「寝ぐせ、たまに触りたくなるんだけど触っていい?」
「はっ!?」
とんでもない角度からの要望に、慌てて後頭部を抑える。今日はなかったと思うのに、反射的に触ってしまった。
「ダメなら諦める」
「俺の寝ぐせなんか触ってもご利益ないよ……?」
「間山に触れた時点で俺としてはご利益あるんだけど」
真顔だ。冗談ではないらしい。思えば朝宮の冗談など聞いたことがない。
こんなことを提案されれば、断るのがふつうだろう。
朝宮も本気で言っていないのかもしれない。それに寝ぐせぐらい、別にいいんじゃないか、とガードが低くなる。
「……たまに、なら」
「本当に?」
朝宮が目を大きく見開いていた。
「ガチで触ってもいいの?」
「いや、いいけど……俺の髪なんて本当、なんか別に大したものじゃないし」
むしろなんで触りたいとか思うんだよ。
それでも朝宮の顔はますます緩んだ気がする。
「……やばい、思ったよりもうれしいわ」
視線を逸らして、照れくさそうにした顔が意外だった。朝宮ってこんな顔するんだ。
「た、たまにだから……! そんな毎日は、恥ずくて死ぬっていうか」
「うん、さすがに毎日は俺がどうにかなりそう」
どうなるというんだろうか。おそらく俺とは意味合いが違うはずだ。
それから、三日に一回のペースで寝ぐせを触られることになった。このペースでも朝宮は我慢しているほうらしい。
朝宮の触れ方は、壊れ物に触れるような手つきで最初は毛先から触れ、時間をかけてゆっくりと上にあがっていく。それを繰り返すものだから、触られている俺は朝宮の手ばかり意識してほかのことに何も手がつかない。
寝ぐせがつきやすい髪質だから、毎朝気にはするけど、見つけたときはあえて少し残したりすることもある。ないと、朝宮は分かりやすく残念がるから。
昨日触れたばかりでも、「愛でたかったのに」という謎の発言までする始末だ。見て楽しむという境地にまで達しているのだから、俺が言うのもなんだが事態は深刻だ。
そもそも男の寝ぐせを触りたくなるってなんだよ。俺のなんて可愛いものでもないだろ。
しかもここ最近は、寝ぐせの件だけじゃなくて、別のことでも朝宮は俺を困らせようとしていた。
前から回ってきたプリントを後ろに回せば、指が重なるようになった。
たまたまかもしれないと思っていたけど、頻繁に指が触れられているような感覚になり、次第に「これは確信犯だよな?」と思うようになった。
でもそれが嫌じゃないことが不思議だった。
今日も偶然を装って触ってくんのかな。
ベルトコンベアのように流れてくるプリントを後ろに回せば、珍しく手が触れることなくプリントがなくなった。
あれ、受け取ったよな?
咄嗟に後ろを振り向けば、顎肘をついた朝宮がこっちを見ていた。
「触ってほしかった?」
「ッ」
意地悪そうに片方の口角をあげた朝宮は、ちょっとだけからかうように笑ってて、その破壊力がやばかった。
「……んなわけないだろっ」
これでは思春期丸出しだ。そんなことは分かっているけど、どうにも朝宮の手の上で転がされているようで納得がいかない。
ぶすっとしながら前に向き直ろうとして、朝宮がぐっと前のめりになった。
「今度は期待して」
耳元で囁かれたそれは、きっと俺にしか聞こえていない。
吐息と、朝宮のいい声がダブルで襲ってくるものだから、平常心を保つことすら難しい。朝宮って女の子だけじゃなくて、男も沼らせるような何かを持っているらしい。
大丈夫、俺はまだ沼ってはいないはずだ。
「はっ!?」
とんでもない角度からの要望に、慌てて後頭部を抑える。今日はなかったと思うのに、反射的に触ってしまった。
「ダメなら諦める」
「俺の寝ぐせなんか触ってもご利益ないよ……?」
「間山に触れた時点で俺としてはご利益あるんだけど」
真顔だ。冗談ではないらしい。思えば朝宮の冗談など聞いたことがない。
こんなことを提案されれば、断るのがふつうだろう。
朝宮も本気で言っていないのかもしれない。それに寝ぐせぐらい、別にいいんじゃないか、とガードが低くなる。
「……たまに、なら」
「本当に?」
朝宮が目を大きく見開いていた。
「ガチで触ってもいいの?」
「いや、いいけど……俺の髪なんて本当、なんか別に大したものじゃないし」
むしろなんで触りたいとか思うんだよ。
それでも朝宮の顔はますます緩んだ気がする。
「……やばい、思ったよりもうれしいわ」
視線を逸らして、照れくさそうにした顔が意外だった。朝宮ってこんな顔するんだ。
「た、たまにだから……! そんな毎日は、恥ずくて死ぬっていうか」
「うん、さすがに毎日は俺がどうにかなりそう」
どうなるというんだろうか。おそらく俺とは意味合いが違うはずだ。
それから、三日に一回のペースで寝ぐせを触られることになった。このペースでも朝宮は我慢しているほうらしい。
朝宮の触れ方は、壊れ物に触れるような手つきで最初は毛先から触れ、時間をかけてゆっくりと上にあがっていく。それを繰り返すものだから、触られている俺は朝宮の手ばかり意識してほかのことに何も手がつかない。
寝ぐせがつきやすい髪質だから、毎朝気にはするけど、見つけたときはあえて少し残したりすることもある。ないと、朝宮は分かりやすく残念がるから。
昨日触れたばかりでも、「愛でたかったのに」という謎の発言までする始末だ。見て楽しむという境地にまで達しているのだから、俺が言うのもなんだが事態は深刻だ。
そもそも男の寝ぐせを触りたくなるってなんだよ。俺のなんて可愛いものでもないだろ。
しかもここ最近は、寝ぐせの件だけじゃなくて、別のことでも朝宮は俺を困らせようとしていた。
前から回ってきたプリントを後ろに回せば、指が重なるようになった。
たまたまかもしれないと思っていたけど、頻繁に指が触れられているような感覚になり、次第に「これは確信犯だよな?」と思うようになった。
でもそれが嫌じゃないことが不思議だった。
今日も偶然を装って触ってくんのかな。
ベルトコンベアのように流れてくるプリントを後ろに回せば、珍しく手が触れることなくプリントがなくなった。
あれ、受け取ったよな?
咄嗟に後ろを振り向けば、顎肘をついた朝宮がこっちを見ていた。
「触ってほしかった?」
「ッ」
意地悪そうに片方の口角をあげた朝宮は、ちょっとだけからかうように笑ってて、その破壊力がやばかった。
「……んなわけないだろっ」
これでは思春期丸出しだ。そんなことは分かっているけど、どうにも朝宮の手の上で転がされているようで納得がいかない。
ぶすっとしながら前に向き直ろうとして、朝宮がぐっと前のめりになった。
「今度は期待して」
耳元で囁かれたそれは、きっと俺にしか聞こえていない。
吐息と、朝宮のいい声がダブルで襲ってくるものだから、平常心を保つことすら難しい。朝宮って女の子だけじゃなくて、男も沼らせるような何かを持っているらしい。
大丈夫、俺はまだ沼ってはいないはずだ。

