席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

「なんで自分がぼっちか考え――」
 耳障りな音を掻き消すように、教室に足を踏み入れていた。
 いろいろな角度から無数の視線が送られる。ぴたりと止んだ騒がしさ。勘違い野郎の前まで歩けば、ようやく鬱陶しい声が止まる。
びくりと俺を見上げるその目は、威勢よく話していた奴とは思えない。
「お前が女装してろよ」
 それだけを吐き出して、自分の席へと向かう。途中で幼い顔立ちをした男と目が合った。
 あ、こいつか。
 この場の空気を壊したことを申し訳なさそうにしながら、それでも自分の正義を貫いたのは。
 それから、そいつが間山という名前だと知った。
 冴えなくて、変に真面目で、ほとんどの時間をひとりで過ごす。
 見れば見るほど、あのときの発言が間山だと信じられなかった。
 もしかしたら別人だったのかもしれない。顔は見えず、声だけしか聞こえなかったから。
 あれが間山だったのかどうか確かめるために、間山を観察することが増えた。
 俺と間山には接点がなかったから、ほとんど会話することはなく、おまけに席も遠かった。授業で当てられても声が小さく、よく教師に「声!」と怒鳴られていた。
 やっぱり間山じゃなかったのかもしれない。
 こんな度胸がなさそうな男に、俺が心を動かされるわけがない。
 それからも観察を続けたけど、ただのお人好しだということが分かったぐらいだった。
 頼まれてもいないのに黒板消しは率先して自分から動き、教室のゴミも、当番でもないのに自分で片付けてしまう。
 唯一、誰も手をあげなかった美化委員決めのときだってそうだ。
 しばらく沈黙が続いたあとで、おずおずと細い腕があがった。
『俺、やります』
 そう言った顔は、自分からやりたいと挙手したというよりも、誰かが損をするぐらいなら自分が損な役回りをしたほうがいいという行動からくるものだったに違いない。
 俺は人にやさしくしないわけではない。
 でも、そこにはいろいろなものが含まれている。都合よく使えそうだからとか、場を丸く収めるためにとか。
 でも間山のやさしさは、俺の打算で動くやさしさとは別物だと思い知らされた。
 適当にいい顔をすれば、相手は気分よくするし、それなりにやさしくしておけば向こうも柔軟に対応する。つまりは計算だ。そういうことをしておけば人生は生きやすくなる。
 でも面倒なものは面倒だし、引き受けたくないものは誰かがやっておけばいいとも思っていた。
 それなのに間山はそういう打算で動かない。
 二年にあがっても美化委員は人気がなかった。校内清掃が定期的にあって駆り出されることを全員が敬遠していた。
 そのときも間山はやっぱり手をあげた。去年と同じセリフで立候補し、見事に決まってしまった。
 もうひとりは、仕方なくくじ引きとなり、榊が当たっていた。絶望していたが、すぐに割り切っていたところはすごいと思う。