席替えしたら、どうやら後ろの男が俺のこと好きらしい

~朝宮side~
「うぇっ!」
 少し離れた購買スペースで、間山がもみくちゃにされていた。
 今日はパンの争奪戦に勝てるだろうかと見守っていたが、結果的に手にしていたのは校長の手作りパンだった。
 返せばいいのに、目の前にいる校長に悪いと思ったのか「いただきます」と苦笑いを浮かべてトボトボ教室に戻って行く。
 その姿を見て、可愛い、としか思わなくなったのはいつからか。
 いっそ俺が助けてやりたいのに、出しゃばってしまうのは良くない気がして、今ではこうして眺めていることに徹しているわけで。
 六月。じめじめとした気温とともに、雨が連日降り続くような季節に入った。
 二日に一回はパクられる透明の傘に嫌気が差し、いっそ誰も手に取らないような柄はないかと考えながら、その傘で間山は相合い傘をしてくれるだろうかと真剣に悩む。
 今のところそうなれそうなチャンスはなく、間山は折りたたみ傘を二本も常備していることが最近発覚した。「濡れて帰ると母さんに怒られるんだ」と照れくさそうに笑う姿に、抱きしめてやろうかと思った。
『俺がどんな奴でも好きになってた?』
 それは、数週間前、間山から問いかけられたものだった。不安が滲むようなその横顔がいつまでも記憶の片隅に残っている。
あのとき俺は即答した。「どんな間山でも好きだ」と。それが本人に正しく伝わったかどうか、今もまだ不安がくすぶり続けている。
「んで、朝宮は?」
 いきなり常川田から声をかけられて、視線だけそっちに戻す。
「だぁから、朝宮の好きなタイプを聞いてんの」
 ああ、そんな話をしていた。どこか他人事のように聞いていた話題をぼんやりと思い出す。
「間山は抜きだからな。知りたいのは好きなタイプなんだから」
 常川田に念押しされ、俺の頭には自然と間山が浮かぶ。
「黒髪、短くて、寝ぐせついてて、あとどんくさい」
「間山じゃん」
「朝宮の好きなタイプなんて間山で構成されてるから仕方ねえよ」
 榊に言われてしまえばそれはそうだ。
 好きなタイプなんてものはない。それは今までもそうだった。このまま一生、誰かを好きになることはないと思っていたのに。
 むしろ、間山と出会わなければ、どんな人間でも好きだとは思わなかった。
 ――だって俺の初恋だから。