朝宮光星は名前の通り、星みたいに光ってるような男だった。
高校一年のときも同じクラスで、男なのに騒がれているのが朝宮だったからすぐに顔と名前を覚えた。
あと金持ちらしい。朝宮本人が吹聴しているというよりは、周りの人間がそう騒ぎ立てることが多い。「家に遊びに行かせろよ」と言われても、「誰も連れていく気はない」と毅然とした態度で答えていたのを見たことがある。
俺でも知ってるくらい有名な話だ。
うるさいタイプというよりは冷静で、授業も真面目に受けている印象だし、女の子の話題になっても率先して会話に入ることもなかった。
好きなタイプは?と聞かれたときも「好きになった人」と答えてんのもいいなと思った。
前に、他校の女の子から駅のホームで告白されてるのを見かけたこともある。
それから二年になっても同じクラスだったけどそれだけだ。俺とは無縁の人間なんだろうなと思っていたのに。
朝宮に告白されてから三日。日常が劇的に変わることはなかった。
それこそあのプリント事件の翌日は、「やっぱりドッキリでしたッ!」とどこかしらで一軍たちが待ち受けているのではないかとビクビクして過ごしていたが、そんな心配は杞憂で終わってしまった。
「朝宮ぁ、勉強教えてくれえ」
「無理。自分でどうにかしろ」
後ろの席には朝宮の友達が集まる。
だから基本的に、朝宮が誰かと話しているのが自然と聞こえるだけで、朝宮に話しかけられることはない。俺に遠慮してくれているのか、はたまた別の理由があるのかどうか。
それにしても、朝宮が俺のことを好きなんて、一体なんでそんなことになってしまったのか。
昼休み、購買に向かいながら考えていると、すでにパン紛争が始まっていた。
「うわっ、やばい」
このパンの争奪戦に勝たないと、校長が趣味で焼いたボランティアパンを食べるハメになる。
これが美味しければ問題ないのだが、生徒たちからは不味いと評判だった。
慌てて駆け寄ったはいいものの、あとからやってきた三年の先輩に押しのけられ、まんまと後ろへ追いやられる。
なんとか手に入れられたパンは、結局、校長のボランティアパンだった。
「晴~起きろ~今日こそコンビニでパン買うんじゃないのかよ」
今朝起こしてくれた二つ上の兄のことを思い出した。
俺とは真逆で、兄貴はなんでも出来てしまうような人で、こんな弟の俺を「晴は朝が弱いよなあ」と爽やかな笑顔で包み込んでくれる。いかにも陽の世界の住人だ。
顔も性格もいいから、家族にも友達にも愛されるような人。
兄貴を嫌う人なんて今まで見たことがない。
そんな兄貴と昔から比べられることが多かったからか、俺は基本的に間山家のおまけみたいな立ち位置で開き直るようにしている。
どうせ俺は兄貴にはなれないし、誰からも愛されることはない。影でひっそりと生きていくほうが気が楽だ。
「いっそ朝宮が兄貴を好きになったって聞いたほうが納得いくなあ」
中庭のベンチに座りながら、空を見上げる。ヘリコプターがぶわんぶわんと音を鳴らしながら飛んでいく。もしゃもしゃと味のしないメロンパンを頬張り、それをぼうっと眺めながら、なんで俺なんだ、と思考がまた戻されてしまう。
いくら考えたところで答えなんて見つかるはずもない。
はあ、と息をつき、そろそろ教室に戻るかと立ち上がりかけたところで、ズボンにパンくずが大量に落ちていることに気づいた。
ダサい。こんな格好で空を仰いでボロボロこぼしていたのか。
どう考えても俺が朝宮に告白されたことが謎でしかない。
高校一年のときも同じクラスで、男なのに騒がれているのが朝宮だったからすぐに顔と名前を覚えた。
あと金持ちらしい。朝宮本人が吹聴しているというよりは、周りの人間がそう騒ぎ立てることが多い。「家に遊びに行かせろよ」と言われても、「誰も連れていく気はない」と毅然とした態度で答えていたのを見たことがある。
俺でも知ってるくらい有名な話だ。
うるさいタイプというよりは冷静で、授業も真面目に受けている印象だし、女の子の話題になっても率先して会話に入ることもなかった。
好きなタイプは?と聞かれたときも「好きになった人」と答えてんのもいいなと思った。
前に、他校の女の子から駅のホームで告白されてるのを見かけたこともある。
それから二年になっても同じクラスだったけどそれだけだ。俺とは無縁の人間なんだろうなと思っていたのに。
朝宮に告白されてから三日。日常が劇的に変わることはなかった。
それこそあのプリント事件の翌日は、「やっぱりドッキリでしたッ!」とどこかしらで一軍たちが待ち受けているのではないかとビクビクして過ごしていたが、そんな心配は杞憂で終わってしまった。
「朝宮ぁ、勉強教えてくれえ」
「無理。自分でどうにかしろ」
後ろの席には朝宮の友達が集まる。
だから基本的に、朝宮が誰かと話しているのが自然と聞こえるだけで、朝宮に話しかけられることはない。俺に遠慮してくれているのか、はたまた別の理由があるのかどうか。
それにしても、朝宮が俺のことを好きなんて、一体なんでそんなことになってしまったのか。
昼休み、購買に向かいながら考えていると、すでにパン紛争が始まっていた。
「うわっ、やばい」
このパンの争奪戦に勝たないと、校長が趣味で焼いたボランティアパンを食べるハメになる。
これが美味しければ問題ないのだが、生徒たちからは不味いと評判だった。
慌てて駆け寄ったはいいものの、あとからやってきた三年の先輩に押しのけられ、まんまと後ろへ追いやられる。
なんとか手に入れられたパンは、結局、校長のボランティアパンだった。
「晴~起きろ~今日こそコンビニでパン買うんじゃないのかよ」
今朝起こしてくれた二つ上の兄のことを思い出した。
俺とは真逆で、兄貴はなんでも出来てしまうような人で、こんな弟の俺を「晴は朝が弱いよなあ」と爽やかな笑顔で包み込んでくれる。いかにも陽の世界の住人だ。
顔も性格もいいから、家族にも友達にも愛されるような人。
兄貴を嫌う人なんて今まで見たことがない。
そんな兄貴と昔から比べられることが多かったからか、俺は基本的に間山家のおまけみたいな立ち位置で開き直るようにしている。
どうせ俺は兄貴にはなれないし、誰からも愛されることはない。影でひっそりと生きていくほうが気が楽だ。
「いっそ朝宮が兄貴を好きになったって聞いたほうが納得いくなあ」
中庭のベンチに座りながら、空を見上げる。ヘリコプターがぶわんぶわんと音を鳴らしながら飛んでいく。もしゃもしゃと味のしないメロンパンを頬張り、それをぼうっと眺めながら、なんで俺なんだ、と思考がまた戻されてしまう。
いくら考えたところで答えなんて見つかるはずもない。
はあ、と息をつき、そろそろ教室に戻るかと立ち上がりかけたところで、ズボンにパンくずが大量に落ちていることに気づいた。
ダサい。こんな格好で空を仰いでボロボロこぼしていたのか。
どう考えても俺が朝宮に告白されたことが謎でしかない。

