席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

 人を好きになるという気持ちが、今まで分からなかった。
 周囲が色恋沙汰で盛り上がっている中で、なんでそう簡単に人を好きになれるのか不思議で仕方がなかった。取り残されているような気がして、そういうものを自然と遠ざけた。
 告白をされれば「なんで俺に告ってきてんだろ」と思うことも多い。
 俺のことを何も知らないのに、好きだと思える根拠はなんなのか。告白されることも嫌気が差して、迷惑だとそのまま伝えるようにしたら、告白される回数は減った。
 それでもいまだに告白がなくなったわけではないけど、そのたびに心がすり減っていくような気持ちがしていた。
 男子校を選んだのは中学のときに顔だけで告白されることに辟易したからだ。
 変に期待され、「こんな人だと思わなかった」と落胆しては消えていく。理想を押し付けられることの息苦しさは、学年が上がるごとに増えていった。
 それが解消されるならばと男子校に入ったが、結局他校からの女子生徒たちに待ち伏せされたり、盗撮されたりして、状況はたいして変わらなかった。
 割り切って楽しめればよかったけど、どうやら俺はそういうタイプではないらしく、無理をした反動でしばらく思考が停止する。
 なんというか、何をするにも怠さを感じてしまう。だから感情はニュートラルで、喜怒哀楽を抑える生活をするようにした。
 それで何もかもが解決されたわけではないけれど、幾分かはマシになった。
 高校に入学して、しばらくはいろいろな奴らから声をかけられたけど、そのうち静かになり、そうして残ったのが常川田と榊だった。
 俺が行くところについてくるふたりは、それぞれが自分の世界を持ち、性格はバラバラなのに、いつも不思議とつるんでいた。
 常川田筆頭に会話が進み、そこに榊が打ち返す。俺はいてもいなくても同じだった。
 でも一緒にいた。示し合わせたわけでもないのに時間を共に過ごすようになり、それは居心地の悪いものでもなかったから放っておいた。
「朝宮って女装もイケるんじゃね?」
 そんな気色悪い声が聞こえてきたのは、高一の二学期だった。移動教室から戻ってきたときだ。
 常川田と榊を置いて先に戻ってきたが、これならあいつらと一緒に残ればよかった。
 そうすれば、こんな会話も聞かずに済んだのに。
「なあ、そこに座ってるお前はどうなわけ」
 話はどうやら関係ない人間を巻き込む形になったらしい。
 自分たちが楽しいだけで、なんでそれを他人も同じだと勘違いするのか。お前らだけでやってろよ。嫌気が差したその時。
「それ……朝宮はあんまりよく思わないんじゃないかな」
 俺が教室に入るよりも先に、話を振られた人間が周囲を静まり返らせた。
 発言こそはか弱く、なんとか声を振り絞って出したものに聞こえて覇気がない。それでも、この状況で唯一、俺の心境を代弁するものだったから足が止まった。
「うわ、空気読めなさすぎ。なんか俺らが悪いみたいじゃん」
「ご、ごめん。でも、そういうのって周りが言うことじゃないっていうか。朝宮は、望んでないと思うから」
「だからそういうのが冷めるんだよ。別に本気で言ってねえんだしさあ。お前がぼっちだから話しかけてるわけなんだから、ふつうは話合わせるだろ、ふつうは」
 普段大人しいやつに正論をぶつけられ、腹がたったらしい。必死に言い返している。
 ――朝宮は、望んでないと思うから。
 その通りだった。
 俺の顔じゃない。俺の噂でもない。ただ純粋に、俺のことを気にかけて、正しいことを言ったそいつの顔を見てみたくなった。