翌日、学校に行くと、なぜか門の前に朝宮がいた。
 何をしているのだろう。もしかしたら友達を待っているのかもしれない。気になりつつも朝宮の前を通りすぎたところで「間山」と声がかかる。
「待ってたんだけど」
「えっ、俺のことを……?」
「ほかに誰がいんの」
 どう考えても俺以外だとしか思わなかった。
 待ち合わせとか、そういう約束をしていたわけではなかった……よな? 
 確信が持てない。俺が忘れたとなれば罪がでかい。
「ご、ごめん。約束してたっけ」
「してない。俺が勝手に間山のことを待ってただけ」
 ということは、ただただ俺を待っていたということになるのか。いつ来るかも分からない俺のことをひたすら待ってくれていたなんて衝撃だ。朝からやたらと眩しい。なんでこの男は立っているだけで輝けるのだろう。
「あーさーみーやー」
 そのとき、後ろのほうから朝宮と同じ一軍の常川田と榊が歩いてくるのが見えた。凸凹コンビのふたりは、どちらも髪型が特徴的で覚えやすい。
 小さいほうの常川田は前髪を上げているし、でかいほうの榊は髪をひとつにくくっている。
 どちらも選ばれた一軍というイメージで、ここに朝宮が加わってしまえば、とんでもなくキラキラした集団になる。朝宮単体で眩しいと目を細めたばかりなのに。
 さすがに彼らと一緒にはいられない。
「お、俺、先に行くから」
「えっ、間山?」
 呼ばれても俺は立ち止まることなく校舎へと突き進んだ。後ろで「何してんの」と常川田の声が聞こえてくるけど、朝宮の声は聞こえなかった。
「……って、逃げてしまった」
 つい勢いで教室まで来てしまったけど、いつから待ってくれていたんだろう。春とはいえ、朝はまだ肌寒い。
 待ってもらっていたはずなのに、自分のことばかり気にして、挙句の果てには常川田たちのことが気になって振り切ってしまった。
「……悪いことしたな、朝宮に」
 自分の席に着き、朝宮がどこから来てもいいようにスタンバった。まずは謝ろう。
「朝宮、置いてくなって」
 常川田の声が聞こえて振り返ったら、ちょうど朝宮が教室に入ってくるのが見えた。
「あさ――」
 声をかけようとしたら、朝宮と目が合った。あ、と思ったと同時に、つい目を逸らしてしまった。
 何してんだよ、俺!!
 朝宮に謝るはずだったんだろ。
 そう思うのに、気まずすぎて振り返ることができなかった。スマホを取り出して、ひたすら無駄に画面をスクロールするだけ。
 そのまま一限目が始まってしまうけど授業どころじゃない。
 振り返るだけ。授業が終わったら、まず振り返るんだ。
「やばっ当たる!」
 顔を上げようとしたとき、なぜか目の前に大きな手があった。指は長いのに、どこか骨ばったその手が、綺麗だなと眺めてしまった。
「間山、大丈夫?」
 その手は後ろの席から伸びていた。