すべての記憶を見た暁乃は目を開けると涙を流していた。
「暁乃、大丈夫か? どこか痛いところか違和感は?」
はっとして声の主を辿ればこちらの顔を心配そうに覗き込んでいる白蓮がいた。
そしてその奥には不安そうに様子を窺う、眷属の澪が静かに座っている。
暁乃は慌てて涙を着物の袖で拭うと平静を装った。
「は、はい。大丈夫です。何もありません」
「それなら良いのだが……。記憶は無事、見られたか?」
先ほど見た記憶はおぼろげになることなくはっきりと自分の中に深く刻まれていた。
白蓮の問いかけにしっかりと頷くと薄い唇をそっと開いた。
「わたしは水の女神、蒼乃さんの生まれ変わり。そして水聖に祝福をもたらす金魚姫なのだと教えていただきました」
「もしかして蒼乃と会ったのか?」
「はい、少しの間だけでしたが……」
「……!何か話していたか?」
「白蓮さんのこと、とても心配なされていました。それにわたしに金魚姫という大変な役目を引き継がせてしまったと」
「そうか、真面目な性格もあいつらしいな」
そう話す白蓮の表情は寂しさを滲ませながらも小さく微笑んでいて、どこか穏やかだった。
突然の別れになってしまった彼女の気持ちを知れて安堵したのかもしれない。
そして真剣な眼差しへと変わるとまっすぐに暁乃を見つめた。
ただならぬ雰囲気に思わずごくりと唾を飲み込み背筋を伸ばす。
「本当にすまなかった」
「えっ?」
突然、白蓮が深々と頭を下げて謝る姿に暁乃の心臓が飛び跳ねる。
格上の龍神が自分に謝罪をしているという事実に混乱し慌てふためく。
「ど、どうかお顔をお上げください!」
「いいや、すべては俺のせいだ。蒼乃がいなくなってから俺は力がまともに行使出来ず、龍宮に閉じこもっていた。だから人間たちは君を生贄にして妖魔を鎮めようと……。本当に申し訳なかった」
「大切な人がいなくなってしまえば、そうなるのも当然です。だから龍神さまは何も悪くありません!」
必死に否定する暁乃に白蓮はようやく顔を上げると微笑んで小さく呟いた。
「君は優しいな」
見つめ合い、そして僅かに沈黙の時間が過ぎると彼から問いかけられた。
「暁乃は記憶を見てどう感じた? 俺はこれから先、君のこともっと知りたいと願っている。それは金魚姫としても一人の女性としても」
暁乃は一房、髪を掬うと過去を思い返しながら話し始めた。
「わたしは今までこの髪が嫌いでした。だけどこれは蒼乃さんが残してくれた最後の希望……。その想いを無駄にはしたくないのです。だから金魚姫として貴方さまを支えたいと思っています」
「ありがとう、暁乃。これから二人で……いや皆で平和な世界を必ず取り戻そう」
「はい、龍神さま」
重なった彼の手は包まれてしまうほど大きく温かい。
今は恋という特別な感情はないけれどもしかしたらという未来が見えたような気がした。
後ろに控えている澪を見れば向日葵と見間違えるほど嬉しそうに笑っている。
これが幸せというのだろうか。
生贄になった日……だったがそれは明るい未来へと歩む幕開けの日でもあったのだった。
「暁乃、大丈夫か? どこか痛いところか違和感は?」
はっとして声の主を辿ればこちらの顔を心配そうに覗き込んでいる白蓮がいた。
そしてその奥には不安そうに様子を窺う、眷属の澪が静かに座っている。
暁乃は慌てて涙を着物の袖で拭うと平静を装った。
「は、はい。大丈夫です。何もありません」
「それなら良いのだが……。記憶は無事、見られたか?」
先ほど見た記憶はおぼろげになることなくはっきりと自分の中に深く刻まれていた。
白蓮の問いかけにしっかりと頷くと薄い唇をそっと開いた。
「わたしは水の女神、蒼乃さんの生まれ変わり。そして水聖に祝福をもたらす金魚姫なのだと教えていただきました」
「もしかして蒼乃と会ったのか?」
「はい、少しの間だけでしたが……」
「……!何か話していたか?」
「白蓮さんのこと、とても心配なされていました。それにわたしに金魚姫という大変な役目を引き継がせてしまったと」
「そうか、真面目な性格もあいつらしいな」
そう話す白蓮の表情は寂しさを滲ませながらも小さく微笑んでいて、どこか穏やかだった。
突然の別れになってしまった彼女の気持ちを知れて安堵したのかもしれない。
そして真剣な眼差しへと変わるとまっすぐに暁乃を見つめた。
ただならぬ雰囲気に思わずごくりと唾を飲み込み背筋を伸ばす。
「本当にすまなかった」
「えっ?」
突然、白蓮が深々と頭を下げて謝る姿に暁乃の心臓が飛び跳ねる。
格上の龍神が自分に謝罪をしているという事実に混乱し慌てふためく。
「ど、どうかお顔をお上げください!」
「いいや、すべては俺のせいだ。蒼乃がいなくなってから俺は力がまともに行使出来ず、龍宮に閉じこもっていた。だから人間たちは君を生贄にして妖魔を鎮めようと……。本当に申し訳なかった」
「大切な人がいなくなってしまえば、そうなるのも当然です。だから龍神さまは何も悪くありません!」
必死に否定する暁乃に白蓮はようやく顔を上げると微笑んで小さく呟いた。
「君は優しいな」
見つめ合い、そして僅かに沈黙の時間が過ぎると彼から問いかけられた。
「暁乃は記憶を見てどう感じた? 俺はこれから先、君のこともっと知りたいと願っている。それは金魚姫としても一人の女性としても」
暁乃は一房、髪を掬うと過去を思い返しながら話し始めた。
「わたしは今までこの髪が嫌いでした。だけどこれは蒼乃さんが残してくれた最後の希望……。その想いを無駄にはしたくないのです。だから金魚姫として貴方さまを支えたいと思っています」
「ありがとう、暁乃。これから二人で……いや皆で平和な世界を必ず取り戻そう」
「はい、龍神さま」
重なった彼の手は包まれてしまうほど大きく温かい。
今は恋という特別な感情はないけれどもしかしたらという未来が見えたような気がした。
後ろに控えている澪を見れば向日葵と見間違えるほど嬉しそうに笑っている。
これが幸せというのだろうか。
生贄になった日……だったがそれは明るい未来へと歩む幕開けの日でもあったのだった。


