「ここが祭壇の間ですか?」
「ああ。俺や蒼乃はいつもこの場所から地上に祈りを捧げていた」
(なんて美しいところなの……)
水聖の町を散歩をしていた暁乃は白蓮に連れられて『祭壇の間』という建物に訪れていた。
全体的に白を基調とした内装になっており、大きな窓からは光が差し込み、床に映された影響できらきらと輝いていた。
うっとりしてしまうほどの幻想的な空間につい、釘付けになってしまった。
何千年も前に水の女神、蒼乃の発案により造られたそうだ。
「金魚姫である暁乃も祈れば人間たちに加護を与えることが出来るぞ。逆に剥奪することも、な。暁乃さえ良ければ俺が波音家に制裁を下してもいい」
「白蓮さま……」
彼の穏やかな表情が一変したかと思えば、鋭い眼光へと変わって怒りを露わにさせた。
どうして怒っているのか理由は分かる。
散歩の途中、暁乃が波音家でどのような生活を送っていたのかという話になり正直にすべての事実を明かしたことが原因だろう。
きっとありのままに話せば優しい白蓮のことだ、両親や妹の彩佳に対して激怒するはずだと予想はしていた。
予想は的中して暁乃が虐げられていたと知った瞬間、今すぐ地上に赴いて波音家を潰すと言い、しばらくの間、聞く耳を貸さなかったのだ。
想像以上の反応に慌てて何度も説得をし、やっとの思いで落ち着かせられたのだが、どうやら再びふつふつと怒りが沸いてきたようだ。
そんな彼の様子を見て暁乃はなぜか動揺するより嬉しさの方が上回っていた。
心の中で気持ちを整理するとそっと口を開く。
「いいえ、白蓮さま。制裁は下さなくて大丈夫ですよ」
「しかし、暁乃はこんなにも苦しみ傷ついているというのに今もあいつらはのうのうと生きているのだ。君が良くても俺は絶対に許せない」
「わたしの為にこんなにも怒ってくれる……。それだけで十分なんです。確かにあの人たちは人として最低のことをしました。ですが、妖魔を退治する腕は確かです。加護を剥奪してしまえば無関係の人たちも巻き込んでしまう。それだけは何としてでも避けたいのです」
「暁乃……」
白蓮の怒りが完全に治まったわけではないが彼女の冷静な考えに徐々に落ち着きを取り戻したようだ。
呼吸を整えるようにふっと息を吐き出すと先ほどの鋭さはすっかり消えていた。
「分かった。だが今後、彼らにあまりにも見過ごせない言動が一度でもあれば、すみやかに罰を与える。それでいいか?」
「はい、構いません」
二人はお互いの意思を確認し合うと頷き、祭壇の間を進んでいく。
そして一番奥にある壇上に上がると祈りを届けるために必要な道具である水鏡の前に立った。
水聖はどこに行っても空気が澄んでいるけれど不思議とここはよりいっそう神聖さで満ちている。
「白蓮さま。わたしもここで祈っても良いですか?」
「ああ。きっと暁乃の清らかで優しい思いが地上の民にも届くはずだ」
「ふふっ。祈る相手は白蓮さまも含まれていますよ」
「俺も?」
目を丸くさせ、きょとんとしている白蓮はどこか幼くも見え、意外な姿に暁乃は小さく笑った。
「白蓮さまが寂しい思いをしないで、ずっと、ずっと幸せでいられますように、と。これは加護とは少し違うのですが……。わたしの願いごとといいますか……」
途中でしどろもどろになってしまい上手く伝えられずにいると急に繋いでいた手をぐいっと引き寄せられた。
そしてその手は背中へと回されて、まるで二度と離さないとでもいうかのように強く抱きしめられる。
白蓮のぬくもりを一気に感じて全身が熱を帯びる。
「ありがとう。俺は昔から君に助けられてばかりだな。本当はもっとたくましい姿を見せたいのに弱っているところばかり……。情けないな」
「そんなことないです。わたしの方こそ白蓮さまに救われてこうして居場所を見つけられたんです。大切な人と過ごす時間がこんなにも幸せなんだって初めて知れました。だから、こちらこそありがとうございます」
もし白蓮と出逢わなかったら一生、あの波音家に閉じ込められて夢を見ることも諦めていただろう。
けれど前世で非業の死を遂げてしまった蒼乃の想いが、妻を失った白蓮の想いが、今ここで新たな運命へと結びつけたのだ。
──これから先、二度とあのような惨劇を繰り返さないように、誰も悲しい想いをしないように祈り続けよう。
「暁乃、俺は何度でも誓う。永遠に君を離さずに愛することを」
「はい。喜んでお受けいたします」
些細な幸せで笑い合える日々を築いていけたら。
そして新たな門出を歩み出した二人を祝福するかのように柔らかな光が降りそそぎ明るく照らすのだった。
「ああ。俺や蒼乃はいつもこの場所から地上に祈りを捧げていた」
(なんて美しいところなの……)
水聖の町を散歩をしていた暁乃は白蓮に連れられて『祭壇の間』という建物に訪れていた。
全体的に白を基調とした内装になっており、大きな窓からは光が差し込み、床に映された影響できらきらと輝いていた。
うっとりしてしまうほどの幻想的な空間につい、釘付けになってしまった。
何千年も前に水の女神、蒼乃の発案により造られたそうだ。
「金魚姫である暁乃も祈れば人間たちに加護を与えることが出来るぞ。逆に剥奪することも、な。暁乃さえ良ければ俺が波音家に制裁を下してもいい」
「白蓮さま……」
彼の穏やかな表情が一変したかと思えば、鋭い眼光へと変わって怒りを露わにさせた。
どうして怒っているのか理由は分かる。
散歩の途中、暁乃が波音家でどのような生活を送っていたのかという話になり正直にすべての事実を明かしたことが原因だろう。
きっとありのままに話せば優しい白蓮のことだ、両親や妹の彩佳に対して激怒するはずだと予想はしていた。
予想は的中して暁乃が虐げられていたと知った瞬間、今すぐ地上に赴いて波音家を潰すと言い、しばらくの間、聞く耳を貸さなかったのだ。
想像以上の反応に慌てて何度も説得をし、やっとの思いで落ち着かせられたのだが、どうやら再びふつふつと怒りが沸いてきたようだ。
そんな彼の様子を見て暁乃はなぜか動揺するより嬉しさの方が上回っていた。
心の中で気持ちを整理するとそっと口を開く。
「いいえ、白蓮さま。制裁は下さなくて大丈夫ですよ」
「しかし、暁乃はこんなにも苦しみ傷ついているというのに今もあいつらはのうのうと生きているのだ。君が良くても俺は絶対に許せない」
「わたしの為にこんなにも怒ってくれる……。それだけで十分なんです。確かにあの人たちは人として最低のことをしました。ですが、妖魔を退治する腕は確かです。加護を剥奪してしまえば無関係の人たちも巻き込んでしまう。それだけは何としてでも避けたいのです」
「暁乃……」
白蓮の怒りが完全に治まったわけではないが彼女の冷静な考えに徐々に落ち着きを取り戻したようだ。
呼吸を整えるようにふっと息を吐き出すと先ほどの鋭さはすっかり消えていた。
「分かった。だが今後、彼らにあまりにも見過ごせない言動が一度でもあれば、すみやかに罰を与える。それでいいか?」
「はい、構いません」
二人はお互いの意思を確認し合うと頷き、祭壇の間を進んでいく。
そして一番奥にある壇上に上がると祈りを届けるために必要な道具である水鏡の前に立った。
水聖はどこに行っても空気が澄んでいるけれど不思議とここはよりいっそう神聖さで満ちている。
「白蓮さま。わたしもここで祈っても良いですか?」
「ああ。きっと暁乃の清らかで優しい思いが地上の民にも届くはずだ」
「ふふっ。祈る相手は白蓮さまも含まれていますよ」
「俺も?」
目を丸くさせ、きょとんとしている白蓮はどこか幼くも見え、意外な姿に暁乃は小さく笑った。
「白蓮さまが寂しい思いをしないで、ずっと、ずっと幸せでいられますように、と。これは加護とは少し違うのですが……。わたしの願いごとといいますか……」
途中でしどろもどろになってしまい上手く伝えられずにいると急に繋いでいた手をぐいっと引き寄せられた。
そしてその手は背中へと回されて、まるで二度と離さないとでもいうかのように強く抱きしめられる。
白蓮のぬくもりを一気に感じて全身が熱を帯びる。
「ありがとう。俺は昔から君に助けられてばかりだな。本当はもっとたくましい姿を見せたいのに弱っているところばかり……。情けないな」
「そんなことないです。わたしの方こそ白蓮さまに救われてこうして居場所を見つけられたんです。大切な人と過ごす時間がこんなにも幸せなんだって初めて知れました。だから、こちらこそありがとうございます」
もし白蓮と出逢わなかったら一生、あの波音家に閉じ込められて夢を見ることも諦めていただろう。
けれど前世で非業の死を遂げてしまった蒼乃の想いが、妻を失った白蓮の想いが、今ここで新たな運命へと結びつけたのだ。
──これから先、二度とあのような惨劇を繰り返さないように、誰も悲しい想いをしないように祈り続けよう。
「暁乃、俺は何度でも誓う。永遠に君を離さずに愛することを」
「はい。喜んでお受けいたします」
些細な幸せで笑い合える日々を築いていけたら。
そして新たな門出を歩み出した二人を祝福するかのように柔らかな光が降りそそぎ明るく照らすのだった。


