな報酬は大金貨10枚や!』

  因みに異世界の貨幣価値は王金貨=1千万円、大金貨=百万円、
 金貨=10万円、小金貨=1万円、大銀貨=5千円、銀貨=千円、
 大銅貨=500円、銅貨=100円、小銅貨=10円、銅銭=1円
 である。
 1,000万円って凄い高額報酬じゃないか・・・

『その依頼すごく不安なんだけどさ、命がけとかじゃないよね?』

『安心しなはれ、危険と言うよりは謎解きって感じやな、確定情報
 ではないんやけど、エルフ族が関わっているようみたいなんや。
 今までも何組もの冒険者が探索に向かっているみたいでな、けど
 探索が一向に進展せんらしい。
 中には道に迷いとんでもないところで発見された、なんて情報も
 あるくらいや。
 しかし誰一人として怪我などの被害は無いのが救いなんやけど』

 命の危険が無くて高報酬か・・・かなり良い仕事だな、他のメンバー
はどうなんだろうか?

『この仕事は全員参加かい?』

『カルロスとアバンには断られたんでメーディアとユウとワイの
 三人ですわ、戦闘好きの二人はつまらんらしくてな。
 危険も無いしええとちゃうか』

『わかった、それで出発はいつ頃なんだい?』

『そやな、急ぐ仕事でもないよってアズの事が落ち着いてからで
 ええと思ってる、判断はユウまかせるさかい決まったら前に
 預けたペンダントに魔力を通してくれればワイに知らせが届く
 んよ』

 リケッツと仕事に必要と思われる持ち物を確認した後、別室に
行って戻って来たアズ達と話した後に帰って行った。

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第1章 9話

 アズの事は一月ほどで落ち着いた、アンナ(シャナの母)とも
気兼ねなく話す様になった。
今回の仕事についてシャナと話をしたら、同行したいと言われて
しまった。
理由を聞いたら一つはエルフ族が関わっている事と比較的の安全な
探索の仕事。
それと久しぶりに僕と出掛けてみたいとのこと。
リケッツを呼び確認したら、すんなり「いいやん」と言われた。
出発は14日後と決まり、僕の家が集合場所になった。
急いで出掛ける準備をしなくては。

『ユウさん久しぶりね、元気だった?』

『メーディアも変わりない?
 あ、隣にいるのが妻のシャナだよ、今回同行する事になったんだ
 よろしくな』

『よろしくね、同じエルフ仲良くしましょうね。
 私はパーティー内で治癒とちょっとした攻撃を担当してるのよ
 行動を同じくするので何が得意なのか教えて下さるかしら』

『私は冒険者ではありませんので攻撃なんかは出来ないですね、
 魔法も生活魔法とか防御魔法くらいです。
 その代わり料理であればお手伝いできると思います』

『それは頼もしいわ、私は料理に関しては全然ダメですし、前回の
 仕事の時はユウが作ってたし・・・
 リケッツ!今回の仕事は食事の心配はしなくて良さそうね』

『あまり期待はしないでくださいね、家庭料理ですので』

 地下遺跡には7日程で到着した、途中にドワーフの村に寄り
状況の確認をした。
地下遺跡を超えた所に金属鉱石の採掘場所があるのだが、遺跡に
あったエルフの石像を移動中に壊した事で異変が始まったらしい。
命の危険は無いのだが石像の先に進めなくなったらしい。
つまり彼らは鉱石を採掘できなくなったのだ、石像が原因と考え
石像を直そうと試みたが触れる事もできないらしく調査を依頼
したのだ。
僕たちは遺跡の石像の場所に到着した。

『これやな』

『これですね』

『あらま、エルフの石像ですわね』

『シャナさん、石像について何か気づいた事はないかな?』

『はっきりは分かりませんが、古代エルフの一部に付与魔法を
 得意とした集団がいたと聞いた事があります。
 ドワーフの村で現象を聞いた時に思ったのですが、転移魔法
 に近いのではと・・・』

『転移魔法でっか・・・今では失われた魔法やな。
 使う者がおらんなら解除方法も失われた事になるんやろな
 シャナはんは知ってたりします?』

『申し訳ありません、私にも心当たりはありません』

『リケッツ、魔法の範囲はどれくらいなんだい?』

 答えは予想していたが鉱石採掘場所を大きく超えているらしく
単純に迂回とかの方法は無駄らしかった。
当然、石像も範囲内であり排除もできない、
古代エルフの目的は外的からこの場所を守る事なんだろうな?
そう考えると転移と結界の組み合わせって感じかな。
 これは謎解きのレベルを超えてないか?
安全だけど打つ手なし、リケッツに考えは有るのだろうか・・・

『ワイもお手上げや、急ぐ依頼でもないよってな時間がかかる
 ようならユウ達は一度家に戻ってもいいんとちゃうか?』

『なら家の事も心配だから30日を目安にするよ、どうかな?』

 この条件で良い事になった、リケッツはここに居続けるらしい

『ほな、何か手がかりでも探しましょか』

 僕たちは遺跡周辺の調査を行った。
思うに間違って石像が壊れる様な事態は住んでるエルフ達だって
予想していただろう、であれば何かしらの対応策はあったのでは
ないか?
解除方法が仕掛け的なものか魔法かは不明だが、必ずあったと
思う。
僕はシャナとリケッツはメーディアとで手がかりを探す事になった。

『シャナ、解除方法って魔法だと思う? 魔法で仕掛けを作って
 る事を考えると解除方法も魔法的なものじゃないかと・・・』

『私は違う感じがします、この様な仕掛けがあると考えると
 この場所は城門かそれに代わる施設があった様な気がします。
 ならば門番みたいな人がいたのではないでしょうか?
 非常事態に対応するのであれば発動に個人差がある魔法では
 万全とは言えないと思うのです』

『なるほど、誰でも速やかに発動と解除をするには魔法より仕掛け
 の方が適しているね、でもそうなると外側より内側に置くのが
 安全と言う事になるよね』

『はい、私もその様に考えていました』

『打つ手無しかな・・・・・』

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『リケッツ・・・この依頼って解決できるの?
 相手は古代エルフなんでしょ・・・伝説に近い種族相手に
 私達以外にも冒険者や識者が挑んだのでしょ?
 何か勝算でもあったの?』

『全然あらへんよ、ユウと嫁はんが二人で出掛ける機会があっても
 ええやん、こうでもせな・・・新婚さんなんやし、分かるやろ』

『え〜、リケッツって・・・以外!』

『ほっとけ!』

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 強制転送される範囲は正確にマーキングされていた
これまで多くの人員が挑戦してきた結果なのだろう。
僕とシャナは何度も往復しながら手掛かりを探していた
シャナは物探しに便利な拡大視の魔法使い僕はロックヒットを威力を
抑えて打ち込むスタイルで何か変化がないか探っていた。 

『雄靖さん変わった所は無いみたいですね』

『そうだね、こっちも打ち込んだ物が戻って来るだけで変わった
 所は見当たらないよ』

 そもそも侵入者用の仕掛けだしな・・・簡単には解除できるとは
思えない、見えてる光景も変えてる可能性だってある。
魔法でも仕掛け的な物でもないとしたら何だろうか?

 その時シャナから不自然な箇所があると教えられた、それは肉眼
では気付かない程度の遺跡内での景色だった、僅かだがズレていた。
まるで繋目があるかの様に縦に上下にだ。

『あれは何でしょうね?』

『何となくだけど予想はしていたんだ、遺跡内の景色は作られた物
 じゃないか・・・でもあれを見ると僕の考えが正しいのかもし
 れないと。
 侵入者を惑わし外部からは解除できない様にするには内部を見せ
 ない方がいいからね、でもこれで内部状況を見れば解除方法が
 解明できるって事だと思うよ。
 見つけたズレから内部が確認できないか、もう一度試してくれ』

『わかりました、もう少しだけ拡大視できます任せてください』

 今のところ手掛かりはシャナの見つけた所だけだ、僕はシャナが
集中できりる様に側で見守る事にした。
暫くするとシャナは何かを見つけたようだ。

『雄靖さん、ズレには僅かに隙間があったのですが
 その先に微かに点滅する光が見えました』

『それだよ、ここは遺跡なんだし点滅は不自然だと思う
 考えられるのは仕掛けが起動した事による変化、つまり装置本体
 と考えられる。
 ズレはそこから転送装置に起点になってるからだよ、どのくらい
 離れてる?』

『そうですね、拡大視ですから正確に距離はわかりかねますが
 私の背丈の3〜4倍くらいでしょうか?』

『どの辺か指さしてくれないか?
 駄目かもしれないけど打ち込んでみる((ロックヒット!))』

 僕の攻撃は予想どうりこちらに跳ね返って来た。

『あちゃー、予想はしてたけど・・・
 シャナは攻撃的な魔法って使えたっけ?』

『攻撃魔法は使えませんが証明用の光球なら放てますが』

『ちょっと試してみようよ』

『では((ライト!))』

 シャナの魔法は転送されずに目的の場所まで到達消滅した。

『なるほど、全ての攻撃が転送されるわけではないようだな
 一度リケッツと合流してこの事実を報告しよう』

 そしてリケッツと合流、この事をリケッツ達と話し合った。
まず、シャナの魔法が通過した事については同じ魔法でも
種族によって性質が若干異なるらしく、エルフの行使する魔法は
受け入れられるのではないか?(推測ではあるが・・・)

 今までもエルフの調査隊もしくは冒険者は来なかった
のだろうか?
それともシャナの能力が高いのか?
その疑問をリケッツに聞いたところ、エルフ族は調査隊の様な
組織には加わる事は無いそうだ(能力を他種族に知られたく無い)
また、エルフの冒険者は攻撃魔法を得意とする者が大半で
調査には不向きらしい。

『今回はシャナはんにお願いするしかないわな、ほんま来て
 くれた事に感謝や。
 ワイが何か効果的な魔法を教えるよって、かまへんか?』

『はい、役に立てそうで嬉しいです よろしくお願いします』

 その日は発見した場所の近くでテントを設営し休憩と対策
を考える事となった。

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 翌日、リケッツは再度シャナに拡大視による確認作業を願い出で
それにより詳細を聞き取り図化していた。
その結果、幾つかわかった事があったようだ、点滅している側に
魔法を感知する刻印が2つ見つかった、刻印の下にある文字は古代
エルフ文字らしくシャナは知っていた。
1つは「受け入れる」もう一つは「拒否」と書かれているらしい。

『この仕掛けは防衛が目的と考えれば、外部からは解除はできない
 構造やろな、おそらく刻印の場所に衛兵なんかおって操作してた
 んとちゃうかな?
 しかし奥さんの魔法が通過できるんやったら、外部からの解除も
 不可能ではないやろ・・・ただ解除魔法を突き止めなあかんな。
 手始めに解除魔法を試してみよか』

 どうやらこの世界には魔法鍵と言うのがあるらしい、特定の者だけ
が解除できる鍵と不特定多数(魔法を行使できる者)に分かれるらし
いが、衛兵が管理してるのであれば後者の可能性が高いとリケッツは
考えているようだ。
 リケッツも解除魔法は使えるので試してみたが予想通り弾かれた
やはり同族の魔法でなければならないようだ。
エルフ族にしか解除できない事は理にかなってる、少なくても同族
が敵になることは確率的に低いだろうし。

 そしてシャナに対してリケッツの指導が開始された
魔法の行使は種族に違いは無く発動する際に効果に違いがでるらしい。
この機会に僕もシャナと共に練習する事にした、解除魔法を習得する
事は冒険者として有利だとリケッツに聞いたからだ。

*練習を初めて14日が過ぎた

 シャナは魔法の才能が高くリケッツに言わせれば、あと数日で習得
できるとのこと。
僕の方はこの仕事が終わったらシャナから学べと早々に言われてしま
った。

『(&$^+!@$^』

(カシャ)

 リケッツの作った魔法鍵は解除できた。

『やりおった! 成功やな』

『ありがとうございます』

『良かったね、シャナ。帰ったた僕にも教えてね』

『はい!』

『ほな、試してみよか・・・』

 僕とリケッツはシャナとメーディアの両脇で護衛の役目
メーディアはもしもの時の回復の準備。

『行きます、「(&$^+!@$^」』

 眩い光を放ち見える景色が一変した、何となくだが古びた
様に感じる。

『リケッツ、これは成功だよね・・・』

『そやな、よ〜やったシャナさん』

『私・・・何だか・・・嬉しい。この仕事のお役にたてたの
 ですね』

『シャナさん、疲労感とかない?、あれば私が回復してさし
 あげますけど』

『大丈夫ですよ、メーディアさん。あ、待ってください
 何か聞こえるのですが?』

『僕には聞こえないが、リケッツ、メーディアは聞こえる?』

『ワイには聞こえんけど』

『私にも聞こえませんわ』

 どうやら、何かは分からないがシャナにだけ聞こえているようだ。
ここは遠い昔に放棄された街の遺跡なのだ、罠?、魔物?いや待て
ここはドワーフが鉱石採掘目的で遺跡を調査していた場所なのだ
魔物や罠があれば彼らが気づいていたはずで依頼時に告げるはず。
 もしかして転送装置の解除が引き金となったのか?
そうであれば安全確認が最優先だと感じリケッツの方を見た。

『わかっとる、ユウ!油断すんなよ』

 その時20m程先に光の玉が出現した、何だあれは・・・

「+&^$(1$$__+#**!@?〜`””;」

 これは古代エルフ語?シャナの詠唱の似ていたが・・・

『シャナ、古代エルフ語じゃないか?』

シャナの方を見ると、光の玉を見つめていた。

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第1章 11話

*出現した光の玉は見ている前で大きくなって直径20m位で止まり
 空中に浮いたまま静止していた。

『シャナ、まだ聞こえるのかい?』

『はい、聞こえます・・・女性の声のみたい』

『なんやて!聞こえる所は分かるんか?』

『シャナさん、大凡でいいの教えてくれたら私も探せるから』

『シャナ、僕も協力するから・・・光の方から聞こえるのかい?
 僕にはまだ聞こえないけど』

『みなさん、ありがとうございます。何となくですが光の奥の
 方から聞こえてくる感じなんです』

 シャナにしか聞こえない声か、この光の玉も普通じゃないし
このままじゃ埒が明かない、思い切って光に突っ込んでみるか?

『リケッツ・・・僕が光の中に入ってみようか?』

『少し待ち・・・「ロックシュート」「ウインドサーチ」これでどや』

 流石リケッツだ魔法の連続発動、でも何の魔法なんだろう?
光の中に拳程の石が数十個打ち出され同時に空気が波状に打ち出され
吸い込まれてた、何か探査系の魔法なんだろうか?

『ユウ、危険は無さそうや。中央に防御結界のようなもんが
 あるから気をつけや』

『了解!』

 僕は光の中央を避けて侵入した、結構眩しいけどただの光の様だ
何故突然現れたのだろうか?
ゆっくりと確認しながら中央に向かった。
ん、何かあるな・・・あ、誰かいる。近づこうとした時に光が霧散
した。
光が収まり中にいたのはエルフの女性だった、始めは空中に浮いて
いたが静かに地面に横たわった。

『女性がいるよ近づいてみる、エルフのようなのでシャナ来て』
 
『今、行きますから少し待ってください』

『気いつけや、ワイらも行くよって』

 見た感じは眠ってる感じだが、状況を考えると眠っているだけ
ではないと思う、浮いてたし・・・

『どう思うシャナ、エルフなのは間違いないよね?』

『はい、同胞だと思います。でも状況を考えると遺跡の住人と
 考えた方がよろしいのではないでしょうか?』

『そやな、ワイも同感やなメーディア、彼女の状態を確認してや』

『見せてみて』

 メーディアは回復系の魔法も得意としている、回復系の魔法
にはケガなどの状態を調べる事ができるらしく魔法が放たれた。

『大丈夫みたい、容態に異常は無し、本当に寝ている状態よ』

 皆で様子を見ていると、彼女の目が開き始めた。

『@#)・・・&5%$0>>.<_0+0#$@』

『*&+!@$5(765)@#$+_?><!!5(?>』

『シャナ、もしかして古代エルフ語?』

『はい、そのようです、簡単に状況を説明しました』

彼女は何やら魔法を詠唱し始めた。

「^&*@$$?>””^#$+!:?〜」

『ハジメマシテ、ワタシハ、テミス デス』

 これは・・・よく分からんが言語系の魔法のようだ

『リケッツ、これって』

『言語変換やな・・・珍しい魔法や、知ってはけど使っている
 のは初めて見たな』

『でも、良かったですわ、言語変換なら私達も話せますよね。
 だってシャナさん以外は古代エルフ語言葉は理解できませんし』

『いえ、私も魔法詠唱程度しか古代エルフ語は知らないので・・・』

『アナタタチ ハ ダレデスカ?』

『私たちはこの遺跡を調査に来た者です、三人は人族で一人エルフ族
 です、貴方は古代エルフ族の方ですか?』

『コダイエルフ? ワタシハ エルフデス アナタ ト オナジ』

 彼女は首を捻り考え込んでいた、シャナが古代エルフと言う事を
考えると現在のエルフと区別する理由があるのだろう。

『シャナ、古代エルフと今のエルフの違いって何なの?』

『エルフ族に伝わる伝承では魔法力や行使できる魔法の多さ、
 身体能力もかなり高いと伝わっています』

『ワタシハ メザメタ ノ デスネ セツメイ ヲ オネガイ』

 そうだよな、いきなり目覚めてこの状態。
僕だって戸惑うよな、どう説明するのが良いのだろう。
この状況は封印されていたと考えるべきだよな、この事は彼女は
理解しているのだろうか?
その辺を確認してからでなければ説明が難しくなりそうだ。

『シャナ、彼女が封印されていた事情を確認してした方が今後の
 説明が容易になる、その辺を聞いてくれ』

 彼女の話では正体不明の伝染病でにより遺跡の街が全滅の危機に
際し種族存続の為に感染していない彼女が選ばれ遺跡の地下に設置
されている魔法結界が施された空間に避難していたらしいい。
遺跡の結界が作動したきっかけの石像は偶然で本来は同族が捜索に
来た際に生存者がいる事を知らせる為の仕掛けであり、同族の者で
あれば容易に解除し彼女を保護できたそうだ。
 彼女もシャナの説明を聞きながら戸惑っていたようだ、同族だと
思っていたシャナがエルフでありながら異なる種族であった事と
同族(古代エルフ)は既に滅んでいる事など・・・
今回の依頼であった結界による状態異常は彼女が開放された事に
より元に戻った。
 これにより仕事は達成されたわけだが、このまま彼女の保護を
どうするか話し合う事になった。

『リケッツ、メーディア、どうしたら良いと思う?』

『そやな、依頼主に話さなあかんやろな・・・』

『それってドワーフよね? 彼らに保護の考えはあるかしら?
 こんな結果は予想してないでしょうし、異種族でしょ?
 それに古代エルフなのよね、売られたりしないかな?』

『その辺は話せば分かって・・・って保証はできないか・・・』

 ここは異世界なんだ、雰囲気的には僕の知っているヨーロッパ
の中世時代の感じで公的な保護機関は無いだろうし人身売買も
あるし、このままでは彼女の安全は確保できないだろうな。

『ワタシ アナタト イタイ ダメ?』

『え、私!』

『シャナはん、同じエルフ族やさかい安心できるとちゃうの?』

 シャナは少し戸惑っていたが、古代とはいえエルフ同士であり
心配はしているのだろう。

『貴方は私と一緒のいたいのですか?』

『ハイ アナタ ニ ツイテ イク ダメ?』

『これは仕方ないんじゃない?私やリケッツじゃ安心できない
 と思うし、どうなの?』

『そやな依頼主のドワーフは無理やし、ここにって・・・
 てのも人道的じゃないわな』

『雄靖さん、どうしましょう?』

 僕もリケッツと同じ意見だ、でもシャナと母親そして今はアズも
いる。
彼女はアズよりも歳は上だが今の時代に馴染めるだろうか?
状況的に難しくても元に戻す方法も分からない。
であれば目覚めさせた我々が責任を負うしかないだろうな。

『僕はシャナが良いなら反対はしないよ、帰ったら皆に説明しよう。
 それに関わってしまったからには何とかしてあげないとね』

『ユウと奥方の行為に対してワイからの提案やけど、今回の報酬を
 全額渡したいと思うんやけど、どうやメーディア?』

『いいんじゃない・・・私もそれで良いわ』

『シャナ、この事を彼女に伝えてほしい』

『あなたの名前を教えて?』

『ワタシ アゼロ』

『アゼロさん、私達は帰るのだけれど私の所に来ますか?』

『アゼロ アナタ ニ ツイテイク』

 今後の事を考えると少し不安になるけど、きっとアゼロの方が
不安は大きいいと思うし、この異世界なら何とかなる気がする、
前向きに考えるとしよう。

 リケッツ達と別れて帰宅しアンナとアズに事情を説明し一緒に
暮らす事を伝えた。
今の家は5人で生活するには狭すぎる、それに子供ができたら
ますます狭くなるよな・・・
報酬もかなりの金額だったし大幅に家の増築をまたズムコに
頼むとするか。

 ズムコと増築の相談をしたら、その規模なら建て替えた方が
早いと提案され僕もそれを了承した。
ズムコは何人か仲間を呼んで建築をした結果、一月程で家は
完成した。

 完成した家は僕が知識にある二世帯住宅に近い感じで
部屋は僕たち家族とアズ、アゼロに別れ食事などは暫くの間
一緒にする事になった。

 アズはアンナに大分慣れたようで見た感じ本当の親子みたいに
感じられる、なにより、なにより。
僕はこの環境に慣れてきているアゼロに事情を聞いても良いの
ではと思いアンナとシャナに相談してみた、二人も僕と同じ考え
らしく夕食後に代表してシャナが聞く事になった。

『アゼロさん、ここの生活は慣れましたか?』

『はい、皆さん優しくて安心できます』

 アゼロの話す言葉は始めの頃と比べるとかなり流暢になったな
今なら正確に事情が聞けるのではないだろうか?

『シャナ、アゼロに聞くことを纏めたいので隣の部屋で少し
 話さないか?』

『そうですね私も雄靖さんと相談したいと思ってました』

 シャナも僕と同じ事を考えていたみたいだな、僕が確認したい
事は生き残ったのはアゼロ一人であり、おそらく今は古代エルフ
は彼女一人だと思う。
シャナの話では今のエルフは古代エルフの末裔だと伝わっている
らしく、その事実が伝承を受け継がれている理由と言われてる。

『僕が聞きたい事なんだけど、以前同族が存在しないこの世界で
 このまま僕たちと生きていく事を望んでいるのか?
 それとも何か目的の様な使命はあるのだろうか?
 聞きたいのはこの2つかな』

『この先の事は私も聞きたいと思ってました、れに遺跡に住んでいた
 方々がもうこの世界には居ない事は理解できているのかも確認
 したいですね』

『アゼロさん、仲間たちが居なくなったのは分かる?』

『はい、理解しています。あの絶望的な状況から種族を守る為に
 私は選ばれました。
 もう一人いたのですが封印直前に感染し安全の為、私だけ急遽
 封印されたのです。
 その時点で仲間たちが滅ぶ事は予想していました』

 彼女は全てを理解して私達の所に来たようだ、目覚めての孤独
と絶望、その悲しみを思うと、何とか力になってあげたいと思って
しまう。
話を聞くシャナの表情を見ると同じ気持ちなのだと僕は思った。

『アゼロさん、これからも私達と一緒に暮らしていきませんか?
 その方が私達も嬉しいわ』

『シャナさん、雄靖さん、ありがとうございます。
 ご迷惑でなければ、これからも皆さんと一緒にいたいです』

『よし!家も新しくなる、アズやアゼロの部屋もあるぞ、大きな
 家だから気を使う必要も無い安心して暮らせるぞ』

 そう言うとアゼロは嬉しそうな笑顔で頷いた。

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第1章 12話

 しばらくして家の改装が終わった、以前の二倍は広くなった感じがする。
アズやアゼロの部屋は個室になったのだが、アズは幼いので当分の間
アンナと寝起きは共にするようだ。

 さて今後だけれどアゼロの扱いをどうしたものか・・・
一緒に住む事は本人に確認済みだけど、それ以外は聞いていない
何かやりたい事とかあるのだろうか? 確認してた方が良いだろう。

 今回の報酬はアゼロを保護する事になった僕ら夫婦が全額受け取る
事になった、家の改修費用も報酬で賄い残りはアゼロの将来に使う
予定だ。
仕事の方はアゼロを気遣うリケッツが僕を外して行うらしい
ここはしっかり面倒をみなくは・・・

*半年が過ぎた

 アゼロはすっかり家族の一員になった、シャナがエルフであった
事も良かったのだろう。
一緒に暮らしてわかった事は彼女の社交性だった、街に買い物に
行くと店の店主と積極的に会話をするのだ。
商品の説明や食料品なら味など実に楽しそうに話しかけている。
もしかしたら人と関わり事が合っているのではないか?

 僕には誰にも話してない夢がある。
それは元の世界でコスプレカフェを開きたいのだ、投資だけでも
生活はできるのだが、何となく寂しく感じる。
アニメ好きと言う事もあるがコスプレには以前から興味はあった、
それにカフェで過ごす時間も好きであり両方を合わせたら自分が
満足できる空間ができるのではないか・・・などと夢を見たが
開業資金は投資や異世界で手に入れた物を売ったりする事でで
何とかなりそうな感じがしている。
僕がコスプレカフェを営業するなら衣装には拘りたいと思って
いる、生地や縫製をアパレル製品と同等レベルにしたいのだ。
何故ならコスイベなどで見かける衣装のクオリティーを僕は
物足りなくも感じていたからだ。
 そしてもう一つ、異世界に来て亜人種と言われている獣人や
エルフなどとの出会い、今の妻はエルフだし!
レイヤーさんが本物ならコスプレは本格的な物になるよね。

 資金があり異世界を行き来できレイヤーさんは本物、縫製の
問題はこれから考えるとして、実現可能な夢になって来たと
思う。
カフェの規模は20席程度の小さな店でレイヤーさんが
ウエイトレス、そんな店を経営して生活していけたら幸せに
なれると思う。
その実現の為には異世界で人材を見つける事が必須だ、秘密を
守れる信頼できる人材、理想は家族なんだよね。

 前にシャナを元いた世界に連れて行ったけど、案外順応して
いた感じだった。
もしかしたらアゼロやアズも時間をかければ僕の居た世界に
慣れてくれるかもしれない、家族経営・・・なんて・・・
みんなで楽しく働いたり遊んだりする場所、いつか元の世界に
アズよアゼロを連れて行きたいと思う。

*1年後

 二人は更に成長した、子供の成長は早いものだ
特に猫人族であるアズの成長には驚いた、シャナの話では
ある時点で成長が加速するらしく種族特性とのこと。
最初はアゼロの方が身長は高かったが今はアズが追い抜いて
しまった、アゼロも伸びたのだが・・・
二人ともシャナより少し低いくらいまで成長した。
精神的にも落ち着いてきたし、もうアンナと三人での
留守番も安心だと思えた。
 そんな時だ、リケッツが訪ねて来た。

『ユウ久しぶり〜子供達は元気かいな?』

『いきなりだな、リケッツ。僕も子供達も元気だよ
 成長も早くて驚いてたところさ』

 そろそろ落ち着いたと思って仕事の話でもしにきたか?

『早速本題やけど仕事の話や、子供らはユウがおらんでも
 大丈夫になったんやろ?』

 今は金銭的に困ってはいないので無理に仕事はしなくても
いいんだけど、リケッツや他のメンバーには世話になったし
特別な事情が無ければ断りづらいな・・・

『この前の仕事での報酬で家も改築できたし、みんなと
 過ごす時間も増えた、お陰で子供達も落ち着いたよ。
 仕事で家を開けるのは大丈夫だと思う、仕事の事を
 聞かせてくれ』

『ここから半月ほど行ったペルベントって村があるんやけど
 な、この村は貴重な薬草の産地なんや。
 その貴重な薬草が商業ギルドに入荷が滞っていんのや。
 ギルドも直接村に出向いたんやけど、護衛の冒険者共々
 消息を絶ったようや、護衛の冒険者は何れも実力者で
 これ以上の派遣は続けての被害があると判断したようだ』

『そんな危険な依頼が何で此方に来たんだい?』

『そんなん決まってるやろ、わいら最強やし前回の難解依頼も
 すんなり解決!、強さも知性も優れていると証明できたんや。
 この案件に相応しいと判断されたんやろな』

 確かに・・・ギルドでの評価はそうなのかもしれないな。
でもこの仕事については先の派遣された冒険者が生還していない
点がかなり不安要素なんだよな、大丈夫かな・・・。

『なあリケッツ、派遣された冒険者が帰ってない事は不安に
 感じないかい?メーディアや他のメンバーは何て言ってるの?
 それとリケッツ自身の考えを聞かせて欲しい』

 でもな〜リケッツが決めたら他のメンバーも「行く」って
言いそうな気がするけど・・・暇そうだし、実力もあるからな。
一応、聞いてみたかった・・・。
 リケッツの答えは予想通り、二つ返事で参加と答えたらしい。
特にメーディアはノリノリとの事、前回の仕事では物足りなかった
のだろう。

『そやな、今回は戦闘の可能性が多少はあるかもしれんしな・・・
 嫁さんは連れて行かん方が良いやろ。
 ユウの戦闘能力を考えればワイらと行動をするんは問題ないし
 今回ユウは後方警戒にして直接戦闘はワイらがするよって
 安心しなはれ』

 やっぱ僕の実力はリケッツ達と比べると、まだまだみたいだ
こんな僕が仲間になるメリットは何なのだろうか?
以前に話した異世界の商品?それとも異世界そのものに興味があり?
どちらにしてもこの世界は危険が多い、頼りになる仲間がいる事は
心強い。
最悪ヤバくなれば元の世界に避難する事も考えている。
シャナや家族で暮らすには現状を考慮すれば異世界になるだろう。
そう考えると僕は十分な強さを持っているとは思えない、リケッツ達
に教わり異世界で生きる術を身につける必要があるだろうな。
そう考えるとリケッツ達と行動を共にするのは僕の実力を向上させる
のに必要な事だと思う、今回の仕事も同行すべきだよな。

『わかったよリケッツ、いつ頃まで準備すればいい?』

『10日ぐらいでどうや?ユウの所で集合の予定やし』

『大丈夫だと思う』

 10日後にリケッツ達は迎えにきた、みんなも元気そうだ。
移動の間に詳しい話を聞くことにした、特に先に行方不明に
なった冒険者についての情報は多少でもあるのか?
幾つか気になる事もある、行方不明と死亡確認でも大分違うし。
でも、メーディアは元気だな・・・前回の仕事が物足りなかった
のだろうな多分、代わりにシャナの功績が大きかったエルフだしね。

『ところでさリケッツ、行方不明の冒険者については何か
 情報は無いのかい?』

『今の所は何もないな・・・情報も含めての依頼やしな、
 生存してたら保護、死亡なら遺品回収が含まれとる。
 安心しなはれ、ユウは守ったるさかい』

 守るって・・・何となく複雑な気持ちだよな、僕も男だし
ちょっと落ち込む・・・でもこれが実力差って事か・・・

『どうしたのユウ、私達もいるのよ!安心して』

『『そうだぞ心配するな』』

『メーディア、カルロス、アバン、ありがとう』

 気にしてもしかたないな、力不足なのは事実だし無事に帰れる事を
今は優先すべきだな。
彼らと行動を共にしてれば僕のレベルも上がっていくと思う。
家族を守れる力を持たないと・・・異世界で行動範囲は狭くなるし。
シャナと結婚し理由あって此方の世界の住人二人を保護する事に
なった、異世界で安定した生活を送る為にリケッツとの仕事を
増やせば収入的には良いのだが危険も伴う。
平和な世界で生きてきた僕にとって冒険者の様な仕事は危険が
大きすぎる、世界を行き来しながら商品売買と転移による確実に
値上がりを見越した投資で収入的には何とかなりそうなんだけど
異世界で暮らすには外敵を退ける程度の力は必要と思える。
元の世界ではエルフや獣人であることが障害になるだろう。
生活の拠点は他種族が存在している異世界の方が良いのは確かだ、
異世界での僕単体での実力を考えればギルド受けれる仕事は報酬の
低い仕事を選ばないと命の危険がある。
そう考えると元の世界での収入で商品を仕入れ異世界で商売する
方法が安定して収入を得られる。
もうしばらくは現状維持かな・・・
 
『ほな行きましょか』

 そして何か軽いノリで出発し、半月後ペルベント村の近くに
到着した。
偵察の為、村から500m程離れた所に拠点を置きメーディアが
斥候として向かった。

<人の気配がないわね、って当然よね・・・村の中に入らないと
 ダメみたいだわ、行きましょう>

 半時ほどでメーディアは戻ってきた、村の中には誰も居なかった、
そして状況は異常で日常の生活を送ってる時に人だけが突然消えた
と思える状況だったらしい。
食卓は食事中であったり、居間にはお茶の用意がされたままであり
全ての料理やお茶が温かく直前まで誰かが居た気配があった。
あまりの不自然さを警戒し早々に引き返したのだった。

『村の奥までは行ったん?』

『いえ、入口付近までよ。異様な霧が立ち込めてたし、私の中で
 危険を知らせる感覚があったのよ・・・だからね、戻ってきちゃ
 ったわ、仕方ないでしょ?』

『そやな、で・・・どないしょ?』

『メーディアの危機感知は信頼できる、単独行動は避けるべきだな』

 カルロスの意見に僕も同意見だ、他のメンバーも頷いている。

『で、どないする? このままでは埒が明かんよって・・・
 偵察で危険も予想される・・・せやったら纏まって周囲を警戒
 しながら突入でいいとちゃう?
 ユウを中心にワイらが囲み前進でどないや、ユウは魔法を放つ
 準備をして、動きがあったら迷わず打なはれ』

『いいんじゃない』

『それで良い』

 どうやら方針が決まったようだ、体術が未熟な僕が皆の中心に
位置して何かあれば魔法での先制攻撃で相手の隙を作り、その後
相手の状況次第で攻撃続行か撤退を判断するみたいだ。

 方針が決まり村に入る、メーディアの報告通り深い霧が視界を
遮り何時襲われても不思議じゃない感じだ。
そんな事を考えながら進み村の中心と思われる所まで進んできた。
近づくに連れて霧が晴れてきた、視界が開けてきた事で異常な
光景が目に飛び込んで来た。
 人骨なのか、動物の骨なのか辺り一面に散乱していた、注意深く
見れば剣や防具、破れた衣服も確認できた。

『なんやあれ・・・少し厄介な感じやな』

 この光景を見て少し厄介って・・・リケッツにとってはこの程度は
厄介レベルなんだな・・・僕はかなり危険だと思うのだが、他の
メンバーもリケッツと同意見なのだろうか?

『厄介って、かなり危険じゃないの?、そう思ってるのは僕だけ?』

『ユウ、安心しなさい、確かに情報は不足しているけど単独じゃない
 のだし現状は警戒レベルだわ』

『そうだな、メーディアの言う通りではあるな』

 流石、アバンとメーディアです心強いな、今のところ僕の出番は
無いようだ。
このまま出番無しだと嬉しいが、このままとは考えられない。
この後の行動は経験不足の僕にとって予想は難しい。

『さ〜てどないしよか?ワイとしては、このまま調査続行でと
 思っとるけど、皆もエエか』

『いいんじゃない』

 メーディアの返事に他のメンバーも同意した。
ま、僕も同意せざるを得ない、何故なら一人で帰る自信は無いのだ。
この世界は町などの集落は比較的安全だが生活圏から外れた森や草原
などは危険が隠されている、ここに来る道中でも数回は魔物の襲撃が
あったがリケッツ達が退けてくれた、僕も魔法で参加したが、単独では
退ける自信は無い。
でも今はそれで良いと考えている、強くなり進んで危険に飛び込む
より弱くても危険を避ける生き方を選びたい。