「すまん、宮下に消しゴム返そうと思って」
三列先にいる野球部がこちらを見て気まずそうにしていた。朝宮の手には、消しゴムが握られている。
「投げんなよ、間山の可愛い顔に当たったらどうするんだよ」
「朝宮、そんなこと言うキャラだっけ」
常川田が首をかしげて俺を見る。
俺だって、いきなり「可愛い」なんて言われて戸惑っているぐらいだ。
しかし朝宮の顔はガチだ。冗談っぽさがないから、余計にどうしたらいいか分からない。
消しゴムは朝宮のナイスなコントロールで持ち主に返却された。
今だ。
「あ、ありがとう」
予定していたタイミングではないけれど、思いきって振り返った。その先にはいつも通りの朝宮がいて「どういたしまして」と柔らかく言った。そのことがなぜか妙にくすぐったい。
大丈夫だ、五文字が言えたなら、もう何文字でも言えるはずだ。
本来伝えなければいけないことはほかにもある。
「さっきはその……ごめん。冷たくして。置いていくつもりはなかったんだけど」
少々言い訳がましくなってしまった。冷たくして、まででよかったのに。
後悔していたところで、朝宮から「え」と驚きに近い反応が出た。
「俺、冷たくされてたんだ」
「俺のこと待ってくれてたのに、俺は朝宮を……無視して、校舎入って」
「なんだ、今日も間山が尊いなとしか思ってなかったけど」
「はっ⁉」
朝宮の目はどうなっているのか。
「でも、よかった。間山元気ないなって思ってたから」
「え……」
そんなところまで見抜かれていたなんて。
あんな失礼な態度を取ってしまったのに、朝宮はちっとも怒っていない。器がでかい。
ただ、朝宮の表情が少し緩んだのは気になった。
「そっかそっか、俺に悪いなと罪悪感で押しつぶされそうになってた背中だったのか。それはそれでもうちょっと見ておきたかったな」
「……趣味が悪い」
「しょぼんってなってるから。人がいいよね、間山って」
「今の話聞いてた? 俺は朝宮に悪いことして」
「だから俺は気にしてなかったんだって」
どうやら、朝宮は全然気にしていなかったみたいだ。
それは朝宮のやさしさでもあったのかもしれないけど。
「間山が俺のこと気にしてたなんてなあ」
「……さすがに朝のは気にするでしょ。嫌われたかもって思ったりして」
と、つい口が滑った。嫌われたとか、そう思うことが重たいんじゃないか?
「それなら、絶対にない」
だけど朝宮は、間髪入れずに断言した。
「俺が間山を嫌うなんて、生きている限り絶対ないから」
生きている限りって、どれだけないんだよ。
でも、言葉から溢れる力強さに恥ずかしくなって「そ、そっか」と照れを隠すように前を向いた。
心が変にざわつく。朝宮の手が記憶に焼き付いて忘れられなかった。
三列先にいる野球部がこちらを見て気まずそうにしていた。朝宮の手には、消しゴムが握られている。
「投げんなよ、間山の可愛い顔に当たったらどうするんだよ」
「朝宮、そんなこと言うキャラだっけ」
常川田が首をかしげて俺を見る。
俺だって、いきなり「可愛い」なんて言われて戸惑っているぐらいだ。
しかし朝宮の顔はガチだ。冗談っぽさがないから、余計にどうしたらいいか分からない。
消しゴムは朝宮のナイスなコントロールで持ち主に返却された。
今だ。
「あ、ありがとう」
予定していたタイミングではないけれど、思いきって振り返った。その先にはいつも通りの朝宮がいて「どういたしまして」と柔らかく言った。そのことがなぜか妙にくすぐったい。
大丈夫だ、五文字が言えたなら、もう何文字でも言えるはずだ。
本来伝えなければいけないことはほかにもある。
「さっきはその……ごめん。冷たくして。置いていくつもりはなかったんだけど」
少々言い訳がましくなってしまった。冷たくして、まででよかったのに。
後悔していたところで、朝宮から「え」と驚きに近い反応が出た。
「俺、冷たくされてたんだ」
「俺のこと待ってくれてたのに、俺は朝宮を……無視して、校舎入って」
「なんだ、今日も間山が尊いなとしか思ってなかったけど」
「はっ⁉」
朝宮の目はどうなっているのか。
「でも、よかった。間山元気ないなって思ってたから」
「え……」
そんなところまで見抜かれていたなんて。
あんな失礼な態度を取ってしまったのに、朝宮はちっとも怒っていない。器がでかい。
ただ、朝宮の表情が少し緩んだのは気になった。
「そっかそっか、俺に悪いなと罪悪感で押しつぶされそうになってた背中だったのか。それはそれでもうちょっと見ておきたかったな」
「……趣味が悪い」
「しょぼんってなってるから。人がいいよね、間山って」
「今の話聞いてた? 俺は朝宮に悪いことして」
「だから俺は気にしてなかったんだって」
どうやら、朝宮は全然気にしていなかったみたいだ。
それは朝宮のやさしさでもあったのかもしれないけど。
「間山が俺のこと気にしてたなんてなあ」
「……さすがに朝のは気にするでしょ。嫌われたかもって思ったりして」
と、つい口が滑った。嫌われたとか、そう思うことが重たいんじゃないか?
「それなら、絶対にない」
だけど朝宮は、間髪入れずに断言した。
「俺が間山を嫌うなんて、生きている限り絶対ないから」
生きている限りって、どれだけないんだよ。
でも、言葉から溢れる力強さに恥ずかしくなって「そ、そっか」と照れを隠すように前を向いた。
心が変にざわつく。朝宮の手が記憶に焼き付いて忘れられなかった。

