翌日の音楽室は、ただならぬ雰囲気が満ちていた。俯く者、床に這いつくばる者、全て諦めたように天を仰ぐ者と様々だ。けれど、一人の登場に、床に伏していたものたちが顔を向け、まるで導かれるように立ち上がる。先導者となった一人の指先は、僕たちに希望を見せる。
風が強く吹く大地だろうが、落石の多い山道だろうが、先導者がいれば僕たちの旅は安泰だった。一人だけでは到達することができなかったかもしれない。先導者がいたからこそ、国境をいくつも越えた先にある小さな街に僕たちは着くことができた。
歓喜の声が上がり、心の赴くままに僕たちは踊る。手を取り合ったり、一人で揺れてみたり、喜びの表現は人それぞれに僕たちは無事の到着を喜んだ。
「――っていうイメージです」
数拍の静寂の後、三島副部長の凛とした声がすっと通る。自然と湧いた拍手に三島副部長は小さく頭を下げ、その場に座った。
「三島ちゃんいい感じじゃーん!」
「みんなの意見が良かったの。あたしは別に何もしてない」
三島先輩はきっぱりと言い切り、真顔に戻る。人当たりがよく、少しいいかげんに見える面の多い秋羽部長とは、正反対と言ってもいい人だった。切れ長の瞳にベリーショートに整えられた黒髪、日焼けとは無縁の白い肌とその佇まいに、まだ少し緊張してしまう。
ヤマ先に合奏の指揮をお願いする前に、と秋羽部長から連絡が来たのは昨日の夜遅くだった。僕も含めた多くの部員が朝になってから確認したそのメッセージは『曲に合わせて身体を動かします! 運動着必須!』と書かれた後に、犬と猫とタヌキを足したような不思議な生物のスタンプが送られていた。
そして部活が始まり、三島副部長やパートリーダーの先輩たちで考えたという振付を共有された。全員で『メルヘン』の音色でどう体が動かしたくなるのかを共有し、一つの物語性のある振りを作った。これは、新しい曲を練習するたびに必ず行われる練習だった。
実際の効果は分からないけれど、同じように曲を捉えられることで合奏にまとまりがでる気がする。意見を出し合い、踊り、また意見を出し合って振りを修正していく。『メルヘン』という楽曲をメルヘンたらしめるものとは。僕たちなりに『メルヘン』を解釈することが大切だった。
「みんなは、どー? ……なんか達成感ありそうな顔してるね」
秋羽部長が腰に手を当て「よし!」と、応援団長のように胸を張る。
「ヤマ先の合奏指揮ってね、けっこうハードルが高いんだ。体力もいるし、一曲一曲に集中しなくちゃいけないし」
一人立つ部長に、僕らの目線はまっすぐ向けられる。いつものふんわりとした口調とは違って、声色にはヤマ先への強い信頼や尊敬の色が混ざっていた。
風が強く吹く大地だろうが、落石の多い山道だろうが、先導者がいれば僕たちの旅は安泰だった。一人だけでは到達することができなかったかもしれない。先導者がいたからこそ、国境をいくつも越えた先にある小さな街に僕たちは着くことができた。
歓喜の声が上がり、心の赴くままに僕たちは踊る。手を取り合ったり、一人で揺れてみたり、喜びの表現は人それぞれに僕たちは無事の到着を喜んだ。
「――っていうイメージです」
数拍の静寂の後、三島副部長の凛とした声がすっと通る。自然と湧いた拍手に三島副部長は小さく頭を下げ、その場に座った。
「三島ちゃんいい感じじゃーん!」
「みんなの意見が良かったの。あたしは別に何もしてない」
三島先輩はきっぱりと言い切り、真顔に戻る。人当たりがよく、少しいいかげんに見える面の多い秋羽部長とは、正反対と言ってもいい人だった。切れ長の瞳にベリーショートに整えられた黒髪、日焼けとは無縁の白い肌とその佇まいに、まだ少し緊張してしまう。
ヤマ先に合奏の指揮をお願いする前に、と秋羽部長から連絡が来たのは昨日の夜遅くだった。僕も含めた多くの部員が朝になってから確認したそのメッセージは『曲に合わせて身体を動かします! 運動着必須!』と書かれた後に、犬と猫とタヌキを足したような不思議な生物のスタンプが送られていた。
そして部活が始まり、三島副部長やパートリーダーの先輩たちで考えたという振付を共有された。全員で『メルヘン』の音色でどう体が動かしたくなるのかを共有し、一つの物語性のある振りを作った。これは、新しい曲を練習するたびに必ず行われる練習だった。
実際の効果は分からないけれど、同じように曲を捉えられることで合奏にまとまりがでる気がする。意見を出し合い、踊り、また意見を出し合って振りを修正していく。『メルヘン』という楽曲をメルヘンたらしめるものとは。僕たちなりに『メルヘン』を解釈することが大切だった。
「みんなは、どー? ……なんか達成感ありそうな顔してるね」
秋羽部長が腰に手を当て「よし!」と、応援団長のように胸を張る。
「ヤマ先の合奏指揮ってね、けっこうハードルが高いんだ。体力もいるし、一曲一曲に集中しなくちゃいけないし」
一人立つ部長に、僕らの目線はまっすぐ向けられる。いつものふんわりとした口調とは違って、声色にはヤマ先への強い信頼や尊敬の色が混ざっていた。

